帰ってくるなりフェルトが慌ただしかったので、駐屯地は騒然とした。最近全然慌てなくなったフェルトが?慌てている?只事じゃあないな、今回は。なんて会話もちらほら。しかし、そんなものを気にする余裕はフェルトには無かった。
「ブルーノ中将!!!」
扉をノックもせずに開け、叫ぶ。
ブルーノは真剣な顔をして、
「何があった」
「ベルリンまでは何事もなく到着したのですが、演習場にて問題のISがですね、、」
「どうした?無かったのか?」
「それはそれで問題ですが。まずこの映像を見てください」
ブルーノは頭に?を浮かべながら映像を見る。気怠げな表情から段々と険しくなっていき、
「本物か?」
首肯する。
ブルーノは大きく息を吸い、溜息を吐いた。
(どうしてよりにもよって忙しい今なんだ)
内心愚痴るのも仕方がない。路頭に迷う元軍人の意見書が大量に届き、その処理や女性権利団体からの攻撃への対処、その他さまざまな問題が山積みな上、男がISを動かしたときた。そりゃ文句の1つや2つ言いたくなるだろう。
しかし、泣き言を言っていられない状況になった。男がISを動かした。この事実は世の男達にとって希望となりうる。だが、女の目にはどう写る?簡単な話だ。
(女どもの権威を脅かす危険因子だな。間違いない)
そんな危ないものを放っておくことは女共は絶対にしない。断言する。あの手この手で排除しようとしてくるだろう。女共に牽制できるような強力な後ろ盾があればまた別なのだろうが、生憎とフェルトにはこの駐屯地に居る男性軍人しか深い関わりがない。そう。男だ。ISに対する抑止とするには、弱すぎる。
(詰み、、だな)
目を閉じる。いや、まだだ。
「目撃者は?」
「ラウラ=ボーデヴィッヒのみです」
「監視カメラは?」
「映っていませんでした」
ブルーノは心の中でガッツポーズした。いや、待て。映っていなかった?おかしい。どういうことだ?
「それが分からないのです。帰り際にルッツに教わったやり方で軍の映像データを隈なくチェックしたのですが、文字通り私の入った格納庫内の映像が、私が入った直後から、私が出て行く瞬間まで砂嵐なのです。まるで、強力なジャミングの影響下にあったような印象を受けましたね」
下を向き、考える。しかし、一向に良い考えがでる気配がない。
「ラウラ=ボーデヴィッヒにはなんと言った」
「他言無用で頼むと」
「ならばフェルト、お前は今まで通り生活しろ。ベルリンでは何も無かったのだ。いいな?」
短く返事をし、退出した。
「ご迷惑をおかけしました」
しかしIS、、、一体なんなのだ?あれは。強大な力を持っている。しかし女性にしか反応しない。でも、私には反応し、私の思い違いかもしれないが、私に語りかけてきた。ISには意思があるのか?ISコアは何も分からないブラックボックスであるという。いや、ありえるのか?物体に意思が宿る?はたまた新しい生命体なのか?分からない。IS開発者の篠ノ之束についても調べてみた。真っ黒な手法を用いても、わかったことといえば、篠ノ之束の家族構成と現在行方不明だという事。各国が血眼になって捜している事。たったこれだけ。ますます分からなくなった。一体何者なんだ?こいつは。
3日程全力で探し続けた。しかし進歩はなく、疲労だけが残る。私事に仲間を、家族をこれ以上巻き込む事も出来ない。私が、1人で。やらなくてはならない。
ベッドで横になる。ふと、人の気配を感じる。天井を見上げる。誰もいない。おかしい。いないのであれば、気配がするなんてあり得ない。幽霊?いやまさか。いたら面白いかもなとは思うが、実在するとは思えない。何処だ?外部に続く空間?ある。1つだけ。換気扇。いや、人が入れるのか?まあ、いい。ものは試しだ。
「コソコソ隠れてないで出てきたらどうですか?」
穏やかな口調で、換気扇の方向を見て言う。しばしの静寂。気のせいかな、と思った瞬間、換気扇の隙間から紫色の何かが出てきた。髪だろうか。ゆらゆら揺れている。顔が出てきた。眠そうな目。酷い隈。顔立ちは整っており、十中八九美人の部類に入るだろう。まだ若い。20歳前後といったところか。ファンシーな服が見えた。なんだ、あれは。うさ耳?ドレス?なんだろう。不思議の国のアリスだろうか。なんだ?私はこれから、ワンダーランドに連れて行かれるのか?よそう。混乱した。
シュタッと着地する謎の女性。こちらに向き、しばらく私を見つめたのち、
「いやっほー!篠ノ之束さんだぞぅ!」
なんて言い出す。
「君だよね?私の事をここ3日間嗅ぎ回っていたやつ。いやー、ちょうど良かったぁ。束さんとしても君にちょーっと用事があったもんだからさぁ。で?何が知りたいんだい?1人目の男性操縦者くん?」
驚愕から反省、警戒へと思考が移る。武装は?VP9とナイフ2丁のみ。どうにかして切り抜けなければ。
「いやいや、何もそこまで警戒しなくたってさぁ、とって食おうってわけでもなし」
「換気扇から出てきて世界的大スターさんを名乗る不審者をどう信用しろと?」
「名乗るっつーか、本人なんだけどさぁ。まぁ、いいよ。そっちが言わないならこっちから。お前、操縦できる事をあと2年5ヶ月待て。それまで、この束さんが便宜を図ってやる」
わけがわからない。それでは、そちらの利益がないじゃないか。
「私には個人的なこだわりみたいなのがあってね。そのためさ。利益なんて必要ない」
成る程。いや、まてまて。
「2年5ヶ月後?私はその時15歳です。何が起こるんですか?」
「お前じゃねーよ。私の可愛い可愛い友達の弟だよ。ま、いっか。べっつに言わなきゃなんねえってわけじゃないっしょ?」
あ、駄目だこいつ何言っても通じない。
「お前としては身柄の安全は保障されるわけだし、ここの人達に迷惑もかからない。十分っしょ?」
まぁ、そうだ。
「わかりました。そちらの指示に従いましょう。ただ、1つだけ、質問してもよろしいですか?」
「ふっふーん、何かな?この束さんの手を煩わせる必要があるのかな?」
「クロエ。という名前に心当たりは?」
以前、研究所から連れ去られたという盲目の少女の名前。巨大なニンジンは確認していないが、紫色の髪。連想しない方がおかしい。
「くーちゃん?がどうかした?」
なんと言ったか。くーちゃん?
「知っているんですね。邪険に扱ったりは?」
「するもんか!私をそんな風に見ていたなんて!心外もいいところだ!家族を邪険になんてするもんか!」
プンスコ、なんて擬音が似合うような態度をとる。でも、安心した。
篠ノ之束がこちらをじっと見ている。
ほー、ふーん、なんて言っている。ニタリ、と笑った。まずい、嫌な予感がする。
「んふふ、君、名前は?」
「フ、フェルテン=ヴァルター」
「おっけー、じゃあ、ふぇーくんだね!覚えたぞ!それじゃ!まったねー!」
言うがはやいか、窓から飛び出し、どこから飛来したのか、巨大なニンジンに搭乗。一気に姿が見えなくなった。
疲れた。でも、まだ眠れない。今起こっていた事を、どうにかして説明し、ブルーノ中将に信じてもらわなければ。
翌日、ブルーノ中将のもとへ行く。扉を叩き、返事の後に開く。顔を青くし、酷くやさぐれた顔の中将が座っていた。
「フェルト、、お前、一体何をした?」
「何を、、とは?」
でっかい溜息。言うのはかなり心苦しいが、黙ってはいられない。意を決し、口を開く。
「昨晩、篠ノ之束と接触しました。彼女が便宜を図ってくれるらしく、少なくともこれから2年5ヶ月は私の存在は隠してくれるようです」
長い沈黙。ブルーノ中将がプルプル震えだした。やってしまった。そう直感した。
「そういうことかぁぁ!!!!!」
絶叫。悪寒がした。何かとんでもない事を言われる。そう思った。