合図が鳴った。
私のIS相手の初戦闘。故に、敵には油断がある。証拠に、緩慢な動作でアサルトライフルを構え、悠長にも狙いをつけようとしている。
内心ほくそ笑んだ。
自分が現段階で出せる最高スピードで接近する。敵はアサルトライフルを構え撃ってくるが、被ダメージなど気に留めず、銃口を敵ISに叩きつけ、引き金を引く。やはり、遅い。すぐに追いつけた。
ゴウゥン!!という轟音とともに、80口径の大口径弾頭が音速を超え、着弾する。当たったのは腹部。苦しむ様子から、鳩尾に衝撃がもろに入ったと判断する。
ライフルをしまい、両手にナイフを出現させる。この間1秒。相手が熟練者であれば、すぐさま体制を立て直すことができていただろう。しかし、相手は慢心に加え、予期せぬ大ダメージにより、動かない。右のナイフを右脚部の関節部分に刺し込む、もう片方のナイフを左の腕関節部分に刺し込む。素早く引き抜き、右腕関節部分にも刺し込む。敵ISが急に軌道を変え、私を生き残った左足で蹴ろうとしてくる。ナイフを刺したままにし、手を離す。すぐに離脱し、距離をとってライフルを出現させる。
予想通り、この機体は敵のと比べ、一回り小さかった。装甲が薄く、面積も小さい代わりに、速度が速い。小回りがきく。エネルギー残量は498/600。損害軽微。敵の残りエネルギー量は分からないが、たとえ多く残っていても関節部分を左足以外潰された以上、できる動きは限られる。両腕を奪えたことも大きい。
あとは、距離を保ちつつ、ライフルを打ち続けた。私の速さにあわせ、偏差射撃。この時、装甲でなく生身の身体が出ているところを狙う。半分殺すつもりで。
ズガン!ズガン!ズガン!ズガン!ズガン!ズガン!
1度目のリロードをするまでもなく、敵のエネルギーが尽きた。敵のISが落ちていく。私の残りエネルギーは476。戦闘時間は5分未満。私の勝利だった。
圧倒的だった。
信じられないスピードで動き、至近距離で遠距離用ライフルを撃つ。この間に、秒を数える暇もない。相手の慢心も相まってのことであるのだろう。しかし、なんだ、あの戦闘能力は!一瞬で肉薄し、撃っただけならばまだ理解できる。あのナイフ捌き。異様だった。命を刈り取るのではなく、確実に戦闘不能にさせるための技。一瞬のうちに両腕と右脚の動きを制限し、反撃を許さない、次に繋げる技術。駐屯地で少しの間世話になっていたナイフ術がこの動きに繋がっているのか。ラウラは、フェルトの戦いに震えた。あいつは、私の追い求めている強さを持っているに違いない。そう信じ、ラウラは目を見開き、フェルトの蹂躙を目に焼き付けた。
納得できない。なんで、女の私が男なんかに!と苦虫を100匹噛み潰したような表情でこちらを睨む対戦相手だった女。名前は分からない。覚える価値もないだろう。きっと敗北を受け入れず、自分の下にいる人間のみを見て、悦に浸る。そんな人間だ。
「何をした!シュヴァルツがあんな軌道できるはずがない!どんなズルをした!!!」
ヒステリックに女が叫ぶ。それに同調して他の女も喚き出す。まるで鴨の大合唱。
「ズルなどしておりません。ただ、与えられた武装でできる最も効率の良い戦い方をしただけです。見ればわかります。私の使ったISは、あなたの使ったISよりも一回り小さく、装甲も薄い。その分、速度性能が向上しているのです。そしてあなたの敗因は、ISに乗れるだけで強くなったと錯覚し、努力を怠ったからです。今に落ちこぼれと言われているラウラにいとも簡単に追い越されますよ」
そう言って、私はISを格納庫に戻しに行く。後ろでキーキー何か言っているが、無視して歩く。
格納庫に着き、ISから降りると、ラウラがいた。
「おい、フェルト」
少しきつめの口調で言う。
「すいません。あんな啖呵きって。迷惑でしたね。ごめんなさい」
「いや、いい。気にしていないし、むしろスカッとした。それより、だ、フェルト。お前にとっての強さとはなんだ」
ラウラと目を合わせる。身長が170を越えた私を、ラウラは見上げるようにして、意志のこもった、しかしどこか縋るような目でこちらを見てくる。赤と金の双眸に見つめられ、少し見とれていた。すぐに切り替え、考える。私にとっての強さ?なんだろう?少しの間、考えた。
「近しい人の苦しむ姿を見たくない。その為に、必死になれること、だと思います。武力は力ではあるけれど、強さではない。強さとは、何か1つのことに対する、意志の大きさじゃないでしょうか」
ラウラにとって、これが良い答えなのかはわからない。けれど、私にとっての強さとは、こういうことだろう。
「では、お前にとって、その近しい人とは?」
一歩私に近づき、ラウラが聞いてきた。これには即答できた。
「ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地のみんなと、同郷の人達。私は、全てをどうこうできるほど器用ではありませんし、まだまだ未熟。だから、本当に大切なものにしか目を向けられない。つまり、近しい人」
そうか、、とラウラは下を向く。考えているようだ。また私を見上げ、聞く。
「同郷の人達とは、誰だ?」
「私と同じ、作られた人」
考えるまでもなく、口から出てきた。ラウラは目をパチクリさせている。そういえば、言ってなかったなと今更ながら思う。
招集の号令が外から響く。私はラウラの手を引き、走ろうと言外に促す。ラウラは首肯して私と同じペースで走り出した。手を振り払われることはなかった。