銀色の二重奏   作:乱れ咲

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無力

小さな民家。そこが少女、シャルロットの家だと言う。木々に囲まれた、ひっそりとした家。まるで隠れ家だ。しかし、どうしてだろう。人が住んでいる気配がしない。

「両親は?」

「訳あって父は居ません。母は、その、体調を崩していて、、」

ふむ。成る程。気配がしないわけだ。その説明を受け、フランス語が一応できる私と、医療の知識があるブルーノ中将が家にお邪魔し、残りは外で待機。残党に警戒してもらう。しかし、ブルーノ中将がフランス語を話せるとは知らなかった。

 

 

 

 

 

 

 

家の中も、やはり質素なものだった。家具が必要最小限しかない。だが、隅々まで掃除が行き届いており、大切に住まわれていることが見て取れた。

少女の案内で母親の元へ行く。少女とよく似ており、親子であることが簡単に分かるような美人がベッドに弱々しく横たわっていた。顔は痩せこけ、顔色も悪い。私達を見ると目を細めて、

「あら、お客さん?ちょっと待ってくださいね」

と言って震える身体で立ち上がろうとするので、私と少女でやんわりと止める。ブルーノ中将に目配せをして、彼には医療の知識があり、これから少し診察させてもらうことを伝える。了承を得て、私と少女は部屋を出る。ソファーに並んで腰をおろし、しばらくすると少女が話しかけてきた。

「気にならないの?その、この家に父親がいないこと」

「他人の家庭事情に不用意に首を突っ込むようなことはしませんよ」

「そっか、、」

沈黙が続く。

「私はね、愛人の子なんだ」

不意に切り出してきた。

「記憶がある時からずっとお母さんと2人でこの家にいたんだ。周りの友達が言っていたお父さんが、一体どんな存在なのかもわからなくて。お父さんっていう言葉の意味がよく分からなかったんだ」

親近感が湧いてきた。父親がわからない。実在しているかどうかの違いはあるけれど、似た経験をしたことがある。

「お母さんに聞いたんだ。私のお父さんってどんな人か。そしたら、お母さんは悲しそうな顔をして、私に謝ってきた。それで、私が愛人の子だということを知ったんだ」

別に同情して欲しい訳じゃないけどね、とはにかみながら言う。私には、この少女がわからなかった。親がいる。それは幸せなことではないのだろうか。いや、違うか。親に愛されていることが幸せなのか。ならば、

「貴女は、幸せを知っているのですね」

私は無表情で言う。何を言っているのかわからない、といった顔で私を見る少女。

「貴女は愛人の子だと言った。それでも、お腹を痛めて産んでくれた母親がいて、愛して貰えている。それは、幸せなことなのではないでしょうか」

少女の顔がみるみる赤くなっていく。

「幸せなもんか!確かにお母さんは私を愛してくれている!でも、お父さんがどんな人なのか、写真で見た昔の顔と、人物像しか知らないんだ!お父さんを知らない。その事実が、私にどれだけの虚無感を与えてきたと思ってる!!」

「隣で貴女の母親が寝ています。怒るなとは言いませんが、声を落としてください」

そう言うと、少女は静かになる。だが、目にはまだ怒りが色濃く残っている。

「それでも、私には貴女が少し羨ましい」

ギリッと歯をくいしばる音が聞こえてきそうなほど、少女は顔を歪ませる。私はこんな時にどんな表情をすれば良いのかわからないため、無表情のまま続ける。

「私には、親がいません」

そう言うと、少女はポカンとした。顔色は元に戻っている。

「私も同情して欲しい訳ではありませんがね」

「それは、その、亡くなったとかで?」

「いえ、初めから存在していません。私は、多機能性幹細胞を編集した精細胞と卵細胞から生まれました。私にとって、世間一般の言うところの母親は試験管なのです」

少女は絶句し、顔を青くする。

「ご、ごめんなさい。そんなこと、知らなくて、、」

「知らないのは当然です。誰も言っていないのですから。なにより今は、私には養父ではありますが、父親がいる。それで良いのですよ」

ニッコリと笑顔を作り、話す。少女は下を向く。そんなに暗くならないで欲しい。

「貴女は確かに周りと比べて恵まれてはいないでしょう。しかし、愛してくれる母親がいる。もしかしたら、人知れずに父親も貴女を愛しているかもしれない。会って、話してみてください。今すぐとはいかなくても、いつか、必ず」

私を見て頷く。よし、いい顔になってくれた。時刻は0300。夜も更けた。子供にはきつい時間だろう。少女も眠たそうだ。

ブルーノ中将が部屋から出てきた。出てくるタイミングを失っていたらしい。すこし、恥ずかしい。少女はもう眠っている。

「母親の状態は良いとは言えない。過労で免疫もかなり低下している。どれだけ働けばあそこまで酷くなるのやら」

おそらく、あの部屋で2人も話をしていたのだろう。ブルーノ中将は悲しげに言う。

「そのことをこの子は知っているのですか?」

そう言ってソファーで寝てしまった少女を見る。ブルーノ中将はゆっくり頷いた。そうか。知っているのか。

「悪いことを、しましたね」

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻が0330になって、私達はあの、小さな家族が住まう家を出る。停めてある車に向かって、歩く。どうか、あの家族に幸あることを願って。

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