銀色の二重奏   作:乱れ咲

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失礼しました


蘇生

『ギアアアアアアアッ!!!』

銀の福音が咆哮する。怒りが多く含まれたその叫びは、セシリアが聞いた機械のものとはまるで別物であった。

「……気味が悪いね」

「そう、ですわね」

「でも、そんなことで止まってられないわ」

「その通りだ。やるぞ。……散開!」

眼帯を外しながらラウラが言うと、鈴とシャルロットが前衛、セシリアとラウラが後衛の布陣で接敵する。セシリアと鈴はともかく、それ以外の連携訓練はあまり行っていない。それも4人連携などやれる機会もなかった。そのため、4人全員の息を合わせようとはせず、シャルロットとラウラ、セシリアと鈴の2人ずつ連携して挟み撃ちする戦法をとった。もともと遠距離特化の機体であったブルーティアーズと、砲戦パッケージ『パンツァー・カノニーア』を装備したシュヴァルツェア・レーゲン。しかもこのパッケージは原案から改良が加えられている。元の設計では両肩に装備したリボルバーカノンの反動が大きすぎるため空中での使用は難しかったが、爆風を逆噴射させる機構を組み込んだことで飛行時にも撃てるようになったのだ。

シャルロットが両手にショットガンを展開し、福音に向けて同時に撃つ。福音は急上昇することで面攻撃を避けるが、そこに上から鈴が双天牙月を振り下ろす。残された右腕を使って刃を受けて受け流すが、両サイドから飛来するレーザーと砲弾。しかし、当たらない。どちらか片方の直撃を受ければ堕ちてしまう程の威力を有した2つの僅かな間に身を置いてギリギリで避ける。

「なぜ満身創痍のあの機体であんな動きができますの!?」

「……手負いの獣程危ないとか、そんなことでしょ!」

鈴の放った刺突を体を回転させることで避ける福音。入れ替わるようにシャルロットが今度は両手にアサルトライフルを構えて現れる。それと同時にラウラとセシリアも狙撃を行い、逃げ場のない3点攻撃を形成した。福音はシャルロットに向けて加速し、掴みかかろうとする。それをシャルロットは物理シールドを展開することで防ぎ、できた隙をついて鈴が横から衝撃砲を放った。

じりじりと装備とエネルギーが削られていく。だが、ただでやられるほど福音は甘くなかった。4人に囲まれた福音はマルチスラスターを全力で使って高速回転を行い、残ったエネルギー翼から光弾を撃ち出して全方位に向けて弾幕を張る。

「シャルロット!」

「任せて!」

そこに物理シールドを構えたシャルロットが突撃する。みるみるうちにボロボロになるシールド。だが、そのおかげで道ができた。ラウラは弾幕がなくなった隙間を縫って福音に接近し、瞬時加速の勢いを乗せてプラズマ手刀を叩き込む。

満足に光弾を撃つ隙も与えない4人の攻撃に、福音はジリジリとエネルギーを削られていった。このままではやられると直感したのか、残ったスラスター全基を使った瞬時加速で離脱し、小島に向かう。その島は、やけに地面が荒れていた。

「っ!!あれはっ……」

4人全員が言葉を失った。何故ならその島の砂浜には、人の腕が転がっていたからだ。

「あれって……フェルーー」

「言うなっ!!!」

ラウラの悲痛な叫びが聞こえる。だが、福音は更に4人を苦しめるものを持ってきた。

「……っあ、あああああ!!!」

真っ赤に染まった男の体を、盾のように構えて出てきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗な世界にただ1人、浮かんでいた。上も下も、右も左もわからない、そんな世界。意識ははっきりしないにもかかわらず、思考はやけに明瞭な。そんな奇妙な感覚だった。

(ああ、死んだのか)

意識が飛ぶ前のことを思い出して、直感的にそう感じた。思い出すのはラウラのこと。遺してしまった。たくさんのものを貰った。それなのに、何も返せていないじゃないか。と強く後悔する。

ふと、ぐいっと腕が引っ張られた感覚があった。しかも、吹き飛んだはずの左腕が。おかしいな。

今度は何かに抱きつかれたような、そんな感覚があった。しかし、見ても誰もいやしない。この不思議な現象に首を傾げていると、いきなり抱きついている何かによって引き上げられた。もっとも、上がどこかもわからないため感覚的な理解になるが。顔を上げると、そこには光があった。いや、光なのか?眩しいはずなのに、眩しくない。もうわけがわからない。現状を把握する間もなく、私は光もどきに吸い込まれていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えないようにしていた。直視しないようにしていた。彼が死んでしまったのではないか、と。

「貴様ぁ!!!」

ラウラが吠える。あの男の体は、フェルテンのもので間違いない。そう、本能が告げていた。それを理性が必死になって抑え込む。心が壊れてしまわないように。

「許さん、許さん!許さん!!!」

ラウラが全速力で福音に向かった。それを、残された3人はただ見ているだけであった。動けないのだ。足がすくんで。体が震えて。

「あああああああっ!!!」

手首から出現させたプラズマ手刀で福音に斬りかかろうとするラウラ。だが、福音は手に入れた盾を使って攻撃させない。ラウラは、斬ろうとしても斬ることができないものを眼前に持ち出されるのだ。

ラウラは、泣いていた。涙を撒き散らしながらも戦っている。第三世代兵器であるAICも、ワイヤーブレードも全て使って。だが、攻撃などできるはずがないのだ。愛しい人を盾に使われてしまったから。

「フェルト、目を、目を開けてくれ!!!フェルト!!!」

福音が繰り出す攻撃を避けながら、ラウラは叫ぶ。必死に呼びかける。だが、そのぐったりとした体はピクリとも動かなかった。

涙で視界が閉ざされてしまったからだろうか。ラウラが福音を見失ってしまった。その一瞬のうちに福音はフェルテンを放り投げてラウラの頭を掴み、光弾を打ち付ける。残った2割にも満たないエネルギー翼から放たれる光弾は、それでも攻撃として十分過ぎる威力を持っていた。

「うあ、ああああ!!!」

ラウラは吹き飛ばされてもなお、福音に向かって加速する。福音は迫り来るプラズマ手刀を避けるために体を捻る。しかしラウラは速度を落とすことなく福音の横を通り過ぎ、投げられたフェルテンのもとへと向かった。

「フェルト!!フェルト!!」

呼びかけても、やはり反応はない。血が付くのを躊躇うこともなく抱きしめるラウラ。その後ろから福音が近づき、光弾を放とうとしていた。

「ラウラ!危ない!!」

「ラウラさん!!」

3人が叫んでも、ラウラは動く様子がなかった。フェルテンを守るように覆い被さり、うずくまる。

「ラウラァ!!」

シャルロットが叫ぶ。たとえ全速力で近づいたとしても間に合わない。もうだめだ。3人はそう思って目を瞑ったが、いつまで経っても着弾の爆発音が聞こえてこなかった。疑問に思って目を開けると、福音が地面に倒れ伏していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ぺし。ぺしぺし。

頰を何かに叩かれた。先程まであのわけのわからない空間にいたはずなのに、今は地面に横たわっているらしい。背中には固い感触がある。

ぺしぺし。

また、叩かれた。叩いているものを確認するために目を開けようとすると、ゆっくりと瞼が上がった。

少女と、目が合った。黒髪の少女。歳は12くらいだろうか。まだあどけなさが残っている、可愛らしい少女。

「あ、起きたぁ!!」

私に顔を近づけ、にっこりと笑顔を浮かべて言う少女。

「……はじめまして。君は誰?」

「ボク?誰だろうね?」

笑顔が悪戯っ子の笑みに変わった。

「ここは?」

「ボクと君だけの世界!」

「……と、いうと?」

「精神世界みたいなもの!」

なるほど、わからん。

「ま、いいや。隠すことじゃないし。ボクはシュヴァルツェア・ヴォルケのコアだよ!」

「……君は何を言っているんだ?」

「あ!信じてない!ひどいなぁ!でも、そっか。君はボクを知らないんだったね」

「……君は私を知っているのか?」

「もっちろん!ずっと、ずーっと見てきたからね!」

「……ずっと?」

「君を始めて見たのは8年くらい前かな。その時乗っていた女が大っ嫌いで、どうしたものかなー、って考えてたら君に目が合って。それだけで君に夢中になっちゃったから、女には落ちてもらったんだ!それから活動停止してたら、君が見つけてくれたし。これって運命だよね!」

目が合って?8年前、私はISなど見ていなーーいや、一度だけ見たな。確かにあれは落ちていた。

「ボクは君をずっと待っていたんだ。だから君以外は乗せなかった!ボクは君だけを乗せたかった!」

やけに熱のこもった話し方に、少し引く。

「それなのに君はボク以外の奴にも乗っちゃってさぁ。以後、気をつけるように!」

「え、あ、はい」

勢いに押された。

「ていうか、君しぶと過ぎ!死ぬ前にこっちに来てもらおうと思ったら死んでも戦うんだもん。なんであんなことしたのさ!」

腰に手を当てて、いかにも私怒ってます、と表現するコアの少女。

「援軍が到着するまでの時間を稼ぐためだが?」

「……はあ。いいよ、もう。君はそういう人だって見てて知ってたからね。で、その援軍ってこの4人?」

空に映し出されるのは、ラウラ、シャルロット、セシリア、鈴の4人。その顔は悲痛に歪んでいた。

次に福音が映し出される。私が奪った左腕はダラリと落ちており、装備もろくに残っていないようだ。だが、4人は攻撃を行わない。理由が気になったが、すぐにわかった。私の死体を盾にしている。

「……ひどい」

少女が呟く。

「……(ギリッ)」

噛み締めた奥歯が悲鳴をあげた。指は掌を貫かんばかりに突き刺さる。

「……ねえ、あの子たちを助けたい?」

「当然だ」

「そのためには何が欲しい?」

「……あれを倒すための力じゃないな。ずっと守り続けられる強さだ」

「というと?」

「決して折れず、倒れることがない。そんな強さ」

「おっけ、わかった。じゃあ、やろっか」

「できるのか?」

「うん。欲を言えば、もう少し君といたかったんだけど」

「……すまない」

「なんで謝るのさ。君は君のやりたいのとをやればいい。ボクは全力でサポートするよ。なんたって君はボクのお気に入りだからね!」

「ありがとう」

お気に入りという単語が気になったが、今聞くのは憚られる。

「うん、どういたしまして。じゃあ、いってらっしゃい」

少女に背中を押されると、世界が変わった。触覚以外の感覚が何もない世界から、現実へ。

「ラウラァ!」

シャルロットの声だ。目を開けば、眼前には目を閉じた愛しい彼女。その後ろから彼女を狙う、憎き敵の姿。

やらせない。

直後、辺り一帯が眩い光に包まれた。いや、光を放っているのは私、細かく言えば私のISだ。守るために、感覚的に手を伸ばす。すると、手首から鎖が伸びて福音を地面に縫い付けた。

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