持ち帰り! そういうのもあるのか。
「アルベド、デミウルゴス、そしてパンドラズ・アクター。先程のバハルス帝国とのやり取り、実に見事であった。感謝するぞ三人とも」
アインズが今回の功労者である三人を
「もったいなきお言葉!」
「お役に立てて光栄です」
「んアインズ様のためならば!」
「う、うむ……」
この真っ直ぐな忠誠心には、毎回なぜかちょっと罪悪感が湧く。
「アインズ様。むしろ
「もちろんだとも。これ以上無いと言って良い」
「あぁ……何とお優しいお言葉……」
そうなのだ。実はあの『大迷宮』まわりの一連の茶番劇は、彼らの申し出によって計画されたことなのだ。何でもデミウルゴス曰く――
『あの帝国皇帝を力ではなく叡智にて
――だそうだ。
妙に前のめりで迫られてしまったので思わず「お、おう……」と承諾してしまったが、そもそもアインズの頭の中は最初からノープランだ。正直、これ以上の幸運はないとばかりに渡りに船である。超笑顔で「良きに計らえ」と言って全て誤魔化してしまおう……となった。
……こうして、「何とかしてアインズ様に良いとこ見せたい」ナザリックの三つの頭脳は、集まって顔を突き合わせた。そして、『帝都地下大迷宮』、『四秘宝』、
「今回の結果により、帝国は強制されるのではなく、あくまで自発的に
「帝国に残っていたゴミのような戦力も、消すのではなく有効活用し、なおかつ今後も育てていくことになります」
「それに加えて、帝国のニンゲンには目に見える形で希望を提示し、不安の
最初に褒めたことで自信を取り戻したのか、三人はややドヤ顔気味に今回のメリットを総括した。アインズはカパッと口を開け――
「素晴らしい……素晴らしいぞ! やはりお前達は私の誇りだ!」
――若干大げさに褒めた。いやほんとに、アインズには無理だったから。
「おぉ……」
三人が歓喜にブルブルと身を震わせ、涙すら流した。
(いやー最初はどうなることかと思ったけど、結局は綺麗にまとまったな!)
アインズは軽くさっきのことを振り返る。もちろんアインズは、パンドラズ・アクターと交代してからも玉座でのやり取りを見守っていた。最初のうちはかなり威圧的で、ただでさえあまり良くなかったジルクニフの顔色が更に蒼くなるのが見て取れ、アインズは見ていて内心ハラハラしていた。しかし話が進むにつれて、ジルクニフも悪いことばかりではないと悟ったのか、顔つきが徐々に気色良くなっていた。最後のあの、お互い商談が綺麗にまとまった時のような、晴れやかな笑顔が忘れられない。パーフェクトコミュニケーションだ。
(……しかし、これで俺も、「長生きしてて」「無常観漂う」「
一応そこは事前に確認を受けてオーケーを出したが、これからはそういうキャラも固めていかないといけない。……まあもっとも、「長生き」の部分は既定路線だったし、最近は前衛の真似事も楽しくなってきたところだ。一番の問題は、何と言うかこう……人生経験的な貫禄が出るかどうかだが……。
なお、当然であるが、『四秘宝』などというものははじめから存在しない。その設定はあくまで、バハルス帝国のダンジョン探索者を引き寄せるための餌である。まあ、似たような機能を持つマジックアイテムなら、低位から高位まで幾つか揃っているので、場合によってはプランを変更して、
「……それにしてもお前達、ジルのあの性格について、よく見抜いていたな」
アインズは、ふと感じた疑問を投げかけてみる。
「何を
「……まあ、私は、な。しかし、そうそう気付くものでもないと思うが……」
「おお、やはり……さすがはアインズ様……。もとより我々の案は、アインズ様のあの至高の一手を踏襲したものに過ぎません。やはりまず、アインズ様のお導きあってのことかと……」
「いやいや、私は関係ないと思うぞ。全てお前達の成果だ」
「なんとお優しい! さすがはち……アインズ様。我ら一同、今後もアインズ様のご慈悲に報いるべく、誠心誠意尽くさせて頂きます!」
「……う、うむ。今後も期待しているぞ」
何言ってもベタ褒めが返ってくるのがやりきれない。
(あとパンドラズ・アクター。お前さっき「父上」って言おうとしたろ。絶対人前で言うなよ!)
……しかし、本当に皆よく知っていたものだ。
(ジルが、闘技場好きだってことを……)
アインズに
取引先の相手に趣味を合わせるのは、営業の常套手段である。アインズもかつては得意先との話を円滑にするため、触れたこともない釣り(仮想)の知識を仕入れたり、好きでもないスポーツチームの
(そう言えば、ジル
お詫びに今度自分が闘技場に出てやろうかとも思ったが、先程までの話の流れだと、アインズは今、ディフェンディングチャンピオン、もしくはラスボスの座に就いていることになる。残念ながら気軽に出場することは出来なくなってしまった。
(しかも俺の場合、どうあがいても「魔王 vs. 帝国の英雄」というポジションだしな。
……などと考えていた。まあそもそも、このままだと四秘宝は見つからず、その対戦カード自体が成立しないのだが……。
(ふむ……「パンとサーカス」と言うし、ジルのためにも、闘技場を盛り立てるというのは悪くないな。またゴ・ギンの奴を武王として復帰させるか? それとも、俺がモモンで参加する……のはちと難しいか。なら、別キャラを作るという手も……。いや、待てよ。創造したアンデッドを出場させて、パフォーマンスを見せつけて売り込む、なんてのはどうだ? はたまた、育てた冒険者を活躍させて宣伝するという手も……。おお! 夢が広がるな!)
アインズの思考がどんどん無軌道になっていく中――
(あの不遜な
(私なら不敬で殺しているところですが、なんという器の大きさ……。あれもアインズ様のお力の一端なのでしょう。私も少しでも近づけるよう、より一層努力せねば……)
(父上、この息子にだけは分かりますよ。脆弱なニンゲンにおかけになるその慈悲深さ。父上は自らに向けられるその悪意ですら、受けて止めて
――全員が、明後日の方向へ向いていた。
◆
――帝国魔法省地下。そこには、最近新たに改装され、『書庫』とプレートが掲げられた、小さな部屋がある。
その部屋はもともと、囚人を収容するための牢獄であった。それもただの囚人ではない。強力で凶悪な
この世界には、道具などなくても身一つで、しかも手足を拘束された状態ですら、平気で牢を破る存在がいる。凄腕の
ここはかつて、その「備え」をするに
しかし、最近になってこの部屋は、その機能を活かしつつも、目的を大きく変えた。今この部屋から出さないのは「囚人」ではなく「情報」。この部屋に入るのは「罪人」ではなく「皇帝」。……そう、この場所こそが、皇帝ジルクニフが
部屋の出入り口は、〈
帝国魔法省が誇る優秀な
――そこに、明かりに照らされた顔が三つ……。
「……よくもまあ飽きもせず、毎回こんな牢獄に来られたものだ」
「私の上官殿も諦めが悪いもので……」
「いや全く、往生際が悪い奴もいたものだな。今度叱っておいてやろうか?」
「はい。部下を
この減らず口を叩く男は、ロウネに並ぶ実力を持つ秘書官で、最近のジルクニフのお気に入りだ。近頃はなかなか言うようになった。
残りの一人はニンブルである。彼も貴族で優秀な頭脳を持っているので話に混じることはあるが、本分は護衛だ。
「さて、無駄話は
実利主義を地で行くジルクニフは、簡潔かつ円滑な流れを求める。
「はい。魔導王から借用したドワーフのルーン武具で多少進展はありましたが、まだ先は遠く、『四秘宝』の尻尾すら掴めません」
「そうか……。時間を掛ければいけそうか?」
「迷宮内部に関する情報は着実に蓄積されています。あとは探索要員の熟練度次第です。この先伸びることを期待しましょう」
「先は長そうだな」
「攻略自体は確実に進んでいます。焦らず行きましょう。それと、ルーン武具に関して幾つか要望が上がっています」
「どんどん遠慮なく報告してやれ。奴を困らせられたらむしろ本望だ」
「はい。ではそのように」
……報告はこんな感じで小気味よく進んだ。切りの良いところまで進んだところで――
「……ところで、陛下は本当に『四秘宝』はあるとお思いなのですか? 以前は確か、全て
――秘書官が、かねてより感じていた疑問を投げかけた。この点に関するジルクニフの見解が、ナザリック地下大墳墓へ出頭した前後で明らかに違っていると感じたからだ。
「ああ、確かに最初は私もそう思っていた。しかし、今となっては違う。奴がそうしようとする意図に全く見当がつかんのだ」
ジルクニフは当初、「大迷宮」から「四秘宝」まで、全てが
しかし考えてみると、あの絶対者がそんな
そうまでしておきながら、もし仮にその「四秘宝」が、連中が自分で用意したただのガラクタだったとしたら? あるいはそもそも、「四秘宝」など存在しなかったとしたら……?
(それこそ意味不明だ。人間に意味もなく迷宮内を
……という論理に
「私達を観察して、楽しんでるとか?」
「…………」
冗談交じりの秘書官の発言に、一瞬ジルクニフの頭の中に、木や石で迷路を作り、
「……馬鹿馬鹿しい」
ジルクニフは頭を振ってしょうもないイメージを消し去った。アインズ・ウール・ゴウンという存在はもっとこう、計算高く利益に基づいて策を巡らせる、謀略の魔王のはずだ。
「そんな結論に達するくらいなら、あの大迷宮も四秘宝も、
……結局は、それが推論の終着点だった。
「確かに、そうですね……。しかし、魔導国の
「……ああ、お前はまだあの大墳墓に行ったことがなかったのだったな。あれは桁が違うぞ。帝国の財が全てゴミに見える」
「おっかないですね……」
おそらく、四秘宝に興味を示したことについても、「その大言壮語に興味がある」といったところだろう。得意気にジルクニフが見せに行ったら「ふん、ゴミか」とか言い放つ
「まあ、そういうことでしたら、希望を持って前向きに探索を続けさせて頂きますよ。幸い騎士達の士気も少しは上向いてきましたしね」
「ああ、騎士達はここしばらく、己の存在意義について悩んでいたからな……」
ある意味、騎士達に
「ともかく、迷宮探索はこの調子で進めてくれ。頼むぞ」
「了解しました」
「それと、今回は大事な話がある。その秘宝が見つかった
「……ほう……」
ジルクニフが、この完全密室の中であってなお、声を潜める。秘書官もついつられて声を落とした。
「……例の、魔導王が一騎討ちを受けるという話ですか?」
「そうだ。我々は秘宝と共に、その力を最大限引き出すことのできる戦士を探している」
「帝国最強の戦士というと、アノック殿を含む三騎士が真っ先に候補に上がりますが……」
チラッと見ると、ニンブルが緊張に口元を引き締めている。
「……やってくれるか? ニンブル」
「帝国のためならば!」
蒼い顔をしながら、それでもニンブルは皇帝の頼みに是と答える。三騎士の中で最も、というか唯一、忠義の何たるかを知る男の姿だった。
「お前の覚悟、しかと見届けたぞ。……しかし現実問題、お前は今から努力したとして、あの武王の域に届くと思うか?」
「それは……」
ニンブルが
「酷なことを言うようだが、私は三騎士を含め、我が国の騎士の誰一人としてあの強さには達しないと思う」
「…………」
それは
「……であれば、どのようにお考えで?」
秘書官が問う。他ならぬジルクニフがこの話題を振ったのだ。ここで終わりのはずがない。
「ひとつ、心当たりがある」
「それは?」
「冒険者だ。それも、“銀糸鳥”よりも、あの王国の“蒼の薔薇”よりも強い、アダマンタイト級の中のアダマンタイト級……」
「それは、まさか……」
「そう。“漆黒”のモモンだ」
ひゅうっと、一同が息を呑む音が聞こえる。
「……しかし、そのモモンは……」
「うむ。彼は今、魔導王の傘下にいる。しかし、その
「……なるほど」
その当時のやりとりによれば、漆黒の戦士モモンは、被害を気にせず全力で立ち向かえば、二対一の状況でも魔導王を殺せたとのことだ。そんな英雄が「どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣」と「
「では早速、使者を送りましょう」
「まあ待て」
迅速に事を進めようとする優秀な秘書官を、ジルクニフは一旦呼び止める。
「いいか、このことを、アインズ・ウール・ゴウンに知られてはならない」
「……隠密に、ということですか?」
秘書官が難しい顔をする。
「そうだ。さしものアインズの奴も、漆黒の英雄と戦うと分かれば、約束を
「むむ……確かに」
「急がなくていい。秘宝を探り当てるまでにはまだ時間がある。魔導国の監視の目に引っかからないように、慎重かつ確実に事をなすのだ。いいな?」
ジルクニフは強く念を押した。
「……あの闘技場での密談の情報が
「頼んだぞ! 今度こそ、人類の未来をかけた最後の賭けになる」
「はい! この命に代えましても、必ずや漆黒の英雄モモンを連れて参ります!」
薄暗い部屋の中、三人は顔を見合わせ、力強く
◆
蛇足ではあるが、これよりしばらく後、皇帝ジルクニフと漆黒の英雄モモンは
◆
「……ところで、四秘宝のことで何か……そう、何か新たに分かったことはないか? その……下らないことでも良いぞ」
「いえ、特にありません」
「そうか……」
「…………」
「……なんだ?」
「……い、いえ……」
「…………」
「…………」
これが……頭脳戦……!