銀色の二重奏   作:乱れ咲

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特訓

あの校外実習から数日が経った平日の放課後。私はようやく自分の時間を得ることができた。今まで、ISの第二形態移行に伴った国や研究所への対応、手続きなどに時間をとられていたのだ。校外実習での福音事件で私が死にかけたこと(一度死んだのだが、死にかけたということにしてある。私がそう頼んだ)に対する非難の声がやまないことも遅れた原因の1つだった。ちなみに、世界に2人しかいない男性操縦者が死にかけた責任として、織斑先生は半年の減給になったらしい。

私はラウラと共に第3アリーナにいた。目的はISの稼働テスト。半日学園に預けて得たスペックデータと、実際に動かしてみての差異を確認するためだ。ちなみにその時得られたデータをまとめると、

シュヴァルツェア・ヒメル(黒空)

・75mmリボルバーカノン

・120口径セミオート狙撃銃+銃剣×2

・67口径セミオートショットガン×2

・62口径アサルトライフル×2

・50口径マシンピストル×2

・高周波ナイフ×6

・シュピーゲル

・フェッセル(手枷、足枷。鎖の長さ200m。先端の刃は非固定浮遊武装となっており、自在に操れる。中距離武器。ワンオフ・アビリティー発動に必要)

エネルギー800/800

最高時速3900km/h(推定)

といったところだろうか。名前まで変わっていたことには驚いた。武装は変わらずに拡張領域が少し大きくなったため、弾薬も考慮して、あと2丁くらいなら火器を所持できるだろう。中距離武器が出現したことで全距離急襲型となり、かなり戦いやすくなった。スラスターは増設されはしなかったが、出力が格段に向上した。装甲は……腕部が薄くなってしまったが、鎖があるため問題はないだろう。

「フェルト、私の準備はできている。早くやるぞ」

「Ja」

隣にシュヴァルツェア・レーゲンを身に纏ったラウラが歩いてくる。私もシュヴァルツェア・ヒメルを纏い、2人同時に飛び立つ。稼働テストは模擬戦形式で行うためだ。

試合開始の合図が鳴る。アリーナの中央で対峙していた私たちは瞬時加速でアリーナ外縁に移動し、リボルバーカノンを展開、構えて大きなサークル・ロンドを行う。初めは遅く、だんだん加速していく。シュヴァルツェア・レーゲンが出せる最高速度に達しても、シュヴァルツェア・ヒメルにはまだ余裕があった。さらに加速する。2機の距離が目測50mとなったところでラウラはワイヤーブレードを使い、接近する私を狙ってきた。ブレードが向かうのはヒメルの四肢。必殺の威力がないために、戦闘能力を落とす目的の攻撃だ。それに応えるべく両手両足のフェッセルを操る。しかし手数や練度はラウラが上。全てを対応しきることはできないため、両手にマシンピストルを展開。弾丸で軌道を逸らして対抗する。

ハイパーセンサーが、バチバチッとラウラの手首から出現するプラズマを捉えた。反射的に高速切替でマシンピストルをナイフに替えて待ち構える。

バチチチチチィッ!!

プラズマ手刀とナイフがぶつかって火花が散る。近接格闘戦となれば、私に利がある。2丁となれば尚更だ。高速切替を駆使してナイフにマシンピストル、リボルバーによる絶え間ない攻撃を行い、ラウラを翻弄する。その甲斐あって、ワイヤーブレード3基を破壊することができた。

攻撃手段の半数を失ったことで、ラウラの手数が明らかに少なくなった。そこで、今が使い時だと判断する。両手に展開したマシンピストルで弾幕を張って目眩しをしながらシュピーゲルで鎖を隠し、シュヴァルツェア・レーゲンの足に巻きつける。数秒後、ラウラが異変に気付いた。

「……っ!?何故エネルギーが減っている!?」

それもただ減っているだけではない。ラウラにはわからないが、シュヴァルツェア・ヒメルのエネルギーが回復しているのだ。速さは10/sほど。減少量と増加量は比例している。

それからシュヴァルツェア・レーゲンとの距離を近く保ち続けてエネルギーを吸い続け、遂には0になった。

 

 

 

「フェルト、今のが?」

エネルギーを補給している間、ラウラが聞いてきた。

「ああ。ワンオフ・アビリティー『Gula(グラ、暴食)』だ。敵ISからシールドエネルギーを吸収できる」

「発動条件は?」

「フェッセルが敵に一定面積触れていないといけない。シュヴァルツェア・レーゲンの足なら2回りだな」

「鎖の射程は?」

「巻きつけることと戦うことを考えると、150mといったところだな」

「……エネルギー保有量が増え、吸収能力が発現。加えて実弾兵器のみの戦闘スタイル。継戦能力は並ぶもの無しか。弱点といえばワンオフアビリティを使うには接近するしかないが、接近戦主体にするには装甲が薄いこと、あとは鎖で自分の動きにも制限がかかりうること。随分とまあ、相手にしたくない機体になったものだな」

「鎖は慣れるほかないが、装甲はどうにもならんな」

エネルギーと弾薬の補充、破損した装備の修理が終わったため、ISを待機形態にしてからピットから出て更衣室に向かう。時刻は1740。陽はまだ落ちきっていないとはいえ、もう一戦するつもりはない。予備パーツも無限ではないのだ。今回の模擬戦で問題なく動けることは十分わかった。今日のところはここまででいいだろう。明日もまたやるだろうが。相手を変えるのもいいな。

 

 

 

 

 

場所は食堂。もはや定位置になった隅の丸テーブルで夕食を摂っていた。メニューは、パンにハム、サラダ、チーズにスープだ。パンにハムやら何やらを挟んで食べる。日本に来て最初に驚いたことは、実は夕食の豪華さだったりする。何故あんな手の込んだものを食べるのか。それも毎日。大変じゃないのか?

 

「なあ、ちょっといいか?」

食後のコーヒーを飲みながら、ラウラと私が学園を離れる数日間の訓練についての話をしていたところに、弟君がやってきた。

「どうしましたか?」

「2人に頼みたいことがあるんだ」

「それはここで話せることでしょうか」

「できればここでは話したくない」

「……場所を変えましょう」

「助かる」

彼の目はいつになく真剣だった。

 

 

 

 

 

 

「それで、頼みとはなんだ?」

私の部屋で、紅茶を淹れて出してからラウラが話を切り出した。その刹那、

バッッ!!

弟君が膝を曲げ、胴を地面と平行になるよう倒し、頭を地面に着かんばかりに下げ、その前に手を置いた。おお、この体勢はクラリッサから聞いたことがあるぞ。日本のDOGEZAというやつだ。なんでも強い謝罪の気持ちを表す行為だというが、謝られることなどあったか?

「頼む!俺は強くなりたいんだ!戦い方を教えてくれ!!」

……ほう?強く。強くか……。

「何故、強くなりたいと思ったのですか?」

「……俺は、あの時何もできなかった。箒とならやれるって、注意していた俺自身も慢心してたんだ。結果があの惨敗。俺は意識を失って、フェルテンは一回死んだ。もう、あんなことを起こさないためにも、強くなりたいって思ったんだ」

「……まあ、構いませんよ」

「本当か!」

「ええ。ただし、1ヶ月です」

「……1ヶ月?」

「その期間で貴方には最低でも自衛ができる程度にはなってもらいます。そしてヒーローのような敵を倒す強さではなく、何をしてでも生き延びる、泥臭い強さを得てもらいます」

「み、短くないか?」

「貴方は自分の立場を理解しているのですか?強くなりたいと思うのが遅すぎるほどなのですが」

「うっ……わかった」

まずは生きる意志を持ってもらう。生きていなければ何も始まらないならな。敵を倒すためにはまず自分を守ることから始めなければならないのだ。私も救助されてから少なくとも1年は自衛方法を叩き込まれ続けた覚えがある。

「まあ、私が付き合うのが1ヶ月というだけで、期間が終わっても続けてもらう必要があります」

「ああ、わかってる」

「よろしい。では、今日はもう寝たほうが良いですね。明日は0500に起きてください。0530までに動きやすい服装に着替え、身支度を済ませてこの部屋に来るように」

「5時!?」

「貴方自身が望んだことです。今更無かったことにはなりませんよ?」

 

 

 

 

 

 

 

コンコンッ

白み始めた空は今は青く、太陽が地平線から顔を出しきった頃。弟君が私の部屋の扉をノックした。ラウラはいつものごとく私と寝ていたため、この部屋にいる。扉を開ければ、眠たそうな顔をした弟君がふらふらと立っていた。

「おはようございます、一夏君。では、行きますよ」

「行くったってどこに……」

まだ眠いのは慣れていなければ当然だろうが、着いたら眠気なんか吹っ飛ぶぞ。というか飛んでもらわないと困る。

 

「「おはようございます、織斑先生」」

自身の姉である世界最強の姿を予想外の形で見れば、当然驚くだろうさ。

「ああ、おはよう」

「え!?なんで千冬姉が!?」

「織斑先生だ、馬鹿者」

初日は取り敢えず私たちのいつもの訓練に参加してもらう。ちなみに織斑先生には昨晩のうちに伝えてあり、快く引き受けてくれた。

「では、いくか」

「「はい」」

織斑先生の号令のもと、私たちは体をほぐす。弟君も首を傾げながらも柔軟を行なっていた。

誰からともなく正門前に並び、走り出す。初めは遅く(比較的)、徐々にスピードを上げていく。

「ちょっ、はやっ」

いつもの6割にも満たない速さで、弟君が脱落しかけた。ここでペースを緩めてはいけない。

「一夏君、私たちに遅れた秒数回筋力トレーニング追加ですよ」

「はあ!?嘘だろ!?」

「本当だ。ほら、食らいついてこい」

結局、弟君は1分40秒遅れ。まあ、慣れていなければこんなものか。

「3分後にトレーニングを始めますよ。ほら、息を整えて」

「む、むり……」

「無理だと言ってもやらせますよ」

それから各種トレーニングに近接格闘訓練等を行い、時刻は0630。そろそろ頃合いだ。

「朝はこれくらいですかね。午後の予定は空けておいてください。続きをやりますので」

「はぁ……ま、じで……?」

「まじです」

幸いなことに今日は土曜日。授業は午前にしかない。

「授業中寝たら罰ありますからね」

 

 

 

シャルロットの協力のもと、弟君を寝かせることなく授業を受けさせ、昼食を速やかに摂ってからアリーナに来た。ラウラは頼んだことがあるため、ここにいない。

「模擬戦でもするのか?」

「いえ、貴方は武器を使いません」

「……俺は?」

私はシュヴァルツェア・ヒメルを纏い、両手両足の合計4本の鎖を弟君に向ける。

「体捌きだけでこれから、まずは……そうですね、5分間逃げ延びてください。命中数に応じてこの後の格闘訓練の厳しさが変わります」

「えっ、ちょっと待ってくーー」

「敵が待ってくれるとでも?」

全方位から囲むように襲わせる。弟君は白式を纏って体を捻ることで回避するが、避けきれない。

バシッ、バシッ。

「2回ヒット。ほら、早く逃げてください」

 

 

 

 

 

「さて、今日はそろそろ終わりにしましょう。一夏君、お疲れ様でした」

「も、もう無理。立てねえ」

呼吸は不規則。そして荒い。身体中から汗が噴き出しており、まるで砂漠にでもいるかのようだ。いや、砂漠ではすぐに汗が乾いたな。

「夏季休暇に入るまでは私が相手をできますが、それ以降は私にも仕事があるため無理です。他の専用機持ちの方に頼んで、丸腰状態で攻撃を避け続ける訓練と各種トレーニング、近接格闘を毎日忘れずに行うように。いいですね?」

「鬼畜……」

「まだ優しいほうですが、レベル上げます?」

「すいませんでした!サー!」

「私はサーではありません。majorです」

後ろから手を伸ばし、首筋に手刀を当てる。

「夏季休暇中には、この程度反射的に避けられるようになってくださいね。できなかったらどうしましょうか」

弟君の顔がみるみる青ざめていく。さて、これからどうなるか。

 

しかし、これで良かったのだろうか。私も初めは無茶なくらい動いたが、言ってしまえばそれしか知らない。弟君にも効果があればいいのだが。

そういえば、頼んでおいたラウラのほうはどうなっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「お前は何をしている」

篠ノ之箒の部屋に入ってすぐ私が言ったことだ。

「……いきなりなんだ」

「織斑一夏は今、福音戦での悔しさから強くなるために必死だぞ。わざわざフェルトに頼んでまで特訓してもらっている」

「……私はもう、ISには乗らない」

「ならば、何故紅椿を手放さない。織斑先生に言えば、悪いようにはされないだろうに」

「……」

「想い人に近づくためにわがまま言って手に入れたものなのだろう?その想い人は遠ざかって行くのにお前はなんだ」

「……」

「世界で唯一の第四世代機。それは全ての国が欲しがっている代物だ。死にたくなければ自分が何をすべきかよく考えろ」

部屋を出て行く。あの腑抜けた態度には腹が立つ。頼んだのがフェルトじゃなければ絶対に来なかった。あとで相応の対価を払ってもらおう。

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