確かにISならば全方位を見ることができ、死角はないとされています。しかし、モデルガンでも実銃でも撃ってみればわかるのですが、撃つ時は狙った対象周辺にどうしても集中してしまい、視野が非常に狭くなります。これは素人も軍人も関係なく起こることで、ライフルならば尚更です。
また、人間はその体の特徴から前方の認識力はとても高いのですが、後方認識は甘い。そのため、どうしても見えていても後ろの何かを狙って撃つことを避けて、より正確に撃つために文字通り目を向けます。
銃を撃つことに関しても、非常に高い技術を持っていない限りは、対象を自分の前で認識して狙って撃つことが当たり前です。
前話の「見ていなくても撃てる」は「狙いを集中してつけるまでもなく当てられる」ということ。
「見られていないから油断」は慣れと人間としての常識にとらわれたことからくるただの注意力不足です。
では、本文へ。
私と鈴さん、ラウラとセシリアさんの試合が終わった後、シャルロットさんは弟君への射撃講座を再開していた。
アリーナ中央にて行われている講義に目もくれず、私とラウラは一緒に試作品のリボルバーを見ていた。本当にゲテモノだ、これは。ただでさえ大きい口径に、長い薬莢を用いることで火薬の量を増やしているらしい。どうりで反動が大きいはずだ。
それはさておき。聞くだけではあったが、シャルロットさんは教え方がうまい。あの3人とは違う。あれらは擬音語のみと感覚派、それに専門用語と無駄に詳しい説明ときた。最近はましになってきたが、それでもまだひどい。
「一夏のISって後付武装がないんだよね?」
「ああ、何回か調べてもらったんだけど、拡張領域が空いてないらしい。だから量子変換は無理だって言われた」
2人の会話は続く。なんでも、白式はワンオフ・アビリティーである零落白夜の容量が大きいため、領域に空きがないんだとか。それにしても、第一形態の時点でワンオフ・アビリティーが発現しているとは珍しいこともあるものだ。
「まあ、姉弟だからとか、そんなもんじゃないのか?」
「ううん。姉弟だからってだけじゃ理由にならないと思う。さっきも言ったけど、ISと操縦者の相性が重要だから、いくら再現しようとしても意図的にできるものじゃないんだよ」
「そっか。でもまあ、今は考えても仕方ないだろうし、そのことは置いておこうぜ」
「あ、うん。それもそうだね。じゃあ、射撃武器の練習をしてみようか。はい、これ」
そう言って弟君に渡したのは、55口径アサルトライフル『ヴェント』だ。なるほど、使用許諾を出したのか。その説明と構え方のレクチャーをシャルロットさんがしている。
それからの話を聞いていて知ったが、白式はハイパーセンサーを接続できないらしい。すごいな、本当に近接格闘のみなのか。
教えてもらった構えで撃つ弟君。想像以上の音と反動に驚いているようだ。シャルロットさんが射撃武器の、牽制になるなどの利点を教えて弟君が聞く。そのままワンマガジンを撃ち尽くすまで撃つようだ。
「そういえば、シャルルのISってリヴァイブなんだよな?でも山田先生が操縦していたのとだいぶ違うように見えるんだが本当に同じ機体なのか?」
私も気になっていた。あまりにも違いすぎる。
「ああ、僕のは専用機だからかなりいじってあるよ。正式にはこの子の名前は『ラファール・リヴァイブ・カスタムⅡ』。基本装備をいくつか外して、その上で拡張領域を倍にしてある」
ほう、倍か。ということは、彼女は状況に応じて使う武器を使い分けるタイプか。所持武装も多そうだ。ならば高速切替もできるだろう。一番相手にしたくないタイプだ。
「そうだ、フェルテンの銃も撃たせてくれよ」
ワンマガジンを撃ち尽くした弟君がリボルバーを指差して言う。
「やめた方がいいと思いますよ。これの反動はとんでもないですから」
「1発だけ、だめか?」
「フェルテン、一夏はいろんな銃に触れておいた方がいいと思うから。だめかな?」
シャルロットさんまで言うか。さっきの模擬戦で片手で楽そうに撃っていたからそう言えるのかもしれないが、本当に馬鹿げているんだぞ。まあ、経験も必要か。軍品とはいえ私の物になっているのだ。問題にはならないだろう。他人に自分の武器を触られるのは嫌だが。
「わかりました。少し待ってくださいね。・・・・どうぞ」
使用許諾をして、渡す。弟君が私を真似て片手で撃とうとするので、止めて両手で構えさせる。
ドゥゥゥン!!!
響く轟音。模擬戦中はマシンピストルの音でわかりづらかったが、非常に音がでかいのだ。反動を殺しきれず、弟君の手からリボルバーが弾き飛ばされる。
すぐにキャッチし、使用許諾を解除して収納する。ほら、言わんこっちゃない。見ると、私とラウラを除く全員が口をあけていた。
「痛ってぇ・・・フェルテンはこんなのを片手で撃ってたのか?」
「だから言ったでしょう?とんでもないと」
「ま、まさかあんなに大きいとは思ってなかったよ・・・」
「これに懲りたら身の程以上の武器は使わないことですね」
コクコクと首を縦に振る弟君。わかればよろしい。
それ以降は特に問題もなく日が暮れ、解散となった。夕食まであと40分程。
「フェルト、少し付き合ってくれないか」
「付き合うとは何に?」
「これだ」
そう言ってナイフを取り出すラウラ。理解した。私もナイフを構える。
暗く、人気のないアリーナに響く2人の足音とナイフが空を切る音。私もラウラも確実に相手の戦力を奪うためにナイフを振る。遠慮しないのは、お互いが的確に対処するという信頼があるから。だから必殺の一振りも繰り出せる。ある時は受け流し、またある時は体を捻って避ける。30分程続けただろうか。示し合わせたかのようにナイフを下げ、しまう。
「ありがとう。久しぶりに動けた」
「こちらこそ。この学園にいると、どうしても腕が鈍ってしまいそうで心配だった」
「これから毎日やろう」
「了解です、隊長」
笑って別れる。さっさとシャワーを浴びて着替えて夕食を食べよう。先に着いた方が席を確保することになっている。
更衣室を出ると、食堂とは反対方向の曲がり角に人の気配がした。それだけなら放っておくのだが、その気配は動く様子もなく、ただじっとそこにいる。そして、何よりその気配からは何も感じないのだ。殺気も警戒も何もかも。非常に怪しい。
ナイフを取り出し、VP9をいつでも抜けるようにして曲がり角に向かって進む。敢えて音は消さず、警戒心だけを隠す。
足音を近づくにつれて小さくしていく。下手な相手ならこれで騙せるが、どうだろうか。
角を瞬時に曲がる。誰もいない。いや、上か。天井に向かってナイフを投擲。薄い金属に刺さる音。外したか。気配は遠ざかっていく。すぐに上を向いても誰もおらず、蓋にナイフが刺さった通気孔があることから、そこから逃げたのだと容易に想像できる。すぐに追いたいところだが、刺さったナイフをそのままにしてはおけない。今回は諦めて教師に知らせてから食堂に行こう。天井の穴はその時に謝っておこうか。
偶然にも近くを山田先生が通りかかったので、起こったことを話すと、注意を受けた。それだけか。
食堂には既にラウラがいた。本を読んで待っている。題名は『車輪の下』か。ヘッセだな。
「すまん、遅れた」
「ああ、フェルト。遅かったじゃないか。なあ、お前はあの噂を知っているか?」
「あの噂?」
「今度行われる学年別トーナメントで優勝したら、お前か織斑一夏のどちらかと交際できるとかいう噂だ。まさかとは思うが」
「ああ、クラスの誰かが話しているのを聞いたな。まったく、景品にされる身にもなって欲しい。何より、私がラウラを手放すわけないじゃないか」
「だからお前はどうしてそんな恥ずかしいことを平気で言えるんだ!・・・まあいい。お前が関わっていないことはわかった。すまなかったな、疑って」
「ま、仕方がないさ」
会話はこれで終了。全てドイツ語とフランス語を混ぜて話していたため、ほとんどの人は何を言っているのかさっぱりわかっていないだろう。これも女性陣の士気を維持するためだ。
食事を済ませ、コーヒーを飲んで席を立つ。私室に戻り、私はチェロを、ラウラはバイオリンを取り出す。
「今日は何を弾く?」
「パッサカリアなんてどうだ?バイオリンを習い始めた頃、フェルトと弾いてみたいと思っていたのだ」
「いいね」
確かスペインが起源だったか。パッサカリアは音楽形態の名前であり、似たものにシャコンヌがある。私にはこの2つの違いがよくわからない。
ラウラに楽譜を見せてもらう。ヘンデルか。よかった、私も知っている作品だ。明日は日曜日。つまり休日だ。多少の夜更かしは許されるだろう。シャワーの時間も考えて、2300まで弾こうか。