ごめんなさい。でも、こうしないとネタがないんです。
何か思いついたらやります。
時が経つのは早いものだなとしみじみと感じている。
毎日を面白おかしく過ごしていくうちに、私は12歳になっていた。
6歳で保護されてから6年。人生の半分を軍で過ごし、その人生は、ほとんどが銃に費やされていた。
私としては、今が昔では考えられないほどに楽しいので構わないのだが、多くの男性軍人がかわいそうだと思っているらしい。
だからかは分からないが、軍人として必要でないことまでたくさん教えてくれた。
読書の楽しさや裁縫のやり方、音楽を特に教わった。
中でもピアノとチェロにハマった。
チェロを教えてくれたのは同じ小隊所属のベネディクトさん。
「ガキの頃は音楽家になるのが夢だったんだ」
と言って、懐かしそうに演奏してくれたのを覚えている。
チェロの優美で落ち着いた、柔らかな音色に心惹かれ、すごいすごいと喜んでいると、
「待ってろ」
と一言置いて、2日間の休暇を申請して駐屯地を後にした。
帰ってくるやいなや、ほら、とチェロを渡してきました。
「やるよ」
「い、いきなりですね。いいんですか?」
「いいんだよ。もう売っちまおうかって思ってたところだしな」
ベネディクトさんは、親子揃ってチェロを弾いていたらしい。3日前に弾いていたのは父親の遺品らしく、子供の頃に使っていたものが実家に残っていたが、弾く人もおらず、それならばと持ってきたようだった。
「俺が親父から受け継いだように、息子みたいなお前にやるのもいいかと思ってな」
と、はにかみながら言った。
それから、夜の1時間、毎日教わった。音の世界を、この時初めて体験した。
一曲をソロでなんとか弾けるようになった頃だっただろうか。他部隊の人が聞いてきた。
「チェロを毎日弾いてるんだって?」
「ええ、そうなんです。ベネディクトさんに毎日教えてもらっているんです。それがどうかしましたか?」
「そうか、、、よし!ちょっと着いてきな」
そう言って、私は困惑しながらも、着いていった。その人は、今までの6年間で、他の人と比べるとあまり接点がない人だった。
「ここだ」
そう言って指し示したのは、普段はあまり使われていない倉庫だった。ここにはよく壊れたなどの理由で使われなくなった部品が置かれていると聞いたことがあった。
はて?ここで何をするのかと思い、聞いてみても
「ま、そのうちわかるさ」
とはぐらかされた。
扉を開けて中を覗くと、やけに掃除が行き届いている。迷いなく進んでいく男を見失わないよう、着いていく。
そこには、ピアノがあった。
「アップライトピアノと言ってな、他にもグランドピアノやら種類があるんだが、、ま、取り敢えず聴いてくれねぇか」
と言って、おもむろに手を鍵盤に伸ばし、力強く叩いた。
ビクッとしたのはそこだけだった。繊細なタッチで一音一音を奏でていく。音を出しているだけではない。音に命を吹き込んでいるのだ。と素人ながらも思った。
時間を忘れていた。いつのまにか演奏は終わっており、男は不安げにこちらを覗き込んでいた。
「なんと言えばいいのか、うまい表現が出てきませんが、、美しかった。うん。よかったです」
そっか、と満足げに呟き、男は手を下げた。
あっ、、思わず声が出た。男は首をかしげる。
「もう一曲、、弾いてもらえますか?」
ダメかなぁ、なんて思いながらきいてみる。男は嬉しそうに笑って、おう、と一言。鍵盤に手を置いた。
「さっきの曲、なんていう曲なんですか?」
「ショパンの幻想即興曲」
短く答え、弾き始めた。
日はもう、暮れていた。
それから、昼にピアノ、夜にチェロを教わるようになった。
どっちがいいかを二人が争ったこともあった。双方ナイフを取り出し、ゴム弾で撃ち合う。私はオロオロしながら見ていたが、他の人達はどっちが勝つかを予想し、賭けをして、私が仲介に入って引き分けに賭けた人が勝った。
幻想即興曲を聞いたのは、その時が最後だった。殉職したわけではない。ピアノを教えてくれたあの男は、軍を辞めたのだ。
辞める前日まで私にはそのことを教えてくれなかった。
「言ってなかったが、明日、俺は軍を抜ける」
と満足げに、でもすこし寂しそうに言った。
言葉が出なかった。
幻想即興曲を聴いたあの日から、私はメキメキ上達していった。全部あの男のおかげだった。
何の感謝も出来ないまま別れるのは嫌だった。
翌日、最期の時、私はピアノの前に座っていた。
何となく、あの男は来る気がした。
扉の開く音がした。
私は、一曲、弾いた。
別れの悲しみを音に乗せ、どうか届けと、一生懸命弾いた。
私の知る中で、最も美しい曲。
偶然にも、ショパン。別れの曲。
泣いていた。いつの間にか。
弾き終わった。涙は止まっていた。
男はいなかった。
私は満足だった。
私は少し、大人になった気がした。