朝一に先生方に話をつけに行ったところ、織斑先生等一部の教師達は初めからシャルル君がシャルロットさんであることに気がついており、いつかくるであろうバレる時に備えて準備も行なっていたらしく、予想以上にスムーズに事は運ばれ、0720には生徒に話すだけとなった。どうも裏で何かが動いている感じがするが、追求したところでわかるはずもないため、放っておく。それより、今は朝食を食べに行くことが先だ。もう時間がない。
廊下を走りと歩きの中間くらいの速さで移動して食堂に着いた。ラウラは元気になったらしく授業にも参加するようなので先に食べてもらい、教室で待ってもらっている。手早く食べられるサンドウィッチとコーヒーを頼み、3分で胃に押し込んで終了。これならば確実に間に合う。だが、私が出て行く時に入ってきた弟君達は間に合うのだろうか。
予鈴の5分前に教室に辿り着き、隣の席にラウラが座っていたことに安堵を覚える。事情聴取は既に昨日のうちに終わっており、ある特殊な事情から私とラウラは傷の治りが早いため、昨日の負傷も特に問題はないのだろう。私に気がつくと、柔らかい笑みを向けてきた。
「Guten Morgen.フェルト」
「Guten Morgen.怪我はもういいのか?」
「ああ。まだところどころ痛むが問題はない。フェルトこそどうなのだ?クマが酷いぞ?」
「昨日紫の件で徹夜してな」
「ということは今日から女として動くのだな?」
「そうなっている」
「み、みなさん、おはようございます・・・」
ふらふらと疲れた顔をした山田先生が教室に入ってくる。事情を知っており、かつ深く関わっているため、申し訳なさでいっぱいになった。
「今日は、ですね・・・みなさんに転校生を紹介します。転校生といいますか、すでに紹介は済んでいるといいますか、ええと・・・」
既に2人の転校生が来ているため、また新たに増えることに驚きを隠せないクラスメイト。安心しよう。数は増えない。
「じゃあ、入ってください」
「失礼します」
ハキハキとした声が教室に響く。
「シャルロット・デュノアです。皆さん、改めてよろしくお願いします」
スカート姿のシャルロットさんが礼をすると、何故か私とラウラを除いたクラス全員が礼をし返す。何故弟君まで礼をしているのだ。
「ええと、デュノア君はデュノアさんでした。ということです。はぁぁ・・・また寮の部屋割りを組み立て直す作業がはじまります・・・」
お手数おかけして申し訳ありません。
「え?デュノア君って女・・・?」
「おかしいと思った!美少年じゃなくて美少女だったわけね」
「そういえば、今朝のニュースでそんなこと言ってたような気がする」
「って織斑君、同室だから知らないってことはーー」
「ちょっと待って!昨日って確か、男子が大浴場使ったわよね!?」
教室が一瞬で喧騒に包まれ、全員の目が私と弟君に集中する。誤解を解くために説明しようとすると、
「一夏ぁっ!!!」
鈴さんが現れた。嫌な予感がしたので、ラウラと共に教室前方へ急いで移動する。
「死ね!!!!」
ISアーマーを展開し、フルパワーで両肩の衝撃砲の溜めに入る鈴さん。非常にまずい。
「ラウラ!ワイヤー!」
指示を出すが早いか、甲龍の四肢を4本のワイヤーブレードで拘束し、抵抗される前に私が開けた窓から砲弾を逃がす。瞬きをすれば見逃すほどの時間で行われたことに鈴さんは目をパチクリさせ、訳がわからないといった形相だ。
「鈴さん」
なかなかに低い声が出た。
「6面を壁に囲まれ、逃げ場などない場所でIS兵器、それも空間圧兵器を使用するとは何を考えているのですか。貴女の行動は、最悪全てを吹き飛ばしていたのですよ?この教室にある命さえも。そして篠ノ之さん、剣を抜かないように。貴女は彼を殺す気なのですか?」
どこから出したのか、弟君に向かって剣で斬りかかる篠ノ之箒を、剣の側面を抜いたナイフの背で叩くことで斬撃を逸らし、斬り返される前に篠ノ之箒の膝を裏から蹴ることで曲げ、その際に切っ先が下を向いた剣の背を踏むことで黙らせる。鈴さんは自分がしたことがどれだけまずいことかを理解したのか、顔が青くなっていった。この2人には罰がいるな。
「無許可でISや武器を使用したことを謝罪します。そうしなければ一般生徒にも被害が及ぶ可能性がありましたので」
「い、いえ、そんな。助かりました」
ラウラが山田先生に謝罪するが、どうやら許してくれるようだ。
「昨日大浴場を使用したのは織斑君のみです。私とシャルロットさんは使用していませんので」
「なんだぁ」
そう言うと、とあっさり引いていく喧騒の波。
「さ、サンキュー、ラウラにフェルテン。助かった」
「構わん。貴様も物事ははっきりと言え。自分の身がかわいいのならばな」
「き、肝に命じます・・・」
その後、様子を見に来た2組の教師に事情を説明して鈴さんを引き渡してホームルームは終了。通常授業に入った。ちなみに、これは放課後に知ったことだが、鈴さんには2週間の教室掃除が、篠ノ之箒には剣の一時没収と3日間の教室掃除が課せられた。やはり罰が軽い気がするな。
「ああ、ヴァルターとボーデヴィッヒ。ちょっと待て」
今日の授業は全て終了し、ラウラとアリーナで日課をこなそうかと教室を出ようとした時に、織斑先生に呼び止められた。
「なんでしょうか」
「お前達今日から部屋別になるからな」
「・・・ああ、シャルロットの件ですか」
「そうだ。ヴァルターは一人部屋で、ボーデヴィッヒとデュノアが同室になる。一人部屋は1001号室、2人は1002号室だ」
「部屋の大きさから考えて普通逆では?」
「角部屋の方が目立たないからな」
「なるほど、了解しました。では、すぐに移動しますね」
部屋が分かれてしまうのは少し寂しいが、仕方がないか。
そこは、奇妙としか言いようがない部屋だった。部屋の至る所に散らばった機械の部品に、樹海のように広がるケーブル。その上を機械仕掛けの動物が闊歩していた。地面に転がるボルトやナットをカリカリと齧り、不要な部品を識別、その構成要素を分解して吸収、別の形状へと再構築する動物は世界をひっくり返して探してもここにしかいないだろう。ここ、篠ノ之束の秘密ラボにしか。
暇つぶしに始めたミクロサイズのIS模型作りは既に終わり、表面上はだらけたようにしている。
大好きな唯一の友人と愛しの妹と話すことができた今日、彼女の機嫌は最上であった。
「あ、そーだ!」
その上機嫌の延長か、端末を取り出して高速でタップする。鳴るコール音から、どこかに電話をするのだろう。
3コール待って、プツッと音がする。
「あ、もすもすひねもすー?」
「・・・Wer sind Sie?」
ドイツ語だ。意味は『あなたは誰ですか?』それも初対面の人に向けたような言い方。
「んもぅ、わかってるくせにぃー」
「何の用ですか、篠ノ之博士」
「んー?私なりの優しさかなぁ?」
「貴女の優しさに触れるとは。明日は矢の雨でも降るのでしょうか」
「降るわけないじゃん。馬鹿なの?」
「貴女と比べれば人類皆馬鹿ですよ」
「あっそ」
「で?貴女の優しさとは?」
「ん?ああ、君が潰そうとしている研究所、もう潰しちゃった。もちろん死者はいないからね」
「そうですか。ありがとうございます」
「はっはー。崇めよ!赤子の手を捻るより簡単だったさ!てかさ、ちーちゃんにも言ったけど、赤子の手を捻るのって結構大変じゃない?」
「少なくとも大人の手よりは大変だと思います」
「あ、やっぱり?んじゃあ私の用は済んだから、まったねー!」
通話を切ると、端末をどこかへ放り投げて歩き出す篠ノ之束。その顔は期待に満ちていた。
またねって・・・嫌な予感がするな。