ランテの遺跡は裏表のない素敵なダンジョンです(キリッ)
「階層守護者一同、そしてプレアデス一同、御身の前に」
玉座の間にて、ザッと一斉に臣下の礼を取る異形の者達。
「……うむ。よく来てくれた。面を上げよ」
支配者ロールも板についちゃったなー、と、少し悲哀を感じるアインズ。
「皆の甲斐あって、侵入者用の偽ダンジョンは軌道に乗った。素晴らしい出来だ。お前達の尽力の全てに、心から感謝しよう」
バッと再び頭を垂れて、一同が歓喜に身を震わせる。身に余る光栄に。
「特にシャルティア。第1~3階層守護者に加え、隔離エリアの監督責任者を立派に務め上げているな。見事だぞ」
「とっ、とんでもありんせん! 以前の失態を
「うむ。今後も期待しているぞ」
「はいっ!」
シャルティアは気迫に満ちている。どうやらあの時のことをまだ引きずっているらしい。……とはいえ、あれ以降、彼女をほぼ内勤、兼〈
「それとシズ。ダンジョン内の仕掛けと配置の調整を一手に引き受けてくれているな。本当に助かっている」
「…………アインズ様に、仕事、頂けて、シズ、嬉しい」
シズは独特の間と口調で返答するが、それを不敬と思う者はナザリックにいない。シズは無表情に、けれどもどことなく嬉しそうに、少しだけ前髪を揺らす。
シズはある意味、ナザリック全ギミックのマスターキーであることに加え、装備が特殊だ。そのため、外の存在と接触するような仕事はなかなか任せられなかった。それがアインズには若干心苦しかったが、しかし、ここに来てようやく見事な
「……さて、この調子で進めていきたいところだが、どうしても一つ、気になることがあってな……」
アインズの威圧感がほんの少し弱まったような気がして、守護者達が不思議に思う。
「……まず始めに言っておきたい。この、『侵入者をナザリック内の偽装ダンジョンに引き込む』という案を決定したのは私だ。ナザリックの金策のために、私が必要と思い、私が判断を下した。すべての責任は私にある。それは覚えていてほしい」
……なぜ、そんなことを仰るのだろう? もとより全てはアインズ様のものなのに……。
「その上で
「…………」
その言葉でデミウルゴスは、先ほどの言葉の意味を察した。我が主は、配下の隠れた不満を吐き出させたいのだ。そして、それをアインズ自身に向けさせたいのだ。不満の矛先が、作戦立案したデミウルゴス、統括者アルベド、そして他の作戦実行者に向かないように……。
あまりの慈悲深さに、デミウルゴス、そして同じことに勘付いたアルベドとセバス、他数名が肩を震わせる。……これではいけない。ここでは、主の意を汲み、その気遣いに何も言わぬことこそ忠義。
「……して、どう思っている? 遠慮せずに聞かせてもらえないか?」
守護者一同、プレアデス一同が、ほんの少しの間、互いの顔を見合わせる。そして、皆の意を得たとばかりに、守護者統括のアルベドが代表として口火を切る。
「アインズ様。無礼を承知で、正直に申し上げさせていただきます。もしご不快と思うのでしたら、どうぞ
そんな、アインズには絶対にできないこと言う。
「……うむ。続けよ」
アインズは喉をゴクリと鳴らす。審判の時だとばかりに。
「確かに、薄汚いゴミどもにこのナザリックを這い回られることには、強い不快感があります」
「…………」
(…………だよなぁ……。やっぱり、渋々従ってはいるけど、裏ではストレスが溜まってたり……)
「――ですが」
「ん?」
アルベドは続ける。
「……あれは、そう、この偽装ダンジョンを作るきっかけとなった、最初のワーカー共を
「――え?」
予想外の回答に、アインズは面食らう。
「なにかこう……
「…………」
どういうことだろう? アインズは考えを巡らす。
「今日まで、偽装ダンジョンに多くの侵入者がありましたが、侵入されたこと自体に不快感はあるものの、想定以下の低レベルエリアで全てあっけなく撃退できていることに、なにか不快感以上の『誇らしさ』のようなものを感じております」
「ふ……む」
アインズは、これはもしや……と思う。
(……NPCとしての「本能」、か……?)
拠点用NPCとは本来、拠点の外に出るどころか、決められた持ち場を離れることすらせず、与えられた役割を忠実にこなすような存在である。戦闘系なら侵入者の迎撃が基本だ。それこそが彼らの作り出された理由であり、使命であり、存在意義でもある。
一方で、その時以外は特にやることがなく、普段は宝の持ち腐れとばかりにじっと待機している。……まあ、ギルド:アインズ・ウール・ゴウンほどの凝り性の集まりともなると、時折ギルメン達にあちこち連れ回されて、愛でられたり、外装をいじられたり、自慢げに仲間に紹介されたり、一緒にお茶会したりしていたが……。
(もしかして、侵入者が来た方が、みんな喜ぶ……のか?)
そう言えば、以前にそんな感じのことをコキュートスが
「アインズ様、我らナザリックを守護する者にとって、無上の
(…………マジか)
元人間、しかも、忠誠心とも騎士道精神とも縁遠い環境で育ったアインズには理解できない感覚である。社畜根性なら分かるのだが……。
「侵入者に破壊されて朽ちゆくスケルトンですら、最後に満足そうな顔を浮かべて逝きます。アインズ様のために戦って死ねて良かったと……」
「えぇ……」
アインズ様ドン引きである。
「……お前達は、私に侵入者の相手を任されたりすると、その……嬉しかったりする……のか?」
「アインズ様のご命令であれば、どんなものでもご褒美ですが、侵入者の対処となると、いつもより少し力が入ってしまうかもしれません。殺せないとなるとかなり残念ですが……」
「……そうか。分かった」
アインズは天を仰ぐ。ちょっと考え方見直さなきゃな、と。その一方で、この性質をなんとか、褒美とか部下達のケアに使えないだろうか、なんて打算的なことも、ちょっと考えるのだった。
(……それにしても、やっぱり一番聞きたいことは
……お前達の創造主なら、どう思うだろうか? ……だなんて。
ご都合主義で、「意外とみんなノリノリである」ということにさせて下さい。