銀色の二重奏   作:乱れ咲

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接触

自己紹介を終わり、席に着く。

「よし。以上。解散!」

そう言って、教室から出て行く先生2人。女性たちは窓際や、誰かの机に群がる。必然的に、私と弟君は孤立した。弟君がこちらを見てくるが、気にしない。ポケットから小説を取り出し、読む。フランツ・カフカの変身。3周目。読み解けば読み解くほど面白い。本とはそういうものだと思う。読んで覚えるだけでは足りない。周りの人のヒソヒソ話す声を無視して、本を読む。やはり、本は紙でないと。デジタルは読んだ気になれない。あ、弟君が誰かに連れていかれた。

読み進める。首が痛くなり、ほぐすために少し顔を上げると、タレ目の女の子と目があった。

「ねーねー、ふぇるるーん。お菓子持ってないー?」

ふぇるるん?私のことか?聞く意味で私を指差す。

「そーだよー。ふぇるるん。だめ?」

「いや、だめではありませんが。それで、お菓子ですか?それならば丁度良かった。日本に来た時に、物珍しさから衝動買いしたものがたくさんありますよ。どれが良いですか?」

と言って、机にお菓子を広げる。コンビニ?という便利な店でつい買ってしまった、置いてあったお菓子ほぼ全種類。

「ええー?こんなにー?選べないよぉ」

と頰を緩ませ、こちらを見てくる。仕方がない。

「いつでも言ってくれれば差し上げますよ。とりあえず、何か選んでください」

「んー?そお?じゃあ」

と4.5個の袋や箱を取り、腕に抱える。しかし、その制服の改造はどうなのか。邪魔にならないのだろうか。あ、聞き忘れるところだった。

「あなたの名前は?」

「んー?わたし?布仏本音だよー、よろしくー」

「布仏さんですね。よろしくお願いします」

「本音でいいよー」

「では、本音さんと呼びますね」

それから、何グループかが私に話しかけてきた。軽い会話をして、ついでにお菓子をあげて、わかれる。弟君も戻ってきたらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

初めて学校の授業を受ける。1人の先生が教壇に立って話すのを生徒が聞き、それぞれ記憶して記録する。今やっているのは基本中の基本。内容のレベルも驚くほど低い。こんなものか?いや、私のいたところが異常か。

「織斑くん、何かわからないところありますか?」

山田先生が親切にも聞いている。対する弟君は・・・駄目だな。頭抱えて唸ってる。

「質問があったら聞いてくださいね。なにせ私は先生ですから!」

先生。きっと、今はその優しさが裏目に出ます。

「先生!」

「はい、織斑くん!」

「ほとんど全部わかりません!」

弟君、君は一体何を学んできたんだ?どうしてこの学園にいるのか考えなかったのか?考えたのならこんな基礎中の基礎、覚えてくるだろうに。ほら、山田先生も困惑しているじゃないか。

「織斑、入学前の参考書は読んだか?」

織斑先生が聞く。まて、参考書?なんだそれは。もらっていないぞ。

「ヴァルターは知っていることだから良いとして、お前には渡してあった筈だ。どうした?」

そういうことか。納得。

「古い電話帳と間違えて捨てました」

叩かれる。当然。馬鹿なのか?弟君は。いや、馬鹿なんだろうな。頭が悪いわけじゃない。抜けてるんだろう。しかも再発行までしてくれて、更に1週間の猶予までくれる。さすが織斑先生。懐が深い。

「1週間であれを!?無理無理!無理ですって!」

何を言っている。別に百科事典を全部覚えるわけでもなし。せいぜいこの手元の教科書程度だろう。たかだか7cm程度、覚えられないなんてことはないだろうに。ほら、織斑先生怒ってる。

「ISはその機動性、攻撃力、制圧力と過去の兵器を遥かに凌ぐ。そういった『兵器』を深く知らずに扱えば必ず事故が起こる。そうしないための基礎知識と訓練だ。理解ができなくても覚えろ。そして守れ。規則とはそういうものだ」

さすが織斑先生。いいことを言う。山田先生が放課後の補習の約束をして、授業が進む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

休み時間。本を開く。後ろで本音さんが私の髪を見て何か言っている。サラサラー、だとかなんとか。別に、ただ切るのが面倒なだけである。ラウラに言われた通りに髪を洗い、乾かしているだけだ。それはさておき。見るからに高飛車そうな金髪の女の子が弟君に絡んでいる。ちょっと気になったので、本を閉じ、ポケットにしまって耳を澄ませる。どうやら、弟君の態度が気にくわないらしい。それについては同感だが、その女性至上主義的思考をどうにかしてくれ。反吐がでる。おい、弟君よ。代表候補生を知らないとは、今まで一体何を見てきた。

チャイムが鳴った。金髪の女の子は悔しそうに戻っていった。何がしたかったんだ、一体。

 

 

 

 

 

この日は特に何事も無く終了。気になったので、放課後、ピアノがある場所を山田先生に聞く。どうやら音楽室なるものがあるらしく、案内してくれるそうだ。ありがたい。

 

音楽室は校舎の一階の端にあった。あまり使われていないのか、少し埃が溜まっている。もったいない。あ、そうだ。

「山田先生、この後時間ありますか?」

「はい、大丈夫ですよ。どうしましたか?他に何かわからないことでもありましたか?」

「いえ、そういうわけではないのですが。ただ、一曲弾きたくて。よろしければ、学園生活1回目の演奏を聴いていただきたいな、と思いまして」

山田先生は目を輝かせ、是非!と言ってくれた。よし、ならば、全力でやってやりましょう。

ピアノを開き、前に座る。鍵盤を眺め、しばらくよろしく、という意味も込めてひと撫でする。山田先生は適当な椅子に座って私を見ている。さて、なにを弾こう。そうだ。

指で鍵をはじく。子鹿のように、のびのびと、楽しく、響かせる。1人に届ける。ヴィヴァルディの四季。春、第一楽章。日本に来て初めて見た桜を思い出す。燃えるように咲き、散っていく。あの美しさを、私がドイツで感じた春に乗せて、音に吹き込む。

数分程度。短い、小さな演奏会が終わった。パチパチパチ、と控えめな拍手が響く。見ると、笑顔で、よかった。と言ってくれた。満足。外は夕焼け。オレンジに染まっている。帰ろう。荷物を持って、山田先生と共に音楽室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私の部屋は1001号室。寮の中で、一番端っこのところ。つまり角部屋である。そのおかげなのか、他の部屋よりも少し広い。防音もしっかりしている。ありがたい。これでチェロも弾ける。しかし銃の腕や格闘術が鈍らないかが心配だ。今の時刻は1700。1時間ほどトレーニングして、シャワーを浴びてから夕食を摂りに行こう。

扉を開けると、やけに騒がしい。なんだ?どうしてある部屋の扉から木が生えている?行くか?いや、よそう。ろくなことにならない。

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