ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

デミえもん「お任せ下さいアインズ様。う~ふ~ふ~ふ~」



遺跡

「これはっ……これは、すばらしいな!」

「ラケシル、少し落ち着かないか!」

 

エ・ランテル冒険者組合の組合長室。組合長、プルトン・アインザックと魔術師組合長テオ・ラケシルは、応接室のテーブルを挟んで座り、そのテーブルに乗ったものを見つめていた。

 

そこには、ミスリル製のダガー、ミスリル製のヘルム、そして、第三位階魔法、〈火球(ファイヤーボール)〉のスクロールが置かれていた。

 

「これだけの逸品が無造作に転がっていたというのか……。何なのだその遺跡とやらは?」

「なあアインザック、俺達も行ってみないか? 宝が掘り尽くされてしまう前に……」

「ラケシル落ち着け。お互い冒険者は引退した身だろう? ここは組合長として、冒険者達の探索を取り仕切るのが我々の役目ではないか」

「むう、そうだが……」

 

まあ、気持ちは分かる。かく言うアインザックも、とっくに枯れたと思っていた冒険心が心の奥底で(うず)いているのだから……。

 

 

 

 

――時は数日ほど前に遡る。

 

城塞都市エ・ランテルから南に伸びる街道沿いには、見渡す限りの草原の丘が広がっている。遠くに山脈が見える他は、膝から上まである雑草が街道の外で一面生い茂っている。ゴブリンのような小柄な魔物なら草叢(くさむら)に潜んで近づくことも可能なため、街道を移動する者には、それなりの緊張を強いられる。ましてや、わざわざ街道を外れて草原を突っ切る者などおるまい。……そんな場所である。

 

その日、そこを通ったとある荷馬車は、草原の向こうで煙が立ち(のぼ)るのを見た。一行は、「何かあったのだろうか?」と不審に思った。そして、護衛を務めていた冒険者のうちの野伏(レンジャー)が、「様子を見てくる」と言って煙の根本まで向かったのだった。

 

――そして、「それ」を発見した。

 

それは、何の変哲もない草原の途中にぽっかりと空いた、地面の下へと続く穴だった。ご丁寧に穴の下まで石の階段がかっちりと組まれており、そしてその先には、不自然なほどに重厚で装飾豊かな扉があった。明らかな人工物である。盗賊のアジトか、はたまた亜人種の(ねぐら)か……?

 

明らかに自分一人の手に余ると判断した野伏(レンジャー)は、その位置情報を持ち帰り、エ・ランテル冒険者組合に報告した。

 

後日、冒険者組合主導で調査隊が組まれ、その謎の人工物の探索が始まった。何しろ場所はエ・ランテル南門を抜けてほんの数時間のところだ。都市の住民に害なすものが住み着いていては厄介だ。藪蛇(やぶへび)となることを懸念しながらも、調査隊は万全を期してその穴ぐらへ向かった。

 

入口と思われる重厚そうな扉は、予想に反して手で押すだけで簡単に開いた。そしてその奥には、ブロック作りのしっかりした通路と、それを照らす〈永続光(コンティニュアル・ライト)〉が続いていた。地下なのにも関わらず空気は不自然なくらい澄んでおり、微かに吹き込む風が、その先の構造物の広大さを予感させた。四方のブロックや燭台からは、カビや経年劣化といった、年季を伺わせるものを一切感じない。何らかの魔法の力が働いているのだろうか?

 

しばらく進むと、少し大きな空間に出た。そして、その向こうの通路から、ガシャガシャと足音が向かってくる。冒険者達はその不器用な音をよく心得ていた。スケルトンだ。

 

この調査隊はそれなりに腕が立つ。冒険者組合公認の先遣隊として、難度を決める役割を担っているからだ。今回の一団も白金(プラチナ)級を先頭に、(ゴールド)級をサポート、(シルバー)級をバックアップとして付けている。スケルトンなど何ということもない。楽々と蹴散らし、いったん広間での安全を確保する。

 

「お、おい、あれ……」

 

と、一人がその広間の端っこに落ちているものを発見した。短剣と、兜と、巻物だ。宝箱などではなく、あまりに雑に置かれていたそれは、見る者が見れば判る。ミスリル製だ。サビどころか汚れの一つもなく、鈍い輝きを放っている。

 

「マジかよ!? すげえ!」

 

ミスリル製の武具と言えば、エ・ランテルで手に入るほぼ最高級品だ。農民上がりの冒険者風情に手が出せるものではない。一同が思わぬ戦利品に沸き立つ。そんな中、別の冒険者が壁に文字の書かれたプレートを発見する。そこには、()()()()こう書かれていた。

 

『ランテの遺跡を発見せし者よ。我らは故あってここから離れることができぬ。ここより外のお前たちに危害を加えぬことを約束しよう。だから即刻に立ち去れ。もし我らが財宝を狙ってここより進むというのであれば、しかるべき報いを覚悟せよ』

 

冒険者達がその意味を噛み砕いていると、先の通路から不吉な音が近づいてきた。ガシャガシャと鳴るこれはスケルトンだ。しかし、暗がりから顔を出したのはそれだけではない。悪霊犬(バーゲスト)腐肉漁り(ガスト)、おまけに疫病爆撃手(プレイグ・ボンバー)まで引き連れている。数は多いが、通路が狭いため数の利は薄い。白金(プラチナ)級なら対処できるだろう、しかし、(ゴールド)級以下にはやや荷が重い。

 

ここは撤退すべきだ。なに、すぐ戻ってこられる。それより、今得られた情報を持ち帰ることが優先だ。そう判断した一同は白金(プラチナ)級を殿(しんがり)にして無難に引き上げ、エ・ランテルの城壁内へととんぼ返りしたのだった。

 

――こうして、「ランテの遺跡探索」は、冒険者組合預かりとなった。

 

 

 

 

「アインザック、組合が取り仕切ると言っても、盗掘まがいの連中は勝手に入っていくのではないか?」

「そうだな。今やもう遺跡の情報は冒険者達の間で広まっている。今さら組合が我が物顔で『許可なき探索を禁止』などとお触れを出すわけにもいかないだろうな」

「中の宝も、我々が規則を作ったところで、見つけた者がこっそり懐に入れるだけだろう」

「その通りだ。だから、下手な制約はしない。誰でも好きなように入って、好きなように宝を持ち帰ってもらえばいい。我々はそれをサポートする」

「ほう、サポートか。情報提供などか?」

「そうだな。情報提供者には謝礼を払い、冒険者で共有しよう。差し当たって内部の構造やモンスター、得た宝などだな」

「探索者は情報を出し渋るのではないか? 自ら体を張って得たものだろう?」

「同じダンジョンなんだ。その者が情報提供しなくとも、どうせすぐに他の者が同じ情報を得る。独占などできんさ。だったら、手っ取り早く情報を売って、金と名を得る方が良いと考えるものだろう?」

「そううまくいくかね?」

「そう持っていくのが我々の仕事だよラケシル。うまく情報が共有できれば、冒険者全体としてリスクを減らすことができる」

「俺としては、未知のスクロールやマジックアイテムが拝めれば何でもいいがね」

「もちろん、その仕事も回すさ。発掘品の鑑定を頼むことになるだろうな」

「おお! 燃えてきたぞ!」

「お前という奴は……。ああ、発掘品の売却の仲介も必要になるかもしれんな。貴族や商人が興味を持つかもしれん。忙しくなるぞ!」

「……やっぱり俺も潜りたい!」

「……諦めろ」

 

 

 

 

アインザックとプルトンのそんな皮算用は、幸運にもその通りの運びとなった。

 

ダンジョン「ランテの遺跡」は多くの冒険者によって更に開拓され、オリハルコンの武具すら発掘されるようになった。これは王都の最高級品に匹敵する。他にも、筋力を僅かに上げるガントレット、魔力を僅かに上げる指輪なども発見され、市場を大いに賑わせた。これらの貴重な品々が、地面に無造作に置かれていたり、場合によってはアンデッドからドロップしたりするのだ。こんなに美味しい狩場はない。

 

魔法のスクロールは生憎(あいにく)と第三位階までしか見つからなかったが、それでもミスリル級以下の冒険者には、いざという時の切り札となりうる。ランテの遺跡産のスクロールは一般の羊皮紙と少し違う変わった質感だったが、それこそが品質保証であるとでも言わんばかりに、商人や冒険者たちの間で高値で取引された。

 

遺跡内の魔物(モンスター)は奥へ進めば進むほどに強くなり、全く終点が見えない。しかし奇妙なことに、ここの魔物(モンスター)達は冒険者達が逃げると追ってこないという習性を持つ。これに気を良くした冒険者たちは、安全に実戦経験を得る絶好の狩場だとばかりに、今日も果敢に遺跡に立ち向かうのであった。

 

かくして、「ランテの遺跡探索」は、エ・ランテルの冒険者にとって定番のクエストとなったのである。

 

 

 

 

(……それにしても、遺跡のプレートに書いてあるという警告、ひっかかるな。王国民に宛てたものだろうか? あれではまるで、『財宝があるから奪いに来い』と言っているようなものではないか……)

 

アインザックはふと、そんなことを思った。

 

(そもそも、なぜ我々はあんなに近くにある遺跡を、つい最近まで見つけることができなかったのだ? 本当にあそこに以前からあったのか?)

 

一度疑問に思うと、次から次へと不信感が湧き上がってくる

 

(それと、『エ・ランテル』の目と鼻の先に『ランテの遺跡』か……名前が似ているが偶然か? もしや何者かが……いや、考えすぎか。わざわざこんな安直な名前つけるはずがないものな)

 

そんなとりとめのないことを考えながら、しかしアインザックの思考は、目の前の、思わず一目惚れで買い叩いてしまった「ランテの遺跡産」オリハルコンの短剣に吸い取られていった。

 




ランテの遺跡、一体何者なんだ……!?
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