ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

えっ、お金出るの!?
じゃあ実験する!



調査

エ・ランテルの事件記録には、こう記されている――

 

王都からエ・ランテルヘ向かっていたはずのモーブ商会の商隊は、その往路の途中で忽然と姿を消した。目撃証言はなく、おそらく道中の魔物(モンスター)か盗賊にでも襲われたのだろう、というのが大方の見解だった。モーブ商会は捜索に当たったが、馬車も、積荷も、護衛の死体も、それどころか、何者かが争った痕跡すらも、何一つ発見できなかったという。

 

また、これは誰の報告にも上がらなかったことだが、エ・ランテル近郊のとある街道を縄張りにする盗賊の一味と、ゴブリン・オーガ混成の一味が、こちらも同時期に人知れず姿を消していた。

 

 

 

 

「ふむ、どうやらここまでのようだね。コキュートス、もう構わないよ」

「ソウカ、ワカッタ。死体ハ後デ運バセヨウ。……シカシ、ナント歯ゴタエノナイ……」

 

デミウルゴスとコキュートスが和やかに話している先には、身軽な盗賊風の男が3人()()()()()()

 

彼らは先ほどまで、わけも分からないまま、謎のダンジョンを駆け回っていた。自分がどこにいるかも分からず、世にもおぞましい魔物(モンスター)の群れに襲われ、やむなく奥へ奥へと追い立てられた結果、どのような理屈でか、限度を超えた極寒のフロアに辿り着いてしまい、身動きが取れなくなってしまった。そして今まさに、氷の魔獣の一息で氷漬けにされてしまったところだ。

 

「より下層に辿り着いた結果、資金がどう増えるのか実験したかったのだが……。転移なしだと第5階層の気候を越えられるニンゲンはいないようだね。非常に残念だよ」

「本来デアレバ入口ニスラ辿リ着ケヌヨウナ弱者ガ、栄エアルナザリックノ第5階層マデ拝見デキタコトニ、感謝シテホシイモノダ」

「いやはや、まったくだね。苦労したよ。ここまで殺さずに誘導するのは」

 

――と、そこへ〈伝言(メッセージ)〉が入る。

 

『デミウルゴス、第6階層の実験は終わったよ』

「そうかい。ご苦労、アウラ。マーレにもよろしく」

『んー、この前の奴らのほうがまだ歯ごたえあったなー。今度の奴らは怯えてばっかでさー、がっかりだよ』

「ニンゲンなどそんなものだよ。私の第7階層に転移させた連中など、その場で消し炭になったとも」

『そっかー。んじゃ報告まとめるから、また後でね、デミウルゴス』

「ええ。後ほど」

 

 

 

 

「――以上が報告になります、アインズ様」

「そうか。よくやってくれた。感謝する、守護者達よ」

「そんな! もったいなきお言葉!」

 

玉座の間にて、アルベドを筆頭に、集まった守護者一斉に臣下の礼を取る。アインズは報告を一通り聞き、やっぱりな、と思った。

 

(タワーディフェンスだこれ……)

 

どのような仕組みでそうなっているのかは分からない。しかし、どうやら、自分の拠点で侵入者を撃退すると、それに応じて金が入ってくるシステムになっているらしい。

 

その仕組みを詳細に確かめるべく、アルベドとデミウルゴスが実験計画を立て、その「被験体(サンプル)」として王国の人間と魔物(モンスター)を拉致してきた。ほんの3種族、しかも全員レベル10以下ではあるが、異なるレベル、職業、種族を使った対照実験である。

 

実験の結果得たルールは、以下の通り――

 

・侵入者がナザリックの奥へ入れば入るほど、収入が発生する

・侵入者のレベルが高ければ高いほど、収入は増加する

・侵入者の殺害でボーナス

・侵入者の捕獲、あるいは撃退でボーナス。捕獲は殺害の5割、撃退は2割

・侵入者を操る、または気絶させて運ぶ等をした場合「捕獲した」と判断され、以後の収入は一度ナザリックから脱出させない限り発生しない

・侵入者を転移で下層に飛ばすと、補正がかかって収入の伸びが悪くなる

・侵入者の種族、職業、装備品等による収入の差異はない

 

「ふむ……なるほどな……」

(大きく稼ごうと思ったら、高レベルの侵入者を下層まで引き込まないといけないわけか……)

 

アインズは苦悶の表情(見えないが)を浮かべる。正直、愚か者共にこのナザリックに土足で踏み込んで欲しくはないという想いがある。以前にワーカーを招き入れたときも、必要なことだとは分かっていても、強い不快感があった。できればもうこんな作戦は取るまいとすら思っていたところだ。それがなぜ、そう時を経ずにまたこんなことになっているのか……?

 

それは、そんなアインズの生理的嫌悪感を差し引いてもなお、ユグドラシル通貨が入るというメリットが余りあったからだ。今のところ、これより良い資金獲得のプランがない。

 

もしこれで相応の収入が見込めるとなれば、今後のナザリックの運営方針も変わってくる。貧乏性なアインズは転移後、課金設備や傭兵モンスター、錬成アイテムなどを極力節約してきた。しかし、もしこれらを遠慮なく使うことができるようになれば、それはナザリックの強化に繋がり、充分な恩恵となる。それに、考えたくはないが、またシャルティアの復活のような臨時の支出が必要になる時が来ないとも限らない。いざというときのための蓄えは必要だ。

 

「……気が進まんが、やむを得んか……」

「……やはり、アインズ様もそうお考えでしたか……」

「ん?」

 

どうにかいい方法考えなきゃなー、程度にポロっとこぼしたアインズの呟きに、訳知り顔で反応した者がいた。そう、救いの神、デミウルゴスである(悪魔だが)。あ、これ最高のパターンだ。アインズは咄嗟にそう思った。

 

「ほう……流石だなデミウルゴス、早々にそこまで思い至るとは」

「ありがとうございます。アインズ様の深遠なるお考えに及ぶべくもありませんが、やはりそうするのが最善かと」

「? どういうことですか? デミウルゴスさん」

 

マーレがおどおどしながら問いかける。ナイスアシストだ。アインズは心の中で親指を立てた。

 

「アインズ様はこうお考えなのだよ――」

 

デミウルゴスは語り出す。アインズが「なるほど!」と思わず唸る、画期的な資金調達プランを――

 




アインズ様、ここまで何もしてません。
優秀な部下がいて助かるなぁ……。

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