ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

アインズ「兄ちゃんアンデッド契約せえへん? 三ヶ月でええから」
ジル「間に合ってるんで」



舌戦

「……さて、帝都の地下に見つかったという大迷宮について詳細を聞きたいところだが……む、少し待て」

 

骸骨の王は突然ピタッと止まると、スッと右手で「待て」のジェスチャーをして静止した。〈伝言(メッセージ)〉か何かだろうか?

 

「……ふむ、緊急の連絡が入った。ジル、済まないが、ほんの少しだけ中座するので、そのまま待機していてほしい。すぐに戻る」

「はっ、畏まりました」

 

それを無礼と思うわけにはいかない。向こうは上位者だ。その間にこちらは言うべきことをまとめさせてもらおう。と、ジルクニフはこの中断を有効活用する(したた)かさを発揮した。

 

魔導王は玉座に腰掛けたまま、フッと消えた。

 

(なるほど、転移の魔法か)

 

(あるじ)無き状態でも、奴の部下達は一歩も動かずに待機していている。ジルクニフ達も(ひざまず)いたままだ。少し居心地の悪い空気が一同の周りを吹き抜ける。

 

しかし、長いように思えたそれは、実のところ1分にも満たなかった。フッと、まるで巻き戻したかのように、玉座にその主の姿が再び浮かび上がった。

 

「待たせたな! さあ、その大迷宮とやらについて語るが良い!」

 

魔導王は、悪びれもせずに右の手のひらをバッとジルクニフの方に向け、話を促した。その仕草はどことなく少し大げさに見えた。

 

「承知しました、アインズ様。最初は、今を(さかのぼ)ること数日前になりますが――」

 

……………………

…………

……………………

 

「――という次第で、そこより先のアンデッド達が強大であったため、現時点では大迷宮の全貌を把握することなく、それ以上の探索を中断している状態となっております」

 

ジルクニフは口頭で淀みなく状況を伝えた。今までこの手の報告は受ける側だったが、立場が変わっても難なくこなせるあたり、彼の優秀さが(うかが)える。

 

「ほうほう。なかなかに興味深い話だ。四秘宝に大迷宮、なかなかに心躍る話ではないか」

 

魔導王は前向きな反応を返した。

 

「……アインズ様は、それらについて何か心当たりはございませんか?」

 

っていうかお前の仕込みとちゃうんか? ……とは()けないので、ジルクニフはまずは軽くジャブを放つ。

 

「私が? なぜ? お前達の住む都市の中のことだろう?」

 

アインズはごく自然に、不思議そうな反応を返した。……つまり、もしこれが奴の仕込みであったならば、(しら)を切り通すつもりだ、ということになる。

 

「……いえ、その四秘宝と呼ばれるもののうちの二つが、その……アインズ様の警戒に足るべきアイテムのようですので、何か因縁があるのでは、と推察した次第ですが……」

「ふむ。その二つというのは確か、『どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣』と『死の騎士(デス・ナイト)の軍勢すら意のままに操る宝玉』、だったかな?」

「はい」

 

さあ、どんな反応を返すのか? ジルクニフは固唾を呑んで見守った。

 

「ふふふ……。確かに興味があるな。実在するならば、是非とも手に取って確かめたいものだ」

 

アインズは、まるで脅威と感じていないかのように、(たの)しげな含み笑いを漏らした。

 

「私は珍しいものに目がなくてな。帝国にも何かめぼしいマジックアイテムはないか? ものによっては、どこよりも良い条件で買い取るぞ」

「……い、いえ。アインズ様の御目(おめ)(かな)うようなものはないかと……」

 

あってもくれてやるものか、と思いつつ、ジルクニフは誘導するために話を戻す。

 

「アインズ様、その四秘宝というものが気になるのでしたら、ご自身で取りには行かれないのですか?」

 

……これは、今のジルクニフができうる、渾身の右ストレートだ。要するに、あれらが推察通りアインズの仕込みなら、「テメーがやったんだろがテメーで後始末せえや! 誰がそんな見え見えの罠に引っかかるか骨野郎!」、という想いが込められているのだ。

 

(さあ、どう出る? アインズ・ウール・ゴウン!)

ジルクニフは身構えた。

 

「ん? いいのか? 帝都の地下にあるのだろう? お前達の財産ではないのか?」

「いえ、今まで誰一人知らなかったのです。誰のものということもないでしょう。アインズ様がお手にされても問題はないかと」

 

(どうだ!? 突っ返してやったぞ!)

ジルクニフは静かにほくそ笑む。

 

「ほう! それはありがたいな! お前達ニンゲンが住む街の中ということで遠慮するつもりだったのだが、皇帝の許可が出たとあれば問題はないな」

 

(……これは、芝居なのだろうか?)

おかしい。何だか嫌な予感がする……。

 

「お言葉に甘えて、早速準備をさせてもらおう。報告では強力なアンデッドが蔓延(はびこ)る大迷宮とのことだが、中にいるものは全て殲滅して、宝は根こそぎ回収して我が物とする、ということで、問題はないな?」

「……ええ」

 

ジルクニフに少し迷いが生じる。

(……何だ? 何を見落としている? 配下でないアンデッドに対しては同族意識がないとは聞いていたので、そっちは問題ないだろうが……)

 

「ふむ、地下か……面倒だな……。我が魔法で一気に片してしまうか。地上にも多少影響があるかもしれんが、まあ大したことにはならんだろう」

「…………は?」

 

(……待て。今、何と言った? この骨)

「魔法で」……「一気に」……「片す」? ……嫌な予感が際限なく膨らむ。ジルクニフはアインズの魔法の引き出しを知らない。唯一知っている強力な魔法は「()()」だけだ。さる筋から、アレは「十年の一度の大魔法」だと聞いてはいるが、それを鵜呑みにできるほど楽観的ではない。

 

「アインズ様、お待ち下さい」

「ん? どうしたアルベド」

 

玉座のすぐ横、角と羽の生えた美女から「待った」がかかった。あの女悪魔は「意外と人間に対して良識派」とロウネからは聞いている。

 

(いいぞでかした! ダメ出ししてやれ王妃!)

ジルクニフは祈った。

 

「アインズ様の魔法は強力すぎますから、下手をすると、宝やそれに至る仕掛けごと消滅させてしまう恐れがあるかと……」

 

(……あーそっちの心配かー……。消滅ってなんだよ消滅って……)

やはり悪魔は悪魔、ということか……。

 

「ふむ。それもそうか……。しかし、かと言って、中の迷宮を(ねずみ)のように這い回るのは私の性に合わんな」

「ええ。もちろん、アインズ様にそのようなお手を(わずら)わせるわけには参りません。そこでですが、マーレに任せてみてはいかがでしょう?」

 

(…………マーレ?)

その名はよく覚えている。最初に帝国にドラゴンに乗ってやってきた、闇妖精(ダークエルフ)の双子の妹のほうだ。あの時は、杖をただ一突きしただけで皇城前に局地的な大地震を引き起こし、帝国の最精鋭100人以上を一瞬でミンチに変えたのだった……。

 

「おお、その手があったか! 確かに、地盤ごと引き上げるのが手っ取り早いな」

 

(『その手があったか』じゃねえよ!)

ジルクニフが声にならない悲鳴を上げる。

 

「はい。マーレならば、蟻の巣の標本のように綺麗に掘り起こしてくれるでしょう。あとは宝を(つま)むだけです」

「それは、なかなか楽しそうだな。ふふふ」

「ええ、まったく。ふふふ」

 

ま――

「待って頂きたい!!」

 

思わずジルクニフは叫んだ。

 

「ん? どうかしたかね? ジル」

 

アインズは首を傾げた。決して可愛くはない。

 

「そ……その、陛下、その場合、地上の民は……?」

 

ジルクニフはモゴモゴと遠慮げに問いかける。呼び方も思わず「陛下」に戻ってしまった。

 

「……ああ、そうか。ニンゲンとはその程度で死ぬのだったな。まあ、その時だけ避難させておけばよかろう」

「……土地や、建物は?」

「ん? 壊れたら直せばよいではないか」

「……………………」

 

(……ダメだこの骸骨)

さも当然のように「俺、何かおかしなこと言ってる?」といった自然体で返答している。側近たちも「それで?」といった表情だ。

 

この人外の連中に人間の常識は通じない。価値観が違いすぎる。おそらく、人間にとっての虫と同じ感覚だ。邪魔だからちょっと巣壊すよ、ほっといてもどうせお前らまた勝手に作るじゃん、みたいなノリだきっと。

 

「アインズ・ウール・ゴウン魔導王陛下。帝国の長としてお願い申し上げます。何卒(なにとぞ)、帝都の民の命と財産を壊さぬ形で、お願いできませんでしょうか?」

 

ジルクニフが声を張り上げた。皇帝には皇帝の挟持(きょうじ)がある。

 

「む? 改まったかと思えば、変わった願いをするものだな、ジル」

 

(変わってるのはお前だ!)

思わず頭を抱えてジタバタしたくなった。

 

「アインズ様、少し宜しいでしょうか?」

 

と、横から蛙の悪魔が割り込んできた。

 

「ん? 何だデミウルゴス?」

「ニンゲンという生き物は、我々が思うよりもずっと脆弱な生き物です。中には、雨露(あめつゆ)がしのげないだけで変調をきたす個体も多いとか……」

 

(そう! それ!)

ジルクニフは心の中で指を差した。

(あの蛙、なかなか良い奴じゃないか!)

 

「我々が当たり前のように使う魔法や特殊技術(スキル)であっても、帝都で放てば、ニンゲン達が全滅してしまうかもしれません」

「ふむ、そんなものか。加減が難しいな」

「ええ。ですから、我々は下手に手出しをせず、ニンゲンの都のことはニンゲンにやらせるのが一番かと」

「なるほどな」

 

助かった。蛙悪魔のお陰で、最悪の事態は(まぬが)れそうな気配だ。

 

「ジルクニフ殿」

「はっ」

 

その蛙から、今度はジルクニフに言葉が向けられる。

 

「我々が迷宮を掘るのと、君達が探索するのと、どっちがいいと思うね?」

 

(……どんな二択だ蛙野郎)

やっぱり悪魔は悪魔だ。

 

「……我々が探索致します」

 

それしか選択肢はなかった。

 

「君のところで、その秘宝とやらは発見できそうかね?」

「……成功は確約できかねますが、ご命令とあらば精一杯尽くさせて頂きます」

 

……とりあえず、こう答えるしかないだろう。妙な気まぐれを起こされないためにも。

 




ンナ↑インズ様、実はノリノリです。

あ、会談はまだ続きます。
まだムチしかないからね。
アメがないと毛根死んじゃうからね……。
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