体が動かない。人間、動揺すると動かなくなるのだな、と的外れなことを考える。ラウラが?私を?わけがわからない。
まず、私のラウラに対する感情を考えよう。
嫌いか?まさか。好きか?分からん。大事か?当然。
側には?いてほしいとは思う。魅力は?感じる。
では、改めて。
好きか?、、、好き、なのかなぁ。
そう思うと、自分がラウラで埋め尽くされたような感覚を覚える。目の前にいる、美しい少女から目が離せない。彼女の全てを知りたいとまで考える。
人を好きになるといった感情。これも、本から得た知識でのみ知っている。しかし、なるほど。百聞は一見にしかずなんてことわざがどこかの国にあるそうだが、その通りだ。今まで誰かを好きになったことなど無いと思っていたが、それは誤りだったらしい。この感情は、抱いたことがあるような気がする。熱く、苦しく、どこか甘い。
ああ、だめだ。
自身の中で湧き上がる感情を抑えることも出来ず、衝動的にラウラを抱きしめる。ラウラが腕の中でビクッと跳ねた。そんな動作さえも愛おしい。
「苦しいぞ、フェルト」
苦しそうな、それでいて嬉しそうな声で私を呼ぶラウラ。あわてて離し、真正面から見つめ合う。
「私でいいのか?」
「お前がいいんだ」
「人、殺したことあるぞ?」
「軍人ならそれもあるだろう」
「ラウラをしっかり愛せるか、自信がないんだけど」
「その分、私が愛すさ」
だめだ、惚れた。いや、既に惚れていたのか?
思わず、また抱きしめる。今度は苦しませないよう、優しく。ラウラの手が私の背中に回る。ラウラの心臓の音が聞こえる。密着した体から感じられる速く、わずかな衝撃が、振動が、どうしようもなく愛おしい。このままずっと腕に収まる小さな体を抱きしめていたい衝動に駆られる。
「ラウラ」
「なんだ?」
耳元で囁くと、囁き返してくる。
「こちらからお願いする。私の側に、ずっといてくれ」
そう、言った。
ラウラの手を回す力が強くなる。少し苦しいが、心地良い。ラウラが私の顔を見上げる。
「二度と離れてやらないからな」
「望むところ」
満面の笑みを浮かべ、私を見るラウラ。
私は、初めて恋を知り、初めて家族愛以外の愛のあり方を学んだ。普通とは違う身体を持って生まれた私達。昔は誰かを好きになるなどとは考えもしなかった。
多くのものを失った。同郷の者は私達を含めて8人しか生存していないし、内1人は行方が知れない。出生はあまりにも特殊で、育ち方も異常だ。それでも、私達は誰かを好きになれた。
「ラウラ」
「なんだ?」
「織斑教官に何を言われたんだ?」
「そ、それを今聞くか、、」
「だめだった?」
「いや、いい。さっさと言わないと、誰かにとられるぞ。と言われたんだ」
「織斑教官にはバレてたのか」
「そうだな」
「気づかなくてごめん」
「いいんだ。こうして伝わったからな。お前こそ、教官に何て言われてたんだ?」
「隠し通せると思うなよ、って言われたんだ」
「なんだ、教官には全部お見通しか」
「そうだね」
演習場に手を繋いで戻る。黒兎隊の皆の生暖かい視線が凄まじい。やっとかー、とかえ?まだだったの?とか聞こえてくる。なんだ、みんな気づいていたのか。気づかなかった自分に響く。聞こえないふり、はしないでおこう。その声すらも、祝福に聞こえた。
「私は!フェルテン=ヴァルターと!結ばれた!」
ラウラが笑顔で叫ぶ。顔が熱い。燃えてしまいそうだ。黄色い歓声が響く。思考が乱れる。ええい、ままよ!
「ラウラ」
「なんだ、フェル、、、」
言い終わる前に、口を塞ぐ。やってから気づく。何をしているんだ、私は。いっそう大きくなった黄色い歓声の中、唇を離し、ラウラを見る。あは、真っ赤。
「こ、これが!ニッポンのマンガに出てくる、ギャップ萌えという奴ですかぁ!!!たまりません!!!」
クラリッサ、貴方は何を言っているのだ。
服の裾を引っ張られる。見ると、ラウラが顔を押し付けていた。耳がただ赤い。
「お前は狙ってやっているのか?」
消えてしまいそうな声で言うラウラ。
「狙ってはいない。ただそうしたかったから、しただけだよ」
私の腰に手を回し、力を入れてくるラウラ。身長差的に、ちょうど苦しいところに入っている。待て、待ってくれ。背骨から嫌な音が鳴ったぞ。
黒兎隊の皆からの視線と野次に耐え、同時に腰の痛みにも耐える。嫌な気はしないが、ひたすらに恥ずかしい。ラウラを引き剥がし、
「本日は解散とする。以上!」
そう言って、ラウラと共にその場を離れる。
「あ、逃げた」「照れてる。珍しい」
うるさい。