さて、日曜日の朝である。朝食は済ませ、約束の時間まで残り数時間となった時。私は巨大な壁に激突していた。
着ていく服がろくにないのだ。私が持っている服は全て日本に持ってきてはいるものの、数がない。軍服に戦闘服、制服。あとは昔仕事で使った後もらったものだけだ。ラウラやシャルロットは制服で問題ないが、私はそうはいかない。世界で2人しかいないISの男性操縦者なのだ。顔はあまり知られていないが、IS学園の制服を着ていては流石にバレる。どうしようか。
コンコンコンッ
扉がノックされる。シャルロットだろうか。
「開いてますよ」
「や、フェルテン」
シャルロットとラウラが入ってきた。制服で。
「ねえ、フェルテン。1つ聞きたいんだけど」
「なんだ?」
「服って・・・」
「軍服かジャージ以外ろくにないぞ」
それを聞いた途端、額に手を当てて下を向くシャルロット。
「どうしてフェルテンもラウラも服を持っていないの・・・?」
「「必要ないからだ」」
揃って言えば、頭を抱えて大きな溜息をつく。
「・・・ん?フェルト。私はともかく、お前は何着か持ってなかったか?」
「一応仕事でもらったものが3着ある」
「・・・じゃあもうその中から何か着てよ」
「わかった」
廊下ですれ違う人の視線が痛い。どうして穴が空くほど見てくるのだ。おかしな格好ではないはずだぞ?
「フェルト、なかなか似合っているではないか」
「ラウラは見たことなかったか?」
「その服を使った任務では別班だっただろう?」
「そうだったか」
私が今着ているのは、昔要人警護の任務で着た黒いスーツだ。ネクタイは暗めのグレー。髪を2つで結って根元を編み込んでいる。これはラウラがやった。
・・・やはり見られている。そんなにおかしいか?
用意があるので先に行ってたもらったシャルロットが正門前で待っていた。
「シャルロット」
呼ぶと、シャルロットは振り向いて目を見開く。そろそろその反応は見飽きたぞ。
「・・・」
「おい、シャルロット。何故黙る」
「・・・ふぇ!?あ、ごめん!」
ラウラの言葉にビクッと反応するシャルロット。
「なんだ、どうした?」
「えっと、似合いすぎててびっくりしちゃって・・・」
・・・そんなこと言われても困る。
私が着ているのは、要人警護の任務で着たシンプルな黒スーツだ。ネクタイは息苦しいので着けていない。3着の中で最もましなものを選んだつもりだ。神父服と白スーツ、黒スーツなら当然黒を選ぶだろう。それにしても懐かしいな。神父服なんか特に。
それから恥ずかしくなったのか頰を赤らめ落ち着きがなくなったシャルロットと、自慢げに胸を張ったラウラ、2人の反応に困惑する私が並んだ。学園の正門前で。異様な状況だな。
「とりあえず行こう」
「・・・そうだね・・・ってどこ行くの?」
駅の方ではなく駐車場に歩みを進める私とラウラを見て言うシャルロット。
「そうか、シャルロットには言っていなかったな。着いてくればわかるさ」
さて、久しぶりの登場。私の愛車であるアウディだ。暇な時間を見つけては洗車していたため、ボディは新車のように輝いている。
鍵を開けるとするりと助手席に座るラウラ。今思えば、フランスで行動した時以外、アウディの助手席に座ったことがあるのはラウラだけか。
「どうした、シャルロット。早く乗れ」
ラウラが助手席の窓を開けて言う。
「・・・これは?」
「私の車だ」
「免許は?」
無言で見せれば、
「・・・もう驚かないよ」
と言って後部座席に座った。どうしてそんなに疲れているんだ?
何か買うならレゾナンスに行けと言われて入学前に行ったことがあるため、道はわかる。そこそこの距離があるが、所要時間はせいぜい30分程度だったな。にしても、左側走行には慣れない。左ハンドルに合わないな。
駅前にある大きな建物の、ドイツよりも狭い駐車スペースに周りの車を真似てバックで駐車して買い物を開始する。意外と1発でいけるものだな。さて、水着を買うのだったか。
「ほう、なかなかに広いな」
「そうだな。だが、警備やテロ対策が甘すぎないか?」
「同感だ。盗難防止に力を入れるのはいいが、そこにばかり目を向けるのは駄目だな」
「2人は何の話をしてるのさ・・・」
「ん?ああ、すまんな。癖みたいなものなんだ」
「癖って・・・そっか、2人は軍人さんだったね」
ラウラ、私、シャルロットの順に並んで大きな通路を歩く。IS学園の制服は目立つのか、すれ違う人はほぼ全員が私達を見ていた。
「ねえ、見て。IS学園の制服!」
「うわ、本当だ!エリートじゃん」
「しかも美人〜。天は二物を与えすぎじゃない?」
「あのスーツの人もいい!」
「できる女って感じ!」
「「ぷっ」」
ラウラとシャルロットが吹き出した。なんだよ、やっぱり私は女に見えるのか。身長が180cm近くあるんだぞ?どうしてそう全員が間違える?こら、2人とも。そろそろ笑うのはやめてくれ。
水着売り場に到着して、2人と別れて適当に選ぶ。女尊男卑の煽りを受けてか、男物の数が非常に少ない。
「お客様、女性用はあちらですよ?」
・・・もういい。もういいさ、畜生が。でも、これだけは言いたい。
「Fick dich!!」
「・・・?お、お客様?」
「ああ、失礼。なんでもありませんよ。今は知人の物を選んでいるんです。向こうには後で行きますので」
「そうですか。では、引き続きお楽しみください」
変声術を使って声を高くして女性になりすます。考えてみれば、女に見られるのは悪いことだけではない。実際偉いわけでもないのに男を見下している、愚かな女を簡単に避けることができるのだ。これを使わない手はない。
黒に緑のラインが入っており、自分のISスーツに似た水着と主に傷を隠すために同じデザインのラッシュガードを購入してベンチに座る。女性の買い物は長いと聞くが、どれほどなのだろうか。
・・・気づいていないふりをしていたが、無視しきれない。何故柱の陰にセシリアさんと鈴さんがいるんだ?動きからして誰かを追っているようだが・・・関わらない方がいいか。乗り気なのは鈴さんだけのようだし。
「ラウラは水着に何か希望はある?」
「動きやすければなんでもいい」
「そうじゃなくて・・・」
ああもう、なんでラウラはこう無頓着なのかなぁ。見た目は本当にいいんだから、おしゃれすれば輝くのに。
「動きやすさ以外は?」
「・・・・が・な」
「ん?」
「フェルトが気に入ってくれるようなかわいいのがいいかな」
悪戯っ子のように、それでいて困ったように笑って言うラウラに、思わずときめいてしまった。こんな子に愛されているなんて、フェルテンは幸せ者だ。羨ましい。
「わかった!じゃあ、うんとかわいいのを選ばなきゃね!」
「あ、ああ。よろしく頼む」
楽しくなってきて、それに伴ってテンションが上がってきた。ラウラが若干引いている気がするけど、気にしない。
広い水着売り場を網羅するには時間がかかり、まだ半分も見れていない。そうだ、自分のも買わないと。
「Fick dich!!」
・・・びっくりした。なんだろう?
「フェルトの声だ。どうしたんだ?」
「え、今のフェルテンの声なの?」
「ああ。変声術で声を高くしているが、間違いない。フェルトのことだから問題はないだろうが、少ししたら行ってみるか」
声がした方向を見つめながら言うラウラ。どうしてわかるんだろう。やっぱり、愛の力とかかな?
ズキンッ・・・
まただ。痛いなぁ。
40分経っても2人の買い物は終わらないようだった。いいかげん待つだけも退屈になってきので、ラウラに本屋に行くことを伝えるため、端末を取り出す。
「フェルトか、なんだ?」
「そっちはまだかかりそうか?」
「ああ。シャルロットがやけに張り切ってな。暇ならお前も・・・ん?なんだ、シャルロット・・・わかった。すまんな、もう少しかかりそうだ」
「そうか。なら私は近くの本屋にでもいるよ」
「待たせてすまんな」
「いや、いいさ」
通話を終了する。さて、いろいろ見て回るか。