ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

きっと魔導王が殺せる。そう、モモンならね。



騎士

「おはようございますわ! さあ、今日も張り切って行きますわよ!」

 

起床ラッパの(ごと)く朝っぱらから開口一番、レイナースは元気にそう告げた。

 

「うへぇ……お前は元気だなぁ……」

「おはようございます、レイナース。まずはお茶でもどうぞ」

 

帝国騎士の詰め所の一角、最近はほぼ彼らの定位置となったテーブル。そこに陣取ったバジウッドは気怠(けだる)そうに返事を返し、ニンブルはやり手の執事のようにお茶を出した。

 

「ありがとうニンブル、いただくわ。バジウッド、顔を洗ってシャッキリなさい。今日は例の分岐の左側ですわよ。絶対あっちに何かあります! 私の勘が告げてますわ!」

「お前この間もそんなこと言って行き止まりにぶち当たったじゃねえか……」

「それはそれ! これはこれ!」

 

レイナースのテンションが妙に高い。おそらく、今朝起きて頭の中で探索プランを立てているうちに変なスイッチが入ったのだろう。彼女は若干興奮気味に今日の予定を()かす。

 

現在、この三騎士の間にはもう「~殿」をつけるような固っ苦しさはない。背中を預け合う戦友同士のような、同じチーム特有の気安さが漂っている。

 

「この間の戦利品にがっかりでしたわ。あんなに仰々(ぎょうぎょう)しい装飾の短杖(ワンド)だったのに、持ち主の魔力をちょっと底上げするだけの効果だなんて……」

「あれでも充分に優れた逸品との鑑定結果だったのですが……」

「レイナースお前、その短杖(ワンド)系にやたら反応する癖、なんとかしてくれよ……」

「次こそ……次こそ本物を探し当てますわ!」

 

このレイナースの空回りっぷりも、バジウッドやニンブルがそれをやれやれと受け流す感じも、最近ではよく見かける光景だった。

 

『帝都地下大迷宮』――それが、今の三騎士を……いや、今帝都に居る全ての「腕に覚えあり」と自負する者を捉えて離さない、話題の中心となっている舞台の名である。

 

その入口は、帝都内のとある地下水路の一角にあり、今では帝国軍がその出入りを監視・管理している。

 

帝国軍人は訓練も兼ねて、この迷宮を定期的に探索することを任務として命じられている。中の通路はあまり広くないため、大勢で軍隊を作って押しかけても、逆に身動きが取れなくなってしまう。そのため、数名程度のチームを組み、危なくなったらチームごとにまとまって撤退することを念頭に、ローテーションを組んで迷宮に「潜る」形が最善と判断された。

 

この方法の最大の問題点は、どのような仕組みかは不明だが、迷宮内では倒したはずのアンデッドが再び湧き出すまでのインターバルがとても短いため、後発組が先行したチームの恩恵に預かることが難しい、ということである。つまりは実質、動きやすい人数と役割分担でメンバーを固めて連携を強化し、チームごとに成長し、自力で奥に進んでいくしかないのである。

 

――それは()しくも、「冒険者」の在り方と酷似(こくじ)していた。

 

なお、帝国の取り決めにより、迷宮内で拾得したアイテムは、原則としてそのチームのものとされる。ただし、所有権を得る前に必ず迷宮出口で全て提出し、詳細な調査を受けることが義務付けられている。迷宮から戻るとまず、帝国魔法省と魔術師組合の合同でアイテムの鑑定が行われ、その結果が記録される。その後は、鑑定料として多少は徴収するが、アイテム自体は鑑定結果を添えてチームへ返却される。あるいは、望むのであれば、アイテムは帝国の財として貰い受け、鑑定結果による適正価格から手数料を引いた金額を報酬として支払う――まあ要するに、その場での買い取りも受け付けている。

 

拾得物を報告もせずにちょろまかすことは重罪だと言い含めてあるが、わざわざそんな無意味なリスクを冒す馬鹿はいない。見せたら取り上げられるわけでもなく、むしろその価値をその場で調べてくれるというのだ。みんな喜々として目を輝かせながら鑑定結果を待つ。

 

迷宮から掘り出されるアイテムは、武器や防具の類に関しては、魔導国から貸与されたルーン武具を超えるほどのものはまだ見つかっていない。しかし、売ればかなり懐が温まるような上等なものが多い。各種マジックアイテムに関しても良質なものが多く、売却するか、それとも次の探索のために引き取るか、なかなか悩ましいところである。なお、適正価格は鑑定後に提示されるので、個人で引き取る者はそのぶん他のチームメンバーにきっちり(おご)らなければならない。チームワークは信頼が第一。金銭トラブルが自己解決できないチームに未来はない。

 

迷宮からは巻物(スクロール)も比較的多く見つかる。第一、第二位階のものが多いが、たまに第三位階魔法のものまで出るのだから驚きだ。強力な魔法はいざという時の切り札となるため、次の探索に備えて売らずに使用可能な者に持たせておくことが多い。なお、この巻物(スクロール)の質感は、あのエ・ランテルにある『ランテの遺跡』から発掘したものときわめて似通っていることが分かった。これにより、この大陸にはかつて広域に渡り、謎の超古代文明が栄えており、迷宮と遺跡のどちらもその名残(なごり)である、という学説がまことしやかに(ささや)かれている。

 

ちなみに、『帝都地下大迷宮』は帝国軍が完全占拠しているわけではなく、今では申請すれば誰でも挑むことができる。そのため、近年帝国でも活気を取り戻しつつある冒険者や、一攫千金(いっかくせんきん)を狙うワーカー達も、意気揚々と立ち向かっていたりする。加えて、少し先の話になるが、迷宮上層の詳細な調査が完了したら、帝都の新兵や魔法学校の生徒にそこで「実地訓練」を積ませることも計画しているらしい。最近見つかったこの足元の大迷宮は、帝都の民の生活に決して少なくない影響を与えているようだ。それが良いことなのか悪いことなのかは、今後の迷宮と帝都民との関わり方に掛かってくるのだろうが……。

 

「私も冒険者になろうかしら……?」

 

唐突にレイナースがそんな事を言う。

 

「何を馬鹿なことを……」

 

ニンブルが呆れ声を出す。

 

「私、国の雑用とかほっといて、ずっと潜っていたいのだけれど……」

「私は付き合いませんよ」

「やめとけやめとけ。給料出ねえぞ。あと、その借りもんのルーン武具も没収だし、ポーションの支給もねえ」

「う……それは……確かに痛いですわね……」

 

三騎士は迷宮探索にあたり、はっきり言って帝国で最高の待遇を与えられている。皇帝絡みの外せない任務を除けば、迷宮には最優先で潜らせてもらえるし、貸与されたドワーフからのルーン武具は最高級のもの。ポーション等各種消耗品も必要経費として支給されている。

 

この高待遇の裏には、彼らこそが『四秘宝』に辿り着く最有力候補だという期待が込められている。実際、未踏破領域を突き進むのはほぼこのチームであり、それによってもたらされる情報により後続の者達は大いに助けられている。

 

「……にしてもよお、俺達のチームって、バランス悪くねえ?」

 

バジウッドが、たった三人のチームの残り二人を見渡しながら言う。

 

「仕方ありませんよ。我々について来れる力量のある者がいませんから」

野伏(レンジャー)特殊技術(スキル)持ったヤツと魔法詠唱者(マジック・キャスター)、あと治癒役(ヒーラー)くらいは欲しいもんだがな……」

「探してはいるんですけどね。ついてきてくれる高位の魔法詠唱者(マジック・キャスター)は希少ですし……。あ、でも、レイナースは神官(プリースト)を修めていませんでしたっけ?」

「信仰系魔法なんてからっきしですわ。そう言うニンブルも司教(ビショップ)の資格を有しているのではなくて?」

「いえ、さすがに回復魔法までは……」

「まあ、ポーションガブ飲みしてればいいんじゃありませんの。どうせタダで支給されますし……」

「…………」

 

身も蓋もないレイナースの言葉に、ニンブルがちょっとジト目になる。

 

「……コホン。確かに、戦力増強はしたいところですわね。支援(サポート)役がいれば探索も(はかど)るでしょうし……」

 

レイナースは小さく咳払いをして、同意を示した。ところが――

 

「……あー……わりい。言い出しっぺの俺が言うのもなんだけどよ、やっぱ俺このまんまでいいわ」

 

――バジウッドがいきなり手のひらを返した。不思議そうな顔の二人に、彼はこう言う。

 

「ぶっちゃけ言わせてもらうけどよ、俺はさ、秘宝なんて見つかんなきゃ良いって思ってんだよ」

「なっ!?」

「…………」

 

ニンブルが唖然(あぜん)とし、レイナースがジロリとバジウッドを睥睨(へいげい)する。

 

「怖ぇよレイナース。(にら)むな(にら)むな。お前のお目当ての『呪いを解く短杖(ワンド)』のことじゃねえよ。『剣』と『宝玉』のことな」

「それなら、まあ……」

 

レイナースがあっさりと引き下がる。相変わらず欲望一直線だ。

 

「なぜです? 事によっては皇帝陛下への背信と取ることも――」

「相変わらず(かて)ぇなニンブルは」

 

ニンブルの(げん)を、バジウッドが(さえぎ)る。

 

「もし仮に剣と宝玉が揃ったとするわな。そしたら魔導王と闘技場で対戦するの、多分俺らのうちの誰かだぜ」

「…………」

 

ニンブルは何も言わない。あのジルクニフとの密談の内容は極秘だ。知る人は少なければ少ないほど良い。

 

「私は絶対やりませんわよ」

 

レイナースが早々に突っぱねる。まあ予想通りだ。

 

「俺ぁよ。陛下のことは尊敬してるし、恩義もある。いざとなったら、盾になって死んでもいい。けどよ、無駄死にはご免だ」

 

バジウッドには分かっているのだ。あの闘技場での身のこなし……。魔導王は魔法詠唱者(マジック・キャスター)でありながら自分を超えていた。武王にもガゼフ・ストロノーフにも及ばない自分が勝てるわけがない、と。

 

「……いえ。まだ、秘宝の性能次第では分かりませんよ? もし本当にあの死の騎士(デス・ナイト)を何十体も従えることができれば、いかに魔導王と言えど、単騎ではひとたまりもないでしょう。それに秘宝の剣にしても、一振りしただけで魔導王を消滅させられるほどの威力かもしれませんし……」

 

ニンブルが希望的観測を語る。

 

「あら、結構考えてますのね。これは観戦するのが楽しみですわ。まあ、失敗して死んでも、きっと魔導王なら生き返らせてくれますわよ」

 

レイナースが呑気にお茶を傾けながら傍観を決め込む。

 

「あー……いや、すまん。そうじゃねえんだ。俺が言いたいのはもっと根本的な話。本当に魔導王が死んじまっても良いのかってことだよ」

「…………」

「…………」

 

思わぬ返答に、二人は顔を見合わせる。(いぶか)しげな二つの視線を顔面に受けながら、バジウッドは言った。

 

「ウチのカミさんズがな、言うんだよ。『最近は何でもかんでも安く買えて助かる』って……」

「……は?」

 

何の話だ? という顔の二人。

 

昨夜(ゆうべ)のメシなんかよ、スープに野菜がゴロゴロ入ってんだよ。塩も香辛料(スパイス)もケチらず入っててな、おまけに腸詰め(ヴルスト)まで付いててよ、ありゃあ美味かった。葡萄酒(ワイン)もちびっと良いのになってたし。俺、『おいおい今日は誰の何の記念日だったっけか? やっべ覚えてねぇ……』とか焦っちまったよ」

「…………」

 

二人にもようやくバジウッドの言いたいことが飲み込めてきた。どうやら帝都の、いや、もしかしたら帝国中の景気は、今かなり上向いているようだ。

 

魔導王アインズ・ウール・ゴウンが君臨してからというもの、実質経済封鎖状態だった都市エ・ランテル。ところが、帝国が魔導国の傘下に入ってほどなくして、かの都市との物流は再開された。それはあたかも、酒樽(さかだる)の底の栓を開けたかの(ごと)しだったという……。

 

最初に帝都にやってきたのは、何台もの荷馬車。……しかし、荷を()いていたのは、ただの馬ではなかった。以前にあのカッツェ平野の戦いに赴いていた兵士は、その輓馬(ばんば)を一目見て卒倒したという。――そう、かの伝説の魔獣、魂喰らい(ソウルイーター)である。

 

当然ながら、そんな荷馬車を襲う(やから)などいようはずもない。護衛などはじめからおらず、積荷(つみに)は食料品から希少な品まで満載。馬用の水や飼料にスペースを取られるなどということもない。(こぼ)れるほどに積載されたその重量を魔獣は歯牙にも掛けず、たった一頭で普通の馬の倍以上の速度を維持したまま、不眠不休で歩み続ける。魔獣自身はもっと速度を上げることができるが、そうすると、強引に取り付けた馬具や荷車本体、そして乗っている御者(ぎょしゃ)が危ない。

 

この()を借り入れたエ・ランテルの商人はもうすっかり慣れたもので、24時間働かせられるのをいいことに、道なりに荷を()かせ続けたまま、御者(ぎょしゃ)台で軽く食事を摂ったり、交代で睡眠を取ったりと、商人らしい効率化を図っている。魔獣には知性があり、人語を解し、指示を与えてやればその通りに行動する。道なりに進むだけなら放っておいても構わない。街を離れれば人工の灯りなど一つとしてなく、夜は月明かりがなければランタンでは足元すら覚束(おぼつか)ないような世界。にも関わらず、夜通し道を()くなどという自殺行為がまかり通るのは、この()()くらいである。

 

彼ら――バルド・ロフーレ率いる、今やエ・ランテル一の商会――は、商機を逃さぬ先見性と、アンデッドすら恐れぬ()()の良さで、あっという間にエ・ランテルと各都市とを繋ぐ物流の大動脈を席巻(せっけん)していた。後に模倣者(もほうしゃ)が出ることで、「牛耳(ぎゅうじ)る」とまではいかなかったが、彼らが両国の経済発展に寄与した功績はとてつもなく大きい。

 

……そんな裏事情はともかくとして、そんなわけで、今日も帝都の市場は(にぎ)わっているのである。

 

「俺ぁよ、帝国が属国になるって聞いた最初の時、最悪、国民全員ガイコツにされちまうんじゃねえかって思ったこともあったよ」

「……ええ、わかります」

 

バジウッドの冗談とも本気とも取れるトーンに、ニンブルも同じトーンで返す。

 

「ところがフタを開けてみりゃどうだ。良い意味で何も変わんねえ。まあ城のほうはちょっとバタバタしてたけどよ。酒場じゃ相変わらずバカどもがクダ巻いてやがるし、村で()れたもんを売りに来てるばあさんとか、地方との出入りもひっきりなしだ。たぶん帝都の外じゃ、みんないつも通り畑仕事してるんだろうな。国が支配されたってのに、平和なもんだ」

「こうしてのんびりお茶を飲んでいる私達が言うセリフではありませんわ」

 

レイナースが澄まし顔で茶々を入れる。彼女ももちろんバジウッドの言いたいことは分かっている。人々の生活は続いている。(むくろ)の王を(いただ)いているというのに、不自然なほどに自然に……。

 

「あのやべえ()にしてもよ、俺はこの前、街のガキどもがどんだけ近付けるか度胸試ししてたのを見たぜ。なんだありゃ。あれがアンデッドか? 魔獣か? 今までの常識と違いすぎるだろ」

 

……いや、人の営みは、少しずつ変化しているのかもしれない。あのアンデッドの魔獣を、恐怖ではなく好奇……いや、()()の目で観察していた商人や貴族は、間違いなくいたのだから。

 

「今の帝都の(にぎ)わいがあの魔導王のお陰ってんならよ、大したもんだと思うぜ。俺はウチんとこの皇帝陛下はすげえやり手だとは思うけどさ、さすがにあんなふうに人間じゃ用意できねえもんポンポン出されたら(かな)わねえわ」

「……それは……そうですけど……」

 

ニンブルも反論しようとして口をモゴモゴさせる。

 

「あの魔導王が死んで国民の生活が逆戻りした、なんてことになった日にゃ、皇帝陛下もキツいだろうな……」

「…………」

 

バジウッドもニンブルも、何とも言えない表情で少し黙り込む。民とは目先の生活しか見えないものだ。皇帝がいくら国民の末永(すえなが)い安寧を想ってその手を血に染めたのだとしても、それで恨みを買うのでは報われない。

 

「……で、結局バジウッドはどうしたいんですの? 命令されても魔導王とは戦わない、と?」

 

レイナースが核心をついた質問をする。

 

「……どうもしねえよ。命令されたら戦うし、されなきゃ戦わねえ」

 

バジウッドが茶を一口(すす)り、ふぅと溜息を付きながらそう言う。

 

「俺はたださ、こうやって陛下を護衛しつつ、たまに迷宮に潜る生活が結構気に入ってんだ。目的のもんが早々に見つかって探索終了ってのは、ちょっともったいねえなって思っただけさ」

「…………」

 

彼は二人を見回しながら続ける。

 

「俺は剣の腕だけの人間だからよ、迷宮で腕試しってのはわりと楽しい。ちょっとした小遣い稼ぎにもなるし、何より、殺す相手が人間じゃないってのも悪くねえ。恨みを買わねえからな。……ま、なんかあったときのためにウチのヤツら用に金は溜めつつ、できればこの状態が長く続けばいいとは思ってるよ」

 

……バジウッドはそう言って、少しニヒルに笑った。

 

「不真面目ですわね」

「それ、皇帝陛下には言わないでくださいよ」

 

……(とが)めつつも、どこか賛同してしまう二人だった。意外と誰もが探索を楽しんでいるようだ。

 

「さて、じゃあ今日もはりきって短杖(ワンド)探し、行きますわよ!」

「おい目的」

「ブレませんね貴女(あなた)は……」

 

帝都の空は青い。今日も迷宮日和だ。地下なので天気は関係ないが。

 




わりといい感じに愉快なトリオです。脳筋チームですけど。

更新再開します。詳細は活動報告にて。
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