戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今回は少し時間が掛かってしまい申し訳ありません。時間を掛けた分だけ良い出来になっていると思っています……なっていると良いなぁ(白目)

 そういえば、嬉しい報告が1つあります。1週間前のシンフォギアラジオの「借ります!!」のコーナーで、井口さんに僕の出したお便りを採用して貰えたんですよ。凄く嬉しかったです。()れが僕のお便りかは言いませんが、強いて言うなら僕は大学生だということだけをここに記しておきます。

 今回は何時もよりも文章が長く、文章を4つに区切りましたが何卒お付き合い下さい。それと少しネタバレですが、文章の4つ目にはビッキーの戦闘シーンがあるのですが、良ければ“英雄”という曲を聞きながら戦闘シーンの部分を読んでみて下さい。

 では、そろそろ本編に入っていきましょうか。

 それでは、どうぞ!


EPISODE 16 太陽()日常(未来)

 時間帯は午後を回り、響は翼の付き添いでリディアンに隣接している総合病院に赴いた。翼の診察が終わるまで、響は暇潰しに病院の屋上に訪れていた。

 

「時間的にもうそろそろ放課後か。今日も未来はリディアンにいるのかな?」

 

 響は屋上から見えるリディアンを一瞥して独り言ちる。

 

「ここからなら意外と未来が見えたり……止めよう。うん、止めとこう」

 

 屋上からリディアン全体を見渡そうとした響は、行動を起こす一歩手前で踏み止まってリディアンから目を逸らした。

 

 女の花園と言っても過言では無い女の子しかいない女子高を真っ黒のパーカーを着用している響が目線を釘付けにして見渡しているのは、幾ら何でも不味いことだと響は判断したのだ。

 

「うん、変態行為は良くない。俺まだ捕まりたくない」

 

 響が独り言ちていると、人と足音と共に何かを地面に突くような音が屋上に鳴り響いた。風の音しかしない屋上に新たな音が加わったことで、響の視線も自然と音が聞こえてきた方角に吸い寄せられる。

 

 その方角には、左手に持つ怪我人用の杖で歩行の補助をしながら響の下まで歩み寄ろうとしている翼がいた。翼を見付けた響は、翼が自分の下に来る前に自分から翼に駆け寄った。

 

「翼さん! 診察が終わったんですか!」

 

「えぇ。ついさっき終わったところよ。それで立花を捜してたんだけど、病院のホールにはいなかったからここに来たのよ。この病院内で立花が行く場所なんて限られてるもの」

 

「すみません。怪我人の翼さんに無茶させて」

 

「大丈夫よ。階段を登るのも良いリバビリになったし、この杖だって大事を取ってるだけだから」

 

 翼は左手に持つ補助用の杖を目線で指しながら、微笑を受けべてそう言ってみせた。その何ともなさそうな姿を見て、響も一安心する。

 

「それと、明日から元通りリディアンに復学することになった。まだ芸能の活動の方は復帰の目処(めど)が立っていないけど」

 

「そうなんですか。あ、このまま立ち話もアレだから、一先ず座りませんか?」

 

「そうね」

 

 座って話をすることを響が提案し、翼がその意見を了承する。響はベンチまでの短い距離を翼のことを気遣いながら移動した。

 

 ベンチまで移動して座った翼は、改めて響に話を切り出した。

 

「今の立花の顔は、今朝とは打って変わって随分と良いものになっている。何かあったのか?」

 

「あぁ。ちょっと知り合いと話をしたんだ。お陰で心の(つっか)えが漸く取れた。今は凄く気分が良い」

 

「そう。……すまないな、立花。本来なら悩んでる後輩を導くのは、同じ戦場(いくさば)に立つ私の役目である筈なのに……」

 

 翼は、申し訳無さそうに謝罪をの言葉を口にする。対して響は、若干慌てながら言葉を返した。

 

「そ、そんなことないって! 今回はタイミングが悪かっただけだ! もし、次に何か悩み事とか出来たら翼さんにも相談するから! だから、そんな申し訳無さそうにしないでくれ!」

 

「……分かった。立花がそう言うなら、今回はそれで納得しておくわ」

 

 何故か慌てる響を見て、翼は顔に微笑を浮かべながら響の言葉を承諾するのだった。

 

「それにしても、俺ってダメな奴だよな。ついこの前に自分の決意を固めたと思った途端に、目の前に起こった小さなことで取り乱してさ。俺はもっと強くならないといけないのに……変わらねえといけないのによ……」

 

「あなたは以前、私に当たり前のようなちっぽけなものを守りたいと言っていたわ。なら、その小さなことで躓くというのも悪くないんじゃないかしら?」

 

「翼さん……」

 

「それに無理に変わろうとせず、今の立花のままでも私は構わないと思うわ。小さなものを守りたいというなら、寧ろそんな小さなことにこそ目を向けるべきだと私は思う。今の立花の想いがあれば、きっと立花は立花のまま強くなれると思うな」

 

 そう響に優しく語り掛ける翼の顔は、とても美しく優しいものだった。そんな翼の顔を見た響は、思わず顔を赤くしてしまい、赤くなった顔を悟られまいと目線や顔を少し翼から逸らして照れ隠しをする。

 

 だが、響の照れ隠しも虚しく響の赤くなった顔は、響を見ながら話をしていた翼にバッチリと見られてしまっていた。すると、今度は響の顔を見ていた翼まで顔を赤くしてしまった。

 

「え、えーっと、その……か、奏のように、人を元気付けるのって難しいわね……!」

 

「そ、そんなことないぜ、翼さん! そういえば、前にもここで翼さんと話をした時も助言を貰ったよな!」

 

「そんなこともあったわね」

 

「俺って本当に翼さんに助けられてばっかだ。それに早速翼さんに悩み事を解決してもらって! やっぱり翼さんは頼りになる先輩だ!」

 

「そんな褒めても、私は……」

 

「あっ、褒められてちょっとだけ翼さんの顔がまた赤くなった! やっぱり顔を赤くしてる翼さんって可愛いよな!」

 

「も、もう! そういうこと言うのは止めなさい、立花! 私は別に可愛くなんて……立花が奏みたいに意地悪だ」

 

「ッ!」

 

(ヤバい……! 何この可愛い生き物!? もっと虐めたい……!)

 

 顔を赤くしながら外方(そっぽ)を向いていじける翼を見て、響の中に眠る本能が再び刺激され、入れてはいけないスイッチをまた入れ掛けそうになった。

 

 前にも増して荒ぶろうとした本能を、修行で心身共に更に鍛えられた鉄の意志で無理矢理鎮めることに成功した響は、これ以上本能が刺激される前に新しい話題を切り出す。

 

「翼さん、絶唱の負荷のダメージの方はどうなんだ?」

 

「もうそこまで気にする程ではないわ。先も言ったように今は大事を取っているだけだから」

 

「そっか。そいつは良かった」

 

 そこで一旦会話が途切れ、響はまた気不味い空気が流れるかもと懸念したが、今度は翼から次の話の話題を響に振った。

 

「絶唱による肉体への負荷は絶大。正に他者も自分も、全てを破壊し尽くす滅びの歌。その代償と思えば、これくらい安いもの」

 

「絶唱……滅びの歌……。でも、でもよ翼さん、2年前に俺が辛いリハビリを乗り越えられたのは、翼さんの歌に励まされたからなんだ!」

 

 ベンチから立ち上がった響は、片方の手で握り拳を作りながら熱く翼に訴える。翼の歌う歌は、戦いの歌だけなのではなく、聞く人全員に元気を与えることが出来る暖かいものなのだと。

 

「翼さんの歌は、滅びの歌だけじゃない! 聞く奴全員に元気を与えることが出来る歌だってことを俺は知ってる!」

 

「立花……」

 

「だから早く元気になってくれ。俺は、翼さんの歌と歌を歌う翼さんが大好きなんだ!」

 

「だ、大好きって……何だか私が励まされてるみたいね……!」

 

 響に大好きと言われ、翼はまた顔を赤くする。先程よりかはまだ赤みが薄いからか、言い淀むこと無く言葉を述べることが出来た翼は、響に向けて穏やかな微笑みを向けた。

 

 そんな翼の響が今まで見てきた笑顔の中で1番女の子らしい笑顔を見て、響自身も顔を赤くし後頭部を掻きながら満面の笑みを浮かべた。

 

(……何だか不思議ね。最近は立花と一緒にいると、凄く気分が良い。それに何だか胸の奥が暖かい。奏と一緒にいた時と同じ……ううん、奏とはまた違う暖かさを感じる。この気持ちは、一体何なの……?)

 

 翼の胸の奥に秘められた翼自身にも分からない暖かな気持ち。その気持ちが一体何なのか。翼がその気持ちの正体を知るのは、きっとそう遠くないだろう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 時間が経ったことで洗濯されて干された服も乾き切り、クリスは借りていた未来の体操服を未来に返して、乾いた自分の服に着替えていた。

 

「喧嘩も擦れ違いも……私にはよく分からないことだ」

 

 服が乾くまでの間未来の話を聞き続けたクリスは、全部を聞き終えた上で自身の思ったことを正直に口にした。

 

「友達と喧嘩したり、擦れ違ったりしたことないの?」

 

「……友達いないんだ」

 

「えっ」

 

「地球の裏側でパパとママを殺されたあたしは、ずっと独りで生きてきたからな……友達どころじゃなかった」

 

「そんな……」

 

「たった1人理解してくれると思った人も、あたしを道具のように扱うばかりだった。誰もまともに相手してくれなかったのさ。大人は、何奴(どいつ)此奴(こいつ)もクズ揃いだ。痛いと言っても聞いてくれなかった。止めてと言っても聞いてくれなかった。あたしの話なんて、これっぽっちも聞いてくれなかった!」

 

 思い出された過去が怒りに変わり、クリスの目がギラついて鋭くなり、怒りを堪えるようにクリスは歯を食い縛った。

 

「ごめんなさい」

 

 知らなかったとはいえ、辛い過去を抱えていたクリスに怒りと悲しみを思い出させるような真似をしたことを自覚した未来は、視線を下に向けて素直に謝った。

 

「なぁ。お前その擦れ違った友達ぶっ飛ばしちまいな」

 

「えっ!?」

 

「そいつがどんな危ねえことしてるのかは知らねえけど、1発ぶっ飛ばしてお前の力を見せ付けてやれば良いんだよ。そうすれば向こう側も、お前が守られるだけの弱い女だなんて思わなくなる。その後はとっとと仲直りして終了。そうだろ?」

 

「……出来ないよ、そんなこと」

 

「おいおい、ただ黙って見てるだけじゃ何も変わらないし始まんねえぞ? 寧ろ、女だからこそ見てるだけじゃなくて何かしねえといけないだろ」

 

「……」

 

「……どうも分っかんねえよなぁ、その辺が」

 

「でも、ありがとう」

 

 面倒臭そうに後頭部を掻きながら未来から視線を外して窓の外を見遣るクリスに、何時もの優しげな顔に戻った未来はお礼の言葉を述べた。

 

「あぁん? あたしは何もしてないぞ?」

 

「ううん。本当にありがとう。気遣ってくれて。あ、えーっと……」

 

「……クリス。雪音クリスだ」

 

「優しいんだね、クリスは」

 

「そうか……」

 

 未来に優しいと面と向かって言われたクリスは、何処か気不味そうな顔をして未来から視線を逸らした。

 

「私は小日向未来。もしもクリスが良いのなら、私はクリスの友達になりたい」

 

 未来に手を握られて反射的に振り向いたクリスは、振り向いたことで再び視線が合った未来から友達になりたいと言われ、少し放心してから苦虫を噛み潰したような表情になり、握られた未来の手を振り解いて未来に背をむける。

 

「あたしは、お前達に酷いことをしたんだぞ」

 

「えっ」

 

 唐突にクリスからそう言われた未来は、何も思い当たることが無い故にポカンとした顔で言葉を漏らす。

 

 その時、街中にけたたましい警戒警報のアラーム音が鳴り響いた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 街中に響き渡った警戒警報のアラーム音は、病院の屋上で雑談をしていた響と翼にも勿論聞こえていた。

 

 響と翼は、先程の温和な顔から険しいものへと表情を変えて、携帯していた通信機から聞こえてくる弦十郎の指示に耳を傾けていた。

 

「翼です。立花も一緒にいます」

 

『ノイズを検知した。相当な数だ。恐らくは未明に検知されていたノイズと関連がある筈だ』

 

 朝の現場から離れずに作業を行っていた弦十郎の声が通信機越しに響達に届く。弦十郎の言う通り、二課本部の司令室のモニターには、相当数のノイズの反応が表示されていた。

 

「了解しました! 現場に急行します!」

 

『ダメだ! メディカルチェックの結果が出ていない者を、出す訳にはいかない』

 

「ですが……!」

 

 急いで現場に向かおうとする翼を、弦十郎は通信機越しに静止させる。そんな弦十郎に翼は反論の言葉を返そうとするが、言葉を返す前に傍にいた響に止められる。

 

「翼さんは皆を守ってくれ。そしたら俺は前だけを向いてられる」

 

「立花……」

 

 呆然と響を見遣る翼に、響は何も言わずに頷いて答える。そんな響の顔を見て、翼は何も言葉を言い返すこと無く弦十郎の指示を承諾した。

 

「了解しました、司令。私は待機して、前線は立花に任せます」

 

『うむ。響君、翼がいない分大変かもしれないが、出張ってくれるか?』

 

「合点承知だ、おやっさん! 元より肉体労働なら俺に任せてくれ! 後ろを任せた翼さんの分も、俺が前に出て頑張らないとな!」

 

『良い活気だ。その調子からすると、胸の(つっか)えはもう問題無いようだな?』

 

「あぁ! 頼りになる兄貴と先輩のお陰で今度こそ冇問題(モーマンタイ)だ! 今の俺は負ける気がしねえ!」

 

 今朝と違って前向きなやる気と活気に満ち溢れる響の声を聞き、通信機越しから弦十郎のフッと笑う声が漏れ出て、響の傍にいた翼は微笑みを浮かべる。

 

『よし! 響君は本部からの指示に従って指定されたポイントまで急行してくれ!』

 

「了解!」

 

 弦十郎との遣り取りを終えた響は、一先ず通信機の通話をオフにしてから懐に仕舞った。

 

「という訳でだ。翼さん、俺行ってくるよ」

 

「えぇ。頼んだわよ」

 

「任せとけ!」

 

 響は胸を軽く叩いてから会話を締め括り、病院の屋上から駆け出していった。残された翼は、響の背中が見えなくなるまで見送ってから自身も二課の本部に向かって移動を始めた。

 

 響が二課からの指示で現場に急行している頃、未だに警報が鳴り響いている街はパニックに陥っていた。

 

 皆が皆ノイズの危機から逃れようと、指定された地下シェルターに逃げ込む為に全速力で街中を駆け抜けていく。

 

 警報が聞こえていた未来も、クリスと小母ちゃんと共に店の外に出てきている。その中で、クリスは誰も彼もが必死になって走っている理由を知らない故に困惑していた。

 

「おい、何の騒ぎだ?」

 

「何って、ノイズが現れたのよ! 警戒警報知らないの!?」

 

 今のご時世でノイズという存在を知らない者は数少ないだろう。勿論クリスだってノイズのことは知っている。寧ろクリスはつい最近までノイズを使役する陣営にいた人間だった。

 

 しかし、長い捕虜生活を過ごしていた為にクリスはノイズの警戒警報を聞いたことが無かったのだ。

 

 警報のせいで先よりも多少落ち着きが無くなっている未来から警報の意味を教えられ、クリスの顔が強張ったものに変わっていく。

 

「小母ちゃん、急ごう!」

 

「あぁ……」

 

 不安そうな顔をする小母ちゃんに、未来は言葉で早く逃げるように促して、小母ちゃんも未来の意見に頷く。

 

 未来と小母ちゃんがシェルターのある場所に向かおうとするが、クリスは大勢の人々が逃げていく方向とは真逆の方に向かって駆け出した。

 

「クリス!」

 

 未来はクリスを静止させようと呼び掛けるが、クリスに未来の声は届かず、クリスはそのまま全速力で走り去ってしまった。

 

(バカが! あたしってば、何遣らかしてんだ!)

 

 逃げる人々の隙間を縫うようにクリスは駆ける。

 

(あたしが雲隠れして居場所が分からなくなったから、フィーネの奴は無差別に街を襲いやがったんだ……!)

 

 今回の大規模なノイズの襲撃は、雲隠れして行方の分からないクリスを燻り出す為のものだとクリスは考えた。クリスの性格と考え方を熟知しているフィーネらしいやり方であると。

 

 人混みの中を駆け抜けて独り人気の無い場所に出てきたクリスは、肩を大きく上下させながら走ったことで乱れた呼吸を整え始める。

 

「あたしのせいで関係の無い奴らまで……くぅ、あああぁぁぁああああああああああああっ!!!!」

 

 自分のせいで何の関係も無い人々まで巻き込んでしまったことにクリスは慟哭の叫びを上げる。クリスの目から涙を流し、地面に膝を着く。

 

「あたしがしたかったのはこんなことじゃない! けど何時だってあたしのやり方は……何時も何時も何時も!」

 

 泣き崩れたクリスの周囲に、今回の動乱の原因である無数のノイズが群がり集まってくる。三方をノイズに囲まれ、クリスは立ち上がってノイズに振り返る。

 

「あたしはここだ! だから、関係無い奴らのとこになんて行くんじゃねえ!」

 

 怒りと悲しみを怒号に乗せてクリスは啖呵を切る。ノイズは形状を変化させてクリスに襲い掛かり、クリスはノイズの攻撃を紙一重で躱しながらシンフォギアを起動させる為の聖詠を歌う。

 

「Killiter……ケホッ、ケホッ!」

 

 しかし、聖詠を歌おうとしたクリスは先まで泣いていたことが原因で噎せてしまい、聖詠が途切れクリスの動きが止まってしまう。

 

 そんなクリスに、空中を飛行していた数体のフライトノイズが攻撃を仕掛ける。動くことが出来ないクリスは、このままではノイズにその身を貫かれて短い生涯に幕を閉じることになる。

 

 しかし、そんなことを許さない者がいた。

 

「ふんっ!」

 

 震脚でコンクリートの地面を引っ剥がし、それを盾にしてノイズの攻撃を防ぐ。

 

「はぁ!」

 

 そして、そのコンクリートの壁を拳で砕くことによって壁だった瓦礫で周囲のノイズへの牽制も行った。攻撃を加えようと限り無く実体化していたノイズは、その瓦礫に巻き込まれて吹っ飛ぶ。

 

 そんな非常識をやって見せたのは、過去に翼の天の逆鱗すらも拳1つで相殺して見せた特異災害対策機動部二課の司令官である風鳴弦十郎だった。

 

「はぁぁぁぁ!」

 

 弦十郎は拳を構えながらクリスの前に立ち、クリスはそんな弦十郎を見て目を見開いた。

 

 クリスを殺そうと迫るノイズは、弦十郎のことなどお構い無く再び形状を変化させて弦十郎ごとクリスに襲い掛かる。

 

「ふんっ!」

 

 しかし、またも弦十郎の震脚によって引っ剥がされたコンクリートの壁に防がれたことでノイズの攻撃は不発に終わる。

 

 その間に弦十郎は、クリスの体を抱き抱えながら大きく跳躍し、近くのビルに着地することでノイズから距離を取った。

 

「大丈夫か?」

 

 弦十郎はクリスの身の安否をクリスに確認する。しかし、クリスは弦十郎の言葉に答えず、弦十郎からも視線を逸らして距離を取り、下に蔓延っていたノイズを確認する。

 

 すると、下を飛んでいたフライトノイズがクリス達を追ってきて、クリス達の前に立ちはだかった。

 

「Killiter Ichaival tron」

 

 クリスは改めて聖詠を歌い、今度こそシンフォギアを身に纏った。

 

 クリスは、アームドギアをボーガンの形にして周囲を飛ぶフライトノイズにエネルギー状の矢を撃ち放つ。フライトノイズは、エネルギー状の矢に撃ち抜かれ爆発する。

 

「ご覧の通りさ! あたしのことは良いから、他の奴らの救助に向かいな!」

 

「だが……」

 

「こいつらはあたしが纏めて相手にしてやるって言ってんだよ!」

 

 クリスは弦十郎との会話をそこで打ち切り、アームドギアをガトリングに変形させて大きく跳躍した。

 

「着いて来い、屑共!」

 

【BILLION MAIDEN】

 

 クリスのBILLION(ビリオン) MAIDEN(メイデン)が空中から撃ち放たれる。降り注ぐ無数の弾丸によって、周囲にいたノイズは諸共撃ち抜かれて煤となって消え失せる。

 

(俺は、またあの子を救えないのか……)

 

 1人の少女が辺り其処ら中を駆け、跳び、手に持った武器で立ちはだかる敵を目の当たりにしながら、弦十郎は何もしてやれない自身の無力さに嘆いた。

 

 川辺に移動したクリスは、襲い掛かるノイズの大群を躱してボウガンの矢で撃ち抜いていく。空からフライトノイズが強襲するが、クリスはその不意の攻撃すらも躱して、逆に地面に突き刺さったフライトノイズの群れを矢で撃ち抜く。

 

 攻撃直後のクリスに、近寄ってきたヒューマノイドノイズが攻撃を仕掛ける。クリスは攻撃を躱してからノイズの懐に潜り込み、突き付けたアームドギアでノイズを持ち上げてそのまま地面に叩きつける。更にアームドギアをボーガンからガトリングに変形して追い討ちの弾幕を撃ち放っ。

 

 ノイズの大群はは尚もクリスに攻撃を仕掛けるが、高火力で遠距離攻撃を得意とするクリスのイチイバルの前では、全てが行動を起こす直前、()しくは行動を起こした直後に無力化される。

 

 クリスは周囲に蔓延るノイズを一睨みしてから、自らノイズの大群の中に突っ込んでいった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 クリスが戦闘始めたことで、激しい弾幕の光が天に昇っていき、それを視認した街中のノイズがクリスの下に向かおうと行動を開始する。

 

 ノイズは移動の際に形状を変化させ、限り無く実体化していたノイズによって街の建造物に穴が開いて破壊される。

 

 二課本部からの指示でノイズがいるポイントまでやって来ていた響も、突如として大量のノイズが移動をしている光景を目の当たりにしていた。

 

「まさか、あっちにクリスがいるのか!?」

 

 ノイズが向かう先にクリスがいると推測した響は、その場から移動する大量のノイズを急いで追おうとする。

 

「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?!!?」

 

「悲鳴ッ!?」

 

 しかし、突如として聞こえてきた悲鳴が響の足を止めた。響は、ノイズに狙われてはいるがシンフォギアを持ち自分の身を守ることの出来るクリスよりも、今近くにいるノイズに対して無力な人々を守る為に直様悲鳴が聞こえてきた方向に駆け出した。

 

 響が向かった先にあったのは、そこら中が罅割れ大きな穴も開いた鉄骨が剥き出しになっている工事中の廃ビルだった。

 

「おい! 誰かいるの──」

 

 迷わず廃ビルに入った響は、悲鳴を上げた誰かを捜して声を張り上げようとしたが、言い切る直前で言葉を遮られる事態が発生した。

 

 響の頭上から触手らしきものが急降下してきたのである。咄嗟にそれに気付いた響は、目の前にあった手摺を踏み台にして跳ぶことで避け、落下しながらも空中で体勢を整えて見事に着地した。

 

 触手が廃ビルを破壊したことで巻き起こった土煙が晴れ、響が見上げた先には廃ビルの鉄骨に絡み付くように場所を占めているタコ型のノイズ──ミリアタボノイズがいた。

 

「野郎、ぶっ飛ば──」

 

 響は意気込みを入れ直して、目の前のノイズを倒す為に聖詠を口にしようとしたが、不意に出てきた手に口を塞がれて又しても言葉を遮られた。

 

 響は自身の口を塞いだ手を出した人物を確認する為に、手が出てきた方向を見やった。そこには、空いたもう片方の手の人差し指を立てて静かにするようジェスチャーをしている未来がいた。

 

(未来ッ!? どうしてこんなところに!?)

 

 響は未来がこんな危険な場所にいることに驚愕を露わにする。響が驚いている間に、未来は懐からスマホを取り出して少し操作してから響にスマホの画面を見せた。

 

『静かに。あれは大きな音に反応するみたい』

 

 スマホに表示された文章を見て、事態を大体察した響は何も言わずに無言で頷く。響が頷いたのを見て、未来は再びスマホを操作して響に見せる。

 

『あれに追い掛けられて、“ふらわー”っていうお好み焼き屋さんの小母ちゃんとここに逃げ込んだの』

 

 未来は響にスマホを見せた後、別方向に視線を送り響も未来に釣られてその方向を見遣る。そこには、コンクリートの地面の上に横たわりながら気絶している“ふらわー”の小母ちゃんがいた。

 

(シンフォギアを纏う為に歌を歌えば、俺は大丈夫でもそのせいで未来と小母ちゃんが……。どうする? どうすれば良い……!?)

 

 最も最善策と思えるのは、響がノイズを引き付けることであるが事はそんな簡単な問題ではない。響がこの場を離れれば、その間に別のノイズに未来達が襲われる可能性がある。ただの女の子である未来には小母ちゃんを担いで移動することは出来ないし、気絶している小母ちゃんは自分から動くことは出来ない。未来や小母ちゃんのどちらかを囮にするという残酷な選択肢を響は持ち合わせていない。

 

 思案して顔を険しくする響に、未来はまた自身のスマホの画面を見せる。

 

『響聞いて、私が囮になってノイズの気を引くから、その間に小母ちゃんを助けて』

 

 スマホに表示された文章を見た響は、目を大きく見開いてから自身もスマホを取り出して文章を入力してから未来に見せる。

 

『ダメだ、そんなこと出来る訳無いだろ! 未来にそんな危険なことをさせられるか!』

 

『元陸上部の逃げ足だから何とかなる』

 

『何とかなる訳無いだろ!』

 

『じゃあ何とかして』

 

 見せられた文章を見て響の体が硬直する。未来はそんな響のことなどお構い無く新たに文章を入力したスマホの画面を見せる。

 

『危険なのは分かってる。だからお願いしてるの。私がこの世界の誰よりも1番に信頼してて、私の全部を預けられると思ってるのは響だけなんだから』

 

 その文章は、どんな時、どんな場所、どんな状況でも響のことを絶対に信頼しているという未来の気持ちの表れであった。響は未来に言葉を返そうとするが、それは未来が響のスマホに手を置いて下げさせたことで止められた。

 

「うぅ……」

 

 すると、気絶して横たわっている小母ちゃんが呻き声を漏らした。その声に反応して、ミリアタボノイズの触手が小母ちゃんがいる方向へと向けられる。

 

 未来はスマホを自身の懐に仕舞い、物音を立てないよう静かに響の耳元に顔を近付けて小声で話し始める。

 

「2年前、私は1人だけ安全なところに逃げて、結局響に何もしてあげられなかった。今更許してもらおうなんて思ってない。それでも一緒にいたい。私は今度こそ響の力になりたいの」

 

「ダメだ未来。許すも何も、俺はお前に怒ったことなんてない。それに未来は何の力も無いただの女の子だろ」

 

「ありがとね。でもね、私は響1人に背負わせたくないの。確かに私は何の力も無いただの女の子だよ。けど、例え何の力が無くても、女の子だって見てるだけじゃ何も始まらないの」

 

 未来はそう言って話を締め括り、響の耳元から顔を話してその場に立ち上がった。

 

「私、もう迷わない!」

 

 廃ビル内に響く程に大きな声で発せられた未来の声に反応して、今まで様々な方向に向けられていたミリアタボノイズの触手が一斉に未来に向けられる。

 

 未来はその場から一気に駆け出し、迫り来るミリアタボノイズの触手を間一髪のところで全て躱しながら廃ビルから抜け出して怒涛の勢いで走り去って行く。その未来の後を追い、廃ビルに陣取っていたミリアタボノイズも外に出て行った。

 

 ミリアタボノイズがいなくなり、周囲に他のノイズがいないことを確認した響は小母ちゃんの無事を確保して、今度こそ聖詠を歌う。

 

「Balwisyall Nescell gungnir tron」

 

 聖詠を歌いシンフォギアを纏った響は小母ちゃんを横抱きにして、大きく跳躍して一気に廃ビルから跳び出る。

 

「響君!」

 

「緒川さん!」

 

 すると、響が廃ビルを出たのと丁度同じタイミングで廃ビルの前に黒塗りの車が止められ、その車内から顔を出して緒川が響の名前を呼んだ。

 

 無事に着地した響は、車から出てきた緒川に気絶している小母ちゃんのことを任せる。

 

「緒川さん、小母ちゃんを頼む」

 

「響君は?」

 

 響にこれからどう動くのかを緒川が訊ねるが、響は緒川の言葉に何も答えずその場で大きく跳躍して跳び去って行った。去っていく響の後ろ姿を見届けた緒川は、何も言わずに響に言われた通り小母ちゃんを車内に移動させ始めた。

 

(未来、何処だ!?)

 

 響はシンフォギアによって引き上げられた機動力を活かして、街中を跳び回りながら未来が逃げた行方を追っていた。

 

 そんな響の脳裏に思い出されるのは数多くの未来の言葉、そして2年前に響の命を文字通り命懸け救ってくれた奏の言葉だった。

 

(漸く分かったんだ。頑張ってるのは、俺1人だけじゃない。助けようとする俺だけが手を伸ばし続けてたんじゃなくて、助けられる誰かも諦めず必死に手を伸ばし続けていたんだ! だから、あの時の奏さんも俺にあの言葉を掛けたんだ!!)

 

 奏は死に身を任せようとしていた響に、生きることを諦めるなと叱咤した。その言葉は単純な励ましの意味だけでなく、奏が伸ばした救いの手に響からも手を伸ばして欲しいという奏の懇願の意味も含まれていたのだ。

 

(本当の人助けは、お互いに手を伸ばし合って漸く出来ることなんだ!)

 

「きゃあぁぁぁぁぁ!?」

 

「ッ! 未来ッ!!」

 

 未来の悲鳴が聞こえてきた方向に直様視線を向けた響は、闇雲に大きく跳び回るのを止めて、響の元来の性質らしく文字通り一直線にその方向に向かって跳び出した。

 

 ミリアタボノイズの触手を紙一重で躱した未来は、()けてしまった自身の身を起き上がらせて再び走り始める。そんな未来の後をミリアタボノイズもノロノロと追い掛ける。

 

(この俺の気持ちは、翼さんが言ってたような自殺衝動とか、自己断罪とか、罪悪感とか、惨劇を生き抜いた負い目なんかじゃねえ! 2年前、確かに奏さんから託された大切な想いなんだ!!)

 

 一直線に駆け抜ける響は、腰部バーニアを吹かせてビルの上から次のビルの上へと跳び移りながら移動する。

 

(未来は、女の子は見てるだけじゃ何も始まらないって言ってた。なら、男である俺は誰かの為に……誰でもない未来だけの為に、今強くなるっ!!)

 

 響の胸の想いに呼応して、脚部ユニットに備わっていた機構──パワージャッキが起動する。左右の脚部に2基ずつ設けられたパワージャッキが前方に向かって引き絞られ、響がコンクリートの道路から跳躍する際にギミックが発動する。

 

 シンフォギアによって引き上げられた身体能力と腰部バーニアの推進力、そして新たに作動したパワージャッキの弾性の力が加わることで、響の跳躍力を瞬発的に上昇させる。

 

(もう、走れない……)

 

 一方、響と別れてからずっと走り続けていた未来は遂にスタミナが切れて両手両膝をコンクリートの地面に着いてしまった。幾ら未来が元陸上部だとしても、現役で無くなった未来に長距離を全速力で走り続けるのは無茶があった。

 

 足を止めた未来に追い付いたミリアタボノイズは、揺ら揺らとした様でゆっくりとだが標的である未来を仕留めようと狙いを定める。

 

(ここで、終わりなのかな? 仕方無いよね……響……)

 

 心半ばで諦め掛けている未来のことなど露知らず、ミリアタボノイズはその巨体で未来を押し潰そうとその場で大きく跳躍する。

 

(でも、漸く響とまた会えたんだ。漸く話が出来たんだ。だから、こんなところで私はまだ終わりたくない!)

 

 諦め掛けていた未来の心が再起し、未来は再び立ち上がって走り始める。そのことが功を奏して、未来を潰そうと落ちてきていたミリアタボノイズの落下線上から外れ、落ちてきたミリアタボノイズに未来が当たることは無かった。

 

 しかし、ミリアタボノイズが落ちてきた衝撃によって、未来がいたコンクリートの地面は崩落し、未来がいた場所が高所であったことから未来は地面に真っ逆様に落ちて行ってしまう。

 

「きゃあぁぁぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!?!?」

 

 高所から落下していることに加えて、落ち行く未来の傍にはミリアタボノイズも健在である。高所からの落下という唯でさえ危険な状況且つ近くに人だけを殺す特異災害がいるこの状況は、正しく未来にとって絶体絶命だった。

 

 そんな絶体絶命なその時、未来の悲鳴を聞き付けた響がまるで弾丸のように凄まじい勢いで跳んで来て、未来の下に駆け付けたのだ。

 

 響の脚部ユニットのパワージャッキが再び起動して、今度は響の足に沿うように真っ直ぐ上に引き絞られる。響はノイズに向かって真っ直ぐ跳んで行く中で、体勢を変えて蹴りの体勢を取る。

 

 すると、響の脚部ユニットと引き絞られたパワージャッキに明るい橙色のエネルギーが集束していき、響の右足が橙色の輝きを放ち始める。

 

我流(がりゅう)撃龍槍(げきりゅうそう)ぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

 

【我流・撃龍槍】

 

 我流・撃槍衝打のように響が今即興で考えた新必殺技の名前を叫びながら、響は橙色に輝く右足を飛び蹴りの要領でミリアタボノイズに叩き込んだ。

 

 飛び蹴りを喰らったミリアタボノイズの体がくの字に曲がり、更に蹴りを叩き込んだことで脚部のパワージャッキも起動して、右足同様に橙色に輝いているパワージャッキの尖った先端がミリアタボノイズに打ち込まれる。

 

 パワージャッキを打ち込まれた瞬間、その威力に耐えられなかったミリアタボノイズの体に大穴が空いて貫通する。直後、ミリアタボノイズは大爆発を起こして塵となって消え失せた。

 

 ミリアタボノイズを片付けた響は、腕部ユニットのハンマーパーツを起動させることでアポジモーター代わりにして空中での軌道修正を行って未来の下まで一気に辿り着く。

 

「未来!」

 

「響!」

 

 響は未来の名を呼んで未来の体を左腕で抱き、未来の頭を守るように右腕を回す。対する未来も、自身を抱き締める響の体を力一杯抱き締めた。

 

 未来を確保した響は、未来に出来るだけ負担が無いようにしながら空中で体勢を整え、腰部バーニアを吹かせて落下の勢いを殺していく。

 

 しかし完全には落下の勢いを殺し切れず、また落下地点が急斜面であったことも原因で響は着地に失敗し、未来を抱えながら凄い勢いで斜面を転がっていった。

 

 斜面を転がり続けた結果、響と未来は近くにあった川へと着水した。川の中に落ちたことで落下の勢いも完全に止まり、響と未来は川に浸かっている体を起こした。

 

「大丈夫か、未来?」

 

「うん。響が私を庇って下敷きになってくれたお陰で大丈夫。川が浅くてよかったね」

 

「あぁ。でもまぁ、そのせいで全身びしょ濡れなんだけどな」

 

「……ふふ」

 

「……はは」

 

 お互いにずぶ濡れになった姿を見て、響と未来はお互いにくすりと笑い合う。

 

「上手く着地するつもりだったのに、これじゃ台無しだな。それに体のあちこちが痛えよ。痛え痛え……」

 

「私も少しだけ痛いかな。でも、この痛みのお陰で生きてるって感じがするね」

 

「そっか」

 

「うん。ありがとう、響! 響なら絶対に助けに来てくれるって信じてたよ」

 

「ありがとな、俺を信じてくれて。俺も、未来は絶対に諦めたりしないって信じてた。幼馴染みで親友だから、な」

 

 響が兄貴分の真似をして少し気障ったらしくウィンクしながらそう言うと、未来は途端に目尻に涙を溜めて泣き声を上げながら響に抱き付いた。

 

「怖かった……怖かったよ……!」

 

「……頑張ったな未来。よく頑張った」

 

 肩を震えさせながら涙を流す未来の体を左腕で抱き締め、響は右手で未来の頭を優しく撫でた。壊れ物を扱うように、優しく丁寧に撫で続ける。

 

「……ごめんね」

 

「何で、未来が謝るんだ?」

 

「私、ずっと気にしてたの……響にお別れの挨拶を出来なかったこと。ごめんね……あの時、お別れも言わずに突然引っ越しちゃって」

 

「気にしてない。寧ろ、昔の俺は未来がいなくなって安心したんだ。これで漸く俺のせいで未来が辛い目に遭わずに済むってな」

 

 当時の自分の考えを隠さずに話す響。その告白を、未来は口を挟まずに全て聞き入れる。

 

「手紙も送ったけど、1つも返事が返ってこなくて……。会いに行こうと思った時には、もう響は行方知れずになっちゃってて……」

 

「それに関しては本当にごめんな。母さんと祖母ちゃんを守るには、ああするしかなかったんだ……」

 

「うん、分かってる。小母(おば)さんからも聞いたよ。響は優しいから、きっと自分を犠牲にする方法を選んじゃったんだって。小母さん、ずっと響のこと心配してたよ。勿論、響のお祖母ちゃんも」

 

「母さん……祖母ちゃん……」

 

 未来の口から響の母と祖母のことが話され、響は遠く離れている母と祖母に思いを馳せる。

 

「ごめんね。響が辛い時に傍にいてあげられなくて、私──」

 

「言わなくても分かってる。だから……泣かないでくれ、未来」

 

 肩の震えは先程よりも大きくなっていて、未来は更に大粒の涙を流していた。響は文句も何も言わず、涙を流す未来に胸を貸し続ける。

 

「……響は、これからもこんな危ないことを続けるの?」

 

「あぁ。これは、俺が本心からしたいことなんだ。未来や皆の笑顔を……大切な日常を守っていきたいんだ」

 

「……でも、それだと響が」

 

「俺は良いんだよ。俺はノイズと戦う戦士だ。だから、人としての生き方からは遠いところにいるのは仕方無いんだ」

 

 戦士というのは、力の使い方を知る者であり、人の生き方からは離れた場所にいる存在である。故に人が当たり前に歩める人としての生を満足に謳歌することは出来ず、平和な日常に安らぎを見出すことは出来ない。

 

 以前、翼に言われことを心中で反復させながら、響は少し寂しそうな笑顔を見せて未来にそう言った。そんな響の寂しそうな笑顔が、未来の心を激しく締め付ける。

 

「……そんな寂しいこと言わないで。響はもう十分辛い目に遭ってきた。だから、後は他の誰よりもウンと幸せにならないとダメだよ」

 

「良いんだ。皆の幸せを守ること。それが俺の選んだ道なんだ」

 

「響が皆の幸せを守るなら、誰よりも響自身が幸せじゃないとダメだよ……!」

 

「日常の中に俺の帰る場所は無いんだ。何よりも俺自身が自分で自分の帰れる居場所を捨てたんだから」

 

 平和な日常、日常の中にある自分の帰る居場所を2年前に響は自分自身で捨てた。響は、自分に人としての日常の中に帰る場所は無いと思っている。

 

「……なら、私がなるよ。響が帰る場所に、響が人としての日常を送ることの出来る居場所に」

 

「え?」

 

 だからこそ予想外だった。未来が響に対してそんなことを言ったことが。

 

「響が帰ってこれる新しい居場所に私がなる。そうすれば、響も人として当たり前の幸せを謳歌出来るよ」

 

「……良いのか? 俺の近くにいると、また危険な目に遭うかもしれないぞ?」

 

「その時はまた響が守ってくれるでしょ? ……それとも、守ってくれないの?」

 

「守る。未来が危ないなら、俺が絶対に守る」

 

 未来の問い掛けに、響は即座に返答する。その返事に迷いは無く、確かに響の意思が表れていた。

 

「なら、良いでしょ?」

 

「……何時まで経っても未来には敵わないな。そんな言い方されたら、断るに断れないだろうが……でも、ありがとうな」

 

「うん」

 

 響は未来の体を両腕で優しく抱き締め直し、未来は響の体を抱き締める両腕に更に力を入れてギュッと抱き締める。

 

(未来の体……2年前に比べて少しだけ大きくなってるけど、小さく感じるな。俺、16cmも伸びたからな。俺が大きくなり過ぎたのか。昔は俺の方が小さかったのにな。でも……未来から感じるこの温もりだけは、変わらない)

 

(響の体……2年前に比べて凄く大きくなってる。私も少し伸びたけど、今じゃ私の方がもう小っちゃいみたい。昔は私の方が大きかったのにね。けど……響から伝わるこの暖かさだけは体が大きくなっても、ずっと変わらない)

 

(俺が守ってる大切な“日常”は──)

 

(私が捜してた大切な“太陽”は──)

 

((確かに……今ここにある))

 

 お互いにお互いの体を抱き締め合う中で、響と未来は心中に想いを吐露しながらその感触を強く認識する。もう2度と見失わず、絶対に手放さない為に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、病院で翼さんと会話する
──原作ビッキーは学校だったけど、今作ビッキーはリディアンの生徒じゃないので病院に変更になりました。

(2)響、又しても翼を赤面させる
──翼さんが赤面する中、今作ビッキーはSのスイッチが入りそうになっておりました。やっぱり、赤面した翼さんは男の中に眠る獣性を刺激してくれますよね。

(3)響、蹴り技を習得
──今作での完全オリジナル必殺技です。モチーフは勿論僕らのヒーローこと○面ライダーのライダーキクです。キックのイメージが1番近いのは、やっぱりキクホッパーのライダーキクですね。あの方も足回りにギミックがありますので。でも、今作ビッキーは両足じゃなくて従来の片足ですがね。

(4)響、大切な居場所を手にする
──1度は自分から捨てた安らげる居場所を、今回で新しく手にしました。響が未来の日常を守り続ける限り、響が新しく手にした居場所はずっとそこに在り続けます。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 原作の響って明確な足技が少ないなと思い、今回はオリジナルの蹴りの必殺技を作ってみました。蹴りの形は王道の飛び蹴りですが、それでも直接的な飛び蹴りだけが必殺技の必殺技ってシンフォギアXDにも無かったので、個人的には丁度良いかなと思っています。踵落としはあるんですけどね。

 原作ビッキーにとって未来は陽だまりですが、今作ビッキーにとって未来は日常の象徴のようなものになっています。その共通点は、響にとって心が安らぐ場所であるということです。

 これにて響と未来の一悶着は終了です。次回は……完全オリジナルの日常回でも書いていこうかな。また少し投稿が遅くなるかもしれませんが、大目に見て下さい。

 それでは、次回もお楽しみに!
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