ナザリック・ディフェンス   作:犬畜生提督

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<前回のあらすじ>

突如現れたランテの遺跡とは一体……?



提案

「――つまりだね、金ヅル用の侵入経路を作ってしまえばいいのだよ、このナザリックに」

 

デミウルゴスが指をピンと立ててそう説明する。

 

「……ソレハ、マタ同ジヨウニ、侵入者ヲナザリックニ追イ込ムトイウコトカ?」

「少し違うよコキュートス。ネズミ達はナザリックのごく一部を、ナザリックと知らずに、謎のダンジョンとして彷徨い歩くのさ」

「んん? ちょっとよくわかんないな。ちゃんとわかるように説明してよ」

 

アインズは心の中でアウラの頭を撫でる。でかした。そしてデミウルゴスさん今です。説明しておやんなさい。

 

「じゃあ順を追って話そう。まず、我々は資金を稼ぐために、侵入者をナザリックに呼び込む必要がある。これはいいね?」

「うん」

(うん)

 

生徒同士ハモった。

 

 

「だけど、ナザリックの情報を外部に漏らす訳にはいかない。それがたとえ脆弱なニンゲン相手であってもね」

「そんなの、さっきみたいに(さら)ってきて全員殺せばいいじゃん。情報が漏れる心配なんてないし」

「残念だけど、この方法はとても非効率なんだ。毎回こんな手間暇を掛けるわけにもいかない」

 

(……だよなあ。非効率だよなあ。俺もそこまでは考えたんだけど……)

 

「それに、汚らわしいエサ共にナザリックを好き勝手に荒らし回られるのも、我々守護者として看過できない」

「でありんすよねぇ。私もさっきの実験で、私の階層を通り過ぎるゴミ共を何度殺したい衝動に駆られたことか……」

 

(……よかった。その感覚が自分だけじゃなくて……)

 

「だったらさ、ナザリック以外の場所使おうよ! あたしが作った偽ナザリックなんてどう?」

「残念だけどねアウラ、ナザリック内でないと資金が増えないのだよ。よそで勝手に作ったダンジョンでは駄目らしい」

「ちぇー。残念だなー……」

「ナザリックハ特別、トイウコトカ」

「まさにその通り。至高の御方のおわすこのナザリックこそが、唯一無二の存在ということだね」

 

(あ~……すまん。それたぶん「ギルド拠点じゃないとダメ」とかの平凡な理由だと思う……)

 

「じゃあ、結局またあいつらをここに呼び込むしかないの?」

「そこで提案なんだがね、ナザリックの内部に、隔離区画を作ってしまうのはどうだろう? そうすれば、ネズミ共はその中で走り回って、勝手に金を稼いでくれる、というわけさ」

「なるほど! 狭いところに閉じ込めて、一気に殺すんでありんすね。それは楽しそうだぇ」

「残念だけど、殺さないよ」

「……は?」

 

シャルティアの顔がみるみる険しくなる。

 

「デミウルゴス、殺さないとはどういうことでありんす? まさかナザリックに土足で踏み入ったゴミどもを、生かして帰すとでも……?」

「そのまさかさ」

 

ビキッと、シャルティアから奇妙な音が聞こえる。

 

「落ち着きなさいシャルティア」

「アルベド! 貴女もデミウルゴスに賛成でありんすの!?」

「ふぅ……。シャルティア、気持ちはわかるわ。私だって殺せるものなら殺したい。でもね、そうすると、侵入者が一人もいなくなってしまうの」

「流石ですねアルベド。その通りです」

「ダニ共なんて潰してもいくらでも湧いてくるでしょぉが!?」

「分かってないわねシャルティア。いい? 未知のダンジョンに自分から入ろうとする愚か者なんて、本当にごく僅かなの。せいぜい、金目のものに目がくらんだ、ごく一部のニンゲンくらいのものよ。加えて高レベルの美味しいエサともなると、もう本当に一握りしかいないの」

 

(……あぁ~、そっかぁ~。ユグドラシルだとみんなその「愚か者」だけど、現実の人間はそんなわけないよなぁ……。死んだらリスポーンできないし。こいつは盲点だった……)

アインズはこっそり、自分がゲーム脳だったことを反省した。

 

「考えてもみたまえ。『ダンジョンに向かった部隊が誰一人帰ってこなかった』なんて事態になったら、次の部隊が来るのはいつになると思うね?」

「そ、そんなの、無理矢理連れてくれば……」

「それだと手間がかかると言ったでしょう? 最上なのは、それなりのレベルのエサどもが、撃退されながらも何度も勝手に、そう、『自動的に』、再挑戦しに来ることなの」

「フム、向コウカラ再ビ立チ向カッテクルノカ。ソレハ悪クナイナ」

「その通り。金の卵を産む鶏がいるのなら、産ませ続ければいい。もともと数が少ないから、潰して肉にしてしまうのは勿体無いと思うね」

「それは、そうでありんすが……」

「こう考えたらいい。ネズミどもは我らがナザリックの糧となっているとも知らず、我々が作った檻の中を、餌を求めてウロウロしているのさ。そう考えると可愛いものだろう?」

「う、う~ん……」

 

(お、シャルティアが説き伏せられそうだ。僕も納得しました。ありがとうございます先生方)

 

「で、でも、生かして帰したら、その、情報を持ってかれるんじゃ……」

「うん、いいところに気がつくね、マーレ。そこで最初の話だ。侵入者には、ナザリックではない、どこか別のダンジョンを攻略していると思わせるのだよ」

「そ、そんなことが、できるんですか?」

「例えば、どこか全く別の場所から、ナザリックの隔離エリアへ、気付かずに転移している、とかね」

 

(……なるほど、着想は貰った。感謝するぞデミウルゴス。……さて、ここからはこの古参プレイヤーの出番だろう。そろそろ俺も活躍しないとな)

 

「うむ、流石だなデミウルゴス。確かに、冒険者にどこかのダンジョンを攻略するつもりでナザリックに転移させる方法はある」

「おお! やはり、私の考えもアインズ様の掌の上でしたか」

 

まるで答え合わせで「正解」と言われた生徒のように、嬉しそうな表情を見せるデミウルゴス。実際は逆なのだが。

 

「私の持つマジックアイテムに、2地点間を固定で行き来できる転移装置がある。エフェクトを調整し、幾つか仕掛けを施せば、転移したと気づかれることはないだろう。また、ナザリックには転移阻害を掛けてあるが、調整して、それを設置した座標だけは通れるようにすることも可能だ」

「な、なるほど! さすがですアインズ様」

 

続けてアインズは、持ちうる「ユグドラシル的な」知識から案を出す。これはアインズの得意分野だ。

 

「危険を避けるため、転移元には看破能力の高いシモベを隠して配置し、全員のレベルとビルドをチェックさせよう。そして、容易に対処できる弱者のみであることを確認した後、転移を発動することとする。なにせナザリック本陣への転移だからな。リスクの低い、確実に(にえ)となる相手に限定したい。転移の仕組みを看破できる者がいても厄介だしな。もしその過程で強者を発見したら、そちらの調査を優先する。危険な相手が来たと判断したら、転移装置ごと全てご破産にしてもいい」

 

アインズは警戒していた。もしかするとユグドラシルプレイヤー、またはそれに準ずる強者が紛れ込んでくるかもしれない。用心するに越したことはない。他のプレイヤー相手にナザリックへの直通路を晒すという、かなり高いリスクを背負い込んだ形ではあるが、一方でこちらが先にプレイヤーを見つけることができれば、それは逆に大きなアドバンテージとなる。

 

「なるほど! 弱者を引き寄せつつ、強者を探し出す二重の作戦、ということですね? 流石はアインズ様!」

「うむ」

 

(うん。思い付きの割には上手くいった)

 

「隔離エリアと言ったか……非常に良い案だ。しかし、アリアドネの件もある。玉座へ繋がる道は通さなければならない。侵入者を自由に泳がせる範囲を決め、その先からは防衛ラインを三重に配置し、強いシモベを配置して絶対に通らせないようにするのだ。また、ナザリック下層深くまで活動範囲を伸ばすのは、収入の伸びに比べてリスクが高い。第1~3階層のみを使うことにする。シャルティア、お前の領域の一部を占有する形になるが問題はないか?」

「アインズ様のお頼みとあらば、もちろんでありんす」

「感謝しよう。第1~3階層の迷宮は通路の封鎖と開放が比較的容易だ。侵入者の経路をこちらでコントロールすることができるだろう。仕掛けと自動湧き(P O P)する手駒の配置を相手のレベルに合わせて調整し、あくまで『またリベンジしたくなる』強さで撃退するのだ」

 

そもそも、ぬるく撃退するのが目的なら、ナザリック本来の防衛機構がネタバレすることはない。本稼働させたら凶悪すぎて誰一人残らないからだ。

 

「それと、私と仲間達で試行錯誤した内装データや装飾品が幾つかある。偽装のダンジョンとして、ナザリックとは別のデザインを検討しよう」

 

(でもこっちのセンスよく分からんからなぁ……。誰かに任せるか。そういえば、内装の中にファンシー風デザインとかあったな。メルヘンダンジョン……いやいやいや)

アインズは心の中でかぶりを振った。

 

「……あとは、侵入者をおびき寄せるエサだな。侵入者にとっての財宝は、私から提供しよう」

「そんな!? アインズ様のお手持ちを下賤な侵入者に与えるなど……!」

「あ~、すまん。私のというか、厳密には、我ら41人の……そう、ゴミ山……のようなものだ」

 

ギルド:アインズ・ウール・ゴウンには、ギルメンが「ゴミ箱」と呼ぶ共有ストレージがある。要するに「俺もういらないから誰でも好きなの取ってっていいよ」的なものであり、メンバーそれぞれがアイテム整理をした残りを好き勝手に放り込むためのものである。

 

そこには、ドロップ定番品としてポロポロ手に入るような、データクリスタルが埋め込まれる前の汎用装備や低位のマジックアイテムが、とんでもない量蓄積されている。レベル30を超える頃にはもう二度と使用することはなく、売っても二束三文――そんなゴミ装備、ゴミアイテムが、数千個単位でダブついているのだ。宝物殿のアイテムであれば、弱いものでも何かしらレアリティーがあり、コレクター魂を刺激するものだが、こちらは正真正銘のゴミである。これなら放出しても惜しくはない。アインズの冒険者モモンとしての経験から、こちらの世界で重宝されるレベルのアイテムは把握している。それっぽいゴミアイテムを適当に見繕って、侵入者用ダンジョンにばら撒いてやればいいだろう。

 

 

 

 

「――とまあ、決めるべきことはこんなところか」

 

守護者達の「人間どもにやるくらいなら私に……」的なお願いをどうにか(なだ)めすかし、幾つか決め事を擦り合わせたアインズは、早速次の目標を決める。

 

転移ポイントはエ・ランテル近郊に決定した。あそこの冒険者達ならば動向が把握しやすいし、場合によってはモモンで誘導できる。

 

「よし! では、これより、エ・ランテルの近くに偽りの遺跡……そうだな、『ランテの遺跡』を作成する! シモベ達よ、取りかかれ!」

「はっ!!」

 

……どれくらい稼げるだろうか? とりあえずこのダンジョンを軌道に乗せて確かめてみよう。悪くないようなら、第二、第三の「遺跡」を各地に作るのもいいかもしれないな。……なんてことを、アインズは思うのだった。

 




……とまあ、ここまでがこの二次創作の大まかな設定になります。
捏造が多いですがご容赦下さい。

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