銀色の二重奏   作:乱れ咲

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帰省Ⅰ

7月下旬。IS学園は期末試験が終了し、夏季休暇に入っていた。気温も湿度も高く、暮らしにくい日本の夏にやっと慣れてきた私たち外国組ではあるが、どうしても空調機に頼らざるを得ない。私とラウラはあまり問題なかったが、特にセシリアが参っている。あの長い髪が熱を籠もらせ、より暑く感じるのだろう。髪が長いのはラウラも同じだが、ラウラの髪は、毎日私が1つに結っている。

「……暑いですわ……」

手で扇ぎながら言う。

「私のように髪を結ってみたらどうだ?」

「結ってしまうと、セットが崩れてしまいますわ……」

「……そんなに大事なものなのか、髪型は」

「髪は女の命ですわよ、フェルテンさん?」

「……そういうものか」

私たちが談話しているのは、食堂の角。いつもの丸テーブルだ。セシリアはアイスティー、私とラウラはアイスコーヒーを飲んでいる。いつもならばここにシャルロットも加わるのだが、シャルロットは今、弟君の特訓に付き合っている。

弟君の特訓の成果はしっかりと出ている。勝率はセシリア相手に3割、鈴さん相手には2割にまで上がった。それに危機感を覚えたのか、セシリアが私にナイフ術を教わりにきたのは2週間前のことだ。エネルギー兵器による遠距離一辺倒な戦い方ではだめだと本格的に思い始めたのだろう。遅すぎる気もするが。ちなみに、私、ラウラ、シャルロットは彼に負けたことはない。まあ、機体や戦い方の相性、経験の差もあるからな。セシリアは近づけられれば隙だらけ。鈴さんは近距離での戦闘を好む。故に勝てるのだろう。

「ところで、お2人はいつ帰国なさるのですか?」

「明日の早朝に出ることになっている」

この帰国は、本国からの命令である。ラウラは国家代表候補生としての、私は第二形態移行についての報告等があり、他国の代表候補生の実力や第三世代機についてもまとめなくてはならない。それに加えて、クラリッサが多少は消化してくれているが、黒兎隊の隊長及び隊長補佐としての仕事も溜まっているのだ。もちろん、仕事だけのために帰国するわけではないが、大部分が仕事で埋まるのは確実だろう。

「そう言うセシリアはどうなのだ。貴様にも、どうせ帰国命令は出ているのだろう?」

「わたくしは3日後ですわ」

そう言う表情はあまり優れない。セシリアにも多くの仕事があるのだろう。オルコット家現当主にして、イギリスの国家代表候補生なのだから。

「……お互い大変だな」

「本当ですわ……」

それからも雑談を続け、時刻は1600となった。そろそろ弟君の特訓も終わる頃だろう。カップを片付けてからアリーナへと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、フェルテン」

「シャルロット、今日の一夏君の調子はどうだった?」

「まずまずかな。戦闘時間は初めに比べるとかなり伸びたけど、攻めきれてないんだよね」

第2アリーナには、ちょうど模擬戦が終わったシャルロットと一夏君、鈴さんがいた。結果はシャルロットの勝利だったらしい。地面に倒れている弟君のそばで、鈴さんが戦闘の中で見つけた問題点などを指摘している。いつもの光景だ。最近、鈴さんが弟君の姉のように見えるのは何故だろう。姉とはどういうものなのか、知らないにも関わらず。

「じゃあ、いつものやりましょうか」

「うげぇ……」

「さっさと補給してきたらどうだ」

「あ、ラウラさん。後でわたくしともしていただけませんか?試してみたいものがありますの」

「ああ、構わない」

いつものとは、私と弟君の模擬戦のことである。1週間間隔で、特訓の後に行っているのだ。実戦経験も大事だからな。

 

 

 

 

 

 

 

まずは、アサルトライフルを2丁展開して撃つ。初めはこれだけで数発被弾していたが、今では難なく避けられるようになった。弟君が、自身ができる最小限の動きで弾を避け、接近してくる。その手には白式唯一の武装である雪片弍型が握られている。

「ぜりゃぁあ!!」

横薙ぎの刃が私に襲いかかる。弟君は零落白夜を常時発動せず、刃が相手に当たる瞬間にのみ使っていた。どうやら、この1週間である程度ものにしたらしい。だが、まだ甘い。制御に集中するあまり、太刀筋が鈍っているのがその証拠だ。刃を見切り、動きに合わせて後転し、持ち手を蹴り上げることで刃を躱し、ついでにマシンピストルで腹部を撃つ。弟君はダメージを受けても止まらずに距離をとった。

このようなやり取りが何度か続いた。弟君はヒットアンドアウェイに徹することで、余計なエネルギー消費や被弾を抑えているのだ。速く、近接のみのピーキーな機体で戦うのであれば、非常に有効な方法といえる。

だが、それは相手が追いつけない時に限る。

もちろんテクニックで翻弄することができれば、相手より遅くても十分効果的だ。身近でならシャルロットがいい例だろう。だが、弟君はただ『攻撃して逃げる』を繰り返しているだけだ。テクニックなんてない。これは今後の課題だな。

「うおおおお!!」

雄叫びを上げながら接近してくる弟君。またひらりとかわし、今度は白式にひっつく。逃げきれていないことに気がついた弟君は、瞬時加速で距離を取ろうとする。当然、逃がすわけがない。私も同じように瞬時加速をし、同時にショットガンを2丁展開する。装填しているのは炸裂弾だ。両手で4回撃ち、計32発の小型爆弾が白式に直撃し、衝撃でアリーナの壁に貼り付けになる。動きが止まった瞬間、今度はマガジン内の全ての弾を撃ち尽くし、白式のエネルギーを削りきった。

 

 

 

 

「か、勝てねぇ……」

「ヒットアンドアウェイは良いと思いますが、単調な動きしかしないのなら誰でも見切られます。それに、零落白夜を使うタイミングに集中し過ぎです。感覚的にできるようになりましょう」

「……はい」

「ま、要は練習あるのみってことよ。あたしも付き合ってあげるから」

「サンキュー、鈴」

……良いペアだな、この2人。

 

 

 

続いて、セシリアとラウラがアリーナ中央で向き合う。試合開始の合図と共に2人は飛び立ち、セシリアはインターセプター、ラウラはプラズマ手刀を展開した。

セシリアが望んだのは、近接武器のみでの戦闘。私とラウラの教えとセシリアの努力がどれだけ通用するのか試してみたくなったらしい。

ラウラの手刀を短剣で捌くセシリア。その表情に余裕はないが、ラウラの攻撃全てに対処できていた。その要因には、ラウラが右手の手刀しか使っていないのもあるのだろう。それでも、かなりの進歩だ。

結果としては、3分持ちこたえるのが限界だった。だが、遠距離主体のスタイルに組み込むのであれば使えないこともない。これからだな。

 

それからも1830まで訓練は続いた。今日が終われば、この全員が揃うのはかなり先になる。皆、今のうちに学べるものは学んでおきたいのだ。

「そろそろ時間だね。終わりにしようか」

シャルロットの言葉に誰も異議を唱えることなく、各々補給や修復を済ませ、更衣室へ向かう。この後は私、ラウラ、セシリア、シャルロットで夕食を摂る予定だ。弟君と鈴さんは、篠ノ之箒と食べるらしい。

にしてもあれは、まだ決心がつかないのか。取れる選択肢なんて1つしかないだろうに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。私とラウラは帰国の飛行機に乗るため、空港に来ていた。時刻は0600。こんな早くに出発して、ドイツに着くのは1700となっている。もちろん現地時間でだ。長い旅路になる。

専用ゲートを通過して飛行場を歩く。目的の機は、民間機の中に軍用機が1機しかないため、とてもわかりやすい。搭乗口の前に立っているのは護衛だろうか。

「ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐、フェルテン・ヴァルター少佐、お迎えにあがりました!」

……やけにテンションが高いな。

「クラリッサか。迎えご苦労」

「これより、隊長達の護衛任務に当たります。よろしくおねがいします」

「ああ、よろしく頼む」

業務的な会話はそこで終了し、機に乗り込む。クラリッサから話を聞いたところ、昨日は秋葉原に一日中いて、漫画やゲーム、ライトノベル?などを買い漁ったらしい。道理で目がギラギラしているわけだ。

「そうだ、ヴァルター少佐。ブルーノ・ヴァルター中将から伝言です」

「伝言?」

「『お前がドイツに着いた4日後に迎えを出す』とのことです」

なるほど、それまでに仕事を全て終わらせろということか。

……忙しくなるな。

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