銀色の二重奏   作:乱れ咲

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呆然

放課後の教室で、弟君が項垂れている。手元には再発行された参考書。成る程、内容が分からないのか。入学前にしっかりと予習してこなかったからだ。

「あ!フェルテン!なぁ、今暇か?ここ教えてくれよ!!」

私に気づき、話しかけてくる弟君。今朝まであんなにおどおどしていたのに、どういう心境の変化だ?

「別に構いませんよ?」

一応は教える。比較的頭がいいらしく、そこそこのスピードで知識を吸収していった。抜けてさえいなければ授業にも普通についていけただろうに。

今日やった範囲の半分くらいを教えた頃に山田先生が教室に入ってきた。弟君の方に用があるらしい。なんでも政府の計らいで寮の部屋が決まったとか。それから2人で話をしているため、私は自室に戻ろうとする。

「あと、これはヴァルター君にも聞いてもらいたいんですが、男子は大浴場が使えません」

「え、なんでですか?」

「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」

「あー・・・」

「おっ、織斑くんっ、女子と一緒にお風呂に入りたいんですか!?だっ、ダメですよ!」

「い、いや、入りたくないです」

「ええっ?女の子に興味がないんですか!?そ、それはそれで問題のような・・・」

弟君、頼むから女に興味ない発言はやめてくれ。

「織斑×ヴァルターよ!BLとは見えない、いわばシュレディンガーの恋!!胸熱だわ!!!」

「しかも身長差もいい!攻めが織斑君ならなおよし!!」

「何言ってんの!?ヴァルター君が攻めに決まってるでしょ!!」

ほら、廊下で聞き耳を立てていた生徒達が騒ぎ出した。いい加減にしてくれ。同性愛は最近では珍しくないらしいが、私にはラウラがいるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。授業中に言われていたが、弟君に専用機が渡されるらしい。すごいな、このクラス。1人は試験機、もう1人は実験用、さらにもう1人はそいつにしか動かせない、といった理由であっても3/467が集まったわけだ。それも全てが第三世代機。小国なら簡単に潰せる戦力だぞ。

弟君がよくつるんでいる女の子は、篠ノ之箒というらしい。かの有名な篠ノ之束の妹である。有名人に近い人が多いな、このクラス。とか思いながら彼女を見ると、ちょうどそのことについて色々聞かれていた。当然気にはなるな。

「ええええーっ!す、すごい!このクラス有名人の身内がふたりもいる!」

「ねえねえっ、篠ノ之博士ってどんな人!?やっぱり天才なの!?」

「篠ノ之さんも天才だったりする!?今度ISの操縦教えてよっ」

口々に騒ぐクラスメイト。気にはなるだろうが、相手の都合も考えようか。

「あの人は関係ない!!」

ほら、怒った。あの奇人のことだ。勝手にどっか行って多大な迷惑を家族にかけたのだろう。でなければ、関係ないなどとは言われないはずだ。篠ノ之箒は完全に被害者なのか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

食堂に向かう。途中、本音さん達が一緒にどうかと誘ってきたので、合計4人で食べることとなった。

やはりと言うべきか、食事が遅い。ただ、美味しそうに食べている。幸せなら、まあ、いい。

「ふぇるるん、あんまり食べないんだねー」

本音さんが言ってきた。そうだろうか?黒兎隊の皆の量はこれくらいだったし、私も満足なのだが。首を傾げていると、本音さん達が慌てて言ってくる。男はたくさん食べるというイメージがあったらしい。そういうものだろうか。確かに、ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地の男達はたくさん食べていた記憶がある。料理当番だった時は大変だったな。まあ、個人差だろう。ならば弟君は?探してみよう。・・・いた。あれは上級生なのだろうか。弟君と篠ノ之箒に絡んでいる。どれ、唇の動きを読んでみようか。・・・どうやら1週間後の試合に向け、IS操縦について教えてくれる、とか。よかったな、弟君。

「必要ない。私は、篠ノ之束の妹だ」

いや、待て待て待て。確実に今の誘いは受けるべきだっただろう。弟君の状態を鑑みて。しかもあれだけ関係ないとか言っていたのに、何が妹だ。そんな心底嫌そうな顔をするなら、そんなこと言わなければいいのだ。都合のいい時だけ利用してるだけではないか。愚か者。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さて、私は今、整備室にいる。男性操縦者、それも専用機持ちという立場を利用し、使われていない物置と化したガレージを貸してもらえたのだ。ありがたい。警備系統は私が一から作り上げた。ルッツ、ありがとう。4年前は何に使うんだと思っていたが、今、役に立った。ドイツから持ってきてもらった、私が作った弾薬の数々と機材に材料。弾薬の作り方はいつのまにか身につけていた。もっとも、IS用の銃はまだ作ったことはないし、高周波ナイフも作ろうとしたことがないのでわからないが。それでも弾薬や手榴弾くらいなら作れるし、設計図があれば時間はかかるがIS用の銃も作れるだろう。火薬等の扱いには本来なら免許等が必要だが、ここはIS学園。他国の影響を受けない独立した場所だ。問題はない。現段階で作ったものは、リボルバーカノン用の対IS用特殊徹甲弾の追加、近接信管キャニスター弾、フレシェット弾、炸裂弾、焼夷弾。ショットガン用の炸裂弾。あとはそれぞれの通常弾。それらを作るための生産ライン。生産ライン作成の時に本音さんに手伝ってもらったのだが、彼女は予想以上に手先が器用で、機械に強かったのが印象的だった。本国から材料や機材はブルーノ中将を通して送られてきているため、学園で武装を開発することもできる。ISのメンテナンスも黒兎隊で学んだ。各駆動部を入念にチェック。セシリア・オルコットの専用機について調べ、対策を練る。慢心は死に直結する。どんな相手でも油断せず、万一を無くすために頭を働かせる。

・・・使う武器を決めた。製作を後回しにしていたため3つしかないが、問題ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜になると、あの温かさを思い出す。あの小さな(大きな)体から感じられる温もりが、恋しい。離れることはここまで辛いことだったか。次に会った時はうんと抱きしめてやろう。キスもしてやろうか。頰が緩む。今は眠ろう。楽しみはまた会う時までとっておく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは、別のお話。

 

息子が日本へ旅立って早くも1ヶ月が経過した。あの子がベルリン特設IS部隊に配属されてから少し疎遠になったが、それでも何かあれば連絡はしてくれているし、多少の世間話をすることもある。だが、その内容が、あの子の声が、俺を不安にさせるのだ。

あの子は大人び過ぎている。この意見は俺だけのものではない。小隊、いや駐屯地全員の意見だ。ハーデン=ヴュルテンベルクには兵卒から幹部まで様々な階級の優秀な人間がいる。これは俺が階級を問わず有能な人材を集めたからに他ならない。そんな奴ら全員の意見だ。あの子には、年相応の真っ直ぐさがない。多くのことを経験し過ぎたんだ。

なにせ、ハーデン=ヴュルテンベルクにいる全員よりあの子は若いのだ。それなのに少佐として特設IS部隊の隊長補佐の任に就いている。一部では中佐に昇格させ、他駐屯地の特殊作戦師団の大隊長にし、大佐にまで任じようなどの考えも出ていた。

余談だが、特設IS部隊は陸海空の各軍のいずれにも属していない。いや、全てに属していると言った方が適切か。状況に合わせてそれぞれと連携して任務を遂行する。性質は特殊部隊の色が濃い部隊だ。任務遂行のためなら、ある程度の犠牲も厭わない。

それにあの子はまだ15歳だ。今年で16歳になる、若者。子どもなんだ。書類上の戦果だけを見れば、それは優秀な軍人だろう。今まで共に戦場を駆け任務をこなしてきたが、どんな状況でもあの子が逃げ出すことはなく、任務に失敗したことも片手で数える程度。しかもその失敗を別の戦果で埋めてくる。書類上だけを見るのなら昇格しない方がおかしいほどなんだ。

それでも、子どもなんだ。本来なら学校に行って、友達を作って、恋をして、泣いて笑って生きる歳のはずだ。それが、どういうことだ。

ハーデン=ヴュルテンベルクではそんなことはないが、他の場所では上官の話を精神を摩耗させて聞き、適切な対応を導き出して答え、何より規則と礼儀に囚われている。笑っているところは見ることがあるが、泣いているところは異動の時以外見たことがない。これが、16歳のすることか?ベルリン特設IS部隊の隊員は、副隊長を除いて同世代だと言う。その副隊長もかなり若いそうだ。だが、一番年下なのが隊長と隊長補佐であるフェルトとラウラちゃんだ。あの子達は、幸せなのか?

ISを動かせてしまったという現状から、フェルトが軍に所属したのは間違いではなかったと考えられる。自分を守る力をつけられ、ドイツ連邦軍幹部との繋がりも得た。

だが、あの子がISを動かせていなかったら?幼少期から銃を担ぎナイフを振って。生きるために、任務を遂行するために殺して。それはあんまりではないか。

俺は結婚していないが、駐屯地の父親になった奴が言ってきたことがある。

「ブルーノ中将。フェルトを軍から離すことはできないのですか?」

理由を聞けば、すぐに返ってきた。

「俺には子供ができました。それがフェルトみたいに幼い頃から軍人として生きていくのかもしれないと考えると、あまりに酷な話で、フェルトのことも見ていられないんです」

下を向いたそいつの握った拳は震えていた。その通りなんだ。俺の小隊の隊員は皆どこか頭のネジが飛んでいるが、それでも気づくことだ。なのに、止められなかった。いや、止めたくなかったんだ。本当の息子ができたみたいで。嬉しそうに学ぶ姿が可愛くて。泥だらけになって動く姿が眩しくて。追いつこうと後ろをてくてく走る姿が愛らしくて。だから自分が持っている技術や知識を教えた。それは俺達の自己満足だった。結果、フェルトは軍上層部の一部。差別的思考を持っていない人物から目をつけられ、軍から離れられなくなってしまった。現状では目をつけられたのは良い方向に働いているが。

それでも俺達は後悔している。普通の暮らしをさせてやれば良かったと。だが、同時に安堵する。教えておいて良かったと。

昔、フェルトに聞いたことがある。

「お前は今の生活をどう思う?」

わけがわからないといった顔をしたが、返事はすぐに返ってきた。

「楽しいですよ。みんながいて、笑って過ごしている。これは、きっと幸せというものなんだと思います」

「・・・戦場にお前を連れて行った俺達を恨むか?」

「どうして恨む必要があるのですか?私は多くのことを皆から教わりました。それは、私が楽しかったから。教わりたかったからです。感謝こそすれ、恨むことなどありえません」

あの言葉にどれほど俺達が救われたか、フェルトは知らないだろう。俺達が後悔していることも知らないのではないだろうか。俺達はフェルトの助けになる。手を貸す。躊躇いもない。これが、俺達にできる子どもを戦場に連れて行ったことの罪滅ぼしなのだから。

 

実はフェルトが駐屯地に来て初めての実戦に参加した頃、逃げるように軍を辞めていった奴がいた。あいつは、あの子の危険性を察知したのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれは人じゃない。ただの悪魔だ。いや、死神だ。人を殺す時は、どんな方法であれども殺気が出てしまうもんだ。だが、あれは違った。ナイフで喉を掻っ切る時も、ライフルで頭を撃ち抜く時も、何も出しちゃいなかった。信じられるか?10歳前後の子供が人を殺すのに何も抵抗も激情もないんだ。本人は慣れないと言っていたが、それもどこまで信じていいのかわからない。

俺はあれが恐ろしくて軍を辞めたんだ。実家は個人経営で店をやっているから、それを継ぐ。もともと実家を継ぐのがが嫌で軍に行った親不孝者だが、あれを見てしまったら嫌だからとか関係ない。だって、あいつがいつ俺が気づかないうちに銃口を向けてくるかがわからないんだぞ?そんなことはないと理解はしていた。だが、それでも、もしもの恐怖が離れない。

断言できる。あれと一緒に肩を並べて戦えるのは、どこか人間をやめた奴か、あれの全てを受け入れることができる奴だけだ。当然、普通じゃ無理に決まってる。

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