ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

持ち帰り! そういうのもあるのか。



思惑

「アルベド、デミウルゴス、そしてパンドラズ・アクター。先程のバハルス帝国とのやり取り、実に見事であった。感謝するぞ三人とも」

 

アインズが今回の功労者である三人を鷹揚(おうよう)(ねぎら)う。

 

「もったいなきお言葉!」

「お役に立てて光栄です」

「んアインズ様のためならば!」

 

「う、うむ……」

この真っ直ぐな忠誠心には、毎回なぜかちょっと罪悪感が湧く。

 

「アインズ様。むしろ此度(こたび)は、私達の願いを聞き入れて全てをお任せ頂き、感謝の言葉もありません。我々の働きは、満足の行くものでしたでしょうか?」

「もちろんだとも。これ以上無いと言って良い」

「あぁ……何とお優しいお言葉……」

 

そうなのだ。実はあの『大迷宮』まわりの一連の茶番劇は、彼らの申し出によって計画されたことなのだ。何でもデミウルゴス曰く――

 

『あの帝国皇帝を力ではなく叡智にて(くだ)した手腕……まさに至高の一手と呼ぶべき神業! このデミウルゴス、驚嘆致しました! しかし、このままアインズ様に全て委ねてしまっては、我らシモベ一同、立つ瀬がありません。ここは何卒(なにとぞ)、後のことは我らにお任せくださいませんでしょうか? アインズ様はどうかそのお手を(わずら)わせることなく、我らの働きを見守っていて下さい。必ずや、アインズ様のシモベに恥じぬ成果を上げてご覧に入れます!』

 

――だそうだ。

 

妙に前のめりで迫られてしまったので思わず「お、おう……」と承諾してしまったが、そもそもアインズの頭の中は最初からノープランだ。正直、これ以上の幸運はないとばかりに渡りに船である。超笑顔で「良きに計らえ」と言って全て誤魔化してしまおう……となった。

 

……こうして、「何とかしてアインズ様に良いとこ見せたい」ナザリックの三つの頭脳は、集まって顔を突き合わせた。そして、『帝都地下大迷宮』、『四秘宝』、死者の大魔法使い(エルダーリッチ)の仕込み、それと先程の交渉の筋書きと、全て立案してプロジェクトとしてまとめ上げたのだった。そして現在、そのお披露目はめでたく山場を越えたのである。

 

「今回の結果により、帝国は強制されるのではなく、あくまで自発的に粉骨砕身(ふんこつさいしん)、ダンジョン攻略に(いそ)しむことになるでしょう」

「帝国に残っていたゴミのような戦力も、消すのではなく有効活用し、なおかつ今後も育てていくことになります」

「それに加えて、帝国のニンゲンには目に見える形で希望を提示し、不安の()け口を提供するという効果も見込めます」

 

最初に褒めたことで自信を取り戻したのか、三人はややドヤ顔気味に今回のメリットを総括した。アインズはカパッと口を開け――

 

「素晴らしい……素晴らしいぞ! やはりお前達は私の誇りだ!」

 

――若干大げさに褒めた。いやほんとに、アインズには無理だったから。

 

「おぉ……」

 

三人が歓喜にブルブルと身を震わせ、涙すら流した。

 

(いやー最初はどうなることかと思ったけど、結局は綺麗にまとまったな!)

 

アインズは軽くさっきのことを振り返る。もちろんアインズは、パンドラズ・アクターと交代してからも玉座でのやり取りを見守っていた。最初のうちはかなり威圧的で、ただでさえあまり良くなかったジルクニフの顔色が更に蒼くなるのが見て取れ、アインズは見ていて内心ハラハラしていた。しかし話が進むにつれて、ジルクニフも悪いことばかりではないと悟ったのか、顔つきが徐々に気色良くなっていた。最後のあの、お互い商談が綺麗にまとまった時のような、晴れやかな笑顔が忘れられない。パーフェクトコミュニケーションだ。

 

(……しかし、これで俺も、「長生きしてて」「無常観漂う」「戦闘狂(バトルマニア)」、か……)

 

一応そこは事前に確認を受けてオーケーを出したが、これからはそういうキャラも固めていかないといけない。……まあもっとも、「長生き」の部分は既定路線だったし、最近は前衛の真似事も楽しくなってきたところだ。一番の問題は、何と言うかこう……人生経験的な貫禄が出るかどうかだが……。

 

なお、当然であるが、『四秘宝』などというものははじめから存在しない。その設定はあくまで、バハルス帝国のダンジョン探索者を引き寄せるための餌である。まあ、似たような機能を持つマジックアイテムなら、低位から高位まで幾つか揃っているので、場合によってはプランを変更して、()()()()()()も良いが……。え? ハゲを治す薬? あるよ。たぶんね……(小声)

 

「……それにしてもお前達、ジルのあの性格について、よく見抜いていたな」

 

アインズは、ふと感じた疑問を投げかけてみる。

 

「何を(おっしゃ)いますかアインズ様。アインズ様であれば最初から全てお見通しだったはず」

「……まあ、私は、な。しかし、そうそう気付くものでもないと思うが……」

「おお、やはり……さすがはアインズ様……。もとより我々の案は、アインズ様のあの至高の一手を踏襲したものに過ぎません。やはりまず、アインズ様のお導きあってのことかと……」

「いやいや、私は関係ないと思うぞ。全てお前達の成果だ」

「なんとお優しい! さすがはち……アインズ様。我ら一同、今後もアインズ様のご慈悲に報いるべく、誠心誠意尽くさせて頂きます!」

「……う、うむ。今後も期待しているぞ」

 

何言ってもベタ褒めが返ってくるのがやりきれない。

 

(あとパンドラズ・アクター。お前さっき「父上」って言おうとしたろ。絶対人前で言うなよ!)

 

……しかし、本当に皆よく知っていたものだ。

 

(ジルが、闘技場好きだってことを……)

 

アインズに(ふん)するパンドラズ・アクターが「自ら闘う」と申し出た時、ジルクニフが随分と嬉しそうに目をキラキラさせだしたのを覚えている。あれで調子を取り戻すのだから、よほど試合観戦が好きなのだろうな、とアインズは思った。

 

取引先の相手に趣味を合わせるのは、営業の常套手段である。アインズもかつては得意先との話を円滑にするため、触れたこともない釣り(仮想)の知識を仕入れたり、好きでもないスポーツチームの(にわか)ファンになったりしたものだ。あの人間をゴミとしか思わない部下達が、過去の自分と同じような努力を成したかと思うと、アインズは感動を禁じ得ない。

 

(そう言えば、ジル一押(いちお)しの武王を俺が奪ってしまったのだったな。あれだけ熱狂的に応援してたのに、悪いことをした……)

 

お詫びに今度自分が闘技場に出てやろうかとも思ったが、先程までの話の流れだと、アインズは今、ディフェンディングチャンピオン、もしくはラスボスの座に就いていることになる。残念ながら気軽に出場することは出来なくなってしまった。

 

(しかも俺の場合、どうあがいても「魔王 vs. 帝国の英雄」というポジションだしな。悪役(ヒール)として場を盛り上げるのも悪くはないが、たまにはアウェイでなくホームの応援を受けたいものだ……。ジルとも同じ陣営になったことだし、できれば次は俺のことも少しは応援してくれると嬉しいのだが……)

 

……などと考えていた。まあそもそも、このままだと四秘宝は見つからず、その対戦カード自体が成立しないのだが……。

 

(ふむ……「パンとサーカス」と言うし、ジルのためにも、闘技場を盛り立てるというのは悪くないな。またゴ・ギンの奴を武王として復帰させるか? それとも、俺がモモンで参加する……のはちと難しいか。なら、別キャラを作るという手も……。いや、待てよ。創造したアンデッドを出場させて、パフォーマンスを見せつけて売り込む、なんてのはどうだ? はたまた、育てた冒険者を活躍させて宣伝するという手も……。おお! 夢が広がるな!)

 

アインズの思考がどんどん無軌道になっていく中――

 

(あの不遜な皇帝(ゴミ)が心中に抱える、アインズ様を呪い殺さんばかりの憎悪と、その恨みを晴らすための小細工の数々。それを逆手に取るなんて、ああ、アインズ様……なんて素敵……)

(私なら不敬で殺しているところですが、なんという器の大きさ……。あれもアインズ様のお力の一端なのでしょう。私も少しでも近づけるよう、より一層努力せねば……)

(父上、この息子にだけは分かりますよ。脆弱なニンゲンにおかけになるその慈悲深さ。父上は自らに向けられるその悪意ですら、受けて止めて(いつく)しんでおられるのですね……)

 

――全員が、明後日の方向へ向いていた。

 

 

 

 

――帝国魔法省地下。そこには、最近新たに改装され、『書庫』とプレートが掲げられた、小さな部屋がある。

 

その部屋はもともと、囚人を収容するための牢獄であった。それもただの囚人ではない。強力で凶悪な魔法詠唱者(マジック・キャスター)を想定したものだ。

 

この世界には、道具などなくても身一つで、しかも手足を拘束された状態ですら、平気で牢を破る存在がいる。凄腕の盗賊(シーフ)修行僧(モンク)なんかも該当するが、それよりも厄介なのは魔法詠唱者(マジック・キャスター)だ。魔法には対魔法の備えがないと、その身を完全に束縛することはかなわない。

 

ここはかつて、その「備え」をするに相応(ふさわ)しいほど扱いが厄介で、しかも「殺すにはもったいない」ほど高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)を閉じ込めておくための監獄だったのである。……まあもっとも、歴代でここに入れられた者は数えるほどしかいなかったが……。

 

しかし、最近になってこの部屋は、その機能を活かしつつも、目的を大きく変えた。今この部屋から出さないのは「囚人」ではなく「情報」。この部屋に入るのは「罪人」ではなく「皇帝」。……そう、この場所こそが、皇帝ジルクニフが()()()をするために設けた、機能万全の堅牢な密室なのである。

 

部屋の出入り口は、〈火球(ファイヤーボール)〉にすら耐える重厚な扉が一つのみ。壁、天井、床の全てが石で敷き詰められており、部屋自体が地下にあるため窓もない。通気口すら塞いでおり、代わりに部屋の隅には新鮮な空気を生み出すマジックアイテムが置かれている。中央には密談を交わすためのテーブルと椅子が置かれ、〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉の燭台(しょくだい)がぼんやりと照らしている。周囲には「書庫で調べ物をしていますよ」という体裁(ていさい)を保つため、古い書物が収まった本棚が設置されている。

 

帝国魔法省が誇る優秀な魔法詠唱者(マジック・キャスター)は、第四位階魔法までをも使いこなす。部屋の周りは、彼らによって各種の情報対策が施されている。侵入者であれば、たとえ不可視化の魔法を使っていたとしても見破る〈警報(アラーム)〉の強化版が張り巡らされ、盗聴を防ぐ防音魔法が施され、扉を固める衛兵には眠りや魅了など各種状態異常に対する守りが与えられている。まあさすがに、ジルクニフがあの蛙の悪魔の支配に逆らえた国宝級マジックアイテムとまではいかないが……。ともかくこの『書庫』は、魔法省が考えに考え抜いた、蟻一匹口笛一吹き通さない空間なのである。

 

――そこに、明かりに照らされた顔が三つ……。

 

「……よくもまあ飽きもせず、毎回こんな牢獄に来られたものだ」

「私の上官殿も諦めが悪いもので……」

「いや全く、往生際が悪い奴もいたものだな。今度叱っておいてやろうか?」

「はい。部下を(いたわ)ってやるよう、宜しくお伝え下さい」

 

この減らず口を叩く男は、ロウネに並ぶ実力を持つ秘書官で、最近のジルクニフのお気に入りだ。近頃はなかなか言うようになった。

 

残りの一人はニンブルである。彼も貴族で優秀な頭脳を持っているので話に混じることはあるが、本分は護衛だ。

 

「さて、無駄話は()して、さっさと本題に入ろう。迷宮の探索状況はどうなっている?」

 

実利主義を地で行くジルクニフは、簡潔かつ円滑な流れを求める。

 

「はい。魔導王から借用したドワーフのルーン武具で多少進展はありましたが、まだ先は遠く、『四秘宝』の尻尾すら掴めません」

「そうか……。時間を掛ければいけそうか?」

「迷宮内部に関する情報は着実に蓄積されています。あとは探索要員の熟練度次第です。この先伸びることを期待しましょう」

「先は長そうだな」

「攻略自体は確実に進んでいます。焦らず行きましょう。それと、ルーン武具に関して幾つか要望が上がっています」

「どんどん遠慮なく報告してやれ。奴を困らせられたらむしろ本望だ」

「はい。ではそのように」

 

……報告はこんな感じで小気味よく進んだ。切りの良いところまで進んだところで――

 

「……ところで、陛下は本当に『四秘宝』はあるとお思いなのですか? 以前は確か、全て()()()()()だと(おっしゃ)っていましたが……」

 

――秘書官が、かねてより感じていた疑問を投げかけた。この点に関するジルクニフの見解が、ナザリック地下大墳墓へ出頭した前後で明らかに違っていると感じたからだ。

 

「ああ、確かに最初は私もそう思っていた。しかし、今となっては違う。奴がそうしようとする意図に全く見当がつかんのだ」

 

ジルクニフは当初、「大迷宮」から「四秘宝」まで、全てが()だと思っていた。魔導王を殺す武器を必死に探す自分達をどこかで監視し、最高のタイミングでその企みを暴き、大義名分のもと、自分達を(ちゅう)する計画なのだと……。

 

しかし考えてみると、あの絶対者がそんな迂遠(うえん)な手を使う理由がない。人間がそういった謀略を張り巡らせるのは、周りの支持や兵の士気といったものをコントロールし、少しでも自分に有利で安全な立場を作るためだ。あの魔導王にそんなものは必要ない。それに奴は、「お前達ニンゲンが四秘宝を探し出し、私を殺してみよ」とまで言ってのけたのだ。むしろかかってこいとばかりに……。

 

そうまでしておきながら、もし仮にその「四秘宝」が、連中が自分で用意したただのガラクタだったとしたら? あるいはそもそも、「四秘宝」など存在しなかったとしたら……?

 

(それこそ意味不明だ。人間に意味もなく迷宮内を彷徨(うろつ)かせて、何の(えき)があるというのだ……?)

 

……という論理に(はま)る。

 

「私達を観察して、楽しんでるとか?」

「…………」

 

冗談交じりの秘書官の発言に、一瞬ジルクニフの頭の中に、木や石で迷路を作り、(ねずみ)を走らせて喜んでいる子供達の情景が思い浮かんだ。

 

「……馬鹿馬鹿しい」

 

ジルクニフは頭を振ってしょうもないイメージを消し去った。アインズ・ウール・ゴウンという存在はもっとこう、計算高く利益に基づいて策を巡らせる、謀略の魔王のはずだ。

 

「そんな結論に達するくらいなら、あの大迷宮も四秘宝も、()()()()()()()()()()()()、と考えるほうが自然だと思うぞ」

 

……結局は、それが推論の終着点だった。

 

「確かに、そうですね……。しかし、魔導国の()()()()でないのでしたら、連中が中の物をさほど欲しがっていないのが不思議ですが……」

「……ああ、お前はまだあの大墳墓に行ったことがなかったのだったな。あれは桁が違うぞ。帝国の財が全てゴミに見える」

「おっかないですね……」

 

おそらく、四秘宝に興味を示したことについても、「その大言壮語に興味がある」といったところだろう。得意気にジルクニフが見せに行ったら「ふん、ゴミか」とか言い放つ腹積(はらづ)もりに違いない。めっちゃタチ悪い。

 

「まあ、そういうことでしたら、希望を持って前向きに探索を続けさせて頂きますよ。幸い騎士達の士気も少しは上向いてきましたしね」

「ああ、騎士達はここしばらく、己の存在意義について悩んでいたからな……」

 

ある意味、騎士達に任務(ミッション)が与えられたことは僥倖(ぎょうこう)であると言える。もしやそれが狙いか……と思ったが、やはり奴にとって何のメリットも見つからない。

 

「ともかく、迷宮探索はこの調子で進めてくれ。頼むぞ」

「了解しました」

「それと、今回は大事な話がある。その秘宝が見つかった()の話だ」

「……ほう……」

 

ジルクニフが、この完全密室の中であってなお、声を潜める。秘書官もついつられて声を落とした。

 

「……例の、魔導王が一騎討ちを受けるという話ですか?」

「そうだ。我々は秘宝と共に、その力を最大限引き出すことのできる戦士を探している」

「帝国最強の戦士というと、アノック殿を含む三騎士が真っ先に候補に上がりますが……」

 

チラッと見ると、ニンブルが緊張に口元を引き締めている。

 

「……やってくれるか? ニンブル」

「帝国のためならば!」

 

蒼い顔をしながら、それでもニンブルは皇帝の頼みに是と答える。三騎士の中で最も、というか唯一、忠義の何たるかを知る男の姿だった。

 

「お前の覚悟、しかと見届けたぞ。……しかし現実問題、お前は今から努力したとして、あの武王の域に届くと思うか?」

「それは……」

 

ニンブルが口篭(くちごも)る。

 

「酷なことを言うようだが、私は三騎士を含め、我が国の騎士の誰一人としてあの強さには達しないと思う」

「…………」

 

それは正鵠(せいこく)を射ている。あの魔導王が倒した武王ゴ・ギンとは、それほど規格外の王者だったのだ。

 

「……であれば、どのようにお考えで?」

 

秘書官が問う。他ならぬジルクニフがこの話題を振ったのだ。ここで終わりのはずがない。

 

「ひとつ、心当たりがある」

「それは?」

「冒険者だ。それも、“銀糸鳥”よりも、あの王国の“蒼の薔薇”よりも強い、アダマンタイト級の中のアダマンタイト級……」

「それは、まさか……」

「そう。“漆黒”のモモンだ」

 

ひゅうっと、一同が息を呑む音が聞こえる。

 

「……しかし、そのモモンは……」

「うむ。彼は今、魔導王の傘下にいる。しかし、その経緯(いきさつ)は知っていよう。彼奴(かやつ)はエ・ランテルの民を人質に取られ、やむなく付き従っているに過ぎない。であれば、もしも魔導王を討つことのできる絶好の機会があれば、必ずや飛びついてくるはずだ」

「……なるほど」

 

その当時のやりとりによれば、漆黒の戦士モモンは、被害を気にせず全力で立ち向かえば、二対一の状況でも魔導王を殺せたとのことだ。そんな英雄が「どんな強大なアンデッドをも消滅させる剣」と「死の騎士(デス・ナイト)の軍勢すら意のままに操る宝玉」を(たずさ)えて奴と対峙するというのだ。これで勝てないはずがない。加えて、それほどの腕なら、魔導王を討ち果たした後、あの凶悪そうな異形の配下達ですら退けることができるだろう。考えれば考えるほど、これほどの適任はいない。

 

「では早速、使者を送りましょう」

「まあ待て」

 

迅速に事を進めようとする優秀な秘書官を、ジルクニフは一旦呼び止める。

 

「いいか、このことを、アインズ・ウール・ゴウンに知られてはならない」

「……隠密に、ということですか?」

 

秘書官が難しい顔をする。

 

「そうだ。さしものアインズの奴も、漆黒の英雄と戦うと分かれば、約束を反故(ほご)にしてでも逃亡するか、事前に何か卑怯な対策を講じるかしかねん。奴には闘技場に立つその瞬間まで、帝国三騎士の誰かと戦うと思わせ、油断させておく必要がある」

「むむ……確かに」

「急がなくていい。秘宝を探り当てるまでにはまだ時間がある。魔導国の監視の目に引っかからないように、慎重かつ確実に事をなすのだ。いいな?」

 

ジルクニフは強く念を押した。

 

「……あの闘技場での密談の情報が漏洩(ろうえい)していたことを考えると、困難の一言に尽きます。ですが、細心の注意を払って進めます」

「頼んだぞ! 今度こそ、人類の未来をかけた最後の賭けになる」

「はい! この命に代えましても、必ずや漆黒の英雄モモンを連れて参ります!」

 

薄暗い部屋の中、三人は顔を見合わせ、力強く(うなず)き合った。

 

燭台(しょくだい)からジルクニフを挟んで反対側、本棚に伸びた影は「ニタリ」と笑っていた……。

 

 

 

 

蛇足ではあるが、これよりしばらく後、皇帝ジルクニフと漆黒の英雄モモンは邂逅(かいこう)を果たし、隠れて密に情報を交わし合うような、とても友好的な関係を築くことになる。……が、それはまた、別のお話。

 

 

 

 

「……ところで、四秘宝のことで何か……そう、何か新たに分かったことはないか? その……下らないことでも良いぞ」

「いえ、特にありません」

「そうか……」

「…………」

「……なんだ?」

「……い、いえ……」

「…………」

「…………」

 




これが……頭脳戦……!
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