銀色の二重奏   作:乱れ咲

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訓練

シュヴァルツヴァルト。ドイツのハーデン=ヴュルテンベルク郊外にある広大な森林。低地にはオークやブナが生い茂り、冬になると高地は雪で白く彩られる。観光名所としても広く知られている場所である。

そんな場所に、私達ベルリンIS仮設部隊の面々は揃っていた。

 

 

 

初戦闘から3ヶ月が経ち、私はISの扱いを身に付けていた。この期間で最も変わったのはラウラだろう。ラウラは、左目に眼帯をつけるようになった。

強さについての問答の後、ラウラは私の部屋にやってきた。曰く、

「私がお前にISの知識を教えてやる代わりに、私の戦闘についてのアドバイスを頼む」

とのこと。断る理由もなく、それ以降、毎日教え合う習慣ができた。そのときに、ラウラの落ちこぼれた原因であるヴォーダン・オージェの暴走による弊害について詳しく聞き、そこで話し合った結果、

『眼帯を着ければいいのでは?』

というどうして今まで気づかなかったのか。と思ってしまうほど、呆気ない結論が出てきた。そこで、早速眼帯を着けようとなったものの、軍で用意するにも時間がかかり、受諾されるかもわからない。市販ではあまり出回っていないという。そこでアウディの出番。ラウラを連れて街に繰り出し、オーダーメイドで作ってもらった。8歳からの軍属により、金は有り余っているので、贈り物という形で渡したところ、素直に受け取ってくれたのは意外だった。また、ラウラは民間の乗用車に乗るのは初めてだったらしく、少しテンションが高かったのも印象に残っている。

眼帯を着けてからというもの、片目での間合いの測り方を2人で延々と組手をする事で身につけ、射撃の腕も、眼帯を着ける前と遜色ないほどまでになった。しかし、遠距離狙撃に関しては、スポッターがいなければ距離が測れず当たりにくくなってしまったが、これは仕方がない。

眼帯を着けたことで擬似的にヴォーダン・オージェのON.OFFができるようになり、ISの成績も伸びていった。今では、私以外には圧勝し、私とも良い勝負ができるようになっている。努力を怠らず、着々と成長していくラウラに危機感を感じない女はいなかった。しかし、その危機感は、女の偏った思考により、悪い方向にしか向かわない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シュヴァルツヴァルトのブナの森を行進する。今回の訓練の目的は、可能な限りはやくシュヴァルツヴァルトを越えることだ。最長でも3日待ち、超えられなかったら置いていかれる。もちろんISの使用は厳禁。破ったものは厳しい罰が与えられる。2人1組で分かれ、必然的にいつも行動を共にしているラウラと組むこととなった。最近のラウラの表情には余裕があり、よく笑うようになった。良い傾向。私達の装備は、私がL96A1とVP9、ナイフが2丁のいつもの装備に、必要最小限の食料、水など。ラウラは食料、水は私と変わらず、G36CとVP9、私と同じシースナイフ。といったもの。サバイバル訓練だけでなく、行軍訓練も兼ねているのか、高地までは隊列を組んで進むことを強制されている。私達は最も体力の消耗が激しい先頭になった。いつものこと。慣れている。

 

 

 

 

吹雪の中を進む。視界が悪い。足下を見るのがやっとだ。進む。崖が見える。こんなところ、あっただろうか。進む。ふと、背中に衝撃。ドンッと押され、崖下に落下。見上げれば、女共がこちらを見て笑っている。吹雪が弱まったため、見ることができた。落差は5m強だろうか。やられた。

隣を見る。ラウラがいた。受け身をしっかりとり、雪がクッションになったお陰か、怪我はなさそうだ。崖上に向かって、貴様、それでも軍人か!なんて叫んでいる。女共は無視したのか、はたまた聞こえていないのか、歩き出した。ここに留まるのは良くない。コンパスを頼りに、目的地に向かって歩く。

 

 

 

運が悪い。足場が最悪だ。高低差が激しいうえ、雪で体力を奪われる。お互い無言で歩く。いくら軍人とはいえ、13歳の子供である。当然大人に体力ではかなわない。時刻は2130。歩き続けて10時間以上が経過。限界が近い。ラウラも少しフラついている。視界の端に何かを捉えた。洞窟を発見。ラウラと相談し、洞窟で夜を明かすことに。

 

 

 

 

洞窟に入った。かなり広い。風や雪が凌げる分、体感温度が大きく違う。奥へと進み、安全を確認しようとする。

大きな何かが動く気配がした。ラウラに目配せをする。弱った顔で頷いた。更に進む。

巨大な熊がいた。

 

 

 

 

 

 

熊に限らず、冬眠中の野生生物は、基本的に空腹から凶暴性が増しているという。私達の存在を察したのか、熊が目を覚まし、立ち上がる。体長は2m以上あるだろうか。でかい。ラウラがこちらを見てくる。目がどうする?と聞いてくる。

「ラウラ、私達は運がいい」

そう言うと、はぁ?と言わんばかりに目が開かれ、口を開ける。すぐに切り替え、私に寄る。

「何が幸運なんだ!」

熊に目を向けたまま、ラウラがたずねる。

「冬眠中ということは、身体には大量の脂肪がついているはずです」

「だから、それがどうしたというのだ!食うのか!?」

なんて聞いてくるので、論より証拠。善は急げ。私はL96A1を構える。瞬時に私達に向かってくる熊の鼻に狙いを定め、発砲。

ドウゥゥン!!

と、轟音が洞窟内で響く。強力なラプアマグナム弾を鼻にくらい、脳にまで弾が届いた熊は、反撃のため私に向かい、フラつきながらもまた走り出す。

ドウゥゥゥン!!

瞬時にコッキング、排莢、2発目を発砲。1発目の少し右斜め上に命中。私達の前で熊は倒れ、血を流す。動かない。絶命したようだ。もう一度コッキング。3発目を装填し、頭部に撃つ。動かない。

「よし」

ラウラは唖然としている。私はナイフを抜き、解体作業に入る。皮を剥ぎ裏返す。脂でテラテラ光っている。やはり運がいい。洞窟内で窪みを見つけ、そこに外に出て拾った枝を組み、下に熊の皮を裏返して置く。ここでラウラは合点がいったのか、ほう、と息を吐く。所持していたマッチで火を付ける。火は脂に燃え移り、枝にも火をつける。焚き火ができた。体温を極力下げないよう、2人で身を寄せ合う。火を眺め、暖まり、火が弱くなったら皮や枝を放り込み、ついでに肉を焼く。ケバブのようにナイフで肉を削りながら2人で食べる。2人は、不謹慎かもしれないが、楽しんでいた。

肉も食い終わり、皮も残り少ない。枝はもうなくなった。時刻は0230。日の出までまだ時間がある。火が弱まり、燃やすものもなくなった。2人はよりくっつく。しかし、寒さからは逃れられず、体温は少しずつ奪われる。眠らないように耐える。眠い。頭を振る。寒い。どうしようもない。

寒さ故か、馬鹿げた案が頭に浮かんだ。即実行。死なないため。戦闘服の前を開け、さらけ出す。ラウラは何をしているのだ?と聞いてくる。ごめん。と返事を聞かずに抱き寄せ、体の前にラウラを抱く。戦闘服の前を閉め、より密着させる。ラウラの身体が小さいためか、スッポリと収まった。

ラウラは驚き目を白黒させていたが、落ち着いてきたのか、動かなくなった。互いの温度を感じながら、夜が明けるのを待つ。

「フェルト」

ラウラが突然聞いてきた。

「以前、お前は作られたと言ったな」

肯定する。

「聞かせてくれないか。何が目的で、どのように助けられたかを。私はお前に助けられたから。恩人のことは知っておきたい」

わかった、と一言返し、語る。

自分が人間兵器として使われるために作られた、デザインチャイルドであること。物心つく前から銃を撃ち続けていたこと。ISの登場により、廃棄されそうだったこと。廃棄寸前で駐屯地の人達に助けられたこと。そして、助けられなかったこと。

ラウラは、私に体をくっつけ、黙って聞いていた。話が終わると、そうか。優しく言って、ありがとう。と一言。

これが何に対してなのかのありがとうなのかはわからないが、満足した。時刻は0630。外も少し明るくなっており、しばらくすると雪が止み、朝日が洞窟内に入り込んだ。

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