デミえもん「お任せ下さいアインズ様。う~ふ~ふ~ふ~」
「これはっ……これは、すばらしいな!」
「ラケシル、少し落ち着かないか!」
エ・ランテル冒険者組合の組合長室。組合長、プルトン・アインザックと魔術師組合長テオ・ラケシルは、応接室のテーブルを挟んで座り、そのテーブルに乗ったものを見つめていた。
そこには、ミスリル製のダガー、ミスリル製のヘルム、そして、第三位階魔法、〈
「これだけの逸品が無造作に転がっていたというのか……。何なのだその遺跡とやらは?」
「なあアインザック、俺達も行ってみないか? 宝が掘り尽くされてしまう前に……」
「ラケシル落ち着け。お互い冒険者は引退した身だろう? ここは組合長として、冒険者達の探索を取り仕切るのが我々の役目ではないか」
「むう、そうだが……」
まあ、気持ちは分かる。かく言うアインザックも、とっくに枯れたと思っていた冒険心が心の奥底で
◆
――時は数日ほど前に遡る。
城塞都市エ・ランテルから南に伸びる街道沿いには、見渡す限りの草原の丘が広がっている。遠くに山脈が見える他は、膝から上まである雑草が街道の外で一面生い茂っている。ゴブリンのような小柄な魔物なら
その日、そこを通ったとある荷馬車は、草原の向こうで煙が立ち
――そして、「それ」を発見した。
それは、何の変哲もない草原の途中にぽっかりと空いた、地面の下へと続く穴だった。ご丁寧に穴の下まで石の階段がかっちりと組まれており、そしてその先には、不自然なほどに重厚で装飾豊かな扉があった。明らかな人工物である。盗賊のアジトか、はたまた亜人種の
明らかに自分一人の手に余ると判断した
後日、冒険者組合主導で調査隊が組まれ、その謎の人工物の探索が始まった。何しろ場所はエ・ランテル南門を抜けてほんの数時間のところだ。都市の住民に害なすものが住み着いていては厄介だ。
入口と思われる重厚そうな扉は、予想に反して手で押すだけで簡単に開いた。そしてその奥には、ブロック作りのしっかりした通路と、それを照らす〈
しばらく進むと、少し大きな空間に出た。そして、その向こうの通路から、ガシャガシャと足音が向かってくる。冒険者達はその不器用な音をよく心得ていた。スケルトンだ。
この調査隊はそれなりに腕が立つ。冒険者組合公認の先遣隊として、難度を決める役割を担っているからだ。今回の一団も
「お、おい、あれ……」
と、一人がその広間の端っこに落ちているものを発見した。短剣と、兜と、巻物だ。宝箱などではなく、あまりに雑に置かれていたそれは、見る者が見れば判る。ミスリル製だ。サビどころか汚れの一つもなく、鈍い輝きを放っている。
「マジかよ!? すげえ!」
ミスリル製の武具と言えば、エ・ランテルで手に入るほぼ最高級品だ。農民上がりの冒険者風情に手が出せるものではない。一同が思わぬ戦利品に沸き立つ。そんな中、別の冒険者が壁に文字の書かれたプレートを発見する。そこには、
『ランテの遺跡を発見せし者よ。我らは故あってここから離れることができぬ。ここより外のお前たちに危害を加えぬことを約束しよう。だから即刻に立ち去れ。もし我らが財宝を狙ってここより進むというのであれば、しかるべき報いを覚悟せよ』
冒険者達がその意味を噛み砕いていると、先の通路から不吉な音が近づいてきた。ガシャガシャと鳴るこれはスケルトンだ。しかし、暗がりから顔を出したのはそれだけではない。
ここは撤退すべきだ。なに、すぐ戻ってこられる。それより、今得られた情報を持ち帰ることが優先だ。そう判断した一同は
――こうして、「ランテの遺跡探索」は、冒険者組合預かりとなった。
◆
「アインザック、組合が取り仕切ると言っても、盗掘まがいの連中は勝手に入っていくのではないか?」
「そうだな。今やもう遺跡の情報は冒険者達の間で広まっている。今さら組合が我が物顔で『許可なき探索を禁止』などとお触れを出すわけにもいかないだろうな」
「中の宝も、我々が規則を作ったところで、見つけた者がこっそり懐に入れるだけだろう」
「その通りだ。だから、下手な制約はしない。誰でも好きなように入って、好きなように宝を持ち帰ってもらえばいい。我々はそれをサポートする」
「ほう、サポートか。情報提供などか?」
「そうだな。情報提供者には謝礼を払い、冒険者で共有しよう。差し当たって内部の構造やモンスター、得た宝などだな」
「探索者は情報を出し渋るのではないか? 自ら体を張って得たものだろう?」
「同じダンジョンなんだ。その者が情報提供しなくとも、どうせすぐに他の者が同じ情報を得る。独占などできんさ。だったら、手っ取り早く情報を売って、金と名を得る方が良いと考えるものだろう?」
「そううまくいくかね?」
「そう持っていくのが我々の仕事だよラケシル。うまく情報が共有できれば、冒険者全体としてリスクを減らすことができる」
「俺としては、未知のスクロールやマジックアイテムが拝めれば何でもいいがね」
「もちろん、その仕事も回すさ。発掘品の鑑定を頼むことになるだろうな」
「おお! 燃えてきたぞ!」
「お前という奴は……。ああ、発掘品の売却の仲介も必要になるかもしれんな。貴族や商人が興味を持つかもしれん。忙しくなるぞ!」
「……やっぱり俺も潜りたい!」
「……諦めろ」
◆
アインザックとプルトンのそんな皮算用は、幸運にもその通りの運びとなった。
ダンジョン「ランテの遺跡」は多くの冒険者によって更に開拓され、オリハルコンの武具すら発掘されるようになった。これは王都の最高級品に匹敵する。他にも、筋力を僅かに上げるガントレット、魔力を僅かに上げる指輪なども発見され、市場を大いに賑わせた。これらの貴重な品々が、地面に無造作に置かれていたり、場合によってはアンデッドからドロップしたりするのだ。こんなに美味しい狩場はない。
魔法のスクロールは
遺跡内の
かくして、「ランテの遺跡探索」は、エ・ランテルの冒険者にとって定番のクエストとなったのである。
◆
(……それにしても、遺跡のプレートに書いてあるという警告、ひっかかるな。王国民に宛てたものだろうか? あれではまるで、『財宝があるから奪いに来い』と言っているようなものではないか……)
アインザックはふと、そんなことを思った。
(そもそも、なぜ我々はあんなに近くにある遺跡を、つい最近まで見つけることができなかったのだ? 本当にあそこに以前からあったのか?)
一度疑問に思うと、次から次へと不信感が湧き上がってくる
(それと、『エ・ランテル』の目と鼻の先に『ランテの遺跡』か……名前が似ているが偶然か? もしや何者かが……いや、考えすぎか。わざわざこんな安直な名前つけるはずがないものな)
そんなとりとめのないことを考えながら、しかしアインザックの思考は、目の前の、思わず一目惚れで買い叩いてしまった「ランテの遺跡産」オリハルコンの短剣に吸い取られていった。
ランテの遺跡、一体何者なんだ……!?