クラス代表決定戦のあと、大きく変わったことがある。私を見る目だ。代表候補生とブリュンヒルデの弟を無傷で圧倒した軍属の2人目男性操縦者。そんな私を一部だが怖がる人や距離を置く人が多くなったように感じられる。当然、恐怖や敵意の目で見られているわけで、少し居心地が悪い。本音さん達はとても友好的に接してくるのだが、無表情で淡々と引き金を引く私が怖いと言う人は当然、私のクラス内にもいるようだ。それだけなら良いのだが、上級生には、男のくせにとかなんとか言って私を危険視する人まで現れた。これらが先日のようにならなければ良いのだが。
それはさておき。
私たち1年1組は、グラウンドに出てきている。IS実習の授業のためだ。全員がISスーツに身を包み、整列している。
「では、これより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、ヴァルター、飛んでみろ」
各々返事をして、ISを纏う。私とセシリアさんは問題なかったが、弟君はやけに時間がかかっていた。
「どうした、熟練したIS操縦者は展開に1秒とかからないぞ」
「くっ、来い、白式!」
待機形態であるガントレットを握りながら白式の名前を呼び、装着。
「よし、飛べ!」
織斑先生の号令がかかり、一斉に飛ぶ。
私、セシリアさん、間を空けて弟君が続く。
「何をやっている。スペック上の出力は白式の方がブルーティアーズより上だぞ」
織斑先生の叱咤が飛ぶ。セシリアさんに目配せをして少し後方へ行き、アドバイスのため、セシリアさんだけがさらに後方に移動する。
弟君に優しく話しかけるセシリアさん。どうやら、ISの操作のイメージについて話しているようだ。だが、何故頰が赤い?
「一夏っ!いつまでそんなところにいる!早く降りてこい!」
篠ノ之箒、うるさいぞ。個人の回線ならまだしも、他の人にも聞こえる回線で大声を出すな。それも通信機を山田先生から奪って。思慮に欠けた行動は控えろ。その後、織斑先生から指示が飛ぶ。
「織斑、オルコット、ヴァルター、急降下と完全停止をやってみせろ。目標は地表から十センチだ」
「「「了解(ですわ)」」」
初めにセシリアさん、次に弟君が急降下。しかし、弟君。聞かれなかったのだが、止まり方はわかるのか?
ギュンッーーーズドォォォン!!!
地面から立ち昇る砂煙。止まれずに地面に突っ込んだのだろう。砂煙が晴れると、大穴が開いていた。先生2人と篠ノ之箒が駆け寄る。セシリアさんも遅れて。その間に簡単に急降下。停止。
セシリアさんも弟君のもとへ駆け寄る。ISを纏っている以上絶対防御により怪我をする事はないが、心配はするのだろう。何故かいきなり篠ノ之箒とセシリアさんが睨み合う。あれはなんだ?弟君争奪戦でも始まるのか?
「おい、馬鹿者ども。邪魔だ。端っこでやっていろ」
セシリアさんと篠ノ之箒の頭を押しのけて弟君に近づく織斑先生。
「織斑、武装を展開しろ。それくらいは自在にできるようになっただろう」
「は、はあ」
「返事は『はい』だ」
「は、はいっ」
「よし、でははじめろ」
右腕を左手で握りしめて集中する弟君。IS展開よりは速いが、それでも戦闘で致命的になるくらいには遅い。
「遅い。0.5秒で出せるようになれ。オルコット、武装を展開しろ」
今度はセシリアさん。左手を肩の高さまで上げ、真横に腕を突き出・・・待て、私を狙うな。
脊髄反射でライフルの砲身を掴んで銃口を上に向けさせる。
「セシリアさん、私を撃つおつもりで?」
「オルコット、そのポーズをやめろ。横に向かって銃身を展開させてどうする。現にヴァルターに銃口が向けられていたじゃないか。ヴァルター相手で対応がお前より早いから良かったものの、他の人ならそうはいかんぞ」
「す、すみません!」
私と織斑先生に向かって謝る。わかってくれれば良いんだ。
「オルコット、近接用の武装を展開しろ」
「えっ。あ、はっ、はいっ」
慌てて手を前に出してイメージを固めようとするセシリアさん。しかしなかなか展開されない。
「まだか?」
「す、すぐです・・・ああ、もうっ!『インターセプター』!」
ヤケクソ気味に武装の名前を呼ぶ。初心者向けのやり方でしか展開できないとは、どれだけ使っていないんだ?戦場なら死ぬぞ。
「・・・何秒かかっている。お前は実戦でも相手に待ってもらうのか?」
「じ、実戦では近接の間合いに入らせません!ですから、問題ありませんわ!」
「ほう。ヴァルター、やってやれ」
言われたので、瞬時に高周波ナイフを展開し、首筋にブレードの背を当てる。おお、顔色がみるみる青くなっていく。
「さて、これでも同じことが言えるか?」
「い、いえ、すみませんでした」
ナイフを収納する。これ、実戦というか暗殺じゃないか?
「時間だな。今日の授業はここまでだ。織斑、グラウンドを片付けておけよ」
さて、着替えるか。弟君が私を見てくるが、自業自得だ。受け入れなさい。
夜に弟君のクラス代表就任パーティを行うらしく、私も呼ばれた。パーティにはあまり良い思い出がない。ハーデン=ヴュルテンベルクではしょっちゅう酔っ払いに絡まれ、シュヴァインツハクセを無理矢理食べさせられたのだ。あれは美味いのだが、重た過ぎる。今回は見るだけにしておこうか。そう考えながら廊下を歩く。
「ちょっと、そこの銀髪の子!」
銀髪?ここには私しかいない。ああ、私か。
「はい、なんでしょう?」
振り向くと、肩を露出させた、快活そうな茶髪の女の子がいた。
「ちょっと、総合事務受付まで案内してくれない?」
クラス代表就任パーティに一応参加し、すぐに部屋に戻るつもりだったのが、新聞部からの取材によって少し遅くなってしまった昨日のことを思い出す。特に問題のある発言はなかったよな、と再確認。いつも通り電話をしてから日課のトレーニングを済ませ、身支度を整えて食事をしてから教室へ向かう。昨日の茶髪の女の子が教室の入り口にいた。
「凰さん?」
「ああ、昨日の子!助かったわ、ありがと。あと、私のことは鈴でいいわよ。凰って呼ばれるのはむず痒くて」
「わかりました、鈴さん」
「いやー、助かったわ。ありがとね。ところで、もう1人の男子ってどこにいるかわかる?」
何を言っているんだ?
「私ですが?」
「へ?何が?」
「いや、私が2人目です」
「うっそ!大きな女だと思ってた!」
おいおい、嘘だろ。そんなに女に見えるか、私は。声だって低いだろう?ほら、クラスの皆さん笑ってる。
「次からは気をつけてくださいね」
そう言って、机に向かう。パァン!という音が響き、振り返ると鈴さんが頭を織斑先生に叩かれていた。どうやら2人は知り合いらしい。
「ふぇるるん、女の子だってー?」
「やめてください本音さん。結構間違われるので困るんですよね」
「まー、見ただけなら女の子みたいだもんねー。それも美人ー」
「女に見えることは自覚はしていますが、言われてみると結構傷つきますね」
「あー、ごめんね?」
「別に責めてるわけじゃありませんよ」
「そぉ?でも、じゃあお詫びにこれあげるー」
「おお、ハリボーですか。懐かしい。昔よくもらいましたね。日本でも売っていたんですか」
「最近はよく売られてるよー」
知らなかった。おっと、そろそろ授業が始まる。本音さんを席に戻して大人しくしていよう。