ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

21 / 26
<前回のあらすじ>

まずうちさぁ……ダンジョンあんだけど……潜ってかない?(威圧)



光明

「……我々で調査させて頂きます」

 

ジルクニフは、諦めと共にそう吐き出した。

 

「そうかね。それは助かる。ああ、そういえば君のところは優秀な騎士が揃っているのだったね。丁度良い。期待しているよ」

「……はい」

 

ジルクニフは思い出していた。まだ属国化の取り決めをまとめていた頃、この蛙の悪魔がロウネを経由して寄越した回答のことを――。

 

『うん? 軍隊の解散? いいや、結構だよ。なに? 指揮権の委譲? ははは、面白い冗談だね。いらないよそんなもの。今まで通り、君達は君達の裁量で、軍隊でも何でも好きに持ったら良い。国と王を守る白銀の騎士達……実に美しいじゃないか。心ゆくまで揃えたまえ。ただし、君達から他国へ攻め入るのは許可しない。その代わり、他所(よそ)の国がちょっかいをかけてきた場合は、我々魔導国が対処しよう。アインズ様の()()に手を出したらどうなるか、しっかりとその身に教え込んでやらないとね。ああ、それと、国内での治安維持に関しては、君達も知っての通り、我々は高品質のサービスを格安で提供する用意がある。いつでも言ってくれたまえ。……栄光ある帝国の騎士達に、仕事が残っていればいいがね……』

 

――今思い返しても、舐めくさった扱いに(はらわた)が煮えくり返る思いだ。

 

しかし、実際問題、統率力に名高いバハルス帝国の騎士団は、瓦解(がかい)の危機にあった。あの大虐殺の直後から急増した帝国騎士団からの脱退希望者は、属国化してから更に加速し、新兵の応募も著しく減少した。

 

だが実のところ、これはある意味、今の帝国にとっては好都合だったりする。何しろ、本当に騎士の仕事がなくなってしまいそうなのだ。

 

長年続いたリ・エスティーゼ王国との(いさか)いは終わった。まさかこの()に及んで帝国に再び兵を差し向けるほど、王国も愚かではあるまい。王国軍にはもう、自国内で守りを固め、憐れにも震えて祈るしか手はないのだ。

 

帝国国内に目を向けてみても、もともと少なかった野盗の(たぐい)は、今やすっかり鳴りを潜めている。街道や辺境の村等ではまだ魔物に襲われる脅威があるが、ジルクニフがひとつ契約のサインを交わすだけで、魔導国があっという間に一掃してしまうような気がする。

 

そして何より、今となっては、たとえ最終戦争(アーマゲドン)のごとく帝国全土で徴兵して軍事に全振りしたとしても到底(かな)わない化物共が、帝国の頭を抑えているのである。今ここに、帝国にとっての軍隊の必要性は(うしな)われたのだ……。

 

しかし、さすがのジルクニフにも、全ての軍隊を解散させるなどという思い切った決断はできない。魔導国に全て委ねて無防備を晒すほどに、あの化物どもを信じるわけにはいかないのだ。たとえ魔導国の手勢に比べて案山子(かかし)以下の存在だとしても、ジルクニフは人間の騎士に守ってもらいたい。欲を言ってしまえば、国庫を無駄に圧迫しない程度の縮小規模になって構わないから、忠誠心も練度もモチベーションも高い帝国騎士には残っていてほしい。

 

魔導国は、そんな国内事情をまるで完全に見越したかのように、絶妙な朝貢の取り決めを提示してきた。属国となったバハルス帝国が宗主国である魔導国に毎年納める金額は、大まかに言って、大虐殺前の国家予算における軍事費の半分程度。……つまり、実質必要のなくなった軍備を半分以下に縮小すれば、帝国国民は何ら腹を痛めることなく、それまで通りの生活を維持できてしまうのだ。事ここに至っては、むしろ依願退職者を募りたいくらいだ。

 

これは、はっきり言って異例の措置である。国際法やら人道的配慮やらが存在しないこの世界においては、強者は弱者に対して何をしても良いというのが常識である。敗者は真っ当に生きる権利すら奪われるのが世の常。こんな生っちょろい併呑など、人類の歴史の中で見たことも聞いたこともない。……まあ、その唯一の例外が、つい最近の都市エ・ランテルの占拠であり、その統治の様子を見たからこそ、ジルクニフも手心(てごころ)を期待して魔導国の軍門に(くだ)ったわけであるが……。

 

「そうだったな。ジル、お前のところの兵達の事情は把握している。仕事が割り振れて何よりだ。私は別に結果を急いではいないからな。騎士達の暇つぶしがてら、のんびりと迷宮攻略でも楽しんだら良いと思うぞ」

「……ありがとう……ございます」

 

(……どんな皮肉だ)

ジルクニフはギリッと奥歯を噛みしめる。

 

「そうそう、専業兵を辞めたい者が身の振り方について困っているのなら、力になるぞ。既に知っていると思うが、魔導国は新たな時代の冒険者を募っている。腕に自信のある者、剣で身を立てていく気概のある者を歓迎しよう。それとは別に、我が国はエ・ランテル近郊の辺境の村を開拓した実績がある。例のアンデッドのサービスとセットになるが、こちらも退職した騎士の受け皿になると思うぞ。検討してくれたまえ」

「……はい、感謝致します、アインズ様……」

 

ジルクニフは若干返答に窮した。……まさか、帝国軍隊をボロボロにした張本人が、その転職のサポートまで手配してくれるとは畏れ入る。しかもその内容が妙案なのが、またジルクニフをモヤモヤさせる。全てがこの怪物の思惑通りに進んでいるような気がしてならない。

 

「ふむ……それにしても、だ。ただ一方的に宝の探索を押し付けるのは、少々心苦しいな」

 

そういう人並みの感性はあるのか、とジルクニフは変なところで感心した。

 

「……いえ、陛下とて、危険なアイテムを野放しにしていては心安らかならぬことでしょう。帝国の総力を挙げて探索してみせましょう」

 

(これで満足なのだろう?)

秘宝が仕込みかどうかは結局わからないままだが、帝都の民を人質に取る気なら、はじめから素直にそうすればよいのだ、とジルクニフは心の中で毒づく。

 

「……ん? ジル、お前はひとつ勘違いをしているぞ」

「……と、(おっしゃ)いますと?」

「私がその秘宝の力を恐れて回収しようとしている……お前はそう考えているようだが、私はそんな心配は全くしていない」

「そう、なのですか?」

「剣だか宝玉だか知らんが、お前達ニンゲンの秘宝ごときで、この身が傷つくわけがなかろう」

 

くっくっく、と、魔導王の周囲の側近ですら、(あざけ)るような含み笑いを浮かべる。

 

「これは、失礼致しました……」

 

(ん? 何だかよく分からなくなってきた……。元からこいつらのでっち上げではないのか? 架空の弱点武器を餌にして、謀反人(むほんにん)を釣り上げる作戦だと思っていたのだが……。こいつは何を考えている? 我々人間に何をさせたいのだ? 目的がさっぱり読めない……)

 

「ふむ……私がその程度の存在だと思われるのは不愉快だな。良い機会だ。ひとつ褒美を思いついたぞ」

 

アインズが言う。

 

「もし、その『どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣』が見つかったら、我が身で試してやろうではないか」

 

「…………は?」

「アインズ様!!?」

 

ジルクニフの抜けた反応に被せる形で、アルベドと呼ばれた女悪魔が過剰に反応した。想定外だったのだろうか?

 

「いや、ただ『試す』だけではつまらんな……。おお、そうだ! あの武王の時のように、またちょっとした興行(こうぎょう)に手を貸すのも悪くない。次もまた、私が単騎で戦ってやろうではないか。その、『私を殺せるかもしれない剣』を装備した何者かと。ついでに宝玉も合わせたほうが良いかね?」

「な……は……え?」

 

予想を遥かに超えた展開に、ジルクニフは面食らう。……が、慌てて(かぶり)を振り、どうにか平静を取り戻す。

 

「……その……本気なのですか? ご冗談ではなく?」

「私は冗談は好きだが、こういう(たわむ)れも好きだぞ。お前も見ていたであろう?」

「……武王の時、ですか……。確かにあれはお見事でした。しかし、アインズ様は余裕だったのでは?」

 

あの最後の瞬間がどうしてもジルクニフの頭から離れない。武王の渾身の連打を全身に受け、にも関わらず微塵(みじん)も揺らがず平然としていた、骸骨の化物の姿が……。途中まで良い勝負だと思っていたのに、自分の総大将としての「強さを見る目」を粉々に砕かれた気分だった。

 

「いや、そうでもないぞ。あの武王との勝負は、なかなかに心沸き立つものがあった。私は最後に武王に()われた時以外は、わざと攻撃が通るようにハンデを背負っていたのでな。やはり命のやり取りというのは(たの)しいものだ」

「…………」

 

未だにどういう仕組みかは分からないが、どうやらアインズはあの時「ハンデ」を背負い、その間は見た目通りダメージを受けていたらしい。それでなくとも、「魔法を使わない」という縛り条件を承諾していたことは、闘技場の興行主であるオスクから聞いていたが……。

 

(……そうか……この骨は、「遊び」でわざと命を危険に晒すことがあるのか……)

 

ジルクニフの胸の奥底に、(わず)かに鈍い光が(とも)る。

 

「もう一度あの娯楽を味わえるというのであれば、またこの身を危険に晒すことも悪くない」

 

不死の王は、愉快そうにそう言った。

 

「いけませんアインズ様!!」

 

アルベドが、今までにない強さで主君を(たしな)める。

 

「どうかお(たわむ)れもほどほどになさって下さい! アインズ様ほどのお方がニンゲンごときに遅れを取ることがないことは百も承知ですが、万が一アインズ様にもしものことがあれば、我らシモベ一同、慚愧(ざんき)に堪えません!」

「そうですアインズ様! 我々ナザリックの存在は、アインズ様なしでは生きていることなどできません。どうかご自愛ください! 我ら一同の願いです!」

 

左右に控えていたアルベドとデミウルゴスが懇願する。その剣幕は、あまりにも真に迫っていた。

 

「……そうか。お前達の忠義に感謝するぞ。しかし、お前達も知っていよう。私も随分と長くこの世界に居すぎた。飽きるほどにな。私にとっては、生と死すらただの状態に過ぎぬ。浮世(うきよ)(いたずら)に我が身を()すこともまた、泡沫(うたかた)の余興なのだ。あまり私の(たの)しみを奪ってくれるな」

「アインズ様……。アインズ様がいつか黄泉路(よみじ)へ旅立つ時は、必ずや我々もお供致します」

「うむ。いずれはそれも、悪くないかも知れぬな。皆で()くのも……」

「…………」

 

玉座の周りが何だかしんみりしている。……しかし、その下座の様相は全く違う。

 

(何ということだ! 今日得た情報は宝の山ではないか! 滅ぼせる……滅ぼせるぞ! ナザリックを!)

 

ジルクニフは、一切表情に出さずに激しく興奮するという離れ業をやってのけていた。その頭脳はここ一番に高速に回転し、状況を整理していた。

 

(まず一つ、奴は……アインズ・ウール・ゴウンはおそらく、人間のように生に執着していない)

 

“超越者”とはそういうものなのだろうか? 奴は絶対的な強さを持ちながら、あえてその身を刃に晒し、自分の生死をチップにして賭けることすらある、ということらしい。……まあ、人間でも人生にスリルを求める人種は確かに居るので、その気持ちは分からないでもない。戦闘狂も分かる。軍を率いていれば(まれ)に見るゆえ。「生き飽きる」という感覚は、ちょっと人間には分からないが……。

 

(これはチャンスだ! というか、これ以外に考えられない!)

 

おそらくあの武王との闘いの最後で見せた通り、奴に手傷を負わせるのは、普通であれば不可能だろう。しかし、武王戦の前半のような「ハンデ」を負った状態――奴が慢心し、わざと自分を弱めて巫山戯(ふざけ)る、油断しきった状態――であれば、奴を葬り去ることも可能かもしれない。

 

(次に、もし首尾よくアインズ・ウール・ゴウンを(たお)すことが出来れば、奴の配下は自然崩壊する)

 

あの王にしてこの配下ありとでも言えば良いのか、奴らは人間には及びもつかない忠義心、あるいは生死観を持っているらしい。この情報は大きい。狙うはただ一点、王の首のみで良いというわけだ。全く絵にならなかった逆襲計画が、手の中でゆっくりと形を成していくのを感じる。

 

もしかしたら、魔導王の殺害後、激昂(げきこう)した配下達から苛烈な報復を受けるかも知れないが、それを(しの)ぎきれば、生き残った人間で未来を紡ぐことができる。ジルクニフは一時はあのナザリックの化物同士の離反を考えていたが、今こうして状況を整理してみると、あの忠義心の高さこそが利用すべき最高の自壊装置と言える。

 

(全員まとめて、地獄の底まで舞い戻るがいい……)

 

そんな暗い呪詛(じゅそ)がジルクニフの胸中に渦巻く中、不死の王が語り掛ける。

 

「ジルよ。私は悠久の時を過ごす絶対者ゆえ、この身を焦がす刺激を求めている。私は強者が好きだ。この身に降りかかる困難を愛している」

 

魔導王が、まるでオペラ歌手のように手を広げる。黒い後光まで背負ったその姿は、まさしく魔王そのものだ。

 

「ジル、私の無聊(ぶりょう)を慰める手伝いをして欲しい。お前の帝国の、最も鋭い刃を用意するが良い。その私を(おびや)かすという、『剣』と『宝玉』を(たずさ)えた、誰よりも屈強な戦士をな。その時私は、この玉座を降り、一介の兵として尋常に勝負してやろう」

「……なんと……」

「私を楽しませてくれ。吉報を待つぞ」

「はっ!」

 

ジルクニフは、力強く返答した。

 

……これは、遊戯(ゲーム)だ。不死の王と、帝国との。しかし、その強者ゆえの増上慢(ぞうじょうまん)こそが命取りだ。奴には、時には優雅に狐狩りを楽しむ馬上の貴族ですら、思わぬ事故で命を落とすこともあるということを教えてやろう。吟遊詩人の奏でる英雄物語(サーガ)のように、傲慢なる邪神のその首を、脆弱なる人間が落としてくれる!

 

ジルクニフは唐突に、今までずっと背が曲がっていたような感覚を覚え、改めて背筋をスッと伸ばした。やはり皇帝とはこうでなくてはな、などと思いながら……。

 

「む! 再び緊急の連絡が入った。少し失礼する。ではな!」

 

突然アインズがそう言うと、玉座に座ったままバサッとローブを(ひるがえ)し、スッと闇に消えた。

 

一同がやや呆気(あっけ)にとられる中、ほんの数十秒程度で、不死の王は再び姿を現す。

 

「…………度々(たびたび)すまないな。ああその、さっきの仕草は、その、少し急いでいてな……」

 

よく分からないが、どうやら緊急の問題とやらは解決したようだ。魔導王は今は落ち着き払って、玉座に静かに構えている。

 

「……む? ジル、少し顔色が良くなったか?」

「い、いえ!」

 

自分の敵愾心(てきがいしん)を見透かされたようで、思わず少し目を泳がせてしまう。

 

「いや、先ほどよりもだいぶ調子が戻ったようで安心した。うむ。今の顔のほうが好ましいぞ。やはり人間、そうでなくてはな!」

「…………」

 

(……やはり食えぬ……この骸骨……)

奴は、ジルクニフの叛心(はんしん)を読み取り、その上でそれを(ゆる)したのだ。それこそがニンゲンの正しい姿なのだと。()()()()()()()()()()()()、と。あの朗らかな声の、なんと挑発的なことか……!

 

(……お望み通り、やってやろうではないか……!)

ジルクニフも対抗すべく「ニコリ」と笑みを返した。瞳の奥底にある闘志を、わざと見せつけるようにして……。

 

「まあ、ともかくまとめると、だ。大迷宮の探索は、ジル、お前に一任する」

「拝命致しました、アインズ様」

「……とはいえ、基本的に私は干渉しない。お前たちの好きに探索したらいい。迷宮用に部隊を編成するも良し、冒険者やワーカーを雇い入れるも良し、だ」

「はい」

「期日も設けん。私の気は長い。無理せず励め」

「はい」

「宝についても、今のところ例の秘宝二つしか私は興味がない。他は好きにせよ」

「はい」

 

ピクッと、レイナースの肩が上がった。

 

「一応、拾得物等の情報はまとめて報告してもらうが、一方的に取り上げたりしないから安心せよ。私の興味を引く品があれば、それ相応の対価をもって持ち主と交渉に当たらせてもらおう」

「はい」

「その他、迷宮の構成や遭遇した敵、攻略上の問題点やトラブル等を含め、定期的に報告書を提出してもらう。よいな?」

「了解しました」

 

ようは何のことはない。定期報告さえ欠かさなければ、成果を気にせず好きに探索せよというお達しだ。非常に手ぬるい。

 

「そうそう。迷宮と言えばな、実は我がエ・ランテルの領内にも謎の遺跡があるのだ。せっかくなので、冒険者に探索させて修練に役立てている。機会があれば調べてみると良い。何なら視察も受け付けるぞ。色々と参考になることもあるかもしれんしな」

「はい。覚えておきます」

 

(そう言えば、そんな遺跡の話があったな……)

重要度が低かったので後回しにしていた報告を、ジルクニフは思い出した。

 

「しかし、お前達ニンゲンの世界には、なかなかに面白いものがあるのだな。実に興味深いぞ」

「い、いえ……」

 

少なくとも、帝国や王国の民が作ったのではないと思うのだが……。

 

……しかし、もしこの二つの遺跡が魔導王と無関係に存在していたとするなら、案外、身近な人類の領域には、得体の知れないものが数多く隠されているものかもしれない。思えば、今まで帝国は、街を造り、耕作地を整え、兵を鍛え……と、民の暮らしのために目先のことにばかりに終始していた気がする。だが、もしかしたら今もまだ帝国領地のどこかに、あの魔導国に対抗できるような、人類の反撃の牙が隠されているかもしれないのだ。

 

(今からでも調査隊を結成すべきか? それとも、冒険者組合にでも依頼するか? ……ん? 冒険者……?)

 

……もしかしたら、と、ジルクニフは思う。もしかしたら、帝国がずっと以前から冒険者の支援を行い、育てて「冒険」させていれば、今頃こんなことにはなっていなかったのではないか?

 

(あの魔導王の(げん)が、正しかったとでも言うのか……?)

 

奴の闘技場での演説……。あれと同じことを人類が実行してこなかったから、今こうして奴に遅れを取っているのだろうか? だとしたら、まるで悪夢のような皮肉ではないか……。

 

(……「冒険者を育てる」、か……。考えもしなかったな。まさかこういう意図が含まれていたとは……。アインズ・ウール・ゴウン、一体どこまで先を行くか……!?)

 

改めて、その智謀に恐れおののくジルクニフであった。

 

「さて、せっかく探索と報告を依頼するのだから、例の勝負とは別に、それに見合った対価を渡したいところだが……」

 

その智謀の王が、またひとつ案を出す。こういうところは律儀(りちぎ)らしい。まるで商人のようだ。絶対者として頭ごなしに命じれば良いものを。いや、これも策略のうちか……?

 

「まずは、そうだな……。実は今、我が魔導国ではドワーフのルーン工匠達を抱えているのだが、彼らのルーン武具の試作品を提供しよう。迷宮探索に役立ててくれたまえ」

 

(くそっ! 猛烈に手が早いな!)

ジルクニフは、闘技場のオスクから、「アインズはドワーフのルーン武器に興味を持っている」との情報を掴んでいた。実は帝国でも交渉を有利に進めるため、ドワーフに渡りを付けようかと画策していたところだったのだが、まさか一歩も動かぬうちに獲物を()(さら)われていたとは……。

 

「できれば、それらのルーン武具を使用した感想も聞かせてほしい。良い点は宣伝として、悪い点や追加の要望は改善点として役立たせてもらおう」

 

本当に商人みたいだ。王がなぜそんなことまでしているのか? やはりこの骸骨、全く底が知れない。

 

「その他、細かいことは後で部下達で詰めてもらおう。とりあえず、大迷宮についてはこんなところで良いかな?」

「はい。問題ありません」

「うむ。それはよかった……」

 

ふぅ、と、アインズはまるで人間が一息つくような仕草をした。これも奴の交渉術のひとつなのだろうか? 妙に自然なのが小賢(こざか)しい。

 

「……では、次の話に移ろう。アルベド」

「はい。では――」

 

……………………

…………

……………………

 

――玉座での会談は、こうして(とどこお)りなく終わった。

 




アインズ?「来いよジル。剣と玉拾ってかかってこい」
ジル「へへへへ……誰がテメーなんか……テメーなんか恐かねぇ!! ヤローブッコロシテヤラァ!!」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。