天才科学者ルパーズの銀河冒険記   作:Slave0629 らい

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目覚めは始まり、出会いは転機

 僕はルパーズ・バーナシス(Rupes Vaneses)。アメリカ合衆国フロリダ州出身の天才科学者だ。28歳の若さで研究所所長になり、そこで宇宙開発の研究を行った。専門は素粒子物理学と天文学、それと薬学だ。物理学者だけど薬学は完全なる趣味。実は嘗ての親友が国内有数の超優秀な薬学者で、ほとんどは彼に教わったんだ。彼のサイトメガロウイルスの研究を時々手伝っていた関係で自然と薬学や医療の知識が付いた。彼は言った。「薬学とは死にさえ蓋をする繊細で未知で危険な学問だ」と。僕もその通りだと思う。

 彼は人間的には一癖も二癖もある陰険で嫌味な奴だったが紛れもなく天才だった。この地球上で僕とまともに議論が出来るのは彼だけだっただろう。彼はよく僕のことを傲慢だの自信過剰だのと言ったが僕はそうは思わない。科学者っていうのは自分を信じて研究を進めていくしかない。それに僕のような大胆な性格でないと新しい発見をするのは難しいだろう。彼は僕とは相反する性格で、それにも関わらず、もしくはそれ故かは分からないが、僕たちは馬が合った。研究者として僕らは世界一のコンビだったと自負している。しかし彼は若くして逝ってしまった。

 

 その後僕は一人である研究を始めた。時間移動装置。いわゆるタイムマシンというやつだ。初めは過去に戻ってもう一度親友に会いたいというのが目的だった。研究している人はたくさんいるが完成に近づいた人は未だ誰一人としていない。でも僕は天才だ。そして彼が亡くなって10年、ついに指定した過去の日付に戻る事が出来るマシンを開発した。僕は叫んだ。

 

「I am the first, and I am the last, and besides me there is no God!(僕が最初で最後だ、僕をおいて神はいない!)」

 

と。そして僕は当初の目的を外れ、さらなる発展を求めた。とにかく自分が人より優れていることを証明したかったんだ。

 そこで僕はただ時間を超えられるだけでなく、空間さえもこの手で意のままに操ることが出来る道具を開発しようと意気込んだ。僕の才能は尽きることを知らず、遂には実験の段階にまで持ち込むことが出来た。しかし僕は失念していた。この傲慢さが引き金となってとんでもない脱落の可能性を内に秘めていたということを。

 

 

 

 

遠い昔、遥か彼方の銀河系で・・・

 

 

 

 

 鈍器で頭を殴られたような鈍い痛とともにルパーズは目を覚ました。何が起きたのか状況が掴めず辺りをきょろきょろ見回すと、窓の外はさんさんとした太陽に照らされた見慣れない草原だった。辺りには人一人、生き物一匹として見当たらず、さわやかな風がさらさらと草を揺らす音だけが心地よく耳に届く。

 

 ルパーズは自分が座っている足元を見下ろした。

 

(そうか、僕はこの時空間移動装置で・・・)

 

ルパーズが座っていたのはゴンドラのような形の時空間移動装置の中で、内部の壁や窓には所々焼け焦げひびが入り、目の前の液晶パネルからは煙が上がっていた。パネルは赤い文字で大きくErrorと表示されたまま固まっている。ルパーズは何が起きたのかを思い出した。

 

 実験の段階にまでたどり着いた時空間移動装置を試そうと、ルパーズは自ら装置に乗り込んだ。時間は30年前、目的地はペルーを流れるプルス川の辺。何故ペルーかというとルパーズが昔から行ってみたかった所だから。単にそれだけだ。

 そうしてパネルに目的地と時間を設定したルパーズはハンドルレバーをぐいっと前に押した。その時、突然画面にErrorの文字が現れたのだ。ルパーズは焦った。身に危険が迫っているからではない。ここまで努力してきた成果がまた無駄になってしまうのではないかと恐れたのだ。なんとしても成功させたい。ただそれだけの思いで、ルパーズは軽率にもErrorを無視してそのままレバーをTransferの位置までさらに押した。

 空間が歪み、内臓が捻れ押しつぶされるような感覚に陥った。次の瞬間マシン全体が強い揺れに襲われた。まるで神が地面を底から掬い上げているかのような衝撃だった。振動に耐えきれず、マシンの至る所が悲鳴を上げて、ミシミシと嫌な音が鳴った。そして部屋全体に焼き付けるような光線が走りマシンがバシュッと音を立てて消える前にルパーズは意識を手放した。

 

 きっと成功したに違いない、とルパーズは思った。ここはすでにペルー国内で、少し歩けばプルス川の流域に出るはずだ。アマゾン川の支流であるプルス川が熱帯雨林の真ん中を流れているためもっと深い森に囲まれていると思っていたが、このような草原のような所もあるんだな。そう考えると頭の痛みも吹っ飛んだ。

 

(ついに、ついに僕はやってのけたぞ!)

 

ルパーズは小躍りしながらいそいそとマシンの外に出た。その時かすかに感じた違和感が実はとんでもない結論に至るなど、この時点で誰が予想できよう。

 

「空気が薄いな・・・」

 

ルパーズはそう感じたが、きっと頭痛のせいだろうと気にしなかった。いつもなら彼はほんの少しの異変にさえ疑問を持ち徹底的に調査するのだが、この時はそれだけ時空間移動装置が完成したことに浮かれていたのだ。

 

 「プルス川だ!!」

 

ルパーズは歓喜の叫びを上げながら思わず川に飛び込んだ。その様子はさながら浮力を発見したアルキメデスが風呂から飛び出し「Eureka!(分かったぞ!)」と叫びながら裸で駆け回った光景のようにばかばかしいもので、どこの時代も天才は変人が多いということだろう。

 

「僕はついに完成させた、これでセブに会いに行ける!」

 

セブ、というのが彼の親友の愛称であった。

 ルパーズは岸に上がると川縁に座って足だけ川に漬けながら改めて周囲を眺めた。眩しいほどに照りつける陽光は彼の晴れ舞台に相応しいものだった。

 

(直さないとな・・・)

 

遠くから壊れてしまったマシンを眺めてルパーズは呟いた。修理の道具は持ってきてある。恐らく耐久性さえなんとかすれば超光速の複数回の移動にも耐えられる。

 ルパーズがマシンに戻ろうと腰を上げかけたその時、

 

ザバーーーン!

 

と水が大きな音を立てて突然飛沫を上げた。

 

「なんだ!!?」

 

ルパーズは驚いて飛び上がると水面を見つめた。澄んだ川の中で何かが漂っているのが見える。それはぴょこんと頭を水面に出すと、そのまま川縁にスーっと近づいてパタパタと岸に上がってきた。大きな長い耳に水かきのある手足、カエルのように飛び出た目玉。肌は少しぬめっとした茶色でみすぼらしい服のようなものを羽織っている。そのロップイヤーのウサギとカエルを掛け合わせたような二足歩行の生き物が大きな目をギョロッと動かすと、ルパーズとピタッと目が合った。

 

「き、キモカワイイッ!!」

 

ここでもルパーズは変人っぷりを遺憾なく発揮した。彼は昔から両生類のような“キモカワイイ”ものに目がないのである。

 

「こんな生き物見たことないぞ!新種か?新種なのか!?」

 

ルパーズは興奮で目を輝かせながらポケットからスマホを取り出した。論より証拠。ひとまず写真に収めなければ。

 

(あれ?電源が入らない・・・)

 

どこも壊れた様子がないのにもかかわらず、スマホは起動しなかった。ルパーズが悔しげに顔を歪めてスマホと格闘しているとその生き物は長い手を伸ばしルパーズの肩をツンツンと叩いた。ルパーズは顔を上げた。

 

「◯※#:?☆§*@&!~☆」

「ハッ、もしや、しゃべれるのか!?」

 

ルパーズは目を見開いた。生き物が地球に誕生して38億年、これほどまでにはっきりとした文構造を持った言語を話す生物は人類以外に初めてだ。

 

「凄いぞ!もっと何か喋ってくれ!」

 

ルパーズは言葉が通じないにも関わらず、思わず叫んでいた。

 

「†@?☆?~/*ª…@◯_?¦†:」

「残念ながら、全く分からないな・・・」

 

するとその生き物はルパーズの腕をぐいっと掴み、そのままルパーズを引っ張ってずんずん歩き出した。思ったより強い力に戸惑いながら、ルパーズは引きずられるようにしてついていく。

 しかし今は不安より喜びの方が勝っていた。恐らく自分は新種を発見したのだ。これ程嬉しいことはない!マシンで移動した先で偶々新種を発見したなんて、きっと神は僕の優秀さを見込んでくれたに違いない、とルパーズは思った。

 

 たどり着いたのは海へ繋がる船着場のような場所だった。この種族は言語を話せるだけでなく文明も発達しているのだ。そしてその生き物はポケットから小さなスイッチのようなものを取り出すと、何やらそれにむかって話しかけた。

 

(驚いたな。人類と同レベルの文明が発達しているなんて。しかし二足歩行ならあり得ないことではない。むしろ今まで我々が発見できなかった事が不思議でたまらない・・・)

 

しかし更なる予想外の出来事に、ルパーズは天にも上る気持ちになった。というより驚きすぎて魂が逝ってしまう。それ程の衝撃が彼を襲った。

 現れたのはエイのような形をした不思議な潜水艦だった。

 

(待て、待て待て待て・・・!なんだこれはっ!)

 

上部は平たいドーム状で、先端にコックピットとヘッドライトがついてる。驚いたのはその船尾で、まさしくエイのしっぽのようなものが滑らかにうねうねと動いているのだ。一体どのような物質で作ればこうなるのか。

 ルパーズが固まっていると生き物はさらに彼の手を引いて潜水艦の中へ引っ張っていった。

 

 

 「凄い!まるで夢みたいだ!!」

 

ルパーズは窓に額を貼り付けて叫んでいた。彼が今目にしている光景は、あの空飛ぶ王国ラピュタを訪れたガリバーでさえ己を疑うに違いない。

 海底のどんどん奥深くへと進んでいき、時に巨大な猛獣のような魚に襲われながらもたどり着いた先は、海底に築かれた巨大な文明の世界だった。一族の住処であろう無数のカボチャのような形をしたドームはキラキラと明かりに照らされ幻想的だ。

 

「美しい・・・」

 

親友にも見せてあげたかった、とルパーズは素直に思う。最も彼なら「美しさとは子供の時に受ける印象によって形作られる概念だ。」などと仏頂面で言うに違いない。

 

 潜水艦はそのままドームの内部に入り、ルパーズは生き物に連れられてドーム内部を歩いた。ドームの中は呼吸可能な大気があり、この生き物が両生類なのだとはっきり推測できる。通りすがりの何匹もの似たような生き物に会った。ルパーズが初めに会ったものとは違い、太っているもの、背の低いものなど様々だ。

 そして彼は今まで見た中で一番メタボで強そうな奴の前に立たされた。彼をここに連れて来たものがメタボに何やら説明し、王座のような椅子に座っているそいつの側近が、不思議な帽子のようなものを持ってきてルパーズにかぶせた。聡明なルパーズはそれがすぐに翻訳機なのだとわかった。ルパーズは奴の言葉を待った。

 

「ユーは何者?」

「ブハッ」

 

ルパーズは思わず噴き出した。

 

(なんだこの生き物は・・・!カワイイ、カワイすぎる!もはや罪だ!)

 

このでっぷりしたカエルのような見た目でこの口調。そのギャップはルパーズのどツボにハマってしまった。

 

「なんだ君はっ!僕のペットになってくれ!」

 

ルパーズが思わず身を乗り出して叫ぶと周りは爆発したように騒がしくなった。

 

「ミー、ユーを処刑する!捕らえろ!捕らえろ!」

「待て待て待て!冗談だよ!」

 

側近がルパーズを拘束すべく近づいてきたのでルパーズは慌てて弁解した。

 

「君らは何という種族なんだ?ここはどこ?」

「ミーたちグンガン!ミーはボスナス!ユーはミーの侵略者!」

 

ボスナスと名乗ったメタボの彼はどうやらこの種族のボスらしい。

 

「言っておくが僕は侵略者じゃないぞ。君たちの方が技術がよっぽど進んでいるというのにどうやって侵略しろって言うんだい。」

「ナブーはグンガンの星!我々の宝!」

「ナブー?ナブーとは地球のことか?」

「地球?ここはナブー。」

「つまり君たちは地球のことをナブーと呼んでいると?」

「地球なんて星ミー知らない。ユーはどこの星から来たのか?」

「どこの───星・・・?」

 

 ルパーズは途端に全てを理解した。だいたい初めからおかしかったのだ。研究の進んでいるアマゾン川にこんなに目立つ未知の生物がいるわけがないではないか。それにお互い文明を気付き上げているのならとっくに接触しているはずだ。

 そう、ここは地球ですらない、いや、太陽系銀河かどうかすら怪しい。ルパーズは偶然にもマシンの誤作動で未知の天体に飛ばされてしまったのだ!こんなことを誰が考えつくというのだろう。

 たまたまここが地球と似た環境なのは不幸中の幸いだった。もし呼吸困難な二酸化炭素や硫酸が主成分の大気圏に飛ばされでもしたら即死だった。

 あまりの事実にルパーズは頭を押さえてよろめいた。ルパーズがマシンを作る際に想定したのはもちろん地球上の地点だけだった。宇宙となると加速度やエンタルピーの計算が全く違ってくる。というかそんなことが可能とすら思っていなかった。

 これはつまり戻り方がわからなということ。偶然にも今回は無事に時空間を移動して地上に着陸できたが、もう一度それができ、さらに地球にたどり着く可能性は限りなくゼロに近い。いや、ゼロだ。

 

「僕は・・・」

「ミーの技術はユーより上?」

 

その時唐突にボスナスが言った。

 

「ああ。僕たちはこうやって海底に街を造る技術はないしこの水圧に耐えられる柔軟性のある素材は作れない。あの潜水艦のしっぽはどうやったんだ?アラミド繊維?それともSBR?」

「ユー、知りたい?」

「教えてくれ。これは私の星にはない技術だ。今後の人類の発展に繋がるかもしれない。」

「ユーはミーの僕になる?」

「なるなる!この技術を手に入れられるなら何でもするとも!」

 

ルパーズがそう言うとボスナスは満足そうに短い手でメタボリックシンドロームの腹をパンパン叩いた。

 

「ミーとユーはともだちブバババババ」

 

ボスナスは頭をブルブル降ってつばをまき散らしながらどうやらルパーズを歓迎したようだった。ルパーズはひとまず安心した。ここの技術があればマシンもすぐに直せるかも知れない。

 

 「ミー、ジャージャー・ビンクスね。ユーのともだち。」

 

ルパーズの案内役を任されたのは彼がこの星で初めて出会ったグンガンだった。翻訳機を使って分かったことだが、かなりの変人だ。

 

「ボスナスは人間を知ってた。僕の他にも人間がいるのか?」

「人間はいっぱいいるよ。ミー、見たことはないけど知ってる。ナブーにもいるの。」

「本当か!?連れて行ってくれないか?」

「いいよ。ミー、連れて行く!」

 

こうしてジャージャー・ビンクスと出会ったルパーズは技術を求めて彼と仲間達に教えを請うことになった。しかし彼はまだ知らない。この銀河はもっと高度で繊細な技術と力に溢れ、彼の今まで培ってきた知恵や栄光は何の役にも立たないのだということを。

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