銀色の二重奏   作:乱れ咲

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天災

校外実習2日目の0500。私は1人、四方を崖に囲まれた、ドーム状の空間にいる。今日明日と学年全員でISの装備試験をする場所だ。昨日の夜、2度目の風呂から帰った時に織斑先生の許可を得てこうして立ち入っている。その理由は、

「フェルト、そろそろ着くはずだ。見えるか?」

「んー・・・ああ、見えました。バルベ級多目的揚陸艦で合っていますか?」

「そうだ。それに今回の試験・追加装備が積まれてある。今回の設計には俺たちもかなり関わったぜ」

私の試験装備にかなり特殊な事情があるからだ。VTシステムの一件以降、ハーデン=ヴュルテンベルクの皆がドイツ連邦軍に直談判し、ドイツ国内で最も力のある軍人であるブルーノ中将の部隊の意見を無視することもできず、私の装備は全てブルーノ中将の影響下にて製作されることになったのだ。ラウラのものも一緒に管理しようとしたらしいが、ハンブルクの研究所は軍と密接な関係にあり、いきなり大きく変革することはできないと言われ、渋々引き下がったらしい。

「訓練後にもかかわらず、わざわざありがとうございます。ヨアヒム中佐」

「なに、こんくらいお安い御用よ。じゃあ、またな。そろそろ夏季休暇だろ?帰ってこいよ。皆待ってる」

「わかりました。必ず」

ドイツ連邦陸軍特殊作戦師団コマンドー中隊第一小隊の突撃番長ヨアヒムと話し、武装が入ったコンテナが陸揚げされるまで各武装の説明を受けてから通話を終了する。余談だが、私以外の小隊隊員の階級は中佐であり、全員が部隊を率いている。なんでも、昔編成されたブルーノ中将の小隊が功績を挙げ、全員がそのまま昇級した直後にISが発表され、混乱したのだとか。だからあの小隊が残っている。こんなことあっていいのだろうか。

それは置いといて。揚陸されたコンテナは全部で3つ。1つには新武器とその予備パーツ、残り2つには弾薬が入っている。武器は全部で5種類。

120口径セミオート狙撃銃(8+1発、銃剣着脱可能)

高周波銃剣(全長75cm、刃渡り60cm)

62口径アサルトライフル×2(18+1発、モデルFN社F2000)

50口径マシンピストル(追加)

67口径セミオートショットガン(追加)

以上だ。今回はゲテモノは無さそうだ。多分ヨアヒム達が配慮してくれたのだろう。安心したような、少し物足りないような。まあいい。まずはテストだ。

セミオート狙撃銃を手にとって、揚陸艦に頼んで去り際に設置してもらった的に照準を合わせる。距離は2km。スコープの倍率を調整して、狙いを定めて発砲。いつも75mmという特大弾を腕で撃っているためか、反動がかなり軽く感じられた。連射性能がリボルバーカノンとは大違いだ。マガジンが空になるまで撃ち、誤射の恐れが無いことを確認してから銃剣を着けて仮想敵と戦う。銃剣の扱いは昔ブルーノ中将に教わったことがある。感触としてはかなり良い。これなら今すぐにでも実戦で使える。

次にアサルトライフルを構える。かなりコンパクトな銃だ。室内戦では重宝するな。反動もかなり小さい。流石にマシンピストルよりは大きいが、無視できる範囲だ。これなら2丁同時にも撃てる。

それからマシンピストルとショットガンに動作不良が無いことをしっかり確認してから量子化する。弾薬もできるだけ量子化しておこう。何が起こるかわからない。備えあれば憂いなしだ。さて、時刻は・・・0800。しまった。朝食を食べ損ねた。仕方がない。コンテナにあった糧食(期限間近)を食べよう。多分、いや絶対これ駐屯地で処理しきれなかったやつだ。

 

 

 

 

 

 

それからは残った拡張領域に入っている予備のL96A1を残った的に向けて撃って時間を潰していた。どうも1900mを超えたあたりから精度が少しずつ落ちていってしまう。今後の課題だな。

10分程経った時、ライフルを構えていると、後ろから足音が聞こえてきた。軽いな。小柄で、女性だろう。足運びや気配からして、ラウラか?

「フェルト。朝食の席にいないからどうしたのかと思ったが、ここにいたのか。驚かせるな」

「ああ、ラウラ。すまない。決まった時は既に夜遅かったんだ。だが、端末にメッセージを送っていなかったか?」

「そうなのか?こまめに見る習慣がないのでな。見落としていたのかもしれない。そうだ、新武装はどんなものだ?」

聞かれたので、全部展開してそれぞれ説明する。

「120口径のセミオート狙撃銃と専用の高周波銃剣。多分F2000がモデルの62口径アサルトライフル。あとは初めから持っていたショットガンとマシンピストルの2丁目だな」

「・・・見事なまでに中距離武器が少ないな。アサルトライフルしかないじゃないか」

「まあ、何もない状態から一種類増えただけ良いさ。特に、このシュヴァルツェア・ヴォルケは間に合わせの武装しかなかったからな」

「もしもフェルトが女だったら、武装製作時間を考えて、私と同時に入学していたかもしれないな」

「かもしれない。考えられないが」

話している間に続々と集まっていくIS学園1年生達。私たちも並ぶとするか。

 

 

 

 

 

今日の予定は午前から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りとなっている。特に専用機持ちともなれば大量の武装が待ち構えているのだ。私が早朝から試験を行っていたのも、ハンブルクがシュヴァルツェア・ヴォルケ用に作っていたパッケージに時間を割かなくてはならなかったためだ。設計図や概要を聞いたところ、正直なくても良いレベルのものなのだが、だからといって突き返すわけにもいかない。

全員の前に立った織斑先生が私たちを見渡す。

「やっと全員集まったか。ーーおい、遅刻者」

「は、はいっ」

意外にも遅刻者はシャルロットである。ラウラも同室であるはずなのだが、ラウラも砲戦用パッケージを受け取るために朝は忙しかったため、知らなかったらしい。

「そうだな、ISのコア・ネットワークについて説明してみせろ」

「は、はい。ISのコアは広大な宇宙空間における相互位置情報交換のために設けられたデータ通信ネットワークを持っています。現在はオープン・チャネルとプライベート・チャネルによる操縦者会話などの通信に使われ、それ以外にも『非限定情報共有』をコア同士が各自に行うことで、様々な情報を自己進化のために吸収しています。これらは制作者である篠ノ之博士が自己発達の一環として無制限展開を許可したため、現在も進化の途中であり、全容は掴めていません」

「さすがに優秀だな。遅刻の件はこれで許してやろう」

ほっ、と胸をなでおろすシャルロット。織斑先生のお仕置きはきついからな。ドイツで嫌という程見てきた。

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

はーい、と一同が返事をして、班に分かれる。ISの稼働実験を行うので、全員がISスーツに身を包んでいた。

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

「はい」

打鉄用の装備を運んでいた篠ノ之箒が織斑先生に呼ばれて向かう。なんだろう、嫌な予感がする。それも、絶対に外さない類の。

「お前には今日から専用ーー」

「ちーちゃ〜〜〜〜ん!!!」

ずどどどど・・・と砂煙を上げながら、とてつもなく速い影が走ってくる。その影の正体は、

「・・・束」

立ち入り禁止も完全無視した、世界を狂わせた張本人であった。

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめーーぶへっ」

織斑先生は片手で篠ノ之束の顔を掴む。見事なアイアンクローだ。

「うるさいぞ、束」

「ぐぬぬぬ・・・相変わらず容赦のないアイアンクローだねっ」

完全に決まっていたアイアンクローからするりと抜けだす篠ノ之束。やはり只者じゃない。

「やあ!」

「・・・どうも」

くるりと篠ノ之箒の方を向いて手をあげる篠ノ之束に、そっけなく返す篠ノ之箒。

「えへへ、久しぶりだね。こうして会うのは何年ぶりかなぁ。おっきくなったね、箒ちゃん。特におっぱいが」

がつっ!!

「殴りますよ」

「な、殴ってから言ったぁ・・・。し、しかも日本刀の鞘で叩いた!ひどい!箒ちゃんひどい!」

頭を押さえながら涙目になって訴える篠ノ之束。この2人のやりとりをぽかんとして眺めている一同。

「え、えっと、この合宿では関係者以外ーー」

「んん?珍妙奇天烈なことを言うね。ISの関係者というなら、一番はこの私をおいて他にいないよ」

「えっ、あっ、はいっ。そ、そうですね・・・」

山田先生、ここはもう少しだけでも強く出ましょう。

「おい束。自己紹介くらいしろ。うちの生徒たちが困っている」

「えー、めんどくさいなぁ。私が天才の篠ノ之束さんだよ、はろー。終わり」

くるりと回りながら言う篠ノ之束。一同もようやく理解が追いついたのか、騒がしくなってくる。

「はぁ、もう少しまともにできんのか、お前は。そら1年、手が止まっているぞ。こいつのことは無視してテストを続けろ」

「こいつはひどいなぁ、らぶりぃ束さんと呼んでいいよ?」

「うるさい、黙れ」

「・・・え、えっと、あの、こういう場合はどうしたら・・・」

「ああ、こいつはさっきも言ったように無視して構わない。山田先生は各班のサポートをお願いします」

「わ、わかりました」

「むむ、ちーちゃんが優しい・・・。束さんは激しくじぇらしぃ。このおっぱい魔人め、たぶらかしたな〜!」

そう言って山田先生の胸に飛びかかる篠ノ之束。山田先生は当然避けられない。

「きゃああっ!?な、なんっ、なんなんですかぁっ!」

「ええい、よいではないかよいではないかー」

・・・なんだ、この茶番。

「やめろバカ。大体、胸ならお前も十分にあるだろうが」

「てへへ、ちーちゃんのえっち」

「死ね」

織斑先生の前蹴りを食らい、篠ノ之束は砂浜に頭から突っ込む。今わざと頭から入ったぞ、この人。

「それで、頼んでおいたものは・・・?」

「うっふっふっ。それはすでに準備済みだよ。さあ、大空をご覧あれ!」

嫌な予感がますます強くなった。こう、破壊をもたらすような、そんな予感が。

ズズーンッ!!!

砂浜に勢いよく落下してきた銀色の塊。正面らしき壁がバタンと倒れ、中にあったのは・・・ISだ。

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISたよ!」

真っ赤に輝く機体が動作アームによって出てくる。篠ノ之箒専用機?ISは子供の玩具じゃないんだぞ・・・と言ってもむだか。どうせ。

「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようかれ私が補佐するからすぐに終わるよん♪」

「・・・それでは、頼みます」

「堅いよ〜。実の姉妹なんだし、こうもっとキャッチーな呼び方でーー」

「はやく、はじめましょう」

「ん〜。まあ、そうだね。じゃあはじめようか」

なんとなく理解した。篠ノ之箒は姉を利用してISを作らせた。動機は知らないが、正直どうでもいい。あの責任感のない行動に腹がたつだけだ。

「箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」

コンソールを叩き、空中に6枚のディスプレイを展開して操作する篠ノ之束。追加で同じく6枚のキーボードも呼び出して叩き出した。

「近接格闘を基礎に万能型に調整してあるから、すぐに馴染めると思うよ。あとは自動支援装備もつけておいたからね!お姉ちゃんが!」

「それは、どうも」

今のうちに、ラウラ、シャルロット、セシリアが集まっているところに行って話す。

「どうも嫌な予感がする。出来るだけ迅速にチェックを済ませておいた方がいい」

「わかった。フェルトの予感は良く当たる。特に悪いことが起きる前のはな」

「わかりましたわ」

「うん。わかった」

篠ノ之姉妹をよそに作業を黙々と続ける私たち。一応会話には耳を傾けておく。

「ん〜、ふ、ふ、ふふ〜♪箒ちゃん、また剣の腕前が上がったねえ。筋肉の付き方をみればわかるよ。お姉ちゃん鼻が高いなぁ」

「・・・」

「えへへ、無視されちゃった。ーーはい、フィッティング終了〜。超速いね。さすが私」

もう終わったのか。

「あの専用機って篠ノ之さんがもらえるの?身内ってだけで?」

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

「おやおや、歴史の勉強をしたことがないのかな?有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

当たり前だ。だが、甘やかされ続けた人間の未来は大抵真っ暗だ。権力も信用も何もかも失うことが非常に多い。それも付け加えろ。

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるね。あ、いっくん、白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

「え、あ。はい」

それから少し離れたところで白式を見る篠ノ之束。流石にもう聞き取れなかった。唇を読んでもいいのだが、作業を中断したくはない。

 

 

 

「んじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃんのイメージ通りに動くはずだよ」

「ええ。それでは試してみます」

作業がひと段落したので、篠ノ之束に目を移す。すると、紅椿からプシュッ、プシュッ、と音を立てて連結していたケーブルが外れ、篠ノ之箒が目を閉じて3秒ほどすると、紅椿が飛翔した。

「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

「え、ええ、まあ・・・」

「じゃあ刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん。親切丁寧なお姉ちゃんの解説付きでね。雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣にする武器だよ〜。射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫」

篠ノ之箒が突きを天に放つと、赤色のレーザー光が光の弾丸となって漂う雲を穴だらけにした。

「次はこの空裂ねー。こっちは対集団武器だよん。斬撃に合わせて帯状の攻性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利。そいじゃこれ打ち落としてみてね、ほーいっと」

そう言ってボタンを押せば、16発のミサイルが紅椿に飛来する。それを篠ノ之箒は空裂を振るうことで全弾撃墜した。

見るからに浮かれている。与えられた力に酔っている。篠ノ之箒という人間が見えたな。ああいう人間がいろんな意味で恐ろしい。警戒は怠らないようにしよう。それに、篠ノ之束も何をするかわかったものじゃない。

「たっ、た、大変です!お、おお、織斑先生っ!」

山田先生が慌てて走ってくる。これは、何かあったな。

「どうした?」

「こ、こっ、これをっ!」

渡された小型端末の画面を見て、表情が曇る織斑先生。

「特命任務レベルA、現時刻より対策をはじめられたし・・・」

「そ、それが、その、ハワイ沖で試験稼働をしていたーー」

「しっ。機密事項を口にするな。生徒たちに聞こえる」

「す、すみませんっ・・・」

「専用機持ちは?」

「ひ、ひとり欠席していますが、それ以外は」

小声でやりとりする先生2人。そして数人の生徒に見られていると気づくと手話で話し始めた。これは異常だな。ハワイ沖ということは、アメリカか?通常兵器であったのならその場で解決するはずだ。他国に弱みを握られうることはしない。ならば、ISか。アメリカのISで、試験運用といえば候補は1機、いや、2機に絞れるな。どっちだ?純アメリカか、イスラエルか、どっちだ?イスラエルなら面倒だ。計画が進められているという情報しかない。

「そ、そ、それでは、私は他の先生たちにも連絡してきますのでっ」

「了解した。ーー全員、注目!」

パンパンと手を鳴らして生徒全員を振り向かせる織斑先生。

「現時刻よりIS学園教員は特殊任務行動へと移る。今日のテスト稼働は中止。各班、ISを片付けて旅館に戻れ。連絡があるまで各自室内で待機すること。以上だ!」

「え・・・?」

「ちゅ、中止?なんで?特殊任務行動って・・・」

「状況が全然わかんないんだけど・・・」

「とっとと戻れ!以後、許可なく室外に出たものは我々で身柄を拘束する!いいな!!」

「「「はっ、はいっ!」」」

全員が慌てて行動を開始する。その姿は、今まで聞いたことがない織斑先生の怒号に怯えているようだった。

「専用機持ちは全員集合しろ!織斑、ヴァルター、オルコット、デュノア、ボーデヴィッヒ、凰!ーーそれと、篠ノ之も来い」

「はい!」

篠ノ之箒、何故お前は笑っている。

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