ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

三匹が斬る!(斬らない)



幕間

「ようガレム! やっぱりここにおったか!」

「おう、よう来たなゴン坊! まあ一杯やってけ」

 

カルネ村の最近増築された建物の中で、既にエールを傾けていたガレムがゴンドを席に呼ぶ。

 

カルネ村にはもともと宿のような、余所者(よそもの)に飲食と寝床を提供できるような施設はない。しかし、ついこの前移住してきた山小人(ドワーフ)は、あっさりと飲食用の施設と設備一式を作ってしまった。そして、一日の仕事終わりにはほぼ必ず満足そうに飲んだくれている。ここはそんな場所である。

 

「魔導王陛下から、武器の改善要求書を(たまわ)ってきたぞい」

「まあ待てゴン坊。今日はもう店仕舞(みせじま)いじゃ。固っ苦しい話は酒の席でするもんではないぞ」

「むぅ……」

 

すっかりオフモードでカラカラ笑うガレムに、ゴンドは不満げな声を上げる。

 

「お前さんは本当によく働くのう。もうちょい肩の力を抜け。先は長いぞ」

「そうは言うがな。儂のできることと言ったらこういう使いっ走りや雑用くらいのもんじゃ。儂にはルーンの才能がないでな。手伝わせてもらえるだけありがたいと思わんとな」

「お前さんは役に立っとるよ。儂らは熱が入ると手前の作業にしか目が行かんくなるからの。他の細々(こまごま)したことをやってくれる奴がいてほんに助かっとる」

「そうか。そう言ってくれると嬉しいがの……」

 

ゴンドが少し寂しげに笑った。

 

「ホレ飲め。そしたら、酒の(さかな)程度の話なら聞いてやるわい」

「儂は酒はあまり好きではないんじゃが……」

「そんなだからゴン坊はゴン坊のままなんじゃ」

「なんじゃそれは……」

 

ゴンドは仕方なく、酸っぱいエールを一杯付き合う。以前に魔導王が振る舞った酒には遠く及ぶべくもないが、とりあえず安いので、何樽も買い込んで村の専用の小屋(これも造った)に保管し、カパカパ飲んでいる定番の麦酒だ。

 

「んで、また厄介な要求でも来たかの?」

 

ガレムが約束通り、仕事気質(かたぎ)なゴンドを軽く促してやる。

 

「うむ。今度はの、神聖属性以外の魔化をしたものが欲しいらしい」

「はぁ!?」

 

思わずガレムが()頓狂(とんきょう)な声を上げた。

 

「どういう風の吹き回しじゃ? アレじゃろ、帝国のやつじゃろ? 今まで散々っぱら神聖武器を欲しがっとったじゃないか。儂らが何本作ったと思っとる。神聖属性のルーン刻むのが得意な奴らが軒並(のきな)みへばっとったぞ」

「……いや、それがの……連中が潜っとる迷宮は最初アンデッドばかりだったんじゃが、奥に行くと魔法生物とかも出てくるようになったらしい。特に『天使』っちゅうのが厄介での、対アンデッドに用意した神聖武器が逆に効かないんじゃと」

「……ほぅ、なるほどの。なかなか意地の悪い迷宮じゃ」

 

ガレムはうぅんと(うな)る。もしも迷宮の設計者というものが存在するならば、おそらく意図的なものだろう。属性対策したところを狙い撃ちというわけだ。加えて、探索者にとって予備武器等の所持品が多くなるということは、それだけで探索に不利な要素となる。帝国兵は新人に荷物運搬係(ポーター)をさせるなどでどうにか対処しているらしいが……。

 

「その天使とやら、神聖無効じゃからといって普通の武器も効かんらしくての、ミスリルに神聖以外の属性を付加した、上等の魔法武器が欲しいんじゃと」

「神聖以外なら何でもええのか?」

「リクエストが一番多かったのは、雷属性じゃの。追加効果であるとええらしい」

「ほう……儂らに雷属性を頼むか……」

 

ガレムがニヤリと笑う。

 

「任せとけ。フェオ・ジュラでクアゴア相手に使っとったやつよりええのを(こしら)えてやろう。少しは成長の証を見せんとな」

 

そう言って、木製のビアジョッキに残ったエールをグビグビと喉に流し込んだ。

 

「しかし、ちと間が悪いの。雷じゃと一番得意な奴が今『ランテの遺跡村』に出張しとる。次の交代要員は儂じゃ。……うむ、やむを得まい。ちと早いが、交代してやるかの」

 

現在、「ランテの遺跡村」にはこのドワーフ達の鍛冶出張所があり、交代で出向しつつ、修理や魔化等のサービスを提供している。もちろんアインズの指示によるものだ。なお、村からは魂喰らい(ソウルイーター)便(びん)が一日一回は出ているため、往来はきわめて容易である。

 

ガレムが魚のフライをつつきながら――

 

「無念じゃの。これで川魚のフライは当分お預けか……」

 

――若干名残(なごり)惜しそうにそう言う。

 

「そうでもないぞ。最近は街の方でも蜥蜴人(リザードマン)の連中が魚を(おろ)しとるらしい。家畜のように魚を育てるのが上手くいっとるらしいでの」

「ほう! それは朗報じゃ! やはり魚のフライは欠かせん」

 

そう息巻きつつ、フォークでザクッと皿の上のフライを突き刺して頬張る。

 

「あとこのタルタルソースな!」

「それは向こうにはないと思うがの……」

「なに!? それはいかん。任せておけ! 儂が広めといてやる」

「お前さん、作り方は知っとるのか?」

「おう。この前習ったわ。鶏卵と玉ねぎ、あと酢があれば、なんとか作ってみせるわい」

「ガレム、お主、こっちに来てから随分と食通(グルメ)になったの。いらん才能を垣間見た気がするわい……」

「食の世界は広いぞゴン坊。昔のどこぞの亜人の賢者がレシピを広めとったらしいが、是非天国の本人に礼の一つでも言いたいもんじゃ」

 

何やら妙な熱弁を振るうガレム。そして若干引き気味なゴンド。

 

「……しにても、蜥蜴人(リザードマン)が人間の街で魚売り、のぉ……」

「エ・ランテルは別に人間の街というわけでもないぞい」

 

ゴンドの小さなツッコミはスルーして、ガレムは感慨深げな息を吐く。酒臭かったのか、ゴンドは少し顔を離した。

 

「連中、商売なんぞしてどうするつもりじゃ? 金なぞ集めて喜ぶわけでもあるまい」

「おう。本人達に聞いたんじゃがの、最近は連中の間でオムレツがブームらしい。魚の次は鶏を育てるとか言うての、鶏と、その餌になる穀物を仕入れつつ、飼育方法を熱心に習っとるそうじゃ」

「うはははは。なんとも面白い話じゃの! 蜥蜴人(リザードマン)が人間の食い物に感化されるか!」

 

ガレムが赤ら顔で愉快そうに笑いながら、おかわりの魚のフライに下品なくらいドバっとタルタルソースを乗せる。しかしゴンドは呆れ顔で返す。

 

「何を言うとる。儂らも大して変わらんではないか。その川魚の揚げ物なぞ、フェオ・ジュラにおった時に食ったためしがあるか?」

 

そう言いつつ、眼の前の皿を指差す。ガレムは少し考えて、「おお」とばかりに手をポンと打つ。

 

「なるほどなるほど。確かにの。儂らが穴ぐらから這い出してこうして魚を食うとるのも、まあ似たようなもんじゃったな」

 

昼間の外の日の光はまだ眩しくて慣れんがな、と少しおどけて付け加える。

 

「いかんの、連中を下に見ては。魔導国の流儀に反するわい」

「まあ山小人(わしら)にせよ蜥蜴人(リザードマン)にせよ、こんな変化が起こるのも、魔導国の……魔導王陛下の庇護下だからであろうよ」

 

ゴンドが遠い目をして言う。あの御方は今頃また何をしでかしておられるのやら、などと思いを馳せながら……。

 

そう。本来は他の種との共存などありえないことだ。山小人(ドワーフ)が鉱山の地下に住まうのも、蜥蜴人(リザードマン)が沼地に村を築くのも、それが彼らが外敵から脅かされずに種を存続させる最適の住処(すみか)だからだ。そうやって棲み分けを行い、それぞれの領域(テリトリー)の内で衣食住を(まかな)うのが本来の姿だ。生態学における「ニッチ」というやつである。

 

しかし、絶対的強者が上に立ち、()()()()(いさか)いを禁じた瞬間、その前提は(くつがえ)される。こんな事ができるのは、知る限りでは評議国と魔導国くらいのものだ。

 

「……そのうち蜥蜴人(リザードマン)の食生活がもっと変わって、『山小人(ドワーフ)の肉がブーム』とか言いださんじゃろうな……」

「安心せえ。むしろ逆のことが起こっとるよ。儂らを食うとったような連中が、魔導国(ここ)では代替案を模索しとるらしいぞ」

 

もともと人間や山小人(ドワーフ)は、食用に量を揃える用途には向かない。身が少ないわりに、子を一人作るのに1年、まるまる太らせるのに10年以上かかるのだ。やはり生産力という観点からすれば、弱くて小賢しい人間種が考えついたような、豚、鶏、牛、羊等の畜産に軍配が上がる。もちろん、鶏は卵を、牛は乳を、羊は毛を取るのと併用だ。そういった、きわめて経済的でドライな事情からも、知性有る幾多の種との「食」という観点からの共存共栄は、比較的上手くいきそうな気配である。

 

「ほんに魔導王陛下は偉大じゃの! ほれゴン坊、陛下に乾杯するぞ。お主も感謝の心があるなら付き合え」

「む、むぅ……それを言われると弱いの……」

 

ゴンドは渋々と追加されたジョッキを手に取る。

 

「陛下と魔導国の栄光を祝って、乾杯!」

「乾杯!」

 

……世は()べて事も無し、なカルネ村の夜であった。

 

 

 

 

それは、清貧を絵に描いたような聖堂だった。偶像も、宗教画も、華美な装飾も存在しない。けれども、その威容は(おごそ)かで神聖な威圧感を放ち、不心得(ふこころえ)な異教徒には畏怖(いふ)を、そして敬虔(けいけん)な信徒にはある種の誇りと自信を与えてくれる。(よい)の口になると、随分と控え目な〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉がそのあちらこちらをポゥと照らし、さらに幽玄(ゆうげん)な風景を造り上げている。

 

そのさらに奥、ちょっとした作業を行うための、やはりひどく簡素な一室にて、ある男は密偵からの報告を受けていた。

 

「こちらが件の『ランテの遺跡』産と言われる武具やマジックアイテムの数々です。普通に帝国の行商人を装って買い付けることができましたので、予算の範囲でなるべく種類を揃えて参りました」

「ご苦労だった。ふむ……」

 

(ねぎら)いの言葉も早々に、彼の両の目は机の上に広げられた品物の数々に釘付けになる。

 

はっきり言って、彼が目を(みは)るほどの逸品ではない。彼が全盛期の頃は、これらよりも遥かに優れた武具の数々を貸与され、その身に余る光栄に負けないよう、自らもそれに相応(ふさわ)しい働きをしてきた。そうして()()()()()()()()()として愚直に戦い続け15年、気がつけばこの国の神官長に納まっていた。そんな彼からすれば、これらの品は大したことはない。

 

しかし――

 

(……ああ、やはり……)

 

彼は静かに目を閉じた。そうしてしばし思索に(ふけ)る。

 

やはり、分かるのだ。分かってしまうのだ。彼ほどに、()()()()()()()()()()()に身を包んで戦場を駆け抜けた人間は、そういないだろうから。

 

「次の会議には、これらを持っていくとしよう」

 

彼――元・漆黒聖典隊員にして現・土の神官長、レイモン・ザーグ・ローランサンは、自らの予定を呟いた。

 

……世は()べて事も無し、とはいかない、スレイン法国の夜であった。

 




どこかの異世界と扉が繋がってる気がしますが、きっと気のせいです
オムライス。オオモリ。オムレツ。3コ。モチカエリ

とりあえず第三章(帝国編)はこれにて一旦締めです
帝都はしばらく裏でスローライフ迷宮探索の日々が続いていくと思って下さい
ジル君とモモン殿との邂逅は、気が向いたら外伝的に挟むかもです

次、法国編に突入します
あ、あらかじめ一言通知させて下さい
本作の残酷描写控えめのほのぼの作品っぷりを気に入っていただけている読者様
ごめんなさい
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