フェルトが大怪我をした。
その事実は、ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地の空気を暗くさせるには十分すぎた。傷跡は確実に残るという。
フェルトはきっと笑って、そんな事、なんて言うだろう。しかし、本人が笑って許せても、俺たちが俺たち自身を許せない。どうしてフェルトを危険な目に合わせてしまったのか。もっとやりようはあったのではないか。ここにフェルトにも怪我の一因があると考える人はおらず、ただ、男達は、自分達を責めた。
安静と言われ、最近読めていなかった本を読む日々を過ごした。銃の腕が鈍っていないか不安になったが、それ以前に、自身は狙撃がメインの戦い方のはず。どうして前に出てるんだ?と今更ながら思ったりもした。
そうして1日、また1日と過ごし、縫合部もくっつき、抜糸され、ほぼ完治し、訓練の日々に戻った。
しかし、どうも周りの人達の様子がおかしい。どこか余所余所しいのだ。昨日なんて、第一小隊全員が仕事もないのに時間通りに起きていて、明日は槍が降るのではなかろうか。なんて考えたものだ。ラウラ達6人はそんなことも無く、また、私に対する皆の態度に、
「いつもこうなのか?」
なんて聞いてくるから、間違いなくおかしいのだろう。しかし、聞いたところで適当にはぐらかされるのが目に見えていたので、ラウラ達と7人で過ごしていた。時には狙撃の腕を競い合い、ナイフ術を教え、ピアノで6人を楽しませたりと、楽しい日々を送っていた。
楽しい日々は、続かない。
森の木の葉はすっかり散り、風も冷たく、もう冬が来るのかと感じ始めた頃に、6人の配属先が決まった。一般人としての人生を選んだ人は誰1人としておらず、全員が軍属となった。IS部隊の準備がまだ整っていないことから、まずはドイツ国内各地の基地や駐屯地にて訓練を積むこととなった。皆バラバラになる事への寂しさは大きいだろう。現にラウラ以外泣いており、ラウラもちょっと泣きそうだ。しかし、きっとまた会える。そんな予感とともに、少女達は別れた。
静かすぎて落ち着かない駐屯地。一年前は毎日が異様な活気に満ちており、誰かの声が絶たなかった。今となっては、社会の女尊男卑への移行、それに伴う女性の社会進出、女性管理団体の出現、軍予算の大規模な改革、男性の地位の低下、失業。さまざまな要因によって、男性の価値は下がっていく。戦争において、歩兵戦力は重要である。その重要性を無視し、軍幹部は大きく入れ替わり、男性軍人の解雇、女性軍人の増加。そんな男性軽視の波はハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地にも届いていた。
研究所摘発の功績から中将となったブルーノ。残された極少数の男性幹部である彼のもとに集う、職を求める声。彼1人で対応できるはずもない。それは誰もが知っている。だからこそ、職を失ってもなお彼に付き従う男達。いつのまにかブルーノ中将は、ドイツの男性の大部分の支持を受けていた。
男性諸君の期待とは裏腹に、女性からの攻撃により、疲弊していくハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地。そこに追い打ちをかけるかのように、事件が起きた。
次から本格的にISが関わり始めます。