皆さん、お久し振りです! 1ヶ月も投稿してなかったので、そろそろ僕のことなんて忘れてきた頃合いなんじゃないでしょうか?
そう、僕こそがハーメルンの二次小説投稿者の中で唯一(自惚れ)立花響(男)の小説を書いている男! SABATAだ!
1ヶ月も過ぎて今更ですが明けましておめでおうございます! 大学の課題に追われて全く執筆活動が出来なくて、こんなにも遅くなってしまいました。
さてさて、そんな僕の近況ですが、友達にXDの出張版ガチャを回してもらった結果、何と新旧イグナイトギアの切歌ちゃんが両方当たり、加えてエクスドライブのGとGXの両方の切歌ちゃんが当たりました。
1度のガチャで☆5が5枚当たり、その内の4枚が切歌ちゃん! えっ、後1枚は何だって? エクスドライブの奏さんだよ。
イグナイトギアで出てないのは、後は新しい方のクリスちゃんだけです。ユニゾンの方もクリスだけ持ってないんですよ。僕ってクリスちゃんに嫌われてるのかな……。
とまぁ、ここで話を戻します! 以前も言ったように、Gにはまだ入らずに本編は少し番外編を挟みます。
話の募集でもしようと思いましたが、今は書く話をもう決めてあるので今回は募集は実施しません。G編が終わりそうな辺りで募集をしようと思います。
では、これ以上の長話も何ですのでそろそろ番外編の方に入っていきましょうか!
それでは、どうぞ!
後に世界からルナアタック事変と呼ばれるようになる騒動から約3週間が経った頃、とある場所にて元気溌剌系猪突猛進少年である立花響の我慢が遂に限界に達しようとしていた。
「あぁぁぁぁぁぁぁっっ!!! もう嫌だぁぁぁぁぁ!! こんな生活ぅぅぅぅぅぅっっ!!!」
響の心からのシャウトが室内に響き渡り、響の直ぐ傍で読書に勤しんでいた翼が本から視線を外して響を見遣った。
「どうしたの? 今日は一段と落ち着きが無いわね」
「だってよぉ! 翼は何とも思わないのか!? こんな所に閉じ込められて、ここ暫くの間ずっと青空と太陽を全く拝んでないんだぞ!」
訊ねた翼に対して、響は言葉を捲し立てて自身の中に膨らんでいた不満を一気に吐き出した。響の感情が爆発する度に響のその場での行動は激しさを増していき、その響に比例して翼の体も揺れ動く。
「そうは言われてもね……。月の損壊、及びそれらに
「分かってる。それは前にもおやっさんから直接言われたよ……。これは未来の為でもあるんだろ?」
「えぇ。私達の無事が知られると、周りの人に危害が及ぶわ。その中でも装者である響の一番身近な民間人である小日向は特に危険なの」
「分かってるよ、そんなことは! でもよぉ、それとこれとは話が別なんだよ! あぁぁぁぁぁぁぁっ!! 外に出たい! 未来が心配だ! 太陽の下で昼寝したい! 太陽を! 青空を! このままだと俺が青空になるぅぅぅぅぅ!! 太陽ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!」
何処ぞの太陽少年や太陽の使者がやるような太陽を渇望する叫びが響の口から放たれる。
しかし、それをやったとしても太陽は室内にまで差し込まないし、太陽銃のバッテリーが回復することも無ければ、太陽の使者と合体するような現象が起きるようなことも無く、況してやフォニックゲインが高まることも無い。
「……私は別に今のままでも不満は無いけど」
「何か言ったか、翼?」
「んんっ! 何でも無いわ。でも、小日向のことが心配というのは私も同じよ?」
「あぁ……おやっさんの話だと、今の未来、何だか凄くげっそりしてるって話だし……」
響達についての虚偽の報告を未来にしに行った際の話を、響達も弦十郎の口から直接聞かされている。その際に聞かされた内容によると、今の未来は身心共に疲弊していて、何時倒れても可笑しくないということだった。
「はぁ……心配だなぁ……。和食に洋食に中華と何でもござれな食事を作ったり、掃除に洗濯を一通り熟したり、車やバイクやボートやヘリみたいな色々な乗り物操縦したり、簡単な機械から複雑な楽器まで直したり、おやっさんと兄貴仕込みの武術でボディーガードをすることぐらいしか役に立たない俺だけど、俺が顔を出せばきっと未来も元気になると思うんだ!」
「え、えぇ。そ、そうね……」
(響一人いれば、それだけで何一つ不自由の無い生活を送れるような気がするのは気のせいかしら……)
捲し立てるように述べられた響の出来ることを聞いて、翼は曖昧な返事を返しながら苦笑してしまった。
実際のところ、翼が思ったことは強ち間違ってはいない。学校こそ行っていないが、響はそこいらの同年代に比べれば何不自由無く自活出来る人間である。
学歴が中学中退という悲しいものになっている故に複雑で手間が掛かる職に就くのは難しいが、技術職で何処かに就職出来れば入った直後から即戦力扱いされるのは想像に難く無い。
ある程度現場での経験を積んで元からある技術とその他諸々の知識を研磨させていけば、案外自分で店などを立ち上げることも可能だろう。
料理の腕も然る事ながら掃除や洗濯といったことも出来るので、誰かと結婚しても相手が結婚後も仕事を続けたいのなら、響は主夫としても一流の腕を発揮するだろう。
それこそ今響と話をしている翼からすれば、響は正しく理想の旦那様となり得る存在である。想い人であり、家事能力皆無の翼とは正反対で家事能力が高く、何より春の日差しのような体も心も暖かく包み込む包容力があるのだから。
「というか、ここまで引っ張といていざ無事でしたー!ってなっても、笑って許されるとは到底思えない! 普段は優しいけど、怒った未来は半端無く怖いんだよ! それこそ物理で何とか出来るレベルを超えてんだ! だからって、未来から逃げる為にここにずっといるのは嫌だし、かと言って素直に出て行って未来と1対1のO☆HA☆NA☆SHIするのは自分から死にに行くようなもんだし……。出そびれれば、出そびれた分だけ気不味い空気になるだろうし、それに──」
「少し待って欲しいわ、響」
言葉を捲し立てるようにそのまま延々と独りで口を動かし続けている響に翼は途中で割り込むことで話を無理矢理遮り、翼の言葉を聞いた響は翼の望んだ通りに静止した。
「念の為に聞くけど、心配しているのは小日向のこと? それとも自分のこと?」
「そりゃあ勿論……未来のことさ!」
「微妙な間が合ったわね」
「……」
翼からの問い掛けの返答に少し間があったことを指摘された響は、何も言葉を返さずに翼からゆっくりと視線を別の方角に逸らしながら、自身の行ってる作業に力を入れた。
そんなコントのような会話が繰り広げられている一室の少し離れた場所にいるクリスは、話をしている響と翼を視界に収めながら自身の脳裏で思考を巡らせていた。
(……成り行き任せで一緒に手を繋いじまったが、あたしは此奴等みたいに笑えない……笑っちゃいけない。況してや、
利用されていたとはいえ、フィーネの下でクリスが悪行を行ったことは変えようの無い事実だ。その結果としてクリスが街を傷付け、人を殺めてしまったことも。
その事実があるからこそ、クリスは今自分が置かれている状況を再認識して今後の自身の在り方や身の振り方について思い悩んでいる。
(私が仕出かしたことからは、一生目を背けちゃいけない)
「それで? さっきの微妙な間はどういうことなの?」
「あ、いや、その〜……あっ! なぁ、クリス! さっきから黙り込んでどうしたんだよ! 」
(……そうしないと私は)
「おい、無視すんなよ! クリス!」
(……私は)
脳裏で考えを巡らせ続けていたクリスに翼からの問い掛けから逃げるように響が話し掛けたが、クリスは敢えて響の言葉を無視しながら思案を続けようとする。
しかし、そんなクリスのことなど気にせずに響は話題を逸らす為にクリスに話し掛け続ける。
「あー分かった! 腹が減ったんだな! 分かる分かる! 腹が減るとボーッとしちまうよな! それこそ何もやる気が出なくて、体に力も入らなくなるよな!」
何を勘違いしたのか、響はクリスがずっと黙り込んでいる理由を自分に当て嵌めて空腹であるからと解釈した。けど、今のクリスは彼女なりに割と真面目なことを考えている為、その響のある意味で無神経な言葉がクリスの精神を逆撫でして不機嫌にさせていく。
「だったらピザでも頼むか! 本当は俺自ら作りたいんだけど、ここの設備ってあんまりピザ焼くのに向いてなくてさ! 出来ないことも無いけど、作るからには拘りたくてさ! やっぱピザ作るなら、石窯でしっかりと焼きたいんだよ! でもな、デリバリーのピザだって案外バカに出来ないとも思ってるんだよ、これが! チラシに載ってたんだけどな、カロリーに比例して美味さが絶品と来たもんだ! それに──」
「うっせぇよ! さっきからマジでうっせぇ! 飯のことになると本当によく回る舌だな!!」
響がまるで呪文を唱えるように次々と言葉を捲し立てたことで、遂にクリスの堪忍袋の緒が切れた。クリスは先程までの思考を破棄し、今ある感情に任せて怒鳴った。
「おぉう……。腹が減り過ぎてクリスが怒りっぽくなっちまった……」
「うっせぇ! あたしを漫画に出てくるような腹ペコキャラに勝手にすんじゃねぇ! そもそも腹も減ってねぇし、腹が減ったからってお前みたいに動けなくなる訳でもねぇ!」
確かに女の子を腹ペコキャラとして見ようとするのは、確かにそれが事実であったとしても相手が女の子なら失礼に値することだろう。それは勿論親しき仲にも礼儀ありということでクリスにも当て嵌まる。
「良いか、その筋肉で出来てる脳味噌に繋がってる糞が詰まった上で筋肉で塞がれてそうな耳をかっぽじってよく聞きやがれ! お前は黙れ! あたしは静寂を求めてる! だから黙れ! 黙って自分の作業だけに集中してろ! 一時で良いからあたしにしじまを寄越しやがれぇ!!」
「は、はい……」
言葉を捲し立てて言われたクリスからの要求を聞き、響は言葉を返すようなことはせずにただ了承の返事を返して、クリスに言われた通り現在自分が行っている作業に無言で取り組み始めた。
「ったく……」
言いたいことを全部言い切ったクリスは、1度溜め息を吐いてから再び思考の海に浸り始めた。
(昨日までにやらかした罪は、簡単に償えるもんじゃない。そいつを分かっているからこそ、あたしはもう逃げ出したりしない。そうだ、あたしに安らぎなんて、況してや恋愛感情なんていら……)
心中で想いを吐露していたクリスであったが、今度は何者かの視線を感じたことで再び思考を中断させて視線を感じる先を見遣った。
クリスは当初視線を送ってきていたのは響だと思っていた。喋るのがダメなら視線で訴えかけようなどという魂胆だろうと。だが、視線を感じる方向を見遣ったクリスの視線の先に響はおらず、当の響はクリスの視界の中心から少しズレた位置で黙々と作業をしていた。
「……」
今回クリスに視線を送っていたのは響ではなく、先程まで響と楽しそうに会話をしていた翼であった。
翼は決してクリスに話し掛けようとする素振りを見せなかったが、その翼の視線はずっとクリスに向けて固定されており、そんな翼の無言の視線が謎の緊張感を生み出していた。
(……この身は常に鉄火場のど真ん中にあってこそ……)
クリスはそんな翼の視線を無視して思考を巡らせようとしたが、その場の沈黙と送られてくる視線に耐えることは叶わず、チラチラと視線を彷徨わせながら翼のことを見ていた。
(……何であいつは逆に黙り決め込んでやがるんだよ!?)
騒がしかった響とは逆に翼は物静かであった。響が黙ってしまったせいで静寂に包まれた空間の中、妙な緊張感のある空気が蔓延しているところに無言で視線を送っている翼。
響には静寂を寄越せと要求したクリスであったが、今度は逆に物静か過ぎた故に未だ無言で視線を送り続けている翼に自分から話し掛ける。
「な、何だよ!? 黙って見てないで何か喋ったらどうなんだ!?」
「お! もう喋って良いのか! だったらさっきのピザの話の続きを──」
「お前じゃねぇ。黙ってろ」
喋って良い許可が出たと思い込んだ響が動き出す前に冷たい視線と言葉で牽制して黙らせるクリス。クリスの言葉に響は再び口を閉ざし、状況を静観していた翼が口を開いて言葉を発する。
「……常在戦場」
常在戦場とは、何時も戦場にいる気持ちで事に当たれという武士の心得の言葉である。だが、開口一番がそれでは幾ら何でも物騒過ぎるものであり、思わずクリスも身を引いてしまう。
「ひぃ!? やっぱいい! あんたも喋ってくれるな! 頼むから喋らないでくれ!?」
「ふふ。そう言わないで、雪音」
クリスは翼にも響同様に喋るのを辞めるよう促すが、翼は小さな笑みをクリスに返していた。
話は逸れるがそも笑顔とは、敵に対する威嚇の際に使われることもあるものである。開口一番で物騒な発言をした翼が浮かべる笑みは、クリスから知て見れば恐怖を感じずにはいられなかった。
「そ、そもそもだ! お前らさっきから何やってんだよ!?」
「「?」」
クリスが訊ねたことで響は自分が行っていたことの手を止め、それに連動して上下に動いていた翼の体の動きも止まった。
「何してるって言われても、俺は暇だから筋トレしてるだけだぞ? いざって時に頼れるのは自分の体だけだからな」
「私も暇だから読書をしているだけよ? アーティストとして活動している以上、こうしてゆっくりと本を読める時間は貴重なの」
「そうじゃねぇ!! あたしが聞いてるのはお前らが何をしてるかじゃなくて、どうして
そう。クリスが言った通り、現在響は翼を背中に乗せながら筋トレの腕立て伏せをしており、翼はそんな響の背中で正座をしながら読書をしているという状態なのだ。
「どうしてと聞かれても、何時もと同じように筋トレをただやっても味気無いだろ? それで翼に協力してもらって、翼を背中に乗せることで自分への負荷を増やしてるんだ」
「私もただ響の上に乗ってるだけだと退屈しそうだから、響を見習って体幹を鍛えているの。不安定な足場で正座をしながら読書をするというのは、思うよりも大変で良い鍛錬になるわ」
響は翼に背中に乗ってもらうことで普段とは違う環境を作って自身を鍛え、翼は響の背中に乗せてもらいながら普段の作業をやることで自身を鍛えているのだ。
自身の趣味と鍛錬を同時に熟しつつ、他者の鍛錬の手助けもするという意図も簡単に行われる変態的な行為にこれまで二課の内面を知らなかったクリスは思わず身を引いて戦慄した。
「
考えても見れば、特異災害対策機動部二課はそのトップからして変人の集団である。司令である風鳴弦十郎は正面から完全聖遺物と戦って圧倒出来る規格外な人間であり、実質二課のNo.2であった櫻井了子ことフィーネは原子文明の時代から生き続けていた女であった。
そんな弦十郎の姪である翼と弟子である響がまともである筈が無い。寧ろクリスが知らないだけで、一体後何人の奇人変人がこの二課の中に隠れてるのか見当も付かない。
と、言いはしつつもある意味フィーネに引き取られてフィーネの義娘的ポジションであるクリスが常識人かと言われれば首を傾げるところであり、自身のことは棚に上げているクリスもその内に二課の仲間入りをすることになるだろう。
◇◇◇
それはさておき、そんな感じで事件後の時間を過ごしていた装者達3人であったが、急遽弦十郎に呼び出されたことで響達は弦十郎に指定された場所へと足を運んだのであった。
響達がやって来た部屋には、弦十郎を始めとした二課に所属している人間の殆どが集まっていて、部屋の隅々には綺麗な飾り付けがされ、机に上には多種多様な料理とお菓子やドリンクが置かれており、部屋の中央には『熱烈歓迎! 雪音クリス様♡』と書かれた大きな横断幕が飾られている。
「何か見たことあるわー」
「……えぇ。そうね」
そんな既視感のある光景を前にして響は苦笑し、翼も額に人差し指を当てながら苦笑していた。
今回の歓迎会の主役であるクリスは、主催者と思われる弦十郎の横に移動させられ、響と翼もジュースが注がれた紙コップを藤尭と友里に手渡された。
「皆も既に知ってると思うが、改めての紹介だ! 雪音クリス君! 第2号聖遺物、イチイバルの装者にして、心強い仲間だぁ!」
「ど、どうも……。改めて、よ、宜しく……」
既に二課の職員達にとって馴染み深くなっているが、弦十郎は改めてクリスのことをここにいる全員に紹介した。紹介されたクリスはと言うと、顔をほんのり赤くしながら何処か気不味そうにしている。
そんなクリスに向けてここにいる職員全員が歓迎の拍手を送り、その中には響は勿論のこと翼や緒川、藤尭や友里の姿もある。
「クリス君が正式な二課の装者となったことで、二課の装者の数も3人となり、装者の数も最大記録を更新した! 二課としても
「「「「「かんぱーい!」」」」」
「か、乾杯……」
弦十郎が祝辞を述べてジュースの入ったグラスを掲げると、その場にいた全員がノリ良くグラスを掲げた。その中でも響が1番にテンションが高く、意外にも翼もその場のノリに乗っていて、クリスは戸惑いがちにグラスを小さく持ち上げた。
クリスの歓迎会が始まり、二課の面々は時にクリスに話し掛けたりしながら各々で歓迎会を楽しみ、今回の主役であるクリスは次々と来る話題や質問に振り回されていた。
「おーおー。見事に振り回されてるなぁ、クリス」
周りに振り回され続けるクリスを部屋の隅から眺めていた響は、隣で響と同じようにクリスのことを見守っている翼と話していた。
「そうね。響の歓迎会の時はあんな風に慌てふためく姿を見れなかったから、何だか新鮮に感じるわね」
「まぁ、人と話すのは元から好きだったから。でも、あの時は了子さんに引っ掻き回されたもんだ。いきなり手錠嵌めたままで写真撮られそうになったし」
「そんなこともあったわね。そ、それに……響が櫻井女史に従っていきなり上だけ抜いだりして……」
言ってて恥ずかしくなったのか、当時のことを思い出した翼の顔があの時と同じかそれ以上に赤くなっていき、耳まで真っ赤に染まっていった。
「そんなこともしたけっか。だって上半身裸になるくらいならプールとか海でもしてたし、別に人に見せて恥ずかしい体って訳でもないから全然気にしなかったけどな」
「見てるこっちの身にもなりなさい……! いきなり服を脱がれて驚かない人はいないわ……」
響の歓迎会の時は、了子が色々と危ない発言や突発的な言動をしていたせいで終始引っ掻き回されたということが本人達の思い出として刻まれており、了子のことを思い出した響と翼は切なそうに目を伏せた。
「ぜぇ……ぜぇ……! や、やっと抜け出せた……!」
すると、怒涛の質問の嵐から漸く解放されたらしいクリスが室内の真ん中から抜け出して部屋の隅にいた響達に合流した。
「おう、お疲れ! 楽しそうだったな!」
「これの何処が楽しそうに見えんだ……! いい加減なこと言うんじゃねぇ!」
「でも、嫌な気分という訳でもないんでしょ?」
「う、それは、まぁ……その……」
翼に訊ねられて言い淀むクリス。確かに次々とやって来る人の波と質問を相手にするのは大変であったが、それでもクリスはその人達を無下にはせず、ぶっきらぼうな対応ではあったものの一人一人しっかりと相手にしていた。要するに満更ではなかったのである。
「お疲れ様だな、クリス君! 随分と楽しそうだったな!」
「おいこら! 師弟揃って同じこと言ってんじゃねぇぞ、おっさん!」
緒川と友に響達に合流した弦十郎の言葉に、クリスが反応して悪態を返した。弦十郎の言葉が先程響に言われたものと一緒だった為に思わず反射的に言葉を返してしまったようだ。
「ハハハ! それはそうとだ。実は本日を以て装者達3人の行動制限も解除となる!」
「ッ! お、おやっさん! それってつまりよぉ……!!」
「そうだ! 君達の日常に帰れるのだ!」
「ぃよっしゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!!」
弦十郎の言葉を聞いて、響はその場でガッツポーズを取りながら歓喜の雄叫びを上げた。既に行動制限への我慢が限界に訪れいていた響にとって、これ程嬉しい知らせはなかったのである。
「これで漸く未来に会えるし、青空と太陽を拝むことが出来るぜぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
「嬉しそうね、響」
「翼は嬉しくないのかよ! 漸く外に出られるんだぜ! 翼だってやっとアーティストとして活動が再開出来んだぞ!」
「え、えぇ。そうね。それに関しては私も嬉しいわ。ただ……」
「ただ?」
「ッ!? う、うん。何でも無いよ!」
(言えない……! 響と長い時間一緒に居られるこの生活を、後もう少しだけで良いから続けたいなんて……!)
「?」
内心の動揺が明らかに言動にまで出て来てしまっている翼であったが、咄嗟のことであった為に本人は気付いていない。だが、響は特に翼の言動を気にするようなことは無いのであった。
「それはそうと、クリス君の住まいも手配済みだぞ! そこで暮らすと良い!」
「わ、私に!? 良いのか!?」
「勿論だ! 装者としての任務遂行時以外の自由やプライバシーは保証する!」
住まいを貰えると聞いてクリスは嬉しそうに笑みを浮かべるが、その時間は刹那の間に消えて少し寂しそうな表情を浮かべた。
(そうだよな……。もう変に身を隠したりする必要も無いから、
響の家に居候している頃は好きに外を出歩くことが出来ない生活を送っていたクリスであったが、響や響の飼い犬であるミライとの騒がしい居候生活に充実感を覚えていて満更ではなかった。
故にそんな生活が終わることを意味する先の言葉は、クリスの心に喜びと同時に小さな喪失感と寂しさを感じさせたのだ。
「そう寂しそうにするな、クリス君!」
「ッ!? べ、別に寂しくなんかねぇよ!」
クリスが響の家に居候をしていたことは家主である響以外は知らないことである為、クリスは慌てて弦十郎の言葉を否定した。
「独り暮らしというのも、初めてでは何かと不自由があったり、困ることだって多々あるだろう。だから! クリス君の住まいは響君の家の隣に確保しておいた!」
「は、はぁ!?」
「幸い響君は家事が一通り出来る。何か困ったことがあったら響君に頼むと良い! それに装者として任務を受ける際、直ぐに誰かと合流出来た方がこちらとしても都合が良い。余計なお世話だったか? もし嫌なら、今からでも住まいを変えてもらえるよう手配するが──」
「しょ、しょうがねぇなぁ! ま、まぁ、あそこのマンションはペットOKってこともあって防音に関してはお墨付きだし、任務を受ける時に直ぐに誰かと合流出来た方が良いってのも合理的だわな。それに今からまた住まいを用意すんの面倒だろうし、仕方無えからそこで納得しといてやるよ!」
最初こそ驚きはしたものの、弦十郎の口から住まいの変更の話が持ち上がり掛けると、クリスは直ぐ様口を開いて弦十郎の言葉を遮って仕方無くといった感じで住まいの話を了承した。
しかし、当の本人の表情は言葉とは真逆にかなり嬉しそうに笑みを浮かべていた。
「大丈夫よ、雪音。響だけで不安なら私も直ぐにでも駆け付けるわ。ほら、これを見なさい。合鍵もちゃんと持っているから、何時でも遊びに行けるわ」
「はぁ!?」
そう言った翼の手には銀色の鍵が1つ握られていた。翼が言ったことが本当なのだとしたら、その鍵は手配されたクリスの部屋に入る為の合鍵ということになる。
「そうそう! クリスの住まいの話は前に俺達聞いててさ。この通り、クリスの家の合鍵なら翼だけじゃなくて俺も持ってるし、何なら未来の分だってあるぞ!」
そんな翼に続くように響は懐から見せびらかすように1つの鍵を取り出すと、もう片方の空いた手でポケットを弄ってからさっき取り出した鍵と全く同じ代物をクリスに見せた。
「住まいの家主(予定)の了承も無く何勝手に合鍵なんて渡してんだ!? 自由もプライバシーもどっこにもありゃしねぇじゃねぇかぁぁぁぁぁぁぁーーーーッッ!!!」
家主の許可も無く勝手に合鍵を作るばかりか、既に分配も済ませてあるという暴挙にクリスは激昂してクリスの怒号が室内に鳴り響いた。
「まぁ、待てってクリス。落ち着けよ。ほら、取り敢えず深呼吸だ。ひーひーふー、ひーひーふー」
「これが落ち着いてられるかッ! そもそも何で男のお前まであたしの家の鍵を貰ってんだ!? 男に女の家の鍵渡すなんざ普通じゃありえねぇだろ!? それとその呼吸法はラマーズ法つって主に出産の時とかにする奴だろうがこの筋肉バカ!!」
怒って心を取り乱していようと、自然にツッコむべき箇所に的確なツッコミを入れていく辺り流石はクリス。流石はイチイバルの装者。百発百中である。
「分かってるってそんなこと」
「そんなことだぁ!? そんなことなんて一言で簡単に済ませようとしてんじゃねぇ!!」
態度の軽い響の服の襟周りを掴んでクリスは響を激しく揺さぶり始める。だが諸に身長差や体格差に大きな隔たりがあるせいで、クリスがどれだけ激しく揺らそうが響は全く微動だにしないのが現実である。
まぁ、それでも体を揺らす度に否応無しにもクリスの握り拳が響の鎖骨辺りに当たるせいで響には地味な痛みが連続で蓄積されていったりしているのだが。
「だから落ち着けって! 地味に痛い! 無断で鍵を貰ったのは悪かった! それは謝る! それに鍵なんて大事な物を貰ったのに何も返さないなんて、そんなの筋が通らない! だから俺からもクリスに渡す物があるんだ!」
「はぁ? 何だよ、それ? もしプロテインとかだったらぶっ飛ばすからな?」
前以て飛んでくるクリスの忠告に響は頬を引き攣らせて苦笑し、着ていたパーカーのポケットの中からある物を取り出してクリスの手に握らせた。
「? 何だこれ?」
(硬くて、薄くて、ギザギザしてる……? 硬いのは鉄だからか?)
正体を見せずに手渡された為、クリスは握った際の感触で渡された物に検討を付けていきながら訝しんだ。
だが、結局考えても答えに行き着かなかったので、クリスは大人しく握った拳を開いて握らされた物が何なのかを確認する。クリスの手に握られていたのは、ついさっき響と翼が見せたクリスの家の鍵に酷似したデザインの鍵だった。
「鍵? おい、筋肉バカ。何の鍵だよ、これ?」
「察しは付くと思うけど、そいつは俺の家の鍵だよ。俺だけがクリスの家の鍵を持ってるってのも悪いだろ? だから、そいつでおあいこだ」
響の言葉を聞いて、鍵を受け取ったクリスは目を見張って驚き、響の隣で同じく話を聞いていた翼も瞠目してクリスの手の中にある響の家の鍵にまじまじと視線を送っていた。
「い、良いのかよ!? あたしなんかに家の鍵なんて渡しちまって……」
「良いに決まってるだろ? それとも俺の家で悪さでも働く気なのか?」
「ッ!? そんなことある訳無えだろ! それとも、あたしが人の家で悪さするような人間に見えるのか!?」
「全然。全く。これっぽっちも。口は悪いけど、なんだかんだ言ってもクリスは優しくて良い子だからな」
「んなっ!? い、良い子だぁ!? あたしは良い子なんかじゃ──」
良い子と言われて恥ずかしく感じたのか、クリスは顔を真っ赤にしながら反射的に否定的な言葉を言おうとしたが、クリスが言葉で完全に否定する前に響はクリスの頭に手を置いて何時も未来にしてあげるように撫で始めた。
「なっ、なっ、なっ!? お前、何やって──」
「あ、ごめん。可愛かったから、つい」
「可愛いだぁ!? 今のあたしのどこにそんな要素があるんだ!?」
「何かもう全体的に。クリスって愛されキャラが向いてるかもな」
「愛されキャラって何だ!? あたしはそんなキャラ付けは真っ平ごめんだ!」
次々と吐き出される響の心からの容赦無い本音の言葉の嵐の一つ一つに顔を赤面させるクリス。1つ言葉を否定すれば、また次の言葉が出てきた途端に顔を赤面させるクリスを見て、遠くから見守っていた二課の職員達が密かにほっこりとしていた。
「まぁ、兎に角だ! その鍵は俺からの信頼の証だと思って受け取っておいてくれ。それなら別に構わないだろ?」
「〜〜〜ッ!! お前、本当にバカ! ……そんなこと言われたら断れないじゃねえか」
激しい言葉の遣り取りの末、クリスは響の最後の一言に押し負けて小さく言葉を漏らしつつも響の家の鍵を大人しく受け取った。
そのことに満足した響は、非常に嬉しそうに
「どうした、翼? そんな物欲しそうな顔して」
「えっ!? あ、いや、な、何でもないわ!? えぇ、何でもない! 何でも無いから気にしないで!」
響に訊ねられた翼は、顔を赤くして慌てながら必死に誤魔化し始めた。自分よりも後に出会ったクリスが響の鍵を貰ったことを翼は羨ましく感じ、自分も欲しいと思ったのだが何の脈絡も無しに願望を述べるようなことは翼に出来なかった。
「ははっ。そんな風に誤魔化さなくてもいいって! ちゃんと分かってるから!」
「ッ!? 誤魔化してなんかいないわ! へ、変な勘違いは止してちょうだい、響!」
「だから誤魔化さなくてもいいって言ってるだろ? ほら、これ」
そう言って響が取り出したのは、先程に響がクリスに手渡していた自身の家の鍵と同型の鍵であり、それを翼の掌を開いて直接手渡した。
「ッ! これって、もしかして……!」
「あぁ。さっきクリスにも渡した俺の家の鍵だ。未来とクリスには渡して、翼にだけあげないってのは仲間外れにしてるみたいで可哀想だからな」
「良いの? そんな
「さっきクリスにも言ったけど、これは俺の信頼の証みたいなもんだから。俺が本当に信頼してる人にしか渡さない。未来も翼もクリスも、俺は皆のこと信じてる。だから良いんだ」
「……うん、分かった。大事にするね」
響の言葉と態度から響の全幅の信頼を感じ、翼は顔を薄く赤色に染めながら手にした鍵を胸元まで持ってきてギュッと握り締めた。
「……いやはや何とも。現代っ子ってのは皆こうなのか?」
「流石に違うと思いますよ? あれは恐らく響君特有のものでしょう」
「やれやれ。響君もだが、彼女達の方も苦難が多そうだ」
「司令としてはどうなのですか? 響君の師匠であり、翼さんの叔父なのですから」
「うーむ……1人の大人の立場としては全員に悔いが残らない終わり方を迎えて欲しい。だが、翼の叔父としての立場で言うならば是非とも翼には頑張って欲しいものだ」
(それにしても、まるで若き日の黎人の奴を見ているようだ。あいつも多くの女の子に好意を寄せられていたからな)
少し離れた場所から事の成り行きを見守っていた弦十郎は、緒川と談笑しながら響の兄貴分である黎人の若き頃を見ているようで懐かしく感じていた。
すると、楽し気な雰囲気に包まれていた室内に突然鼓膜を貫くような大音量のアラーム音が鳴り響いた。
「こいつは!? ノイズの発生を知らせるものか!」
弦十郎が言った通り、室内に響き渡るけたたましいアラームの正体はノイズが発生して観測されたことを知らせるアラートであった。
まずシンフォギアの装者として1番に長く戦っている翼が緩んでいた顔を引き締め直し、次いで響が手に持っていた紙コップの中身を全部飲み干してゴミ箱に投げ入れ、ついさっき二課所属の装者となったばかりのクリスだけがボーっとしていた。
「行動制限は先程に解除されたわ。なら、ここからは防人としてのお役目を果たすのみよ!」
「よっし! そうと決まれば、今日からは一緒に行くぞクリス!」
やる気十分の翼に続いて、こちらもまた活気に満ち溢れている響はそう言い、疑問符を浮かべて隣に立っていたクリスの手を握って一緒に現場に赴こうこうとする。
「はぁ!? お手手繋いで同伴出勤なんて出来るものかよ!?」
「つべこべ言うなって! これが俺達の仕事なんだ!」
「ッ!? だからって……いきなり、そんな……!」
「何をやってるの! 現場に急ぐわよ!」
響の手を1度は振り払ったクリスであったが、その直後に再び響によって手を繋がれ、空いている響のもう一方の手を翼が引っ張りながら駆け出し、二課の装者達は
「……性格も趣向もてんでバラバラな3人ですが、なんだかんだ良い組み合わせだと思いませんか、司令?」
「ふっ、そうだな。俺もそう思う。さて、装者達を現場近くまで送らねばならん。俺達も出発するぞ、緒川!」
「はい!」
若人達を見守っていた大人達は、自分達に出来ることを果たす為に自分達も行動を起こし始めるのであった。
・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー
(1)響、割と有能である
──会計面や事務職は中学中退ということで向きませんが、実際に手を入れる技術職なんかは色々出来ます。これも世界を巡る上で簡単に日金を稼ぐ為の手段として習得したもの。要するに生きる為の術って奴です。今作ビッキーは生存ガチ勢です。
(2)響、料理ガチ勢
──様々な料理を作れる今作ビッキーは、ピザ作りだってお手の物。かと言ってデリバリーを馬鹿にはしない。料理というのは、それぞれに良いところがあるものだから。
(3)響、翼を背中に乗せながら筋トレ
──何時もは出来ない方法で鍛えようとする響に翼が提案した。響は重量が増すことで筋肉がさらに鍛えられ、翼は響と触れ合いながら趣味と鍛錬を両立出来るという正にWIN-WINの関係である。
(4)響、翼とクリスに自宅の鍵を渡す
──ヒロイン全員に自宅の鍵を渡していく今作ビッキー。鍵は信頼の証で居場所の証明なのである。要するに響の家は皆の家で、溜まり場なのだ。
今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。
今話は1期最終話の後編の裏で起こっていた話であり、ここで出撃した後に未来と再会するということになっています。
うーん。何だか相違点コーナーがマンネリ化してる気がするなぁ。それに今この段階まで来ると、響だけじゃなく物語や他のキャラの節々にも変化があるからなぁ。
G編からは響だけじゃなく、物語全体の相違点コーナーに変更しようかな? そしたら可愛くなった翼さんとか、可愛さに磨きが掛かったクリスのことも書けますし。
まぁ、それは一先ず置いておきましょう。今後もまだ番外編は続きます。と言っても、長くしても話がダレるだけなので、僕的に入れた方が良いなって思う話を数話だけ入れたらG編に突入します!
それでは、次回もお楽しみに!