『トーナメントは事故により中止となりました。ただし、今後の個人データ指標と関係するため、全ての一回戦は行います。場所と日時の変更は各自個人端末にて確認の上行動してください』
食堂から夕食をもらってきて医務室で食べていると、備え付けのテレビから流れてきた情報である。
あの事件の後、私は教師達から事情聴取されていた。終わった時には食堂終了ギリギリになっていたので、せっかくなのでラウラと食べることにしたのだ。
今回の一件でハンブルクの研究所や格納庫群、黒兎隊にも強制捜査が入ることになった。その首謀者は私が動けなくしたためすぐに捕らえられ、尋問にかけられていると連絡があった。私がある意味殺したことで一時的にショックからかjaかneinでしか答えられなくなっているが、山ほど条約違反の研究資料が出てきたため問題ないそうだ。ちなみに、シュヴァルツェア・レーゲンはコアが無事だったので、予備パーツで対処できるそうだ。良かった。
「ああ、ヴァルター。やっぱりここにいたか」
織斑先生が医務室の扉を開けて入ってきた。
「今日から男子大浴場が解禁となる。といっても、ボイラーの点検が予定より早く終わったから今日だけは男子に使わせてやろうというだけだがな」
「了解しました」
ん?ということはあの2人はどうなる?
電話で聞いてみたが、どうやら弟君だけ使うようだ。
織斑先生が去った後、私は医務室を後にする。ハーデン=ヴュルテンベルク駐屯地に被害がないかを確認するためだ。時刻は2130。ちょうどいい。
「おう、フェルト。そっちは大変な騒ぎみたいだな」
「ブルーノ中将、そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ。俺達はISとはお前の専用機と武装の設計以外は何も関わってないからな。強制捜査に入られてもやましいものもない」
「なら良かった。というか、やっぱりあの設計はみんなの仕業でしたか」
「まあいいじゃねえか。お前向きだろ?そうだ、俺からも伝えなきゃならないことがあったんだ」
「もしかして終わりました?」
「おう。駐屯地総出で調べ上げたぜ。これで十分だろ」
「はい。では、後はこちらで。ありがとうございました」
「なに、家族の頼みだ。あいつらも頼られて嬉しそうだったよ。俺としても気になってたからな」
ここからが大変だ。ブルーノ中将との会話もそこそこに、種明かしの準備をする。自分の身柄は使わず、あくまでも1人のやけに顔のきく人間であるフェルテン=ヴァルターとして動こう。
私がやっていたことを話そうか。簡単に言えばデュノア社の実権をデュノア夫人からリアム社長に戻し、その際にデュノア夫人の悪業のことごとくをリークして完全な悪に仕立て上げ、リアム社長とシャルロットさんに非がないことにするために動いていた。
シナリオとしてはこうだ。どこかの誰かがデュノア社長夫人の賄賂や開発費の横流しなどの情報を各メディアに確かな証拠と共に流し、それによる第三世代ISの開発の遅れや信頼の損失などの悪評を全て社長が被らされていると発表。不自然だと思える程リアム社長擁護に走る男性世論とそれに同調する良識ある女性達。女性権利団体といえども大衆のほとんどを敵に回すことになったデュノア夫人を庇うことはできず、完全な被害者と認識されたリアム社長と、どん底にいながらも彼が守ろうとしたシャルロットさんは大衆の意思もあって、性別を偽ったことに関わる全ての罪を無罪に等しい形で判決を受ける。デュノア社は第三世代ISの開発に3年の猶予をフランス政府から与えられ、シャルロットさんは確かな実力を持って代表候補生となっていたことから国のために躍進するよう言われるが、それらの基準はかなり甘いものだった。
私がしたことは情報を集めてリークし、簡単に世論を誘導することだけだ。だが、男性操縦者という特異な存在が今回の件に大きく関わっていることを知られるとデュノア社にも迷惑がかかる。主に私と接触する機会を私達にも与えろなどの要求で。そのため、私は自分を完全に隠した上で行動しなければならなかった。複数回線を経由することは勿論だが、リークする対象も慎重に選ばなければならなかったし、もしも逆探知された時のためのダミーも多く作っていた。よって時間がかかり、事前に準備は万端な状態にしていても一晩かかったのだ。
時差を考えると、ちょうど昼のニュース番組で速報が流れたのだろう。海外のSNSなどはデュノア夫人の不祥事のこと一色だった。
これは、犯罪なのだろう。疑いようがない。だが、やった。やってしまった。ドイツ連邦軍人がフランスの一企業に真っ黒な手段を使って肩入れをした。それだけでも相当なものだし、その軍人が世界で2人しか確認されていない男性操縦者なら尚更だ。自分でも驚いている。私はこんなにも直情的であったのかと。
日本時間で0500の朝一のニュース番組でもそのニュースは大々的に報道されていた。シャルロットさんには事前に女子生徒として学園で生活するための準備をしてもらってある。今日は流石に走らない。パンとコーヒーを腹に入れ、弟君とシャルロットさんの部屋に行く。ノックすると、眠そうなシャルロットさんが出てきた。
「なに?こんな朝早くに・・・」
「準備ができました」
私が言った準備が何か理解できずにシャルロットさんは首を傾げる。とりあえず部屋に入れてもらい、詳しく話す。
「貴女が女子生徒として生活できる用意が整いました。と言っても既に引き返せない所まで来ているのですが」
合点がいき、シャルロットさんは目を輝かせる。
「ただ、1つ貴女に伝えなくてはならないことがあります。社長夫人のことです。彼女の権威や社会的地位は完全に奪われています。本当に良かったのですか?」
「・・・うん。良かったんだ。あの人にとって僕は邪魔者だからね。初めて会った時に言われたよ。私が愛してもらえないのはお前がいるからだ!なんて」
疲れたように笑い、続ける。
「何より僕は自由になりたかった。籠の中から飛び立てる羽が欲しかったんだ。それを君がくれた。ありがとう」
眩しい笑顔を向けられる。これだけで、かなり救われた。
「私はそんな大層な事はしていません。私がしたのは発案だけで、たくさんの人の助けがあったからこそできたのですよ」
「ううん。それでも、僕は君に感謝しているんだ。いや、言葉じゃ伝わらないかな。難しいね、想いを伝えるのは」
「・・・はい。本当に」
シャルロットさんが頰を膨らまし、不機嫌なオーラを出し始めた。なんだ?私が何かしたか?
「その敬語をやめてよ。前からずっと思ってたけど、やっぱり距離を感じる。なんかやだ」
「そう言われても・・・」
言葉に詰まってしまう。ラウラの時は長い時間を共に過ごしていたからすぐに対応できたが、シャルロットさんとの付き合いはお世辞にも長いとは言えない。いきなりは厳しい。
後ろからゴソゴソと音が聞こえたので振り返ると、弟君と目が合った。
「んえ?なんでフェルテンがここにいるんだ?」
「シャルル君に用があって来たのですよ。これからシャルロットさんとしての新生活が始まります」
そう言うと弟君は眠そうだった目を輝かせる。
「おお!まじか!やっぱすげーよフェルテン!!やったなシャルル!!」
「すごいのは私ではありません。私の周りにいる人たちです。それに無条件でというわけにはいきませんでした」
「どういうことだ?」
「テレビをつければわかりますよ」
不思議そうにしながらテレビをつける弟君。その表情はだんだんと険しくなっていった。
「どういうことなんだ?」
「この不祥事を利用してシャルロットさんの父親、つまりデュノア社長に社長夫人から会社の実権を戻したのですよ」
「そうか。この人がシャルルを・・・って待て。ということは、今日からシャルルはシャルルじゃなくなるのか?」
「はい。織斑先生や山田先生には昨日の時点で既に伝えてあります。いきなり女子の格好をしたシャルル君が教室に来ても混乱を招くだけなので、転校生のような扱いになりますが」
「そっかぁ・・・」
感慨深そうに窓の外を見る弟君。きっと今までのシャルル君との生活を思い出しているのだろう。
「では、シャルロットさん。貴女は今日から女として学園生活を送るわけです。準備をしておいてください。先生方への連絡等は私がやっておきますので」
そう言って部屋を出る。まだまだ忙しいな。
かなり無理矢理なんです。シャルロットの問題解決の裏事情なんてわからないし、自分が書いた解決策だって穴だらけ。タイミングも最悪。VTシステムという条約違反に加えて正規軍人の大罪。考えれば考えるほどおかしな点が出てきます。ですが、まあ所詮創作だし?と簡単に受け入れてくだされば幸いです。