銀色の二重奏   作:乱れ咲

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異動

ブルーノ中将の絶叫が駐屯地中に響き渡る。そういうこと?はて?どういうことだ?

「フェルト、落ち着いて聞け。ベルリンの部隊にお前が異動しろと上から通達があった。装備はこちらで用意しても構わないらしいが、あまりにも急で、何よりタイミングが良すぎる。だが、篠ノ之束が関わるとなると、話は大きく異なる。特に、便宜と言ったな?ならば、バラす時に備え、ある程度の実力を持たせ、同時に監視のしやすい所に置いておく。そうすれば、隊内での立場はともかく、社会の立場は保障される。ということだろう」

早すぎる。なに?異動?嘘だろ?家族の元から離れるのか?何も返せていないぞ?

「今日で荷物をまとめ、明日の正午までにベルリンに。とのお達しだ。随分と急だが、行動を開始してくれ」

了解。と自分でも驚くほど弱々しい声が出た。部屋を後にする。私の足は、廃品倉庫へと向かっていた。

 

 

 

 

 

 

鍵盤を叩く。叩く。叩く。叩く。ぶつけ、発散し、体から追い出す。指を動かす。いつもの癖だ。ベートーヴェンの月光第三楽章。今日でこいつを弾けなくなるのかと、昔を思い出しながら叩く。何を言われようとも、チェロは持っていこう。今のうちに、弾けるだけ弾こう。鍵を叩き続けた。手首や指の関節が痛む。時計を見る。午後8時過ぎ。すっかり日も暮れていた。

 

 

 

 

 

 

夕食も摂らずにシャワーを浴び、荷物を纏める。自分の荷物の少なさに驚く。チェロ、愛銃を除けば、軍服、戦闘服、私服が数着。これだけ。眠れない。月が綺麗な夜だ。ベッドから抜け、外へと足を進める。

 

 

 

 

 

冬を目前に控え、夜風が冷たかった。冷えないように、戦闘服の上を羽織る。歩く。歩く。歩く。全ての場所に思い出がある。駐屯地の全員で狙撃の大会を開き、優勝したことがあった。格闘術では、初めは負けてばかりだったが、筋肉の上手な使い方を身につけ、初勝利を飾った。音楽家2人の死闘。期限間近の戦闘糧食を3日続けて食べ、やけに健康になったこともあった。懐かしい。

これが一生の別れではないんだ。また、来よう。いつになるかはわからないが、また、みんなで馬鹿みたいに笑おう。駐屯地を一周し、部屋に戻る。月の光が夜を包み込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

朝。荷物をトランクに入れ、隠しトランクに銃器を入れる。餞別として、大量の弾薬をくれた。使うことはあるだろうか。使い切れる気がしない。全員が笑顔で見送ってくれた。また帰ってこい。とも。笑顔を返し、アクセルを踏み込む。アウディは力強く前進していった。

 

 

 

 

アウトバーンを走る。途中警察に止められてヒヤヒヤしたが、どうにかなった。ベルリンまであと1時間といったところか。ベルリンに異動するにあたり、最も不安なものは、ズバリ、ラウラである。一週間前に会ったとき、状態はお世辞にも良好とは言えなかった。どうしたら立て直させることができるのか、考えながらアクセルを踏む。考えてもいい案はでなかった。

 

 

 

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