織斑教官を迎え、早くも2週間が経った。私は自分がISに乗れることを秘匿するため、サポート役に徹している。しかし最近、織斑教官がちょくちょく絡んでくる。思い当たる節は、、ある。
織斑教官が来た翌日、訓練前に、教官は1つの質問を私達にした。
「生身の人間がISに勝つことはできるか」
黒兎隊の全員が黙る。本来ならば勝てるはずがないのだ。しかし、私は本当にそうか?と疑問を持ち、頭の中で簡易的にシミュレーションしていた。教官はそのことに気がついたのか、
「ヴァルター、お前はどう考える」
と聞いてきた。ここで変に誤魔化すのも憚られたので、
「単独では不可能に近いです。ですが、適切な装備をしたうえで、集団。例えば一個大隊であれば互角に渡り合える可能性があると思います」
こう言ってしまった。教官は嬉しそうに目を細め、
「ほう、では、適切な装備とは?」
と聞いてくる。あ、まずい。と思いながらも、勢いに任せて、
「ゲパルト自走対空砲や榴弾砲、パンツァーファウスト3、GMW、迫撃砲による息の合った飽和攻撃であれば、熟練者はともかく、ある程度の相手であればタダでは済まないはずです」
この発言がいけなかったんだ。
「ほう、、」
と一言。そのまま訓練に入る。質問の答えは聞けないまま、私はサポートに入るほかなかった。
それからというもの、教官は事あるごとに、
「この場合、どのように動くのが最適か?」
などの質問を私に投げかけ、私の答えに満足すれば指導に戻り、どこか足りない部分があれば、補ってくるようになった。私と教官がこのような問答をしている間、ラウラがよくこちらを見てくる。
2機のシュヴァルツが空を舞う。鈍重な機体なので、やはり喧嘩っぽさは拭えない。装備が同じであることも殴り合いのようになる原因なのだろう。まあ、今戦っている2人は瞬時加速や高速切替などの高等技術は使えない、典型的な普通の搭乗者である。あれらは織斑教官が教えてはいるものの、短期間でマスターできる技でもない。私は前々から織斑教官の戦闘映像を見て練習していたためできるが。
「ヴァルター、この一見互角に見える戦いだが、根本から間違っている所は何だ?」
「ライフル射撃にとらわれすぎていることですね」
「では、お前ならどう動く」
「私はISに乗れないので素人の見解になりますが、速度をあげて距離を詰め、偏差射撃が甘いのならばアサルトライフルに持ち替え、大まかな狙いでばら撒き、機会を伺う。でしょうか」
「ほう、では機会とは?」
「大まかな狙いと言っても、IS本体ではありません。敵のライフルを狙い、破壊したところを突く。敵も自分を狙っているのだからライフルの銃口は自分に向いているはずです。そこに弾が入れば暴発のダメージも期待でき、敵戦力も大きく削れます。そんなことは滅多にないとは思いますが」
ある程度は満足したのか、会話はこれで終了。自分で考え直せばいくらでも穴は見つかる。さて、この穴をどう埋めるか。そういえば今回は補ってこなかったな。私が自覚していたからだろうか。
そしてラウラ。格闘訓練中に私の方を見るな。危ないだろう。
織斑教官の滞在最終日、私とラウラは織斑教官を空港まで送りに行く事となった。私がアウディを運転し、ラウラが助手席。教官には上座に座ってもらい、空港まで走る。
私が運転する旨を告げた際、驚いた顔で
「無免許運転は犯罪だぞ」
と言うので、免許を見せたところ、
「一夏と同い年、、、」
と落ち込んでいた。私とラウラは14歳である。一夏とは、織斑教官の弟。私達黒兎隊が救出したあの男の子である。
1ヶ月の間、教官からは多くのことを学ばせてもらった。戦術眼やISの発展技能、座学に至るまで。感謝してもしきれない。感謝の気持ちとして、ワインやビール、日持ちするソーセージなどを贈った。喜んでもらえたようで何より。別れ際に、
「隠し通せると思うなよ?」
と言ってきた時には、冷や汗が止まらなかった。その後ラウラに何かを小声で伝えていた。ラウラの顔が真っ赤になり、わたわたし始めた。ラウラのこんな様子を見るのは初めてなので、どこか新鮮だ。
搭乗ロビーまで見送り、もう一度感謝の意を伝える。優しげに微笑み、別れた。またな、と言って。
帰りの車。助手席に座るラウラに落ち着きがない。気にはなるものの、運転に集中するため、あまり話しかけられない。
ベルリンの演習場に着き、いつもの場所に車を停める。さあ、出ようとした時、ラウラが意を決したように、よし!と言った。出るタイミングを失い、運転席でラウラの方を向いたまま硬直する。
不意に、ラウラの両手が私の顔を優しく挟む。
ラウラの顔が近づき、女の子特有の、どこか甘いような香りがする。眼前に広がる、ラウラの美しい顔。
唇が触れ合った。
直後、硬直。何が起こった!?
思考が停止する。頭が真っ白になった。本で知っていた感覚だが、いざ実感すると、なるほど。言葉に表すことができないものがある。
何秒、はたまた何分だろうか。唇が離され、ラウラは言った。
「フェルト!お前が好きだ!ずっと側にいさせてくれ!」
顔が急速に熱くなっていくのを感じる。
ラウラが?私を?
困惑する私に、ラウラはもう一度唇を落とした。一度目よりも長く。そして深く。目の前の小さな女の子の体は何かに怯えるように震えていた。