フェルトは私にとって、恩人であり、憧れでもあり、目標でもある。命を助けられた。彼のお陰で、強さを知った。彼のお陰で、落ちこぼれから抜け出し、部隊の女を負かせられた。眼帯もそうだし、今もそうだ。彼の判断のおかげで、熊を狩り、火を得て、暖をとり、食うことができている。彼と比べて、私は大きく劣っている。戦闘も、何もかも。
でも、過去の話を聞いて、わかった。彼もまた、脆い。歪な人間。幼少期から人を殺す術を学び、多くの死を乗り越えてきたのだ。それでも彼は、強くない。また助けられないかもしれない、と人知れず恐怖している、13歳の少年なのだ。私は、彼に多くのものをもらった。今度は、私が返す番だ。いや、返したら終わり、というのも嫌だ。何故だかわからないが、嫌なのだ。死んでも側にいたい。そう思った。私は弱い。彼も弱く脆いが、それよりもわたしは弱いだろう。それでも、側にいるくらいなら。
朝日に照らされ、自分達の姿を確認する。恥ずかしい。急速に顔が熱くなり、合図もなしに、すぐに離れる。戦闘糧食のビスケットを齧り、水を飲み、立てかけていた銃を担いで洞窟を後にする。地図とコンパスで現在位置を特定。目的地まで残りわずかであったことに気がつく。おかしくなって、2人で笑う。行きましょう、と言うと、ラウラが少し不機嫌になった。
「その話し方をやめろ。そんな余所余所しい話し方は私にはしないでくれ」
驚いた。そんなことを言われたのは初めてだ。駐屯地ではこの話し方に文句を言う人はいなかった。
「わかった」
笑顔で返す。ラウラは満足げに頷き、寄ってくる。
行こうか、と言うと、私の横で、同じペースで歩き出した。
1時間後、森を抜ける。目的地が見えた。残り僅か。ラウラと顔を見合わせて、歩く。
着いた。ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地。予想はしていたが、目的地がこことは、狙っていたのかそうでないのか。
ラウラは懐かしそうに目を細める。私にとって3.4ヶ月ぶりの帰還。私とラウラを見ると、駐屯地の人達が寄ってくる。なかには小隊の仲間もいた。よく帰ってきた、などと口々に言ってくる。しかし、報告が先だ。日を跨いだのだ。謝らなくては。
ラウラとともに、報告に行く。そこには、6人の私達を落とした女共が縛られていた。
聞けば、笑いながら突き落としたことを話していたのを、駐屯地の人達に聞かれ、録音されたらしい。この時点で軍人失格ということで、6人と指示をしたとされた厚化粧の女も解雇。ベルリンIS部隊は私とラウラを残し、再編することとなった。人員の選抜はブルーノ中将が行うらしい。
ブルーノ中将に誰を選ぶのか聞いたところ、
「ま、楽しみにしとけ」
とはぐらかされた。悪いようにはならないだろう。
ラウラを連れて、廃品倉庫に足を運ぶ。1週間程度駐屯地に留まり、再編部隊に合流する、とのことなので、しばらくは休暇のようなものだった。1人でピアノを弾きに行くつもりが、ラウラが
「何をしに行くんだ?」
とついてきて、今に至る。
扉に手をつき、押す。軋む音を懐かしく思いながら、ピアノに向かう。ラウラは興味深そうに私をみる。
鍵盤に手を置く。聞けば、ラウラはピアノを聴くのは久しぶりだと言う。昔の自分を思い出し、教えてくれた男に思いを馳せて、鍵を叩く。願わくば、楽しい時間になるように。良い思い出になるように。そう思い、なんとなく祈ってみる。チラとラウラを見ると、目を細めて、穏やかに笑っていた。
よかった。
夢中になって鍵を叩く。緩やかな時間が流れていた。