前回にもっと早めに投稿するとか言っといてこの体たらくです。大学のゼミ決めなきゃいけなかったり、インターンだったり、ポートフォリオ作ったりで忙しかったのですが、所詮は言い訳にしかなりません。本当にすみませんでした。
前回みたいな長ったらしい文章はきっと皆さんも好きじゃないので、そろそろ本編に入っていきます。
それでは、どうぞ。
その日、響は雨模様の空の下を傘を差しながら歩いていた。
「〜♪」
童謡を思わせる何処か陽気で子供っぽい鼻歌を歌いながら、響はそこそこ勢いのある雨の中を進んで行く。その肩には、そこそこ大きいショルダーバッグが掛けられている。
すると、響はある程度まで進んだところで唐突に足を止め、懐からスマホを取り出した。
「……確か、ここだったよな」
スマホを弄っている響は、スマホに表示された情報と地図、それと現時点で自身がいる場所と建造物を見比べながら上を見上げた。
響が見上げた先には、既に無人となり廃墟と化したかなりの大きさのマンションが建っていた。無人故に人気が全く無いそのマンションは、夜になれば幽霊でも出てきそうな雰囲気が漂っている。
「……」
足を止めていた響は、何も言わずに触っていたスマホを懐のポケットに入れ、眼前に聳え立つ廃墟のマンションに向かって再び歩き始めた。
その無人となったマンションの一室には、1人の少女が毛布に
クリスの周りには沢山の紙袋やビニール袋、プラスチック容器等が乱雑に広げられていた。その何れもが食べ物が入っていたものであり、既にその中身は空になっている。加えて言うと、中には賞味期限が過ぎてからそれなりに時が経過しているものまであった。
クリスは強気な眼差しで窓から見える外を真っ直ぐ見詰めていたが、突然クリスのお腹が可愛らしく音を鳴らした。ここ最近のクリスは満足に食事を取ることが出来ずにいて、常に満たされない空腹を感じていた。
そして、遂に今日食べるものが無くなり、クリスのお腹は空腹のピークを迎えたのである。
空腹になると元気が無くなるのが生き物であり、人間という生き物であるクリスの顔からも何処か寂しそうで元気の無い表情に変わっていった。
だが、突如クリスが潜伏している1室の部屋の扉が開く音が室内に響いた。扉が開く音を聞いたクリスは、直様毛布から抜け出して警戒を深め、壁を背にしながら室内に入ってきた何者かを待ち構える。
木の床がギシギシとなる音は次第に大きくなっていて、徐々にクリスのいるリビング兼和室の1室に向かって近付いてきている。
意を決したクリスが侵入してきた相手に対して先手を打とうとする。しかし、クリスが手を下す前に侵入者はずかずかとクリスのいる部屋に入ってきた。
「やっほー! 元気にしてたかクリスー……って、そんなところで何してるんだよ?」
「お前!? どうしてここが!?」
無遠慮に室内に入ってきたのは、何と響だった。
「どうしても何もお前を捜しに来たんだよ」
「何であたしがいる場所が、ここだって分かった……!?」
「それは俺も知らない。俺は二課の方から教えてもらった情報に従ってここまで来たんだからな。まぁ強いて言うなら、相手が悪かったってことだろ。どうやら二課の本分ってどっちかって言うと、情報系みたいだからな」
先に響が見ていたスマホには、二課が掴んだクリスの動向と潜伏場所と思われる情報が表示させられていて、響はその情報を基にクリスのいるこの場所までたどり着いたのである。
「何しにここに来やがった……!!」
改めて警戒を深めたクリスは、次にここにやって来た目的を響に訊ねた。響は言葉では何も答えず、代わりに肩から掛けていた大きめのショルダーバッグから赤色の大きな包みを1つ取り出してクリスに差し出した。
「何だよ、これ……?」
「ほい、差し入れ。腹減ってるんじゃないかと思って弁当作ってきたんだ。良かったら一緒に食おうぜ」
響が差し出したのは、響が自ら手作りした手作り弁当だった。しかし、クリスは響が差し出した弁当を受け取らず、弁当を響に押し返した。
「何が弁当だ! ざっけんな! そんな何が盛られてるか分からねえ飯誰が食うか!! どうせ、睡眠薬か何か入ってんだろ!!」
「んだとこら! 誰が薬なんか盛るか!? 飯に薬を盛るなんてことは、それそのものが食い物への、俺達の糧になってくれる生き物全部への冒涜だ! 折角の飯に薬を盛るなんてこと死んでもしねえよ!!」
捲し立てられた響の言葉には、響自身の怒声のせいもあってかなりの凄みが含まれていた。その凄みに気圧されたクリスは、口籠りながらもまた別の話題で言葉をぶつけていく。
「な、なら、あたしが飯食って油断してる隙に一気に取り抑えようって気なんだろ!」
「それも無えよ。外には仲間もいなければ、応援だって呼んでない。ここには正真正銘俺だけが来たんだよ」
疑い深いクリスに、響は先程の怒った様子と打って変わって極めて冷静に返す。何故かコロコロと変わる響きの態度と機嫌に流石のクリスも動揺を禁じ得ない。
そんなクリスの心中を我関せずに響は落ち着いた様子で畳の上に胡座をかいて座り込んだ。布の結び目を解き、包みの中から弁当を取り出した響は、持っていた割り箸で弁当の御菜の1つである卵焼きを口の中に放り入れた。
しっかりと30回以上の咀嚼を繰り返して卵焼きをごくりと飲み込んでから響は再び口を開いた。
「ほら、何も盛ってなんてないだろ? 分かったら受け取れよ。お前の為に作った弁当なんだから、お前が食べてくれないと意味無いだろ?」
敢えて弁当の中身を食べることで毒を盛ったという可能性を払拭させようと試みた響は、再度クリスに持っている弁当と自分が使ったものとは別の割り箸を差し出す。
すると、先程と同様に弁当を拒もうとしたクリスのお腹が突然室内に鳴り響いた。それだけでクリスの顔は真っ赤に変わっていき、響は微笑ましいものを見るように暖かな表情をしていた。
腹の虫が鳴ったことが止めとなり、クリスは投げ遣り気味に響から差し出された弁当と割り箸を引っ手繰った。
「ん……美味え。こんなに美味い飯、凄い久しぶりだ。それに……暖かい」
「暖かい? いや、時間が経って冷めてるから暖かくはないと思うぞ?」
「そうじゃねえよ。ただ美味いだけじゃなくて……心の奥から満たされていって、それで心が暖まってくような感じがすんだよ……あっ」
不意に零してしまった言葉の意味を訊ねられ、何も考えずただ馬鹿正直に答えてしまったことにクリスが気が付いたのは、全て言い終えて取り繕うにもどうすることも出来ない状態に陥ってからだった。
弁当を褒められたことに変わりない響は、満足そうに頷きながら微笑を浮かべている。対してクリスは、ついポロッと自身の本音を零してしまったせいでまるで茹で蛸のように顔を先よりも赤色に染めて
「クリスのこと、色々と知ったんだ。親父さんがバイオリン奏者で、御袋さんが声楽家だったんだろ?」
「ッ!」
響がクリスと話し合う為に持ち出した話題は、クリスの両親についてのことだった。響は以前に黎人から聞かされた情報を基に話を切り出し、外方を向いていてクリスは自身の親の話が出たことであからさまな反応を示した。
「凄いよな、お前の親。NGO活動に参加して、歌と音楽で世界を平和にしようって頑張ってたらしいじゃんか」
「……どうしてお前があたしの親について知ってやがる?」
「俺が尊敬してる人がさ、偶々クリスの親と友達だったんだよ。その人の言伝でクリスのこととか、クリスの両親のことを知ったんだよ」
響はショルダーバッグから今度は水筒を取り出す。取り外し式になっているコップに水筒の中身である麦茶を注いで、コップに注がれた中身を飲み干す。そうすることで、先の弁当の毒味と同様に水筒の麦茶にも毒を盛っていないことを証明したのだ。
響は再度コップに麦茶を注ぎ、食事をしているクリスに差し出した。クリスはコップの中身を配慮してか、先程よりは落ち着いた様子で飲み物を受け取って麦茶を飲む。
「クリスが8年前に戦火に巻き込まれたせいで両親を亡くして、その後に捕虜として捕まってたこと。2年前に国連軍が介入したことで助けられたこと。でも日本に着いた直後に行方不明になったこと。他にも色々と教えてもらった。二課の方からも諸々な」
「はっ、よく調べてるじゃねえか。そういう詮索反吐が出る」
「そいつはよく分かる。自分のことを洗いざらい調べられてるってのは嫌なもんだ」
響きが思い出すのは、2年前の惨劇後のことだった。何故か自身の個人情報や周辺事情、他人との繋がりを徹底的に調べ上げられ、それをネットに一時期とはいえ公開されたことがある響。
故に本来なら響も個人を徹底的に調べ上げるやり方は好きじゃない。
「でもまぁ、政府の方にもそれなりに面倒な事情があったらしいぜ? どうやら、当時の日本は適合者を探す為に音楽会のサラブレッド?っていうのに注目してたらしいんだ。それで独りぼっちになっちまったクリスを引き取ろうとしてたらしい」
「ふっ、こっちでも
「ぜげん? ぜげんって何だよ?」
「それくらい自分で調べろ、筋肉バカ」
「俺、勉強は苦手なんだよ……そもそもこちとら中学なんて半分も行ってねえんだぞ」
中学2年の時に家を出て黎人に拾われた響は、黎人から中学卒業レベルまでの知識を教えられたが、それでも最低限レベルであり、そんな響が中学では先ず聞かない女衒という言葉の意味を知る訳がなかった。
序でに言うと、女衒とは江戸時代に使われていた用語で、女性を遊女屋に売るのを生業にしていた者達を指す言葉である。
「話を戻すぞ。それで引き取ろうとした矢先に、クリスが何の前触れも無く行方不明になった。そのせいで政府の連中は大慌て。結構な数の捜査員が駆り出されたけど、そのほぼ全員が死亡又は行方不明になり、事件は迷宮入りした挙句政府側には何も残らない上に犠牲者ばかりが出た最悪の形で終わったんだと」
「……何が言いたい? 何がしたいんだよ、お前」
「俺はクリスを救いたい」
「……は?」
何の虚飾も無く自身が内に秘める想いを簡潔な言葉に乗せてただ真っ直ぐに伝える響。短く告げられた言葉に、クリスは大した反応も上手い言葉も返せず呆然としてしまう。
「俺はクリスが今居る場所からお前を救い上げたい。それにお前を救うことは、俺に後を任せてくれたおやっさんや、犠牲になった沢山の大人達の望みでもあるんだ」
「ッ! 大人達の望みだ? ふざけんな! 何が大人達の望みだ!! 余計なこと以外は何時も何もしてくれない大人が偉そうに! そんな大人共のツケを払わされるのは、何時も何の力も無い弱い奴だ! それに何が後を任せただ!! ただ面倒になってお前に押し付けただけだろうが!!!」
「そんなことあるか! おやっさんが言ってた! 引き受けた仕事をやり遂げるのは、大人の務めだってな! 俺はそんなおやっさんに我が儘を言って、一緒に背負わせてもらっただけだ! クリスを救いたいって気持ちは、俺もおやっさんも一緒だから!」
「今度は大人の務めと来たか! その言葉も何処まで信じられることやら! 綺麗事ばかりもううんざりなんだよ!」
綺麗事と聞こえる言葉ばかり述べる響に激昂したクリスは、水筒のコップを投げ捨てて勢いよく飛び出し、体を丸めた体当たりで窓ガラスをぶち破った。
「Killiter Ichaival tron」
重力に従って下に落下しながらもクリスはシンフォギアを起動させる為の聖詠を歌う。クリスはシンフォギアを身に纏い、怪我すること無く無事に着地する。直後、クリスは大きく跳び上がってこの場から去ろうとする。
「Balwisyall Nescell gungnir tron」
ショルダーバッグを室内に放り投げた響も聖詠を歌ってシンフォギアを身に纏う。響は、クリスが開けた窓の穴から自身も飛び出し、逃げようとするクリスの後を懸命に追い掛ける。
「待ってくれ、クリス! 俺はお前と話がしたいんだ!」
「煩え! 鬱陶しいだよ、お前!!」
静止を呼び掛け説得を試みる響に、クリスは口汚い罵倒と拒絶の言葉を返す。だが、アームドギアを展開して響を攻撃しない辺り、今のクリスは以前のクリスから何かが変わり始めていた。
それは小さな変化かもしれない。しかし、その小さな変化こそが切っ掛けとなり、後に大きな変化を齎すものとなることを今は誰も知らない。
お互いがシンフォギアを纏っているので、幾らクリスが響から距離を取ろうとしてもその距離が開くことは無い。しかし、その逆はある。クリスと響との間にある距離は、徐々にだが縮まり始めていた。
それは偏に響が纏っているガングニールとクリスの纏っているイチイバルの性能の傾向によって出来上がった差である。
クリスのイチイバルは、長距離広域攻撃を得意とする反面で機動力には優れていない。
響のガングニールは、響自身のせいもあって超近距離戦闘しか出来ないが、その本来の性能は槍による全距離対応型の汎用性の高いものである。よって機動力もそこそこある。
加えて言うと、響には推進力を底上げするバーニアがある。直線距離で逃げるとなると、どうしても機動力の低いクリスが不利になるのである。
余談であるが、今居るシンフォギア装者の中で一番に機動力が高いのは翼の天羽々斬である。
それはさておき、当然クリスも直線距離では距離を詰められることに気付いていたが、足場にする建物の関係もあってどうしても直線的な移動をするしかない場面が幾つか出てくる。その場面に突入すると、響は此れ見よがしにバーニアを吹かせて一気に距離を詰めるのだ。
(……ちっ。このままじゃ逃げるどころか、距離を詰められて何時か追い付かれる。攻撃して振り切ろうにもここだと……だったら!)
埒が明かないどころか、このままでは完全に詰み状態であることを察したクリスは、即座に別のプランに変更して逃走ルートも変える。
「ッ! 逃がすか!」
クリスの逃走ルートが急激に変わったことに対応し、響は変わらずにクリスの後を追い続ける。
街の上を縦横無尽に跳び回り、説得の為の問答を繰り返している2人の存在は、普通なら疾うに一般人に気付かれていただろう。しかし、2人の存在は誰にも気付かれていなかった。それはこの雨のお陰と言えるものである。
2人の声は雨音によって大幅に打ち消されいるから、2人の声が一般人に届くことは先ず無い。
歩行者は傘を差しているから、上方への視界が遮られている。
2人の声が聞こえて上を見上げる者もいるが、人よりも高い機動力で動き回る2人は声を聞いた者が上を見上げた時には既に視界に映らない場所まで移動している。
更に今の時間帯は社会人なら仕事場、学生なら学校にいる時間帯だから外にいる歩行者が圧倒的に少ないのも目撃者がいない理由の内の1つだろう。
時間や天候といった様々な要素が絡み合い、人っ子一人に見つかること無く移動していた響とクリスは、悪天候で海の波が高くなっている海岸までやって来ていた。
すると、海岸の砂浜に着地したクリスが逃げる素振りを見せなくなってその場にて停止した。どうやら、
クリスの後を追ってきた響も当然海岸の砂浜に着地し、着地した側からクリスの下へ駆け寄ろうとする。しかし、クリスが突然アームドギアを展開したことで響も足を止めざるを得なかった。
「まんまと誘導に乗るなんて、やっぱり脳味噌筋肉の単細胞バカだな」
「どういう意味だよ?」
クリスの言葉の意味を響が問い質そうとする。直後、ボーガン型のアームドギアからエネルギー出来た矢が撃たれる。矢は響の顔の直ぐ横を通過し、響の後ろの砂浜に着弾して爆炎を上げる。
「見ての通りここには遮蔽物が無え。足場は砂場で、雨が降って泥濘んでるせいで余計に安定しない。遠距離攻撃主体のあたしと違って、お前は接近戦しか出来ない。つまり、今この状況はお前にとって不利過ぎるってことだ」
「それがどうした? 俺はクリスと戦いに来たんじゃない。話をしに来たんだ」
「バカか、てめえは。そっちの事情なんざ知ったこっちゃねえんだよ。こいつは警告だ。こっちに来んな。あたしに近付くな。今直ぐあたしの前から消え失せろ。さっきの警告だ。従わねえってんなら、次は本気で当てる!」
クリスはボーガンの銃口を響に向けながらそう言い放ち、拒絶の言葉を以て響を自分から遠ざけようとする。
しかし、銃口を向けられた響がクリスに返したのは、怒声でも罵倒でも拳でも無かった。響がクリスに返したのは、微笑みだった。その微笑みはとても優しげで、暖かみに溢れているものだった。
「何だよ、その笑みは……! あたしをバカにしてるのか!? あたしが撃たないとでも思ってるのか! あたしは本気だ! そこから1歩でもあたしに近付けば、容赦無く引き金を引くぞ!!」
声を荒げるクリスには分からなかった。響が微笑みを浮かべている理由が。クリスの手が僅かに震え始める。
すると、響はクリスの警告を無視してクリスに向かって1歩踏み出して前に進み始めた。それを見たクリスは、先の宣言通り躊躇無くボーガンの引き金を引いた。
撃たれた矢は真っ直ぐに響に向かって飛んで行く。直線的な軌道を描く矢は簡単に躱せるものだった。しかし、響はこれを躱すどころか身を捻って体を反らす素振りも見せず、そのまま矢は響に着弾した。
「ッ!?」
流石のクリスもこれには驚いた。以前の戦いでは、響は必死にクリスの攻撃から身を守っていたというのに、今回は変な動作を見せずにそのまま攻撃を喰らったのだから。
立ち上る爆煙の中からシルエットが浮かび上がってくる。シルエットはクリスに向かって歩き続けていて、その爆煙の中から響が姿を現した時、クリスは目を見開いた。
「何だよ、それ……!?」
目を見開いたクリスが驚愕を露にする。何故なら、爆煙から出てきた響には響自身の体を覆うように薄い膜のようなオーラが張られていたからだ。
「ちょっとした応用だ。俺はアームドギアを出すことが出来ないから、そのエネルギーを一点に集めて攻撃力を上げてる。今回はその応用で、全身にエネルギーを行き渡らせて全身の防御力アップに繋げたんだよ」
両腕をクロスさせて防御の姿勢を取っている響はそう熱弁する。そんな響を見て、クリスは内心で困惑する。
別に響が敢えて攻撃を受けて生き生きしてる姿がマゾっぽいからでは無い。実際エネルギーを膜のようにして防御力を上げること自体は素晴らしい発想である。
しかし、躱すことが出来る攻撃を敢えて受けているからこそクリスは困惑しているのである。
「はっ! だったら、その減らず口が何処まで続くか試してやるよ!」
【BILLION MAIDEN】
アームドギアをボーガンからガトリングに変形させ、クリスは10億にも及ぶ無数の弾丸の雨を響に向かって撃ち放つ。
ガトリングなんてものを生身の人間が受ければ、その人間は間違いなく一瞬で物言わぬ肉塊へと姿を変えることだろう。
ならば、シンフォギアを纏っている装者ならば大丈夫なのかと言われば大丈夫だろう。それ程にシンフォギアの性能と防御性は凄まじいものなのだ。
だが、それは相手が普通のガトリングならの話である。相手がシンフォギアのアームドギアのガトリングなら、同じシンフォギアでも諸に浴びれば危険である。
そもそも幾らシンフォギアを纏っていると言っても、まともにガトリングの弾を浴びに行くような奴はまずいない。そんなことは装者としての経験が長い翼でもしない。そんなことをするのは、全く危険を顧みないよっぽどのバカぐらいだろう。
そして響は、全く危険を顧みないバカだった。響は先と同じように弾幕の射線上から逃れず、両腕をクロスさせて防御の姿勢を保ったまま真っ直ぐにガトリングの弾幕の中に突っ込んでいく。
無数の弾丸が響の体に命中するが、響は先程と同じようにエネルギーを体全体に行き渡らせて防御力を上げることでダメージを最低限にまで抑え込む。しかし、無数の弾は間髪入れずに連続で響に当たっている故に響の顔は度重なるダメージによって苦悶に満ちたものへと変わっていっている。
「ッ!! うおぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
すると、響は咆哮を上げながら弾幕の中を進み始めた。進んでいる間に弾が命中したことで響はバランスを崩して吹っ飛ばされそうになるが、その瞬間に浮かせている足を大きく踏み込むことで無理矢理体勢を整えて響はその場に踏ん張る。
(何でこいつは避けない!? 何でこいつは倒れない!? 何でこいつは……!!?)
最初はゆっくりだったが、徐々にそのペースを上げて弾幕の中を進んでくる響の姿は、ガトリングを撃ち続けているクリスの心に大きな動揺と困惑、そして驚愕を植え付けるには十分だった。
「どういうつもりだ!? 何で避けねえ! あたしのことを嘗めてんのか!?」
「……何で避けねえか? 答えはシンプルだ。俺が避けたくないからだよ」
「避けたくないだ? 死にてえのか!?」
「死にたくはねえよ。でもさ、俺にはこの攻撃の全部が、クリスの中に溜まってる怒り、悲しみ、苦しみ、痛みとかが闇鍋みたいに混ざってぐつぐつに煮え滾った想いだと思えちまうんだよ。だから、俺は逃げない!! クリスの本心と向き合う為に!!」
響はクリスの胸の内の痛みを受け止め、クリスの本心を知る為にクリスの攻撃を受け続けていた。全てはクリスの心と本気で向かい合う為に。だから響は受け止める。吐き出させる。クリスの中にある何もかもを。
そして、未だ全てを吐き出せていないクリスの神経を響が述べた綺麗事が逆撫でする。
「だったら、あたしの想いって奴で潰してやるよ!! 2度とあたしの前に姿を見せたくないって思うくらいになぁ!!!」
【MEGA DETH PARTY】
シンフォギアの腰部アーマーが展開し、そこに装填されていた無数の小型ミサイルが一斉に発射される。飛来するミサイルに対して響は、足に更に力を入れて踏ん張り、パワージャッキを地面に打ち込んでミサイルの衝撃に備える。
そして発射されたミサイルは数秒と掛からずに響に着弾する。更にクリスは以前響と戦った時と同様に容赦の無い追撃のガトリングを撃ち放ち続ける。響は攻撃を避けるつもりが無く、今回は翼の救援も無い為にクリスの攻撃の全てが響に当たったであろうことは火を見るよりも明らかだった。
ガトリングを撃ち続けていたクリスは、ガトリングを撃つ手を止めてその銃口を下に下ろした。
割と強めの雨が降り続いているお陰でミサイル着弾時の爆炎は既に掻き消えていて、今はただ煙だけが着弾点から昇っていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
クリスは肩を大きく上下させながら乱れた呼吸を整えていた。
煙も時間の経過によって消滅し、煙の中から響が姿を現した。体全体に張られたオーラのようなものは健在だが、響の纏うシンフォギアのアーマーやアンダースーツ、ヘッドギアの一部は砕けていて、剥き出しとなったシンフォギアの内部パーツが露出している上に装甲の節々がスパークを起こしていた。
「……」
「ッ!?な、何で……!?」
すると、響に張られていたオーラも消え失せ、体から煙を昇らせている響がゆっくりとだが再びクリスに向かって進み出した。そんなボロボロな状態で尚動き続ける響に向かってクリスは叫ぶ。
「どうして避けなかった!? シンフォギア纏ってるからって、下手すりゃ死ぬかもしれねえんだぞ!! なのに、何でお前は命懸けで……!?」
「……心配、してくれんだな。やっぱり……クリスは優しいな」
項垂れていた顔を上げた響の表情は、とても穏やかに笑っていた。 クリスには分からない。歩くペースが蝸牛のように遅くなる程のダメージを受け、怪我は無くとも相当な痛みを負っていて、動くだけで更なる痛みが体中に走るくらいに辛いのに、どうしてそこまで穏やかな笑みを浮かべていられるのか。
「あたしが、優しいだと? 寝言も寝てから言え! お前をそこまでズタボロにしたあたしの何処に優しさなんて要素があんだよ!?」
「これは、避けなかった俺の自業自得だ……。でもさ、そんな俺でも……クリスは心配してくれてる。近付くなって言ったクリスの警告を無視して、無理矢理お前に迫った俺のことを心配してくれてる……それに、他にもあるぞ。クリスが優しいって言えるところ……」
「ッ!」
「態々俺に警告してくれただろ? 不意打ちで攻撃して逃げたら良かったのに。他にもさ、街の皆のことを考えて、街にいる間は攻撃してこなかったし、最低限被害を少なくする為に砂浜に俺を誘導したんだろ? 皆を出来るだけ傷付けないよう行動してたんだろ? だから、クリスは優しいって言ったんだ」
ふらふらな足取りでも一歩一歩確実に近付いてくる響に、クリスはガトリングの銃口を向けようとする。しかし、銃口を向けようにも手の震えがガトリングにまで伝わってクリスは響に照準を合わせることが出来ない。
「来るな! こっちに来るんじゃねえ!!」
クリスはもう響に攻撃することが出来なくなっていた。攻撃しようにも、銃口を響に向けた瞬間に手が震えてロクに響に照準を合わせることが出来なくなる。だからクリスは言葉で響を拒絶しようとするが、響はクリスの拒絶の言葉に耳を貸さずただ真っ直ぐにクリスを見据えていた。
そして、その場から動くことも出来ずにいるクリスと響との距離がゼロになった。すると、不意に響の腕が持ち上がる。クリスは拳が来ると思いほぼ反射的に目を瞑ったが、何時まで経っても痛みは訪れない。その代わりに、小さな衝撃と温もりが体に伝わって来る。
クリスが目を開けると、そこには響がクリスを優しく抱き締めている光景があった。抱き締められているクリスは咄嗟に響から離れようとするが、優しく抱き締めている割にクリスの胴に回されている腕の力は強く、シンフォギアを纏っているというのにビクともしない、
「何で……どうして殴ってこないんだよ……!?」
「さっきも言っただろ? 俺はクリスと話しに来たんだ。同じことを言わせんなよ……」
「あたしは……お前をこんなにもズタボロにしたんだぞ……!」
「それもさっき言ったけど、俺の自業自得だ。でも、もしクリスが罪悪感を感じてるんなら、俺は許す」
「それだけじゃない! あたしは、今までお前達にずっと酷いことをしてきたんだぞ!? お前の仲間が絶唱を歌って死に掛けたのだって元はと言えば、あたしが──」
「でも、そのお陰で俺は翼さんと仲良くなれた。そのことには感謝してる」
「ッ!」
「確かに表面だけ見るなら、クリスは悪いことをしたのもしれない。けどな、それが全部悪いことだけに繋がるってことは無い筈だ。お前が俺に切っ掛けをくれたんだ。強くなる切っ掛けを、翼さんと仲良くなる切っ掛けを。今の俺があるのは、クリスのお陰でもあるんだ」
クリスがいなければ、響が強くなるのは時期的にもっと遅くなっていたかもしれない。逆に現状に満足したまま、響はあの頃の響のままだったかもしれない。
クリスがいなければ、響が翼と仲良くなるのは時期的にもっと遅くなっていたかもしれない。逆に仲良くなることなど無く、ずっと仲違いしたままだったかもしれない。
良いことが良いことだけに繋がるなんてことは無いように、悪いことが悪いことだけに繋がるなんてことは無いだろう。クリスがフィーネに乗せられて犯してしまった悪行は、結果的に全て響にとってプラスに働いたのが良い証拠である。
「こんなにも優しい女の子が辛い思いをしてるんだ……俺は男としてそんなクリスを救い……たい……」
だが話の途中で響が纏っていたシンフォギアが消え、かなりのダメージを負っていた響は生身ではその負荷に耐えられずに気絶してしまう。
「お、おい!」
クリスは倒れそうになる響の体を慌てながら優しく抱き留めた。
「……気絶しちまうような無茶しやがって……お前、本当にバカだ」
クリスはそう言って、自身よりも体格の大きな響を背中に背負い、大きく跳躍してその場から立ち去った。
その時は既に雨は止んでおり、空には7色の色鮮やかな虹が出ていて、雲の隙間から差し込んだ光が響を背負うクリスの姿を明るく照らしていた。
◇◇◇
「全く……本当にどうして立花は平然と無茶をするのかしら……」
「あはははは……面目無い。いや、本当に心配と迷惑を掛けて申し訳無い……」
翼は片目の瞼を閉じてもう片目で響を見遣りながら呆れるように溜め息を吐き、響は申し訳無さそうに頬を引き攣らせて片手で後頭部を掻きながら翼への謝罪の言葉を口にしていた。
クリスと一緒にいて最後に気絶してしまった響が次に目を覚ましたのは、それから1時間程経った後のことだった。響が目を覚ました場所は、最後にクリスといた海岸ではなく、クリスが潜伏していたマンションの一室であった。
最後にいた砂浜ではなくマンションの一室にいるということは、誰かが響をそこまで運んだということに他ならない。平日であり、滅多に人が近付かないだろう雨が降っている中の春の海岸から距離の離れているマンションまで響を運んだ該当者など1人しかいなかった。
響が起きた時、もう既にクリスの姿は何処にも無かったが、食べ掛けだった弁当と水筒の中身はすっからかんになっていた。空になった弁当と水筒、マンションまで運び込まれた自身の現状を見て響は嬉しい気持ちになった。
それから二課の本部に足を運んだ響だったが、本部に戻るなり身体チェックを受けさせられた。
本部の方では響のガングニールとクリスのイチイバルの反応をしっかりと捉えていた為、響がクリスと会っていたのはバレバレであった。
響とクリスが海岸まで移動し、それから少しして先にガングニールの反応が消失した時は二課の方でも大慌てであったのだ。何度も響に連絡を取ろうとしたが、クリスとの1対1での会話を望んでいた響はクリスが潜伏していた部屋に入る前に通信機の電源を切っていたから通信に気付かなかったのである。
目覚めた響は、通信機の電源を切ったままのこと気付かぬまま二課に直行した故に二課の面々からとても心配されたのであった。
そして、これまでの経緯を話した響は無茶し過ぎだと周りに怒られつつも心配され、二課の面々も響が無事であったことに安堵していた。だが、何か異常があっても不味いから、響は簡単な身体チェックを受けさせられたのである。
「でも、立花に何の異常も無くて良かった……」
「了子さん曰く、元が頑丈で、その上にシンフォギアを纏って、更にエネルギーを防御一点張りに使ってたから後遺症とか残らなかったらしい。まっ、体が頑丈なのは俺の取り柄だし、正に
「もう。直ぐ調子の良いこと言うんだから、響は」
安堵する翼の横で調子の良いことを言う響をその隣にいた未来が軽く咎める。その際に未来は響の耳を引っ張っていたが、響は特に気にしている様子も痛がっている様子も無かった。
「翼さん、響はこの通り直ぐに調子の良いことを言う残念な子なので迷惑を掛けると思いますが、どうか宜しくお願いします」
「こちらこそよ。寧ろ何かと抜けてるところの多い立花を外部協力者として支えてあげて」
弦十郎達の計らいもあり、未来は外部協力者として二課から本部の立ち入りを許可されている。そんな未来だが、今日は響から二課の施設内を案内してもらう予定だった。しかし、響が急遽メディカルチェックを受けることになって予定が狂ってしまったのだ。
響がメディカルチェッックを受けている間近くのベンチに座っていた未来は、そこで響同様にメディカルチェッックを受けていた翼に遭遇した。初対面であった2人だが意外と会話は弾み、自己紹介も含めて軽く話し合った結果、今では簡単な遣り取りが出来る仲になっていた。その会話が弾んだ理由は、お互いに共通の話題があったお陰であり、その話題が実は響のことであるのだが響はそのことを知らない。
「なーんか俺の扱いが
「響君を通して、お二人が意気投合されているということですよ」
「絶対にはぐらかしてるよな、あんた?」
自身の扱い方がぞんざいであることに不貞腐れる響を見て、未来や翼、その場にいた緒川と藤尭も微笑を浮かべていた。隣で笑顔を浮かべる翼を見て、緒川はふと思う。
(変わったのか。それとも変えられたのか。
アーティストとして歌を歌い、シンフォギア装者としてノイズと戦ってきた翼をその直ぐ傍で見守り続けていた緒川は翼の変化をひしひしと感じていた。
以前の翼なら、今のように穏やかな表情を浮かべるようなことは無かっただろう。奏が亡くなってからの翼は、近寄るもの全てを人や物問わず全て斬り捨てると思われるような凄みを醸し出していた。
しかし、今の翼からはそんな気配は全く感じられない。かと言って決して以前の内気な翼に戻った訳ではない。剣呑な雰囲気は身を潜め、年上の女性としての凛々しさや時々見られる普通の女の子らしさが混在しているのである。
これらの成長に響が全く無関係であるなどとは到底言えない。寧ろ響がいなければ、翼はここまで余裕のある人間になることは不可能だっただろう。響がいたからこそ、翼は変わることが出来たのだと緒川は声を大にして言うことだろう。
(もう恋を知らない女の子とは言えませんね……)
そして、翼の一番の変化を身近に感じていたのも緒川だった。翼は自覚していないが、最近の翼は女の子らしい表情や態度、言葉遣いなどをするようになった。それが何故であるかなど、言うだけ無粋というものだろう。
「あーら、良いわねぇ? ガールズトーク?」
すると、メディカルチェック等の後片付けを済ませた了子が通路の奥の方から響達の下へ歩み寄ってきた。
「何処から突っ込むべきか迷いますが、取り敢えず僕らを無視しないで下さい」
「それに男の方が多いんだからガールズトークは可笑しいだろ」
そんなウキウキと歩み寄ってきてボケと思われるものをかましていく了子に、緒川と響から冷静にツッコミが返される。
「ガールズトークが如何の斯うのとか言ったけど、了子さんもそういうの興味あるのか?」
「勿の論! 私の恋バナ百物語聞いたら、夜眠れなくるわよ」
「まるで怪談みたいですね……」
了子の言い回しがまるで怪談のようであったことに未来は苦笑いを浮かべ、翼は少し呆れ気味に額に指を当てていた。
「そうね。遠い昔の話になるわね。こう見えて呆れちゃうくらい一途なんだから!」
「おぉ〜!」
昔に思いを馳せているのか、了子は少しうっとりとした顔をしながら自身の恋バナを語り始め、そんな了子に何かを共感したのだろう未来が感嘆の声を漏らす。
「意外でした。櫻井女史は恋というより、研究一筋であると」
「Me too」
“櫻井理論”という超天才的な理論を提唱した了子は、翼からすれば研究者として我武者羅に歩んできた正に研究に恋をしていると言っても過言では無く、二課に入ってから何かと世話になったりして時々知識の補完をしてもらっている響も翼と同様の意見だった。
「命短し恋せよ乙女、と言うじゃない! それに女の子の恋するパワーって凄いんだから!」
「恋は良いかもしれないけど、了子さんってもう女の子って歳じゃな──」
それから先を響が言い切ることは無かった。何故なら響でも反応することが出来ない程の速度で打ち出された拳によって黙らされたからであった。
「ぐべふっ!?」
「響君!」
威力と速さと勢いのあるコークスクリューブローが丁寧且つ見事に響の鳩尾を打ち貫き、殴り飛ばされた響はひっくり返って仰向きに倒れた。倒れた響を心配して緒川が介抱する中、了子は構わずに話を続けていく。話に夢中になっている未来と意外にも了子の話に耳を傾けていた翼は、響のことなど眼中に無く話に聞き入っていた。
悲しきかな。“愛”や“恋”といった概念が絡んだ途端、女性から見た男性の優先順位は大抵大幅に減退するのである。
「私が聖遺物の研究を始めたのも、そもそも……」
「うんうん、それで!?」
「……!」
自分の過去を語ろうとしたところで、了子はふと話を止める。話を止めた了子に未来は続きを促し、翼は何も言わなかったが目で話の続きを要求してきていた。
「ま、まぁ、私も忙しいから、ここで油を売ってられないわ!」
「自分から入ってきた癖によく言う……!」
そこで話を有耶無耶にしてこの場を立ち去ろうとする了子に、痛みに悶える響が痛みに耐えながら愚痴を漏らした。すると、再び響が認識出来ないくらい速度で放たれた踵落としが、今度は響の首に命中した。
「ぐぺっ!?」
「響君!?」
「しっかりしろ、響君!?」
踵落としで地面に叩きつけられた響。踵落としが諸に首に入ったことを心配し、今回は緒川だけでなく共にいた藤尭も響の介抱に回っていた。
「兎にも角にも、出来る女の条件は何れだけ良い恋してるかに尽きる訳なのよ! ガールズ達も、何時か何処かで良い恋しなさいね……って、その辺りは野暮だったかしらね。翼ちゃんも」
「えっ?」
「んじゃ、バッハハーイ!」
翼の反応に何かを返すことはせず、了子は早々に話を切り上げてこの場から立ち去っていった。
(らしくないこと、言っちゃったかもね……。変わったのか? それとも……変えられたのか?)
独り通路を歩く中、了子は先程の自身の行動と言動を顧みて内心で孤独に呟いたのだった。
場面は再び響達の下に戻る。休憩を終えた藤尭は残りの仕事を片付ける為に司令室に戻り、響達は近くにある休憩スペースまで移動して座りながら話し込んでいた。
「司令、まだ戻ってきませんね」
「えぇ。メディカルチェックの結果を報告しなければならないのに」
「次のスケジュールが迫ってきましたね……」
「もう仕事入れてんのか!? 早くね!? 幾ら負荷が完治したからって、学生の身分でまた過労者もビックリな過密スケジュールを打ち込んだら、今度こそ本当に過労でぶっ倒れるぞ!?」
「もう慌て過ぎよ。仕事を入れてると言っても少しずつよ。今はまだ慣らし運転のつもりだから安心して」
翼が仕事を再開させると聞き、響は慌てながら翼の身を心配するが、翼は少し呆れが混ざった微笑を浮かべながらそんな響を安心させるように言葉を掛けた。
「なーんだ。前みたいな過労者スケジュールなら緒川さん殴ってでも止めてたけど、それなら大丈夫か。ってことは翼さん、今はまだスケジュールに空きとかあるんだよな?」
「え、えぇ。でも、それがどうかし──」
「だったらさ! 今度の休みに一緒にどっか出掛けようぜ!」
翼が言葉を言い切る前に響が若干被せ気味で自身の考えを述べた。
「ブッ! ……失礼しました」
「え? ……ッ!?」
響の言葉を聞いて、緒川は思わず吹き出してしまい直ぐに謝罪の言葉を述べる。そして、翼は呆然として言葉を漏らしたが、少しして響の言葉の意味を完全に理解し、顔が真っ赤に赤面させて口をパクパク動かし始める。
(わ、私と立花が、2人きりでど、ど、何処かへ出掛ける!? そ、そそそそ、それって、つ、つつ、つまりは、あ、逢い引きって、こ、ことなんだよね!?)
心中で自身の考えを吐露する翼は慌てているせいか、思考は翼の理性の制御から外れて暴走気味であり、口調は奏が存命していた頃の内気なものに戻っていた。
(……何か肌寒いな? 本部ってこんなに肌寒かったか? でも、冷房を入れるにしても早いし……それに何だか悪寒が……)
テンパる翼を見ていた響は、突如として発生した謎の悪寒と薄ら寒さ感じていた。響は気付いていなかったが、そんな響の後ろには体から黒いオーラのようなものを醸し出し、黒い微笑を浮かべる未来がいたのだった。
・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー
(1)響、クリスの下を訪ねる
──弦十郎の仕事を引き継いだ今作ビッキーがクリスちゃんの家に突撃しました。
(2)響、クリスに差し入れの弁当を上げる
──初っ端から胃袋を攻めていきます。名付けて胃袋掴み大作戦です……そのまんまだな。
(3)響VSクリス(Round2)
──オリジナル要素です。追い掛けっこからの戦闘です。しかし、響は今回クリスに手を出していません。飽く迄響はクリスと話し合いをしに来ただけですから。
(4)響、防御技を習得
──防御技というよりもダメージ軽減技ですかね。防御力を上げて持久戦に持っていけるかもしれませんが、全身にエネルギーを行き渡らせるので燃費は少し悪いです。一応特訓にてエネルギー変換に慣れ、変換効率を体で覚えれば欠点は無くなります。
(5)響、了子にボコられる
──鳩尾にコークスクリューブロー、首にマジ蹴りの踵落とし。口は災いの元。沈黙は金。余計なことを言うとロクなことになりません。
(6)響、翼を遊びに誘う
──響は気付いていないが、つまりはそういうことに繋がるのである。テンパって赤面している翼さん可愛い。しかし、その代償として393の目からハイライトが消え、暗黒微笑を浮かべていたのであった。
今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。
今度こそはもっと早めに投稿するぞー!!(フラグ)
次回はデート回です! 果たしてどうなる!?
それでは、次回もお楽しみに!