試合当日。第3アリーナの観客席は満席だった。世界でも2人しか確認されていない男性操縦者の戦いを一目見ようと、学年を問わず人が集まる。そんな中、私と弟君は同じピットにいた。ピットがアリーナに2つしかないためだ。
弟君のISはまだ到着していないらしい。この1週間のことについて弟君が篠ノ之箒に詰め寄る。なに?やっていたのは剣道の練習だけ?馬鹿なのか?馬鹿なのか。いや、篠ノ之箒さん。ISがなくても他にも色々あるでしょうが。基本戦術とか、ISの特性理解とか。挙げ句の果てに、対戦相手の機体のことを調べていないときた。言葉を失うとはこういうことか。それで勝とうって、いやいや、無理がある。貴方達がやってきたことは、盲人が盲人を導くようなことだ。セシリア・オルコットの専用機はイギリス軍の軍事演習の際に一般にも一部情報が出回っているのだぞ?名前をブルーティアーズ。日本語で青い涙。武装はスターライトmkⅢ、巨大な特殊レーザーライフル。インターセプター、ショートブレード。第三世代兵器の名前は機体と同じブルー・ティアーズ。はたして、機体が先なのか、武装が先なのか。4基のレーザービットに2基のミサイルビット。BT兵器とか言うらしい。この情報を弟君に教えてもいいのだが、篠ノ之箒が弟君のそばから離れずずっと話をしているため、近づきにくい。
「ヴァルター。すまないが、先に出てくれ。一夏のISである白式の到着が遅れている。相手は当然、オルコットだ」
了解です、と首肯。
「フェルテン!勝てよ!男の意地を見せてやれ!」
・・・男の意地って何だよ。
「あら、初戦の相手はあなたでしたの?まあ、わたくしには関係のないことですわ。命乞いをするなら、今のうちにですわよ?」
シュヴァルツェア・ヴォルケを身に纏い、ピットから射出される。初めの一言がそれか。
「別に必要ありません。貴方こそどうなんです?戦場での油断は命取り。慢心は褒められたことではありません。思い上がってはいけません、むしろ恐れなさい。この言葉を貴女なら知っているでしょう?」
減らず口を、と端正な顔を歪ませて私を睨む。そこから慢心の色は消えない。もう知らない。次の試合もある。早急に終わらせよう。
試合開始の合図がなる。
「さあ、踊りなさい。わたくしとブルーティアーズが奏でる円舞曲で!」
ドヤ顔で決め台詞。この人、戦場でも同じことをするのだろうか。
球状の塊をセシリアオルコットに向かって投げつける。
「小癪なまねを!」
塊をライフルで撃ちぬく。塊に狙いが定められている間に私はブルーティアーズの頭上へと瞬時に移動し、ショットガンを展開する。塊が撃ち抜かれるが、それはスモークグレネード。空気とスモークの比重を1対1にして、内部に火薬を仕込み、爆発させることで風圧を伴ってアリーナ内に充満する黒煙。視界が遮られ、セシリアオルコットは煙の色と同化した私の姿を見失う。
「くっ、お行きなさい、ブルーティアーズ!!」
4基のビットが動き出し、全方位に向かって乱射する。しかし、当たらない。当てるためには自分を後ろから撃たなくてはならない。そんな位置に私はいる。青に輝く機体は黒煙の中でもとても見つけやすかった。音もなくショットガンを後頭部に突きつけ、発砲。ズガンッ!!!という音と共に、ブルーティアーズが吹っ飛んだ。セシリア・オルコットの意識は・・・ある。ISのブラックアウト防止機能が働いたようだ。
スモークがなくなった。
「よくも、やってくれましたわね・・お行きなさい!!!」
2基増え、計6基のビットが私に向かう。ただ、遅い。制御に専念するためか、セシリアオルコットは動かない。狙ってくれと言っているようなものだ。だが、伊達に代表候補生をやっていない。私に狙撃する暇を与えず、攻撃を絶やさない。私は接近しながら、ビットからあらゆる角度で放たれるレーザーを避け、ミサイルを新たに展開したマシンピストルで迎撃する。飛来してくる弾頭に何発か撃ち込めば爆発してくれる。ISのハイパーセンサーがあるからこそできる芸当だ。溜めを最小限に抑えた瞬時加速をして、セシリア・オルコットに急接近。全方位からの飽和攻撃を全て捌かれるとは思っていなかったのだろう。慌てて逃げようとするセシリア・オルコットの腹部にショットガンの銃口を突きつけ、瞬間、放つ。絶対防御が発動し、エネルギーを大きく削る。まだ、終わらない。体制を立て直す前にもう一度突きつけ、放つ。衝撃で壁に叩きつけられるブルーティアーズ。まだエネルギーはなくならない。瞬時に近づき、もう一度腹部に向けて発砲。同時にマシンピストルを腹部に連射。怪我はしないとはいえ、顔面を狙うのは流石に気が引けた。
ブルーティアーズはエネルギーが切れたのか、動かなくなった。セシリア・オルコットが地面に叩きつけられる前に腕を掴み、持ち上げる。苦痛に顔を歪ませたセシリア・オルコットを、彼女が出てきたピットに戻す。
「1人で踊る円舞曲は、つまらないものでしたよ」
悔しそうに顔を歪ませるセシリア・オルコット。悔しさは成長につながる。良い傾向だ。これであの思考が改められればいいのだが。
私の勝利で試合は終了した。シュヴァルツェア・ヴォルケのエネルギーは瞬時加速に使った分のみ減っただけだ。まだいける。
織斑先生に連絡する。
「このまま連続でやりますか?」
「そうだな、損害はないな?よし。ちょうど織斑のフォーマットとフィッティングが終わったところだ。今から向かわせる。にしてもヴァルター、少しやりすぎだ」
そうだろうか?
そもそも、私のISはレーザー兵器やビーム兵器と非常に相性が良いのだ。装甲は薄いが対ビーム仕様だし、シュピーゲルに至ってはもはや天敵だ。光を乱反射させれば威力はかなり弱まる。今思えば、あの黒煙もコロイド現象で威力を低下させていたのか。
さて、次の相手は弟君か。まだ初心者とはいえあの織斑先生の弟だ。油断せずにいこう。
弟君が出てくる。私のシュヴァルツェア・ヴォルケとは正反対の、真っ白な機体を纏っていた。私と同じ速度重視だろうか。シャープな機体だ。名前は・・・白式か。見た目通りだな。
「さっきの試合!あれはなんだ!!」
何かおかしかっただろうか?
一方的な蹂躙。その表現がぴったり当てはまるような試合だった。煙で見えなくなったと思ったらオルコットさんが吹っ飛んでいて、動かないのをいいことに無防備な腹に銃をゼロ距離で撃ち続けていた。女の子を傷つけるなんて、男のすることじゃないだろ!