戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 3月ももう終わりですね。月日が経つのは早いですねー。

 シンフォギアXDの次に出るギアは、なんと海賊ギア! 一体どんな際どい衣装で来るつもりなんだ!? 石を掻き集めなければ(使命感)

 そして、2週間後は切ちゃんの誕生日だ! 自分の本当の誕生日が分からないからこそ、人の誕生日を盛大に祝ってあげようとする優しい子を僕達が祝ってあげるんだ! その誕生日が本当のものじゃなくても、切ちゃんが生まれて来てくれたことに感謝する僕達の想いは本物なんだから! ……凄い早とちりですかね。

 そんなこんなで始めていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


EPISODE 10 デュランダル、起動

 今日も今日とて立花響強化計画は順調に進められている。朝から響は、弦十郎の自宅の敷地内に設置されたサンドバックへ拳を打ち込んでいた。

 

「フッ! ハッ! フッ! ハッ!」

 

 黒のタンクトップに黒のジャージ、黒のボクシンググローブという全体的に黒一色の格好の響は、映画で見た動きを意識しつつただひたすらに拳を打ち込み続ける。その傍らには、ジャージ姿で肩にタオルを掛けた弦十郎が立っている。

 

「そうじゃない」

 

 弦十郎からのダメ出しを受け、響は1度打ち続ける拳を止めて呼吸を整えつつ弦十郎に向き直る。

 

稲妻(いなずま)を喰らい、(いかずち)を握り潰すように打つべし」

 

「言ってることが無茶苦茶で全然分かんねえ! でも、やってやるっ!!」

 

 余計な言葉など無用。弦十郎が言ってる言葉が理解出来なくとも、弦十郎が伝えようとしていることを響は心で感じ取っていた。

 

 響は再度サンドバックの前で構え直し、凄まじいまでの集中力で意識を集中してサンドバックの一点を見続ける。そして、自身の心臓が一際(ひときわ)強い鼓動を打つの同時に全力でサンドバックに一撃を打ち込んだ。

 

 拳が打ち込まれたサンドバックは大きく持ち上がり、金具で繋がっていた木の幹を破壊して凄まじい勢いで吹っ飛んだ。吹っ飛んだサンドバックは、敷地内の池や地面を何度もバウンドし、壁に叩き付けられたことで漸く静止した。

 

「ッ! っしゃあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 満足のいく結果が出たことに響は歓喜の雄叫びを上げる。側にいた弦十郎は微笑を浮かべながら頷き、側にあったミットを手に装着した。

 

「こちらも、スイッチを入れるとするか」

 

 そこからは弦十郎とのミット打ちが行われ、その後も数多くの鍛錬メニューを(こな)し続ける時間が何時間と続き、鍛錬メニューを全て熟した時には既に昼過ぎの時間帯になっていた。

 

 メニューを熟して弦十郎と共に二課の司令室までやって来た響は、疲れた体を投げ出すが如く思いっきりソファーに凭れ掛かった。

 

「あぁ〜、疲れた〜。朝からハードモードだ。でも、良い汗掻いた! やっぱ、体動かすって最高だ!」

 

「あれだけやってまだ元気があるのか。その元気と体力は頼もしい限りだな。頼んだぞ、明日のチャンピオン!」

 

「大船に乗ったつもりで任せてくれ、おやっさん!」

 

 間延びした声から一転して未だに元気の果てない響を見て、弦十郎は自然と笑みを零し手に持ったスポーツドリンクを口にする。

 

「はい、ご苦労様」

 

「おっ、ありがとうございます!」

 

 友里から差し出されたスポーツドリンクをお礼を言って受け取り、弦十郎と同じように水分補給をしっかりとする響。

 

「ぷはぁ! 疲れた体にはやっぱこれだな。あっ、突然で悪いんだけど、1つ聞いて良いか、おやっさん?」

 

「良いぞ。俺で答えられることなら何でも聞いてくれ」

 

「俺みたいなニート同然のガキは兎も角として、うら若き花の女子高生兼日本のトップアーティストの翼さんにまで戦いを頼む必要は無いと思うんだが、他にもノイズと戦う為の武器って無いのか? 都合よく外国とかにさ」

 

 それは至極当然の疑問であった。もし、ノイズと戦う為の武装が他にもあるなら、翼のように女の子が戦いに出る必要は無いのではないのか、と。

 

「公式には無いな。日本だって、シンフォギアは最重要機密事項として完全非公開だ」

 

「マジすか……。俺、全然周りに配慮しないで動き回ってるんですけど……」

 

 翼と比べ、未だにスマートさに欠ける響の立ち回り方は周りへの被害を大なり小なり出していた。それなのに、最重要機密事項を隠そうともしなかったのは、不味いことではないのかと響は思い出していた。

 

「情報封鎖も二課の仕事だから」

 

 友里の話を聞いたことで、響の脳裏から嫌な考えが消えて、響は一先ずは安心するのだった。

 

「だけど、時々無理を通すから、今や我々のことを良く思っていない閣僚や省庁だらけだ。特異災害対策機動部二課を縮め、“とっきぶつ”って揶揄されてる」

 

「情報の秘匿は、政府上層部からの指示だったのにね。やりきれない」

 

(いず)れシンフォギアを、有利な外交カードにしようと目論んでいるんだろう」

 

「EUや米国は、何時だって回天の機会を窺っている筈。シンフォギアの開発は、既知の系統とは全く異なるところから突然発生した理論と技術によって成り立っているわ。日本以外の他の国では到底真似出来ないから、尚更欲しいのでしょうね」

 

「結局のところ、何時もの大人同士の面倒事ってことだるぉ? あちこち色々回ったけど、大人が原因の面倒事があるのは何処も一緒だな」

 

 心底面倒臭そうに吐き捨てる響。黎人と共に多くの外国諸国を回った響は、訪れた国の正の面と負の面を両方共見たことがある。それによって引き起こされる面倒事にも何度だって遭遇したのだ。

 

 故に、そのような一見大きな面倒事は、響にとって些細な面倒事にしか感じられなかった。

 

「あれ、おやっさん。そういえば、了子さんは何処行ったんだ?」

 

 響の言う通り、今この場に了子の姿は何処にも無かった。何時もこういった面倒事の話をする時は、大抵ニコニコしながらその場にいると筈なのにだ。

 

「永田町さ」

 

 響の抱いた疑問に、弦十郎は簡潔且つシンプルな答えを返した。

 

「永田町? それって、国会議事堂とか首相官邸がある?」

 

「あぁ。政府のお偉いさんに呼び出されてね」

 

「ほう」

 

「本部の安全性、及び防衛システムについて、関係閣僚に対し説明義務を果たしに行っている。仕方の無いことさ」

 

「また大人の面倒事かよ……」

 

「ルールをややこしくするのは何時も責任を取らずに立ち回りたい連中なんだが。その点、広木防衛大臣は」

 

 すると、話の途中で弦十郎は袖を捲って腕時計を確認した。

 

「了子君の戻りが遅れているようだな」

 

 既に了子が戻ってきても可笑しくない時間にも関わらず、その本人がまだこの場に到着していない。そのことを弦十郎は不思議に思っていた。

 

 実はこの時、街から遠く離れた山沿いの道を走るピンク色の車を操縦している女性が、盛大なくしゃみをしていたのだとか。

 

 結局、肝心の了子が二課に戻ってきたのは、夕暮れ時の時間帯であった。

 

「大変長らくお待たせしましたー!」

 

 了子のいつも通りのテンション高めのお気楽な声が司令室内に響き、その声を聞いた響と弦十郎が体ごと了子がいる方へ振り返る。

 

「了子君!」

 

「何よ? そんなに寂しくさせちゃった?」

 

「広木防衛大臣が、殺害された」

 

 お気楽な了子に、弦十郎は了子が到着するまでの短い間に起こった悲劇について簡潔に述べる。それを聞いた了子は、驚きながら駆け足で弦十郎の下へ行く。

 

「えぇっ!? 本当っ!?」

 

「複数の革命グループから犯行声明が出されているが、詳しいことは把握出来ていない」

 

 響達が見ているモニターには、広木防衛大臣とその秘書、護衛の人複数が殺害された現場の写真が映し出されている。

 

 激しい銃撃によって、護送対象の車と護送車の窓ガラスは手酷く全て破壊され、後部座席に座っていた大臣の秘書はヘッドショットによって絶命していた。

 

「目下全力捜査中だ」

 

「何度連絡を取ろうとしても一向に出ないから、了子さんにも何かあったんじゃないかって俺達全員心配してたんだ」

 

「うぇ?」

 

 響の話を聞き、一瞬だけポカンとした了子は白衣のポケットから端末を取り出して少し操作して、あっけらかんと笑みを浮かべた。

 

「壊れてたみたいね!」

 

 この非常事態で飽く迄平常運転に近い了子らしい反応を見て響も安堵の息を漏らす。それを見ていた弦十郎も、少しだけ微妙な表情をしていた。

 

「でも心配してくれてありがと。そして、政府から受領した機密資料も無事よ」

 

 了子は、近くにあったソファーの上に置いたアタッシュケースの中から大事なデータが記録されている記録媒体を取り出して見せながらそう言った。

 

「任務遂行こそ、広木防衛大臣の弔いだわ」

 

 この時、響と弦十郎は了子の持つ記録媒体ばかりを見ていたせいで、了子が持ってきたアタッシュケースの隅に赤い色をした何かが付着していることに気付かなかったのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 了子の準備が整い、二課に所属する職員の大半が参加する大規模な作戦ミーティングが行われていた。説明をする了子と弦十郎以外の人間は座席に座り、集まった一室の1番前にある大型のモニターに注目している。

 

 その中には勿論響の姿もあり、響は座席の最前列中央で藤尭の隣に座りながら、鋭い眼差しで静かに弦十郎達の話を聞く姿勢を取っている。

 

「私立リディアン音楽院高等科、つまり特異災害対策機動部二課本部を中心に頻発しているノイズ発生の事例から、その狙いは本部最奥区画、アビスに厳重保管されているサクリストD、デュランダルの強奪目的と政府は結論付けました」

 

「デュランダル……」

 

「EU連合が経済破綻した際、不良債権の一部肩代わりを条件に日本政府が管理、保管することになった数少ない完全聖遺物の1つ」

 

 響の呟きを拾い、了子はデュランダルについての補足説明を行った。

 

「移送するたって何処にですか? ここ以上の防衛システムなんて!」

 

 直後、響の隣に座っていた藤尭が意見を出した。そもそもこのミーティングは、デュランダルを二課よりも安全な場所に移動させる作戦を練る為のものである。

 

「永田町最深部の特別電算室、通称、記憶の遺跡。そこならば、ということだ」

 

 藤尭が出した疑問について答えたのは、了子とは逆の位置に立っている弦十郎だった。

 

「どのみち、俺達が木っ端役人である以上、御上(おかみ)の意向には逆らえないさ」

 

 弦十郎は、皮肉げな笑みを浮かべながらそう言った。

 

「デュランダルの予定移送日時は、明朝0(まる)5(ごー)0(まる)0(まる)。詳細は、このメモリーチップに記録されています」

 

 そこからのミーティングも何の問題も無く進んであっという間に終わりを迎え、次に了子は司令室のコンピュータからマニュピレーターを操作してアビスに眠るデュランダルを運び出していた。

 

 その傍らでは、他の職員と違って今は全く何もすることが無い響が、司令室のモニターから了子の作業風景を眺めていた。

 

「あそこがアビスか。機械ばっかだな」

 

「東京スカイタワー3本分、地下1800mにあるのよ!」

 

「ほへぇ……」

 

 アビスのある位置がモニター内に見取り図で移し出されるが、見取り図も小さく了子の口から説明された大きさが莫大過ぎて今一掴めない響であった。

 

「はい。じゃー予定時間まで休んでなさい。あなたのお仕事はそれからよ」

 

「応よ!」

 

 ウィンクをしながら言われた了子の言葉に、響は意気込みながら元気一杯の返事を返した。

 

 しかし、休むように言われた響は盛大に暇を持て余しており、これから任務の任務に支障を出さない為に特訓も筋トレも禁じられて現在ウズウズしていた。

 

「暇だ〜。暇過ぎる〜。寝ようにもこんなウズウズした気持ち抱えたままじゃ寝れねえし……」

 

 響は愚痴を漏らしつつ、眼前のテーブルの上に置かれた新聞を手に取って開く。響が開けたページには、下着姿の胸が大きい女性の写真が載っていた。

 

「うおっ! デケえ! やっぱ、胸がデカい女の人って良いよなぁ! でも、翼さんみたいにキュッと引き締まったスレンダーな体型も良いし……」

 

 バカ丸出しで鼻の下を伸ばしながら、新聞の写真をたっぷりと時間を掛けて眺めて女性の魅力を独白する響。その姿は、傍目から見てただのエロガキにしか見えなかった。

 

 暫くその写真を見続けた後、響は写真を見るのに飽きて新聞を折り畳んで表紙のページを見る。

 

「ん? これって……」

 

 響は、表紙の内容を見て目を見張る。表紙には、ステージ衣装の翼の写真が載っていて、隣には『風鳴翼 過労で入院』と書かれていた。

 

「情報操作も僕の役目でして」

 

 すると、記事に夢中になっていた響に声が掛けられた。声を掛けられた響は、その聞き覚えのある声に反応して顔を上げた。響が顔を上げた先には、何時ものスーツ姿の緒川が立っていた。

 

「緒川さん!」

 

「翼さんですが、1番危険な状態を脱しました」

 

「本当か!?」

 

「はい」

 

「そっか……良かった。本当に良かった……翼さん!」

 

 緒川から翼の吉報を聞き、響は顔をクシャっと綻ばせて安堵の息を漏らしながら笑う。

 

「ですが、暫くは二課の医療施設にて安静が必要です。月末のライブも中止ですね」

 

 しかし、緒川の言葉を聞いて響の表情が先程よりも少し気不味気な曇った表情に変わってしまう。すると、緒川が少しだけ暗い顔をする響の隣に座った。

 

「さて、ファンの皆さんにどう謝るか。響君も一緒に考えてくれませんか?」

 

「そうだなー……もう一層(いっそ)の事全部緒川さんのせいにしちゃうか! マネージャーとして配慮が足りませんでしたーってよ」

 

「それはちょっと勘弁してくれませんか……? 僕の社会的地位が色々と危ないので」

 

 響の横暴な意見を、緒川は苦笑いで冷や汗を掻きながら両手を軽く上げてやんわりと却下する。その様子を見て、響の曇った顔が晴れやかなものに戻る。

 

「おやっさんや了子さんや緒川さんに二課の皆、それに翼さんも頑張ってるし、俺も頑張らないと!」

 

 響はそう言って、両手で頬を叩いて瞳をやる気で滾らせた。

 

「響君、張り切るのも良いですが、もう少し肩の力を抜いてくれても良いんですよ? 沢山の人間が少しずつですが、それでも確かにバックアップしてくれてますので」

 

「……優しいんだな、緒川さん」

 

「怖がりなだけです。本当に優しい人は、他にいますよ」

 

 響の優しいという言葉を謙遜して、緒川は響の目を見ながらそう言った。

 

「話してて大分楽になった。ありがとな、緒川さん。それじゃ、俺は少し寝て来るよ。今日の特訓の疲れがきっとまだ残ってるからな。一眠りして体力全快にしないと」

 

 緒川との話を締め括り、響はこれからに備えて万全の体調にする為に、一直線に仮眠室まで駆けて行った。

 

「翼さんも響君くらいに素直になってくれたらな」

 

 去り行く響の背中を見ながら、緒川は何処までも素直じゃない少年の先輩のことで独り言ちていたのだった。

 

 二課の面々が己が役目を果たす為に行動し、遂に作戦決行の明朝がやって来る。

 

 了子の自家用車と黒塗りの車が4台立ち並ぶ前方には、響と黒スーツの二課のえエージェント達がいて、響達と向かい合うように弦十郎と了子が立っている。

 

「防衛大臣殺人犯を検挙する名目で、検問を配備。記憶の遺跡まで、一気に駆け抜ける」

 

「名付けて、天下の往来独り占め作戦!」

 

 弦十郎と了子がこれからの作戦の概要を説明する中、響はいざという時に何時でも動けるようにしっかりとストレッチをしていた。

 

 姿勢を正さずに作業をしながら上官の言うことを聞くことは、普通なら許されないことだが、弦十郎はそんなことに頓着するような狭い器ではないし、何よりも響自身が自分の為すべきことを明確に理解しているから誰も注意することはしない。

 

 了子の車に今回の作戦の重要物であるデュランダルが乗せられ、4台の黒塗りの車が了子の車を四方から取り囲むように護衛しながら走る。

 

 響は了子の車の助手席に搭乗し、背後のデュランダルのことを気に掛けながら周囲の警戒を行っている。

 

 その上空には、5台の車を追うように1機のヘリコプターが飛行し、そのヘリコプターには弦十郎が搭乗していた。

 

 二課本部からの道のりは何事も無く順調に進み、一同は橋の上に差し掛かっていた。だが、そこで唐突に事態が急変した。

 

「了子さん! 橋が!」

 

 響の言う通り、突然前方にある橋の途中の道路が凄まじい勢いで崩れ始めたのだ。響同様にその状況を見ていた了子は、ハンドルを切って車線を右に移動させる。しかし、護衛の1台が移動出来ずに崩れた箇所に転落し爆発した。

 

「しっかり掴まっててね。私のドラテクは凶暴よ」

 

「上等! バカみたいに激しい運転なら慣れっこだぜ!」

 

「言ったわねぇ! 後で後悔しても知らないわよ!」

 

 了子と響が互いに軽口を飛ばし合い、了子はアクセルを踏み込んで車の速度を上げていく。

 

『敵襲だ! まだ目視で確認出来ていないが、ノイズだろう!』

 

「この展開、想定していたより早いかも!」

 

 ヘリから現状を俯瞰している弦十郎からの通信が入る中、了子の車が通った後を追従する護衛車が、マンホールから凄まじい勢いで湧き上がった水によってマンホールの蓋ごと空高く打ち上げられた。

 

「なっ!? 下から!?」

 

『下水道だ! ノイズは下水道を使って攻撃してきている!』

 

 今度は了子の車の前方にいた護衛車が空高く打ち上げられる。護衛車は、放物線を描きながら真っ直ぐに了子の車に向かって落ちてくる。

 

「上から来るぞ、気を付けろ!」

 

「分かってるわよ!」

 

 響の忠告に簡潔に言葉を返し、了子は再度ハンドルを切って今度は左に移動する。その際に車内は激しく揺れ、了子の車は積まれたゴミの山に突っ込む。

 

「弦十郎君、ちょっとヤバいんじゃない? この先の薬品工場で爆発でも起きたら、デュランダルは……」

 

『分かっている。さっきから護衛車を的確に狙い撃ってくるのは、ノイズがデュランダルを損壊させないよう制御されているからと見える!』

 

 弦十郎の通信が入る中、了子は車を運転しながら不意に舌打ちをした。

 

『狙いがデュランダルの確保なら、敢えて危険な地域に滑り込み攻め手を封じるって算段だ!』

 

「勝算は?」

 

『思い付きを数字で語れるものかよ!』

 

 そうこうしている内に、了子の車は残った最後の護衛車と共に薬品工場の敷地内に突入する。

 

 すると、前方にあったマンホールの蓋が開くのと同時にノイズが複数体飛び出して、響達の前にいた護衛車の上に乗っかった。咄嗟に護衛車に乗っていたエージェントは車を乗り捨てることで事なきを得たが、乗っていた車はそのまま薬品工場のプラントに激突して爆発四散した。

 

 弦十郎の読み通り、薬品工場での迂闊な行動を控えてかノイズの襲撃が休止していく。

 

「よしっ! おやっさんの狙い通りだ!」

 

 弦十郎の読みが当たり、響は握り拳を作ってガッツポーズを取った。だが、走っていた了子の車が工場内のパイプに乗り上げたことでバランスを崩して傾き始める。

 

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?!!!?」

 

 バランスを崩した車は、見事にひっくり返って横に何回転もしながらコンクリートの上を滑って行き暫くして漸く止まった。

 

「南無三!」

 

 上から事の成り行きを見守っていた弦十郎は、ひっくり返った車の中にいる響と了子の無事を祈る。

 

 ひっくり返った車のドアが左右同時に開き、その中から何処にも怪我をしていない無傷の響達が這い出てきた。しかし、響達が車から出てきた時には、既に周囲をノイズによって包囲されていた。そして尚もノイズは増え続けている。

 

「了子さん! 早く逃げるぞ!」

 

 響は、車の後部座席からデュランダルが収まったケースを取り出し、片手で持ち上げながら了子に早く逃げるように促す。

 

「わおっ! すっごい力持ちねぇ、響君! でも、それって結構重いし、逃げるのに邪魔かもしれないからここに置いて逃げましょ!」

 

「それはダメだろ!?」

 

「そりゃそうね」

 

 丁度その頃、響と了子の漫才のような遣り取りを、プラントの上にいるネフシュタンの少女が少し遠くから見物していた。

 

 響は了子と共にその場から移動しようとするが、ノイズが2人が逃げるのを十分待つ筈も無く、その形状を変化させて響達に襲い掛かる。

 

「うおっ!?」

 

 まだシンフォギアを纏っていない響は、ノイズに触れることが出来ない。故に、今は了子と共に全力で回避に努めていた。

 

 ノイズの攻撃をどうにか躱すも、ノイズが車を貫通したことで爆発が起き、響と了子はその際の爆風に巻き込まれて勢いよく吹っ飛んでいく。

 

「くそっ!?」

 

 響は吹っ飛んだ際に持っていたケースを手放してしまうが、逆にそのお陰で両手が空き、両手をコンクリートの地面に着いてロンダートの応用で着地する。

 

「くっ、見えん!」

 

 了子の車が爆発したことで出来た爆煙が周囲に広がりながら舞い上がっている為、弦十郎は爆煙によって視界を遮られて状況を確認出来ずにいた。

 

 形状を変化させたノイズが襲い掛かってくる中で、了子は響の前に立って広げた掌を前に突き出す。すると、了子の手から紫色のオーラのようなバリアが張られ、それがノイズの攻撃を無効化して食い止めた。攻撃の衝撃により、了子のメガネと髪留めが飛んで行く。

 

「りょ、了子さん、それは!?」

 

 明らかに了子が発生させているバリアを見て、響は驚愕を露わにして目を見張る。

 

「しょうがないわね。あなたのやりたいことを、やりたいようにやりなさい」

 

 了子はバリアを張り続けながら響の目を見てそう言い、対する響は見開かれた目を鋭くして小さく頷く。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 了子に言われた通り、心の赴くままに歌を歌う響。紡がれた聖詠がキーとなって力に変わり、響はその身にシンフォギアを纏った。

 

(燃えるハートでクールに戦う、だ)

 

 響は、以前に弦十郎に言われたことを頭に留めながら歌を歌って構えを取る。

 

 ノイズは形状を変化させて響に攻撃を仕掛ける。これを響は、その場からあまり動かない必要最低限の動きだけで躱してカウンターの裏拳を叩き込んで粉砕する。

 

 蛞蝓(なめくじ)型のクロールノイズ複数が響を取り囲むが、響は以前のように自分から敵の中に突っ込むようなことはせず、空手の息吹によって呼吸を整え精神を集中する。

 

 周囲のノイズの中の1体が飛び出して響に襲い掛かり、響はコンクリートの地面が抉れる程に強く踏み込んで正拳突きを放つ。正拳突きを叩き込まれたノイズは、吹っ飛ばされて木っ端微塵となる。

 

 次に襲い掛かるノイズを拳槌打ちで叩き潰し、背後からの敵を肘打ちで粉砕し、その次を前蹴りで蹴り砕き、鉤爪を持つノイズの攻撃を躱した後に一本背負で投げ飛ばす。

 

 近くにいたノイズとの距離を詰めてから左手のジャブで顔に当たる部分を破壊し、その後ろにいたノイズに膝蹴りを入れた後に双掌打を叩き込み、横から来たノイズを裏拳で潰し、奥にいた敵を靠撃で周りの敵諸共粉砕する。

 

「こいつ、あの時とはまるで違う!?」

 

 以前のような我武者羅なだけの動きではなく、流れるように繰り出される動きを見て、ネフシュタンの少女は驚愕を露わにして目を見張る。

 

 男子三日会わざれば刮目して見よ、という慣用句があるが、今の響は正にその言葉が相応しい活躍をしていた。近くで響の戦いを見守っていた了子も、その響の動きを見続けている間に視線が釘付けになっている。

 

 すると、了子の後ろから電子音が鳴り、響にばかり意識が集中していた了子は直様後ろを振り返った。後ろには、デュランダルが入ったケースがあり、そのケースの節々が赤く点滅していた。

 

「この反応は……まさか!?」

 

 ケースの反応を見て、それが何を意味するのかを理解した了子は再び響に視線を戻した。

 

「デリャア!!」

 

 その間も響はノイズを撃破し続け、迫り来るノイズの攻撃も全て避けて正拳突きをお見舞いし、その隣にいたノイズも回し蹴りで蹴り砕く。

 

 響がノイズ相手に無双する中、突如紫色に淡く発光する鞭が響に向かって飛来する。それを見た響は、その場から飛び退いて鞭を回避し、周りにいたノイズは鞭によって煤となって消えていった。

 

「今日こそはものにしてやる!」

 

 飛び退いて回避した宙にいる響目掛けて、ネフシュタンの少女は飛び蹴りの姿勢で突っ込んでいく。

 

「お呼びじゃねえんだよ、銀ピカ女!」

 

 響は、飛んできたネフシュタンの少女の足を掴んで地面に向かって投げ付ける。投げられた少女は、空中で体勢を立て直し何の問題も無く着地した。

 

 その時、了子の後ろにあったケースの上部分が突き破られて中からデュランダル本体が飛び出した。

 

「覚醒、起動!?」

 

 突如として起動したデュランダルを見て了子が驚愕を露わにする。出てきたデュランダルは、黄金のオーラを纏いながら空中で静止している。

 

「こいつがデュランダル!」

 

 少し離れた場所からその光景を見ていたネフシュタンの少女は、今回の最重要目的であるデュランダルを確保する為にその場から飛び出す。

 

 デュランダルが浮いている高さは、通常の人の跳躍力じゃ届かない位置であるが、完全聖遺物を纏っている少女からしたら大した問題ではない。

 

 ネフシュタンの少女は、ニヤリと笑いながらデュランダルに向かって手を伸ばす。

 

「ッ!? がっ!?」

 

 しかし、後少しで手が届くといったところでネフシュタンの少女の顔が苦悶に歪み、その高さから落ち始める。

 

「そう何度も渡す訳にはいかねえんだよぉ!!」

 

 ネフシュタンの少女のすぐ後ろから響が強く言い放つ。響のタックルによる妨害のせいで、ネフシュタンの少女はデュランダルを奪い損ねたのだ。

 

 響は、ネフシュタンの少女のようにその手を伸ばし、宙に浮いているデュランダルの柄をしっかりと掴んだ。

 

 響がデュランダルを掴んだその瞬間、力の波動のようなものが周囲一帯に響き渡り、それを近くで感じた了子とネフシュタンの少女は、無意識に言葉を漏らす。

 

「へっ!?」

 

「はっ!?」

 

 響が握ったデュランダルから先程よりも強いオーラと輝きが放たれ、直接デュランダルを手にしていた響の目が見開かれ瞳孔が激しく揺れる。

 

 直後、眩い輝きを放つ一筋の光の柱が天高く昇った。

 

 突き出すように高く掲げられたデュランダルは、石器で出来た剣のようなものから翡翠色のラインが入った黄金の剣へとその姿を変えた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

 デュランダルを持つ響の目は妖しい輝きを持つ赤く光る理性無き目に変わり、その口からは獣如き雄叫びを上げている。

 

「こいつ、何をしやがった!?」

 

 その様子を見ていたネフシュタンの少女は、身を引きながら咄嗟に後ろを一瞥した。少女の視線の先には、何処か狂気的に見える笑みを浮かべている了子の姿があった。その姿を見た少女は、歯を食い縛って再び視線を響に向ける。

 

「そんな力を見せびらかすなぁぁぁぁぁ!!!」

 

 ネフシュタンの少女は、腰に携えていた杖のようなものを抜いてノイズを数体召喚する。すると、響の理性無き目が少女へと向けられた。

 

「え?」

 

 ネフシュタンの少女が呆然とする中、響はデュランダルを高く掲げたまま体ごと少女に振り向いてデュランダルを大きく振り被る。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!!」

 

「ッ!?」

 

 逸早く身の危険を察知したネフシュタンの少女は直様その場から離脱し、響は咆哮を上げながら何の躊躇いも無くデュランダルを振り下ろした。

 

 デュランダルから生成されたエネルギー状の刃は、ノイズ諸共工場プラントの施設も斬り裂き、辺り一帯が爆煙に包まれる。

 

(お前を連れ帰って……あたしは……)

 

 内心で自身の想いを吐露しながら、ネフシュタンの少女は燃え上がる爆炎の中にその姿を消した。

 

 爆炎と爆煙が巻き起こる大爆発の中で、了子は腕を上に突き上げながらドーム状のバリアを張って全てを凌いでいた。そのバリアの中には、デュランダルを握りながら気絶している響の姿もあった。

 

 了子は、気絶している響を見ながら怪しげな笑みを浮かべる。

 

「まさか、デュランダルの力なのか」

 

 一方で、上空から一連の動きを俯瞰していた弦十郎は、昇ってきた爆煙で事態を把握出来ずにいたが、現在起こっている事態がデュランダルによるものだと結論付けていた。

 

(……何だったんだ、さっきの力? 全部ぶち壊してやるって、体が勝手に……)

 

 少しして、響は意識を取り戻した。だが、意識を取り戻した響は、先程に自分の身に起こった出来事に困惑していた。

 

 響は、状況を確認する為に直ぐ体を起き上がらせて周り見渡した。響の視線の先には、既に見る影も無くなり廃墟同然と化した薬品プラントが広がっていた。

 

 周りには既に二課のエージェントが後始末の作業に取り掛かっていて、響の直ぐ傍には解けた髪を再び結び直している了子の姿があった。

 

「これって……」

 

「これがデュランダル、あなたの歌声で起動した完全聖遺物よ」

 

「了子さん、俺……それに、さっきの了子さんのアレって……」

 

 自分の身に起きたことや先程の了子のバリアのこと、今の響には兎に角聞きたいことが多過ぎて、上手く言葉を纏めることが出来ないでいた。

 

「良いじゃないのそんなこと? 2人共助かったんだし。ね?」

 

 了子は、響の話を雑にはぐらかす。その直後、了子の端末に連絡が入ったことで了子が響から離れていき、結局響は話を聞けず仕舞いで終わってしまった。

 

(……けどまぁ、おやっさんみたいな人間止めてる人がいるくらいだから、シンフォギアを作った了子さんが不思議バリアを発生させるなんて造作も無えよな)

 

 しかし、弦十郎のような例もある為、ノイズを倒すことの出来るシンフォギアを作った了子が摩訶不思議なことを起こせても不思議じゃない、と響は自己完結させたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、打撃の威力が高い
──今作ビッキーは、しっかりと出来上がった下地があるので、その分だけ原作ビッキーよりもパワーや技術が上回っております。

(2)響、新聞を見て興奮する
──原作ビッキーは赤面しておりましたが、今作ビッキーは正直者なので写真に釘付けでした。序でに言いますと、今作ビッキーは大きい胸は好きですが、胸だけで女の子を好きになるかの基準にはしません。

(3)響、ネフシュタン相手でも大丈夫
──確かな技術を手に入れた今作ビッキーは、不意打ちや飛び蹴りに完全に対応しました。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 最初に了子さんのバリアを見た時は、弦十郎は物理最強だったから、了子さんも何かやらかしても不思議じゃねえなって思ってました。

 今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!

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