戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 今回は2年後のシンフォギア本編の為の導入になります。導入を1話で終わらせたかったので、ダイジェストにして結構詰め込みました。前話よりかなり短いですが、お付き合い下さい。

 それでは、どうぞ!


EPISODE 2 惨劇後の彼

 “ツヴァイウィング”の公演中のライブ会場で起こったノイズによる惨劇。

 

 会場内には、観客や関係者を合わせて10万を超える人間が居合わせていた。その中で死者と行方不明者の総数が、12874人に上る大惨事であった。

 

 これだけでも他に例を見ない大規模の事故だった。しかし、この悲劇はここで終焉を迎えるのではなく、更に勢いを増して連鎖していった。

 

 実は被害者の総数12874人の内、ノイズによる被災で亡くなったのは全体の1/3程度で、残りの2/3以上は逃走中に起こった将棋倒しの如き圧死、避難退路の確保の際に個人同士が争った末の暴行による傷害致死であることが週刊誌に掲載され、そこから一部の世論に変化が生じ始めた。

 

 死者の大半が人の手によって引き起こされたものであることから、惨劇を生き残った生存者に向けられたバッシングが始まった。加えて、被災者や遺族に国庫からの補償金が支払われたことで、世間からは苛烈な自己責任論が展開されていった。

 

 週刊誌の記事の内容こそ取材に基付いて行われた正確なものだったが、人の気持ちを煽るかのような華美な修飾語の数々に翻弄され踊らされた人々は、自身の身勝手な正義と正しさを振り翳しながら主にインターネット内で持論を繰り広げた。

 

 何時しかそれはやがて、この事件とは関係を一切持ってもいなければ興味すらも持っていなかった赤の他人すらも巻き込んで行き、ある種の憂さ晴らしの1つとして熱狂的且つ狂信的に扱われていった。

 

 生存者への心無い中傷は、世間の大多数の意見というマジョリティの後ろ盾に支えられることによって世の正論となり、自分の意見で無くとも、「他の人も言って、やってるから」という正体を失った中身の無い主張が罷り通ったことで、中世の魔女狩りやナチスの蛮行と同等の理由の無い悪意とも言える理不尽な正義の暴力として吹き荒れたのだった。

 

 善良な市民が懐く市民感情は、何処までも捻れ、肥大化し、ただ「生き残ったから」という理由だけで、惨劇の生存者達を追い詰めていくこととなった。

 

 一連のムーブメントに対する反対派も勿論存在していたが、付和雷同が連なった大多数の民衆の持つ本質により一方的に封殺され、暫くは大きなうねりの中に埋没することを余儀無くされた。

 

 生存者の内の1人である響の環境も、彼の周りの全てを巻き込みながらその状況に翻弄されていった。

 

 それはほんの偶然が始まりだった。ライブ会場の被害者の中の1人に響が通っていた中学の先輩の男子生徒がいた。

 

 その彼は中学のサッカー部のキャプテンであり、周りから将来を嘱望されていた生徒であった。しかし、その彼が何故死んで、取り立てて周りに影響を与える程の取り柄が無い響が生き残ったのかと理不尽に責め立てられた。

 

 少年のファンを標榜する1人の女子生徒のヒステリック極まる叫びから始まった攻撃は、悪辣な虐めへと発展していき、響はほんの極一部を除いた全校生徒からの攻撃の的にされた。

 

 口撃や陰口、机のへの落書きや机や椅子や響の所有物の紛失などは日々の当たり前のこと。酷い時には、男子女子構わずの物理的な傷害もあった。その中でもサッカー部の者や亡くなった少年のファンを自称する者達やその周囲の人間達からのものが酷かった。

 

 しかし、事態は響だけへの冷遇だけに止まらず、響の周りすらも連鎖の如く悲劇が続いた。

 

 響の父親の取引先の社長令嬢もまた、この惨劇によって命を落としていたのだ。

 

 当初は息子の命が助かったことに歓喜し、周囲の人達に息子の生存を喧伝していた彼の父親であったが、父親の取引先の会社の社長の耳にそのことが入り、契約は半ば白紙とされ、不幸が続いて響の父親は社内のプロジェクトからも外されることとなった。

 

 以降、社内の響の父親を持て余すような扱いに曽てあった彼の誇りはズタズタに引き裂かれ、内外構わず酒量が増えていき、家庭内では響や響を庇う母親に怒鳴り散らし、果てには頻繁的に暴力を振るうようになっていった。

 

 響の父親は元々が立花家への入り婿だった為か、ある日、響達に会社に行くと言い残したまま行方を晦ませ、守るべき家族や何もかもを放り出したまま、2度と家に戻ることはなかった。現実に耐え切れなくなった響の父親は蒸発したのだった。

 

 更に悲劇はまだ続く。彼が冷遇される以前に、ふと幼馴染みや身近な者に2、3度だけ呟いた「自分は“ツヴァイウィング”の天羽奏に命を助けられた」という発言が問題を大きくした。

 

 どこからかこの発言がリークし、それを拾ったインターネット内で響は様々な罵詈雑言で世間に吊るし上げられることになった。

 

 この発言を信じた者からは、“歌姫を盾にした人間の屑”や“女の子に助けられた男の面汚し”。信じなかった者からは、“悲劇に便乗した下らない嘘吐き”や“天羽奏という歌姫を汚した恥知らず”。その他にも、“卑怯者”や“臆病者”といった罵詈雑言は後を絶たなかった。

 

 何時しか“天羽奏が立花響の命を助けた”という真実は捻じ曲げられ、“立花響は天羽奏を盾にして生き残った”という歪められた形に収まった。結果、響は世間から“歌姫殺し”と呼ばれるようになっていた。

 

 “歌姫殺し”の異名により、響個人へ対しての世間の風当たりはその苛烈さを増した。仲良くしていた友達、クラスメイト、学校関係者、近所の人達、果てには幼馴染みの両親さえもが響の敵となった。

 

 家の壁には様々な罵詈雑言の張り紙が貼られ、家の窓には外から石を放り投げられ、外を歩いていれば唐突に暴力を振るわれることもあった。

 

 その中で彼の味方となってくれたのは、母親と祖母、そして優しい幼馴染みの未来だった。

 

 未来は周りのように響を責めること無く変わらずに響に接し続けていた。冷たい言葉ばかりを投げ掛ける周囲とは逆に、暖かい言葉と優しさをくれる未来に響は感謝した。

 

 しかし、悲劇は少しの幸福も響に許さなかった。人達から爪弾きにされた者に快く接する者を見て、周りの者達はどうするだろうか?

 

 人によってはその者と関わらないように関係を切らせようとするだろう。実際に未来の両親や未来と同じ部活動だったりして親しかった者達は響の関係を切るように彼女に促した。しかし、彼女はこれを拒絶した。

 

 周りからの言葉を蹴り続け周りから異端とされる者との関係を続けていた結果、それを面白く思わなかった者達が行動を始めたのだった。

 

 響程の規模では無いが、未来にも主に女子からの虐めが始まった。それによって未来の心変わりを誘発して今度こそ響が孤独になるのを楽しむつもりだったのだろう。だが、未来は決してメゲなかった。どんなことをされても、未来は気丈に振る舞っていた。

 

 それを面白く思わなかった者達が更に苛烈さを増していくが、それに対しても未来は決して負けることはなかった。どれだけやっても効果が現れない鼬ごっこを繰り返していたが、それは不意に終わりを迎えた。

 

 このことを重く考えた未来の両親は未来を連れて他県へと引っ越したのだ。元々引っ越しの話そのものは未来の家で持ち上がっていたことで、それに未来が反対したから留まっていたが、教師を通して未来までもが虐めに巻き込まれたことを知った両親は未来の転校と引っ越しを強行したのだった。結果、未来は響に別れの挨拶1つ出来ずに離れ離れになった。

 

 対して響は、1人そのことに納得していた。事態は次第に重くなっていく一方で、親の言うことを聞かないのだから無理にでも引き離すしかない、と。何故なら、響は過度な言い方をするなら未来にとって厄病神でしかないのだから。

 

 それを自覚していた響は安堵した。これで未来が傷付けられるようなことは無くなる、と。

 

 そして、響は父親と同じように家族の前から行方を晦ました。自分がいる限り、世間から冷遇された扱いを受け続ける母親と祖母のことを思っての行動だった。

 

 響は、母親と祖母を世間からの迫害から守るために1番に自分を守ってくれる世界で1番安全な場所を捨てたのだ。

 

 電波の発信による捜索をされないように携帯機器を置き去りにし、前もって用意していた最小限の食料と荷物を持って家を出た為、捜索は難航していた。

 

 響も響で情報をラジオなどで拾いながら慎重に行動していた。これも全部残された家族の平穏の為。自分が今戻ったら行方を晦ませたこともあって余計に過度な注目を集めてしまうからだった。

 

 虚仮の一念とも言えるこの愚かな行動は案外簡単に成功した。人目に付かぬように行動し、足りない頭を必死に使って情報を収集していた響は逃走を(こな)した。しかし、捜索の手掛かりが何1つ無い警察は今響が何処にいるかが分からず混沌としていた。

 

 これには幾つか理由がある。1つは、響が身バレし難い且つ印象に残らない格好で人目の付かない場所を中心に移動していたから。1つは、響が個人情報の特定が出来る情報端末の機器を持っていなかったこと。もう1つは、響は世間的には嫌悪されていて、人から情報を集めようにも誰も協力的じゃなかったことであった。

 

 しかし、その逃走劇も限界を迎えていた。2ヶ月間持ち堪えた逃走劇だったが、響の持つ食料は底を尽き、既に食事も6日間は取っていなかった。

 

 今や電子マネーによって動く貨幣の世界で、電子マネーを生産する機能を持つ携帯機器を持っていない響では食料を買うことは出来なかった。

 

(結構遣り繰りしたんだけど、やっぱり無茶があったか……)

 

 飢餓的な問題で極限状態を迎えていた響は、最早その場から1歩も動く気力を持ち合わせていなかった。

 

 草や土を食べて飢えを凌ごうにも、今響がいるのは人通りの少ない硬いコンクリートの路地裏。そんなものは何1つ存在せず、周りには口に入れることの出来そうな飢えを紛らわせることが出来るものもなかった。

 

 加えて今は梅雨入りしたことで大雨が降っていて、雨を凌ぐ屋根も雨具も無く、ただ水が染み込んだフードを被っているだけの響の体はすっかり冷え切っていた。

 

(母さんや祖母ちゃん……それに未来は元気にしてるか?)

 

 この状況で響が考えたのは自身のことでは無く、残してきた家族と居なくなった幼馴染みのことだった。響は隈が出来た目で黒く濁った雨雲を見上げながら想いを馳せる。

 

 今の響は食事もそうだが睡眠も余り取れていなかった。眠りに着く度に響はあの惨劇の光景を夢に見ていた。

 

 荒れていく会場に炭化し煤となって消え行く人々。塵となって消えた奏の姿。最初はこれだけだったが、今ではあの時戦っていた奏の相棒の翼の姿もあった。「お前が居なければ奏は死ななかった」や「奏が死んだのはお前のせいだ」などと夢の中で言われ続けた。

 

 更に煤と化して生き残ることが叶わなかった者達の声までも響いていた。「死にたくない」や「助けてくれ」などの生存を望む声、「どうして私が死んでお前が生き残った」や「お前はあそこで死ぬべきだった」などの怨嗟の声と種類は疎らであった。

 

 更には周りからの理由の無い悪意と理不尽な正義の声によって、その症状は深刻化していっていた。

 

 擦り減らされた精神が夢に影響を与え、悪化した悪夢が精神を更に擦り減らさせる。

 

 悪循環の繰り返しは確実に響の精神から順に体に影響を与え、響は今ではまともに睡眠を取ることも出来ないくらいまで追い詰められていた。

 

「……大丈夫だ。これくらい、へいき……へっちゃら、だ」

 

 自分を鼓舞するように独り言ちる響。体は疾うに疲れ果て、精神は磨り減り、眠気を感じることの出来ない体で、響は只管に堪えていた。

 

 世の中の理不尽をこれでもかと味わった響が、尚も自分を捨てずに生きていられるのは天羽奏の存在と彼女の残した言葉があったからだった。

 

「生きるのを諦めるな、だったよな……? 奏さん……」

 

 人が簡単に煤となって死んで逝く地獄の中で、奏は確かに響に告げていた。文字通り命を賭けて自信を救ってくれた奏の言葉を響は胸に焼き付けていた。

 

(……死ねない。ここで死んだら奏さんに申し訳ない……!)

 

 故に響はどんな悲劇や不幸に苛まれようと、精神が擦り減らされようと死ぬという選択をすること無く生き続けている。

 

 体が冷えて震え出す体を抱え込むように丸くなる響。視界は暗く閉ざされて、早くこの雨が過ぎることを切に願う。

 

 すると、降り続ける雨が何かに遮られ、響の体に雨が掛からなくなった。それを不思議に思った響は、顔を上げて上を見上げた。

 

「よう、どうした? そんな捨てられた子犬みたいにずぶ濡れになってよ。風邪引いちまうぞ?」

 

 響の視線の先には、自分が濡れるのを構わず差していたのだろう自分の黒い傘を響の上にやって、響が雨に濡れるの阻止する少し着崩した黒いカッターシャツの上にワインレッドのスーツを着た背の高い男が立っていた。

 

 そして、この出会いから物語はそれから2年後の春へ──




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)状況が違う
──原作ビッキーよりも酷い状況に置かれてました。主に奏さんに助けられた云々のせいです。後は性別が男だったことから、容赦が無かったのです。政府の方々にも奏云々は耳に入っておりましたがこれが嘘か本当か、響がシンフォギアの存在を目にしたのかが分からなかったので政府も動こうにも動けませんでした。

(2)未来さんのお引っ越し
──これはシンフォギアXDの『翳り裂く閃光』のイベントの際に平行世界の未来が響の下からいなくなった理由を元にしました。今作では、突然の引っ越しではなく少しは一緒に過ごしておりました。

(3)ビッキーの家出
──未来がいなくなったことで守るべき対象が家族だけに絞られ、家族を救うには迫害を受ける自分がいなくなったら1番手っ取り早いと思い、響は家出をしました。

(4)響、ある男に拾われる
──オリジナルキャラです。今話ではまだ名無しでの登場ですが、ここから先の話で登場したら、その時に名前を出していきたいと思っています。

(5)響、魔改造への道
──今作ビッキーは最後に出会った彼の手によって魔改造の道へ。何が変わったかとかは、この先の話で少しずつ紹介していきたいと思っています。尚それでも頭と勉学は今一な模様。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 次回からは一気に飛んで原作の方に行きます。急展開ですが、ぐだぐだやって全然物語に入らないよりは良いと思ってそうします。

 それでは次回もお楽しみに!

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