日曜日の朝。例に違わず0500に起床した。隣ではラウラが寝ている。まだ私があげたシャツを着ているのか。サイズも違うし、寝づらくないのだろうか。まあ、幸せそうに寝ているので良しとする。
ラウラの寝顔を眺め、指で髪を梳く。絹のようにサラサラで引っかかるところがない。よく手入れされている。しかし、前々から気になっているのだが、寝るときも眼帯をつけて窮屈じゃないのだろうか。
2人分のコーヒーを淹れ、ラウラを起こす。昨日寝たのがいつもより遅かったためか、かなり寝ぼけている。こら、私の指を噛むな。
軽くパンを食べてコーヒーを飲んでからジャージに着替え、お互いの髪を結って自室を出る。
「「おはようございます、織斑先生」」
「ああ、おはよう」
日課となった早朝ランニング。いつも通りに体をほぐし、いつも通りのペースで走る。
「そうだ、2人とも。この後少し付き合え」
「何かするのですか?」
「久しぶりに剣を握りたくなってな。相手を頼む」
「「・・・わかりました」」
地獄への片道切符頂きました。
もちろん勝てるわけがない。自分が勝っているビジョンが見えない。なんせ織斑先生が振る木刀は消えるし、気づけば目の前に織斑先生がいる。私とラウラの2人がかりで一撃も与えられないとか、もうわけがわからない。直感的に避けられたからいいものの、あの一太刀が当たったら失神するんじゃないか?
「ありがとう。いい運動になった」
「遊ばれ、て、ました、よね?」
息も絶え絶えにラウラが言う。そう、私達に攻撃は当たっていないのだ。これを遊ばれたと言わずして何と言う。
「いや、あれを避けられる奴が生徒会長以外にいなくてな。やったな、白兵戦なら単独で学園最強クラスだぞ。組めば生徒ならまず勝てまい」
「織斑先生の攻撃をさばききれる人間は世界に5人もいませんよ」
「お、ヴァルター。まだまだ体力が有り余ってるな。もう何回かやるか?」
「許してください」
ああ、疲れた。
織斑先生と別れ、呼吸を整えてから一度更衣室へ行く。汗がベタついて気持ち悪いし、そんな状態で自室まで行きたくない。15分後に合流することにして、今は汗を流す。
自室に戻って着替える。着替えると言っても制服なのだが。皆が休日に着ているような服は持っていない。あるのは制服と軍服、ジャージに戦闘服のみだ。生活に支障はないため問題はないだろう。さて、食堂に行こうか。
食堂に着く。今日の朝食はパンにソーセージ、サラダとゆで卵といったいつものだ。ちなみに私もラウラも固ゆで派である。異論は認める。半熟も気分次第で食べるからね。
パンを切り、断面にバターを塗ってサラダとソーセージ、薄く切ったゆで卵を乗せる。それを挟み、口にする。やっぱり美味い。流石IS学園。最近私達のを真似たのか、同じように食べる人をよく見かける。その気持ちはよくわかる。美味そうだからな。コーヒーを飲んで席を立つ。
午前中はガレージにいた。ラウラの88mm砲弾と私の80口径弾を作るためだ。通常弾と徹甲弾は本国から送られてきているものの、それ以外は自作する他ない。製作には設計図が必要なので、それぞれのものを書くのに半日要した。その甲斐あって問題なく作れそうだ。今日はやらなければならないことが夜にあるため、早めに終わらせられてよかった。
午後は音楽と訓練で終わった。1630までは体を動かし、それからは1800まで誰も来ない音楽室で私がピアノ、ラウラがバイオリンで遊んでいた。夕食を食べてこれからのことを再確認する。これから、私はデュノア社の社長つまりシャルロットさんの父親である、リアム・デュノアと話すのだ。要件はもちろんシャルロットさんのこと。しかし、リアムか。意味は『揺るぎない庇護者』や『強い意志を持つ』だったな。名前負けしていないのなら、何故シャルロットさんをIS学園に送ったのか予想はできる。ラウラにはハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地のブルーノ中将に私からの伝言を伝えてもらうことになっている。行動開始は2130。日本との時差はどちらも8時間なので、向こうは1330だろう。
さて、時間だ。正規ルートではただの子供である私が社長と話すことなどできるはずがないので、非正規ルートを使うしかない。既にルッツに教わったハッキングでリアム・デュノアのプライベートの電話番号を手に入れている。
番号を打ち、回線を数ヶ所経由させることで逆探知されにくくする。もっとも、もし察知された時のためにこの電話はすぐに捨てるが。
数コールなった後、男が電話に出る。
「・・・誰だ」
「こんにちは、リアム・デュノア。ご機嫌いかがでしょうか?」
変声術を使って声を高くし、フランス語で会話する。2年前から少し勉強したため、かなり流暢になったと思う。
「何者だ?私は君の番号を知らない。名前は?」
「そうですね、とりあえずはトルディとでも名乗っておきますね」
「何の用だ、トルディさん。知っているとは思うが、私は忙しいんだ。いたずらならさっさとやめろ」
「貴女の娘の件です」
リアム・デュノアは息を呑み、黙る。
「・・・私には娘などいない」
「声が震えてますよ。無理をしなくていい。私は知っている。貴方は愛故に、守るために行動した。違いますか?」
またもや黙る。気持ちはわかるが。
「別にカマをかけているわけじゃありません。この会話も簡単には傍受できないようにしてあります。正直になったらどうです?」
「・・・はぁ、君は本当にお見通しなんだな」
諦めた声で言う。どこか、あの時のシャルロットさんに似ていた。
「別に言いふらそうなんて考えていませんよ。ただ、知りたいだけです」
「知りたい?何をだ」
「貴方の名前に偽りないのなら、貴方は娘を守るために手を尽くした。それが、たとえ会社を潰すことになろうとも」
「・・・そうだ」
「貴方は娘に愛していることは伝えても、それ以外は伝えなかった。いや、伝えられなかった。言い方は悪いですが、貴方の奥様のが接触させなかった」.
「そうだ」
「しかし、今の世の中の風潮と娘の母親のこと、つまり愛人をもっていたことに対する後ろめたさ、そして政略結婚であったということから、奥様に逆らえなかった」
「・・・」
「だから何も言えずに送り出した。少なくとも娘に3年間は幸せに暮らして欲しいから」
「・・・ますます君が何者なのかわからなくなってきたよ。だか、どうしろと?君が言ったように、私の会社への発言力はないと言っていい。会社だって彼女の親がいなければここまで大きくはならなかった。どうしようもないんだよ」
「質問します。貴方は奥様を愛していますか?」
「その質問は意味があるのか?」
「愛していますか?」
「・・・いや、私が愛したのはシャルロット達親子だ。あいつには悪いとは思うが、嘘はつけない」
「奥様に何があっても娘を助けたいですか?」
「当たり前だ!」
「なるほど。ではこれから私は貴方の娘さんを奥様から解放するために動きます。その際、奥様のことを考慮はできません。覚悟してください」
「ま、待て!シャルロットを救えるのか!?」
「できなければ言っていません。奥様には地獄を見てもらうことになりますが」
「そ、それはあんまりでは・・・」
「私は私にできることをするだけ。私にはそれしか方法が思いつかないし、私以外でも出てこないでしょう」
「し、しかし・・・」
「奥様より娘が大事だと言ったのはリアム・デュノア。貴方です。一度言ったことには責任を持っていただかないと」
「・・・わかった」
「よろしいのですね?」
「ああ。シャルロットのためだ。娘に危害はないだろうな?」
「私の見立てでは、ありません」
「そうか・・・」
「では、さようなら」
電話を切る。さて、本番はこれからだ。ラウラは頼んだ通りにブルーノ中将と話している。肩を叩いて電話を代わってもらう。
「お久しぶりです。ブルーノ中将」
「お、おお。フェルトか。お前、ラウラちゃんが言ってたことは本当か?」
「はい。嘘はありません」
「んで、お前はそれをどうにかしたいわけか」
「はい。協力してはくれませんか?」
「・・・珍しい息子からのお願いだ。協力するのも吝かじゃないが、無報酬というのもなぁ、味気ないものだと思わないか?」
ああ、あれをやれと。
「お願いします。お父さん」
「おっしゃ任せとけ!!!」
このノリ、久しぶり。
やることはやった。あとは待つのみ。他力本願だとか言われるかもしれない。実際その通りだ。発案は私だが、一番重要なところはブルーノ中将達ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地の家族に任せきりだ。上からの仕事は少ないと言うが、それでも仕事がないわけではないし、ブルーノ中将に至ってはドイツ国内の男性を纏めなくてはならない。忙しくないはずがないのだ。この大きな借りは、近いうちに倍にして返そう。
ラウラにリアム・デュノアとの会話の内容を伝えてから、緊張から脂汗をかいてしまったのでシャワーを浴びる。体を流れていく温水が心地良い。頼んだことが終わるのはいつになるかはわからない。明日かもしれないし、1年後かもしれない。待つしかない自分に嫌気がするが、頭を振って切り替える。
体を拭いてジャージに着替えて部屋に戻る。ラウラは昨日いつもより遅かったためか、既にベッドに横になっている。髪を乾かし、私も自分のベッドに横たわる。物足りないが、起こしてしまうのも気がひける。明日もあるのだ。すぐに寝よう。
シャルロットの父親の名前が原作で出てきたかわからないので、オリジナルにしてみました。