戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 昨日スマホを起動してシンフォギアXDを立ち上げたら、まさかのウェルの登場でビックリした。何やってんだよ運営!(ライド感)

 海賊衣装の切ちゃんが可愛い。後は誰が出るのかな? 予告的には、クリスちゃんは確定として、個人的には翼の海賊ギアが見てみたい。読者の皆様はどうでしょうか? もし僕と同じように翼の海賊ギアを望んでる人がいるなら、僕と一緒に逆羅刹待機をしながら翼の海賊ギアを待ちましょう。

 余談はここまでにして、そろそろ本編に移りましょうか。

 それでは、どうぞ!


EPISODE 11 再会

 デュランダル護送任務から数日が経ったある日、朝早くの時間帯から右手に点滴スタンドを持ち左手で杖を着く1人の患者の姿があった。

 

 その患者とは、絶唱の負荷によって重傷を負い、最近になって漸くICUから出て普通の病室に移された風鳴翼だった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……」

 

 翼は、少しでも早く現場に復帰しようと自主的にリハビリに励んでいる。だが、まだ怪我も完治せず体力も戻り切っていない翼には、こうやってリハビリをすることも堪えるものであった。その証拠に、翼の頬や額からは脂汗が滲み出ていた。

 

(奏、私も見てみたい。見なければ奏と同じところに立てない。戦いの裏側、向こう側に何があるのか。確かめたいんだ)

 

 翼がこう思うのは、(ひとえ)に彼女が眠っている間に見た夢と思われるものが関係していた。

 

 眠り続けている間、翼は夢の中で再会した奏と話したのだ。その会話の中で、奏は戦いの裏側やその向こう側には翼達の見てきたものとは違う別の何かがあると言った。

 

 翼はそれが何かを奏に訊ねたが、奏はそれが何かを明確には答えず翼自身の手で答えを出すものだと答えた。

 

 故に、夢とはいえ自分の相棒が言い残した言葉の意味を知る為に、翼は今を精一杯頑張っているのだ。

 

「翼さん、ICUを出たばかりなんです! これ以上は……」

 

 立ち止まっていた翼は再びリハビリを再会させるが、後ろの廊下の曲がり角から出てきた看護師によって止められる。そこで限界がきたのか、立つのも漸くな翼は近くにあった窓に凭れ掛かってしまった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……すみません」

 

 翼は直ぐに看護師に謝罪を入れ、不意に窓ガラス越しに見える外の様子を一瞥する。翼の視線の先には、何処までも続く雲が殆ど無い青い空があった。

 

(……あの子は、どうしているのかしら?)

 

 青く澄み渡る空を見ながら、翼は自身の後輩に当たる響に想いを馳せた。

 

 翼が医療施設の窓越しから空を見詰めていたのと丁度同じ頃、響は自身の限界に挑むように体力のことを考慮せずロードワークに全力を注いでいた。

 

(暴走したデュランダルの力。怖いのは、あの力と衝動に飲まれて、自分自身も力も制御出来なかったことじゃない。何の躊躇いも容赦も無くただ全力であいつに振り抜いたことだ)

 

 先日の暴走の件は、響の中でも尾を引いていた。幾ら目の前に立ち塞がった相手だとしても、それをただ一方的な暴力で捩じ伏せたことを響は嫌悪している。

 

(頑丈な体は兄貴に、巧い技術はおやっさんに鍛えてもらった。けど、俺自身の心は弱いままだ。俺の心が弱いから、あんなことになったんだ)

 

 暴走したのは、自分自身の心の弱さが原因だと響は思っている。そんな弱い自分をどうにかしようと、響は尚更特訓に力を入れる。

 

(翼さんの背中を追い抜くだけじゃきっと足りない。俺にゴールなんて必要無い。ただ止まらずに、今みたいに走り続けなきゃいけないんだ。止まらない限り、きっと道は続く筈だから)

 

 現状に満足すること無く、今の場所よりもずっと先にある場所を目指して響は駆ける。進んだその先には、きっと自分が望んだ場所と、またその先に通ずる道があると信じて。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「えっ、お見舞い? 俺が?」

 

『ちょっと手が離せないんですよ。すみませんが、お願い出来ますか? こんなこと頼めるの響君しかいなくて』

 

 響が更なる猛特訓に打ち込み始めた翌日、例の如く特訓に励んでいた響に緒川から電話が掛かってきたのである。響は、片手で腕立て伏せをしながら、もう片方の手でスマホを持って電話の受け答えをしている。

 

『すみませんね。貴重な特訓の時間を削るような真似をして……』

 

「いやいや、俺なんてノイズが出ないと、ただのニート同然だから、もっと扱き使ってくれて良いんだぜ? それに、そのくらいなら、面倒事の内にも入らねえよ」

 

 申し訳無さそうにする緒川に対し、響は腕立て伏せを続けながら言葉を返す。筋トレをしながらな為か、響の言葉は途切れ途切れになっている。

 

「でもよぉ、俺が行って大丈夫なのか?」

 

『えっ? 何故ですか?』

 

 腕立て伏せの手を逆にしながら響は緒川に訊ねるが、その意図を理解出来ていない緒川は、逆に響に質問を返した。

 

「いや、俺って翼さんに受け入れられてないじゃん? そんな俺が、果たして翼さんのお見舞いになんて行っても良いのかなってさ」

 

『あぁ、そういう意味ですか』

 

 響の話を聞いて、緒川も響が言わんとしていることを理解した。結局、響は翼と心を通わせることが出来ずに終わっていた。その響が、いきなり翼の病室を訪れても大丈夫なものなのか、と響は言っていたのだ。

 

「病室に入った瞬間、翼さんの蒼ノ一閃が飛んで来たりしないよな?」

 

『ハハハ、翼さんは怪我をしてるんですよ? それに翼さんは、そんな思慮の足りない行動はしませんよ』

 

「どうだか。俺、前に天ノ逆鱗なんていう超質量の物理攻撃を仕掛けられたんですが……」

 

『……』

 

「おい、そこで黙るなよ。何か喋れよ」

 

 響の懸念を払拭しようとしたが、過去の前科を突き付けられて緒川は黙ってしまい、響は苦笑いを浮かべながら返答を求める。

 

『と、兎に角です。響君の活躍は、ちゃんとレポートにして翼さんの下にも送っているんです。今の響君の活躍を知れば、翼さんだって前のような邪険な扱いはしませんよ。という訳で、宜しくお願いしますね。それでは』

 

「あっ! ちょっと待て!? おい! ……んの野郎、切りやがった」

 

 慌てた様子で会話を締め括ろうとする緒川を響が止めようとしたが、響の静止の声が届く前に緒川は逃げるように通話を切ってしまった。

 

「どうせ今掛け直しても無視されるんだろうな。ったく、これでもし翼さんから何か飛んで来たら緒川さんを取っちめてやる」

 

 響は、愚痴を漏らしながらテーブルの上のタオルと持っていたスマホを取り替えて、手に取ったタオルで流れた汗を拭き取った。

 

「えーっと、何持ってくべきだ? 林檎(りんご)とか桃が良いのか? いや、一々剥くのに手間が掛かるのは良くないか。出来ることなら素手で簡単に剥けるものが良いか。だとしたら、バナナとか蜜柑(みかん)、葡萄とかの方が良いな。翼さんも女の子だし、食べ物だけじゃなくてもっと可愛気のある物も欲しいよな。なら、花とかも持っていた方が良いよな。後は……」

 

 筋トレを中止し、手に取ったタオルを首に掛けてスマホを操作する響。響は、お見舞いに来てもらったことならあるが、逆にお見舞いに行った経験が乏しい為、スマホでお見舞いに持って行くのに良い代物を調べていた。

 

 すると、翼のお見舞いを考える響のお腹が唐突に鳴った。

 

「あ、昼飯食うの忘れてた。もうそんな時間か」

 

 特訓に注力し過ぎていた為に昼食のことがすっかりが頭から抜けていた響。食べることが大好きな彼が、自身の空腹のことも忘れて何かに没頭するというのは珍しいことである。

 

「お見舞いのこともあるし、見舞いの品探し序でに昼飯も外で食おう。それに、今思ったら冷蔵庫もすっからかんだしな。何か作ろうにも、食材がなーんにも無いんじゃどうしようもない」

 

 実のところを言うと、響は食べるのも好きだが料理を作るのも得意である。2年間を兄貴分と過ごす中で、兄貴分の大勢の現地妻達から様々な料理を作れるよう仕込まれたのだ。

 

 結果、響は和食に洋食に中華、多数の民族料理を作ることが出来るようになったのだ。響にとっては、虫だって立派な食材だし、響に掛かれば、どんな下手物(げてもの)食材も絶品の品に変わる。見た目が良いとは保証は出来ないが。

 

 それはさておき、響は特訓で掻いた汗をシャワーで洗い流し、黒のタンクトップの上にパーカーという響が好むいつも通りの服装に着替えて街へ繰り出した。

 

「さてさて、何処に行こうかなっと……」

 

 今は丁度お昼時であり、多くの店が鎬を削るように奮闘している。それによって、周りの店からは香ばしい料理の匂いが周囲に漂う。

 

「ん?」

 

 響が匂いを嗅ぎ分けながら道を歩いていたその時、響は不意に足を止めて目線を左に向けた。

 

「ふらわー? ここから良い匂いがしてくるな」

 

 響の視線の先には、“ふらわー”と書かれた看板が飾られている店があった。気になった響は、ガラスが格子状に填められた扉を横に引いて中に入った。

 

「いらっしゃい!」

 

 扉の先には、厨房で料理で使う食材を切っていた店員と思われる女性がいて、扉が開いた音を聞いて快く響を迎え入れた。

 

「僕、1人かい?」

 

「あぁ。ここって、何の店なんだ?」

 

「ここかい? ここはね、見ての通りお好み焼き屋だよ」

 

「お好み焼き屋か。通りでソースの良い匂いと食べ物を焼く良い匂いがしてきた訳だ」

 

 響がこの店にやって来たのも、(ひとえ)にお好み焼きを焼く匂いとソースの(かぐわ)しい匂いに惹き付けられたからに他ならなかった。

 

「そういえば、お好み焼きなんて久しく食べてないな」

 

「そうかい。ところで、もうお昼は食べたのかい? まだなら、ここで食べていったらどうかしら?」

 

 このお好み焼き屋の店長と思われる女性のお誘いを聞いて、響が答えるよりも先に響のお腹が鳴った。どうやら、体の方はすっかりお好み焼き気分のようである。

 

「あらあら、お腹の方はすっかり食べる気満々みたいね」

 

「そうみたいだ。ここで昼飯食べてくよ」

 

「ありがとうね。注文を聞くから、適当に席に座って」

 

「いや、ここに来るのは初めてだから、この店のお勧めの一品を出してくれ」

 

 響は笑みを浮かべながら注文を聞き、店員の方もニッコリと笑みを浮かべた。

 

「この店のお勧めの一品と言われからには、おばちゃんも本気を出さないとね。そういえば、お名前は何て言うのかしら?」

 

「響だ。立花響。そっちは?」

 

「おばちゃんで良いよ。この店の常連の子は皆そう呼んでるからね」

 

「そっか。じゃーおばちゃん、凄え美味いの頼むぜ!」

 

 響が席に着いてから数分が経過して、ふらわーのおばちゃん特製のお好み焼きが出された。

 

「はい、召し上がれ」

 

「それじゃ早速いっただきまーす!」

 

 響は元気よくお好み焼きに(かぶ)り付いた。その瞬間、響の体に衝撃が走った。

 

「美味いぞぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっっ!!!」

 

 ギャグ漫画であればビーム、料理漫画であれば謎空間が出てこんばかりのリアクションをする響。それ程までに、ふらわーのお好み焼きが響に与えた衝撃は大きかった。

 

「何だこれ!? すっげえ美味え! こんなに美味いお好み焼き食ったこと無え!! 俺が食ってきたお好み焼きの中で1番美味えよ!!!」

 

「大袈裟だねぇ。でも、気に入ってくれたようで何よりだよ。もっと欲しいかい?」

 

「あぁ! 欲しい! もっと欲しい! どんどん焼いてくれ、おばちゃん! 4枚、いや、9枚は焼いてくれ!」

 

「はいはい。それにしても9枚も頼むなんて凄い食欲だねぇ。食べ切れるのかい?」

 

 苦笑しながら言われたおばちゃんの言葉は、今の響には届いていなかった。真正面にいる人物の言葉が耳に入らない程に、今の響は目の前のお好み焼き(ごちそう)に夢中になっていた。

 

 その後、響の注文通りにおばちゃんは9枚のお好み焼きを焼き上げたが、その全てを響が怒涛の勢いでペロリと完食してしまい、更に追加の注文で5枚も焼いたのだった。

 

「はぁ〜食った食った! 大・満・足ッ!! 今の俺ならミサイル飛んできても対処出来そうだわ〜!!」

 

「本当に一々リアクションが大袈裟だよ。けど、そこまで満足してもらえたのなら料理人冥利に尽きるよ」

 

 何処までもご機嫌で幸せそうな顔をする響を見て、おばちゃんも満足そうに微笑む。結果として、響が今さっきの昼食で食したお好み焼きの数は、何と合計で15枚にも上った。

 

「さてと、腹も膨れたし午後も張り切って行くとしますか!」

 

「何か用事でもあるのかい?」

 

「ん? あぁ、入院してる先輩のお見舞いに行くんだ。それでこれからお見舞いの為の品を色々と買い込みに行くんだ」

 

「そうだったの。何を買うのかはもう決めてるのかい?」

 

「いんや、大雑把には決まってるけど、これといった確定しているものは無いよ。細かく決めるのは、これからって感じかな」

 

「そうかい。お腹が空いてると、嫌な答えばかりが浮かんでくるもんだから、ここでしっかりとお腹一杯になったのは良いことだよ。後はしっかりと考えて、良いお見舞いの品を持って行くんだよ」

 

「おうよ。それじゃ、俺はそろそろ行くよ」

 

 会計を済ませた響は、席から立ち上がって出口へ歩みを進める。おばちゃんも洗い物をする手を止め、去っていく響に体ごと振り返る。

 

「また来てちょうだいね。今度は、先輩さんも一緒にね。先輩さんに宜しく言っておいてちょうだい」

 

「あぁ!」

 

 笑みを浮かべながら手を振って見送るおばちゃんに、響も視線だけおばちゃんに向けながらサムズアップを返して“ふらわー”を後にした。

 

 それから数刻が経ち、響はお見舞いの品を持って、翼の入院している私立リディアン音楽院高等科に隣接した総合病院にやって来た。

 

 総合病院というのは飽く迄も表向きの体裁であり、本当は二課の医療施設である。戦闘で傷付いたシンフォギア装者を治療する以外にも、ノイズによる負傷者や死亡者についてのデータを収集している研究機関としての側面も持っている。

 

「えーっと、確か402号室だったよな。おっ、あったあった」

 

 響は、病院の受付で翼が入院している部屋を聞いて402号室の前までやって来た。しかし、そこで響の足が止まってしまう。

 

「大丈夫だ、大丈夫。蒼ノ一閃も天ノ逆鱗も飛んでこない」

 

 響は、その場で深呼吸を始める。翼との関係がアレだった為、幾ら基本的に図太い響でも緊張と警戒がごちゃ混ぜになっているのだ。

 

「失礼します!」

 

 意を決した響は、普段は使わない敬語を用いて翼の病室内に足を踏み入れた。

 

「つ、翼さ──」

 

 病室内にいると思われる翼の姿を探して、響は視線をキョロキョロさせながら病室内を見渡すが、直後に響の言葉は止まって響自身もその場に固まって持ってきた見舞いの品を落としてしまった。

 

「なっ、おい……まさか……嘘だろっ!?」

 

「何をしているの?」

 

 独り扉の前に立ち尽くしながら驚愕を露わにする響に、後ろからやって来た翼が声を掛ける。その声を聞いて、響は直ぐに体ごと振り返って翼の両肩を両手で掴む。

 

「大丈夫なのか、翼さん!? 何も無かったのか!? いや、何もされてないよな!? まだ翼さん処女だよな!?」

 

「なっ!? 会って早々何言ってるのっ!!?」

 

「へぶぅ!?!!?」

 

 女性に聞くには、些かどころかデリカシーがマイナスを振り切った質問をする響。そんな響を、翼は赤面しながら思いっきりビンタでぶっ飛ばした。

 

 見事翼にぶっ飛ばされた響であるが、今回はデリカシーゼロ寧ろマイナスの響が悪い。

 

「それに、入院患者に無事を聞くってどういうことなの!?」

 

「いや、だってこれはっ!!」

 

 未だ赤面しながら若干早口で響の言葉の意味を訊ねる翼に、響は()たれて痛みが響く頬を左手で撫でながら、右手で翼の病室内を指す。

 

 畳まれずに散らかった衣類やティッシュのゴミ、机の上に積まれたり方向問わずに置かれた本の山や新聞と横になった容器とそこから流れ出た飲料、雑に置かれた薬品類と枯れた状態の花瓶の花。

 

 翼の病室内は、物が乱雑に溢れ返っていたのだ。いや、これは乱雑というレベルを既に超越しているだろう。一言で言うなら、“汚部屋”という言葉がピッタリである。

 

 響に指された自分の室内を見て、翼の鋭くなった目付きが別の形に変わっていく。

 

「俺、翼さんが誘拐されたんじゃないかって思ったんだ! 二課の人達がどっかの国の連中が陰謀を巡らせてるとか言ってたし! それに翼さんは凄い美人で可愛いから、動けない翼さんを狙った糞野郎の犯行じゃないかって!!!」

 

「か、可愛い!? えと、その、これは……」

 

 言葉を捲し立てて自分の考えを伝える響。その言葉の中の“可愛い”という単語に反応して、先程とは別の意味で顔を赤くする翼。翼は、響に何かを伝えようとするが口籠った上に更に顔を赤くして視線まで逸らしてしまった。

 

「え? ……あぁー」

 

 翼の表情を見て言葉を止めた響は、それだけで全てを察した。そう、風鳴翼はお片付けが出来ない女の子だったのだ。

 

(今の翼さん、凄え可愛い。何というか……もっと意地悪してみたい)

 

 そして、何時もは見せない翼のしおらしい表情は、響の中に眠る男の(さが)とも言える本能を刺激し、入れてはいけないスイッチを入れ掛けそうになっていた。

 

 荒ぶろうとする本能をどうにか沈め、響は散らかった翼の汚部屋の片付けをし始める。その様子を、患者様のベッドに腰掛けた翼が見守っている。

 

 衣類や飲料や薬品類や本は仕舞うべきところに戻し、響自身が持ってきたお見舞いの花は枯れた花と取り替え、果物類は室内に転がっていたバスケットの中に入れられた。

 

「もう、そんなのいいから……」

 

「緒川さんからお見舞いを頼まれたんだよ。それに入院患者をあんな汚い部屋で生活させる訳にはいかないだろ」

 

 まだ赤面している翼が、響に片付けはしなくていいと言うが、響は全く聞く耳を持たないでせっせと作業を進めていく。

 

「私は、その……こういうところに気が回らなくて」

 

「でも、意外だったな。翼さんって何でも完璧に(こな)せるイメージがあったからさ」

 

「真実は逆ね。私は戦うことしか知らないのよ」

 

「戦うことしかってことも無いと思うけどなぁ。それに、翼さんの一面を知れて親近感が湧いたぜ俺は。翼さんは天上の人じゃなくて、俺達と同じ人間なんだなって。一見完璧でも、こういう意外な欠点とかあった方がギャップ萌えで尚更可愛いと思うぞ」

 

「またそんな可愛いだなんて!? 別に私は……!」

 

 響の言葉を聞いて、元に戻り掛けていた翼の顔が再び赤くなる。今までファン達から可愛いと呼ばれたことは星の数程あれど、同年代の異性の少年から面と向かって言われたことは無い為、翼の反応はとても初々しいものであった。

 

 翼が赤面している間も響は作業をする手を止めずに動かし続け、漸く最後に畳んだ衣類も仕舞ったことで翼の汚部屋掃除は完了した。

 

「はい、これで終わり!」

 

「すまないわね。何時もは緒川さんがやってくれてるんだけど……」

 

「えっ? 俺もそうだけど、男に自分の部屋の片付けさせるのかよ。下着とかもあるのに……」

 

 今まで当然だったこと故に気付かなかった事実を響に言われ、翼の心に激しい動揺が生まれる。

 

「た、確かに考えてみれば色々問題ありそうだけど、それでも散らかしっぱなしにしてるの良くないから……」

 

「だったら、自分で片付けられるように努力しようぜ。何なら、翼さんの自宅の部屋を練習台にして俺が指導してやるよ。地域もやり方も全部違った数多くの掃除の仕方を極めた俺に任せときな」

 

 料理だけでなく実は掃除や洗濯のテクニックも叩き込まれていた響。この少年、体を使って行うことにはとことん隙が無い。

 

「そ、そんことより! 今はこんな状態だけど、報告書は読ませてもらっているわ」

 

「あぁ、報告書ね」

 

「私が抜けた穴を、あなたがよく埋めているということもね」

 

「いやいや、全然そんなこと無いって! いっつも二課の皆には世話を掛けっ放しだし、翼さんみたいにアームドギアも使えねえから格闘戦ばっかで作業はとろくさいしさ!」

 

 あわあわと慌てながら謙遜する響の顔を見て、翼は思わず微笑を浮かべる。

 

「翼さんにそう言ってもらえて、翼さんとこうして話し合うことが出来て、俺嬉しいよ」

 

「でも、だからこそ聞かせて欲しいの。あなたの戦う理由を」

 

 翼の顔が先程の赤面した可愛らしい表情から一転して、凛とした力強い表情に変わる。

 

「えっ?」

 

「ノイズとの戦いは遊びではない。それは、今日まで死線を潜ってきたあなたなら分かる筈」

 

「……俺が戦うのは、皆の笑顔を守る為だ。それ以上もそれ以下も無い。それに人助けは、俺の趣味みたいなものだからさ」

 

「それだけの理由で?」

 

「あぁ。人の心からの笑顔ってさ、見てて気持ちの良いもんなんだよ。そういうの見てるとさ、俺も嬉しくなって顔が自然と笑顔になるんだ。だから、自分に出来ることを増やす為に色んなことに手を出した。体を鍛えた理由にも勿論含まれてるし、料理に洗濯に掃除もそう、何時の間にか物の修理とかにも手を出してた。全部、人助けと笑顔の為に必死で身に付けたものなんだ」

 

 そう語りながら窓の外を見る響の目は、何処か遠く見つめているように翼には見えた。

 

「……切っ掛けはさ、やっぱ2年前の惨劇の時なんだろうな。あの日、あの時、あの場所で起こった全ての出来事が、今の俺にとっての全ての始まりだったんだ。……あの時、俺を救う為に命を燃やした奏さんだけじゃなく、多くの人が亡くなって、その人達に連なる人達も涙を流して、生き残った人達とその周りからも笑顔が消えた。あの惨劇に関わった人達全員から笑顔が消えた」

 

「……」

 

「もう誰の悲しい顔も涙も見たくない。皆に笑っていて欲しいんだ。俺が人助けするのは、助けた本人だけじゃなく、その先にいる助けた人と繋がりのある人達の笑顔も守りたいからなんだ」

 

 響の胸に秘めた想いが吐露され続ける中、翼は無言で何も言わずにずっと響の言葉を聞き続けていた。

 

「あなたらしいポジティブな理由ね。だけど、その想いは前向きな自殺衝動なのかもしれない」

 

「自殺衝動!?」

 

「誰かの為に自分を犠牲にすることで、古傷の痛みから救われたいという自己断罪の表れなのかも」

 

「俺、別にそんな変なこと言ったつもりは無いんだけどなぁ。ハハハ……」

 

 後頭部を掻きながら苦笑いを浮かべる響に、翼は何処か困ったような笑みを返すのだった。

 

 響と翼は場所を移動し、病院の屋上にて先程の話の続きをすることにした。暖かい日差しが屋上にやって来た2人を歓迎するように照らし、屋上に吹く気持ちの良い風が頬を撫で髪を揺らす。

 

「変かどうかは、私が決めることじゃないわ。自分で考え、自分で決めることね」

 

「考えても考えても分からないことだらけで切りが無いんだ……。デュランダルを握ったあの時、俺の心は何かドス黒いものに飲み込まれそうになった。気が付いた時には、俺は人に向かってあの途方も無い力を振り翳してた。俺の心の弱さが招いたことだっていうのは分かってる。でも、俺がアームドギアを使うことが出来ていれば、少しは変わった未来もあったんじゃないかって思うんだ」

 

「力の使い方を知るということは、即ち戦士になるということ」

 

「戦士?」

 

「それだけ、人としての生き方から遠ざかるということなのよ。あなたに、その覚悟はあるのかしら?」

 

 先程吹いた風よりも、少しばかり勢いのある強い風が吹き抜ける。風に吹かれた髪と、日の光が一切当たっていない翼の真剣な表情とその力強い瞳が合わさって周囲が異様な空気に包まれる。

 

 その空気を感じ取った響は、単純な答えで即答するなんてことは出来なかった。翼の目は真剣そのもので、響の胸の内に眠る(まこと)の答えを欲しているのだ。

 

 風が吹き抜けていく中、両者は沈黙したままだったが、風が吹き抜けた後に響の目が力強いものに変わって正面から翼の目を視線で射抜き、自身の想いを言葉にする為に口を開く。

 

「……さっきも言ったように、俺には守りたいのものがある。それは、皆が笑顔でいられる大切な日常。そんな当たり前のようなちっぽけなものだからこそ、俺はそれを守りたい」

 

「戦いの中、あなたが思っていることは?」

 

「ノイズに襲われている人がいるなら、1秒でも早く救いたい! 最速で、最短で、真っ直ぐに、一直線に駆け付けたい! もしも相手が、ノイズじゃない誰かなら、どうしても戦わなくちゃいけないのかっていう胸の疑問を、俺の想い正面からぶつけたい!」

 

「今あなたの胸にあるものを出来るだけ強くはっきりと思い描きなさい。それがあなたの戦う力、立花響のアームドギアに他ならないわ」

 

 響から返ってきた真の想いを聞き届け、それを胸に響かせた翼は先達として初めて響に助言の言葉を伝えたのだった。

 

 それからも2人の屋上での会話は続く。基本的には、響が分からないことを翼に聞き、翼が聞かれたことを自分なりの解釈を持って響に答える一問一答形式である。

 

 だが、初めて翼とまともに話すことが出来て舞い上がった状態の響は、嬉しさからその時間が少しでも長くなるように必死に会話を続けていたのだ。響の真意は見抜けなかったが、そんな何処か必死で健気に頑張っているようにも見える響を見ていて、翼も悪い気分どころか久しく感じていなかった暖かな心持ちになって自然と微笑みを浮かべていた。

 

「うーん、こうして色々と話を聞いたけど、アームドギアの扱いなんて直ぐには思い浮かばないんだよなぁ……」

 

 長い時間を掛けて翼から色々なことを聞き、響なりにアームドギアについて色々と考えたようだが、結局ピンと来る答えが響の中で生まれることは無かった。

 

「あっ、翼さん! 実は昼飯の時に行ったお好み焼き屋のおばちゃんがさ、お腹が空いたままだと嫌な答えばかりが浮かんでくるって言ってたんだよ!」

 

「何よ、それ……」

 

「俺的には、これは数ある世界の名言の中でもトップ10入りはすると思うね!」

 

「そう……」

 

 唐突に変えられた話題の流れに着いて行くことが出来ず、翼は呆然として響の話につい淡白な答えを返してしまう。

 

「そうだ! 俺ちょっと出てふらわーのお好み焼き買ってくる! 腹が膨れれば、ギアの使い方もティンと閃くかもしれない! 今日初めて食べてすっかり惚れ込んだ俺が言うんだ、翼さんもきっと気に入ると思う! 病院食ばかりの翼さんにも、偶にはボリュームのあるものも食べてもらいたいし!」

 

「ちょっと待って! 私はそこまでボリュームのあるものはまだ……!」

 

「それなら大丈夫! もし翼さんが残しても、俺がペロリと翼さんの食べ残しも食べるから! 善は急げってことで、早速行ってくる!」

 

「あ、ちょ、だから待ちなさい、立花!」

 

 翼の静止の声は既に響には届かず、響は全てを振り切る一陣の風の如きスピードで駆け出して行ってしまった。そんな何処までも元気な後輩の後ろ姿を見送りながら、翼はくすりと微笑を浮かべていたのだった。

 

 しかし、平和な日常というのは長くは続かず、一瞬で崩れ落ちるのものである。

 

 響が“ふらわー”に向かって全速力で駆け抜けていたその時、突如懐に入れていた二課の端末に連絡が入った。

 

端末からの電子音を聞き、響は先程までのお気楽モードから真面目モードに意識を切り替えて端末を取り出した。

 

「はい! こちら響!」

 

『響君、俺だ! 実はこちらでネフシュタンの鎧の反応を確認した! ネフシュタンの少女は、真っ直ぐに二課本部まで向かってきている! デュランダルの確保に失敗した以上、今回の狙いは響君で間違いない!』

 

「俺はどうするべきなんだ!?」

 

『現在周辺地区に避難警報を発令した。もう直ぐで退去も完了するだろう。響君は、そのまま進んで欲しい! そのルートを行けば、こちらに来るネフシュタンの少女と遭遇するだろう。接敵し次第交戦による被害を避ける為に、市街地を避けながら指定されたポイントまでネフシュタンの少女を誘導して欲しい!』

 

「合点承知!」

 

『敵の狙いである君を戦わせるのは正直不味いかもしれん。だが、対抗出来る戦力は今のところは君しかいない』

 

「分かってるって! それによ、今の俺は(すこぶ)る機嫌が良いんだ! 相手がノイズだろうが、完全聖遺物だろうが負ける気がし無え!!!」

 

『……ふっ。そうか、頼もしくなったものだな。だが、相手は完全聖遺物だ。決して油断と無茶はするなよ』

 

「あぁ!」

 

 響は最後に元気よく弦十郎に返事を返してから通話を切った。端末を懐に仕舞い、そのままネフシュタンの少女を迎え撃つ為に駆ける。

 

「響っ!!」

 

 だが、突如呼び掛けられたことで響はその足を止めた。そして、これから走って行こうとした道の先にいる1人の少女の顔を見て瞠目した。

 

「そんな、どうして……!? 何で……!!?!?」

 

 響の心に動揺が走る。響は心や感情が昂ることはよくあるが、不安定に揺れ動くということは滅多に無い。その響が動揺するということは、それだけ目の前にいる少女の存在との再会による衝撃が大きいという証拠だった。

 

「やっと見付けた……! 今まで何処に行ってたの? うぅん、そんなことは本当はどうでも良いの。響が無事で良かった……!」

 

 対する少女の方は、目に大粒の涙を浮かべながら感動で打ち震えていた。少女にとっても、立花響という少年の存在もそれだけ大きかったのだ。

 

「私だよ、響。小日向未来だよ。分かるよね?」

 

 響の目の前にいる白いリボンの少女──未来が確認するように響に問い掛けた。

 

 少女の名前は、小日向未来。2年前の唐突な別れの際、響がもう2度と会うことは無いのだろうと思っていた響の大事な幼馴染みである。

 

 今この緊急事態の中で、世の中の理不尽という荒波に揉まれて引き離された2人の少年少女が、2年の時を経て再会したのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、朝から外でロードワーク
──今作ビッキーは、リディアンの生徒じゃないのであの直角に曲がっているトラックは使えないのである。

(2)響、料理も作れる
──今作ビッキーは、料理も作れます。黎人の現地妻達による魔改造です。響はG(○キブリ)だって絶品料理に変えてしまう(見た目が良いとは限らない)。

(3)響、“ふらわー”で昼食を食べる
──ここで少しオリジナル展開を入れました。シンフォギアを語る上で、お好み焼きは外せない。食べた総数は、何と15枚! 今作ビッキーは、お好み焼きを人の5倍は食べる子です。

(4)響、病室前で打たれる
──以前に打たれなかったことによるツケがここで。まぁ、いきなり年頃の女の子に処女かどうかを訊ねるというデリカシーがマイナス振り切った発言をした響が100%悪いです。

(5)響、S(サディスト)に目覚め掛ける
──翼の表情が可愛過ぎて響の眠れる野生が目を覚まし掛けた。僕もあの翼さんを最初に見た時は、胸から込み上げてくるものがありました。男なら仕方無い。

(6)響、翼に何度も可愛いと言う
──完全に無意識な発言。距離が近付いたからこそ、何度も言える可愛い発言である。その度に初心な翼は赤面する。

(7)響、実は掃除と洗濯も出来る
──料理と同様に現地妻達に鍛えられた。彼女達は、自分達の好きな黎人の弟分である響を本当の弟のように思っている。だからこそ、ついつい可愛がって構ってしまうのである。

(8)響、物の修理とかも出来る
──これは黎人による魔改造。仕事を手伝う内に作業を覚えた感じです。材料と道具があれば、○ブトボーグからグランドピアノまで何でも直せる。更に言うと、黎人は響の上位互換である。

(9)響、遂に未来と再会
──2年ぶりの再会。ここまで来るのは長かった。だが、この再会が吉と出るか、凶と出るかは……。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 今回は翼さんのヒロイン回だったと個人的に思う。初心故に何度も赤面する翼さんが見れて僕は満足です。

 そして、遂に再会した響と未来。全身銀色の変態が迫る中、2人は一体どうなってしまうのか!?

 次回は少し未来サイドから話を進めていこうと思ってます。では、今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!
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