戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 どうも、シンシンシンフォギアー!(挨拶)

 今回は原作である2年後へ入っていきます! 2年後の響は一体どうなっているのか!?

 それでは、どうぞ!


EPISODE 3 歌女との出会い

 日が完全に昇り切っていない漸く頭を出し始めた太陽の暁光が射す早朝の高速道路を1台のバイクが駆け抜ける。

 

 今の時間帯は起きてる人は滅多におらず、いたとしても日々が忙しい社会人か、ゲームの廃人プレイヤーのように生活するにおいて、昼夜が逆転してしまっている変わり種ぐらいであろう。

 

 そのような時間帯の高速道路にはまず人がおらず、そのバイクはスピードを緩めるどころかガンガンスピードを上げながら颯爽と高速道路を駆け抜ける。

 

 高速道路を駆ける漆黒のバイクの横に取り付けられたサイドカーに座っている頭と目にヘルメットとゴーグルを装着した少年が、少し渋い顔をしながら運転手に話しかける。

 

「兄貴、急いでるのは分かるけどさ、もう少しスピードを落としたらどうなのさ!? 下手を仕出かして前の車とかと衝突なんて嫌だぞ、俺は!」

 

「何だ(きょうだい)、ビビってるのか?」

 

「いや、ビビるも何もこんなバカみたいな速度で走られたら誰だって注意するって!」

 

「じゃー俺はその誰かさんの中には含まれねえな。寧ろ俺はこれ以上にスピード出したいからな。それに俺のドラテクがあれば衝突なんて起こらねえよ。況してや今の時間帯で高速道路にいる人間なんて数が知れてる」

 

 サイドカーに乗る少年の意見をフルフェイスのヘルメットを被る兄貴と呼ばれた男は鼻で笑って一蹴する。それどころか男は再びスピードを上げた。

 

「おい、そろそろ見えてきたぞ」

 

 男が視線を横に向けて顔で指し示す方角を少年は見遣る。その方角には、巨大なドーム型の会場があり、その下には民家や建物がずらり並ぶ街並みが続いている。

 

「ここに来るのも、2年ぶりか。……もう、2年も経ったんだな」

 

 高速道路から街を見下ろし、感慨深そうに言葉を漏らす少年。それもその筈であり、この街はある意味で少年の今に繋がる原点とも言える場所だからだ。

 

「……今更言うのもアレだが、本当に良かったのか?」

 

「え?」

 

 街を眺め続ける少年に、視線を前に戻して運転に集中し直した男が訊ねた。

 

「仕事の都合で、俺は経済も安定しない紛争が長く続く外国諸国を回らなきゃいけねえ。この2年の間、お前には俺の仕事を影で手伝ってもらってきたが、今回ばかりはお前を連れて行く訳にはいかねえ。スピード重視且つ危険度の高い仕事ばかりで、文字通り足手纏いにしかならねえお前を連れては行けない」

 

「それは前も説明されたから大丈夫だ」

 

 少年はこの2年で男と共に数多くの仕事を渡り歩いてきた。しかし、男の仕事の都合で、少年は今回その仕事に追従することが出来ないのである。

 

「ああ。そこでお前が安全に暮らせる且つ不自由の余り無い場所に置くとなって俺が考えたのが、お前と俺の生まれ故郷でもある日本だった訳だ」

 

「……ああ」

 

 男は今回が潮時だと思い、少年を平和の暮らしの中に帰そうと思った。男は少年を彼の家族が待つ家に帰そうと思っていたが、少年はこれを拒否した。

 

「日本のお前の家に帰そうと思ってた矢先に、まさかお前が帰らねえとか抜かしやがるもんだからな。流石の俺も参ったさ。……もう、お前を苦しめたあの騒動も鳴りを潜めたのにな」

 

「……まだ、決心が着かないんだ。あそこは、俺が散々に打ち壊して、俺が自分勝手に捨てた場所だから。そんなおいそれと帰ることなんか出来ない」

 

 故に少年は帰らない。少年にとっての家とは、大切な家族がいる場所であり、自分がいたせいで滅茶苦茶にしてしまった負い目がある場所なのだから。

 

 その少年の言葉を、男は了承した。それも、少年の決心が固まらない間に帰ったところで結果がどうなるかだなんて男に予想がついていたからである。

 

「……そんなことを思ってるのは、お前だけだよ」

 

「何か言ったか、兄貴?」

 

「いや、何でも無えよ。で、次に俺はお前に行きたい場所はあるかって聞いた。そしたら、お前はこの街が良いって言いやがるもんだからな」

 

 男は困ったようにフッと笑いながら暁光の照らす街を見遣る。この街は、少年とは因縁浅からぬ場所であり、そんな街に近付きたがる人間はそうはいない。

 

「……この街は俺にとって、俺の記憶から消えない思い出と結びついてる場所だ。でも、大切なものを貰った大切な場所でもある。だからこそ、またこの街に来たかった」

 

 しかし、少年は違った。少年は敢えてこの場所を選んだのだ。少年の過去には過酷なものが多かったが、それ以上に少年は胸の中心にそれを上回るものをこの街で貰っていた。

 

 それを確認する為に、少年はここにやって来た。大切なものを再度確認し、また新しい一歩を踏み出せるように。

 

「……知らねえ間に逞しくなりやがって」

 

「まぁ、2年間も兄貴と一緒にいれば学べるものが沢山あったからな」

 

「ほ〜う? 例えば?」

 

「道理を通すってことだ! だから俺も自分が言ったことは曲げないし、俺なりに筋を通す生き方をするんだ!」

 

「成る程ねえ。少し立派になったもんだな」

 

「目の前にかっけえ背中があるんだ。その背中を追い掛けたくなるのが男ってもんだろ?」

 

「ハハッ! 違い無え!」

 

 感慨深そうな男の呟きから始まった上機嫌な言葉の遣り取りに2人は満面の笑みを浮かべた。しかし、その中で少年の顔が曇ったものに変わる。

 

「それに……見えなくなる前に少しでも追い付きたいじゃないか……」

 

「……」

 

 少年の脳裏に1人の男の顔と背中が過ぎるが、少年は直ぐに顔を振って脳裏の中に浮かんだイメージを振り払う。

 

(……ったく、変なところで不器用な奴だ)

 

 少年の動作の一部始終を横目で見ていた男は内心で独り言ちる。男には、ゴーグル越しのせいで少年が今どのような表情を浮かべているかは分からなかったが、発せられた声のトーンで少年の思いを察していた。

 

 沈んだ気持ちになりそうになっている弟分の気分転換の為に、男は別の話題を振って少年に気さくに笑い掛ける。

 

「にしても、別れる前にお前がちっとは成長してるところを見れて良かったわ。後は女を知れば、もう一人前の男だな」

 

「女を知る!? お、お、おおお、女を知るって、それって、ままま、まさか!?」

 

「応よ。文字通りの意味だ。要するに女作って一緒に寝るんだよ。そうすりゃお前も一人前の男だ」

 

 兄貴分の予想外の発言に驚いた少年は、顔を真っ赤にして口をパクパクと動かし、その反応を見た男は愉快そうに高らかに笑う。

 

「ハハハハハハハハハハ!! 何だよ、その反応! 女を抱くなんざ男として当たり前のことだろ!」

 

「お、俺はまだ15だぞ!」

 

「今年で16だろうが。それにしても遅えよ! 俺の初体験は中坊の時だったぞ!」

 

「それは兄貴がませてただけだろ、絶対に! それに俺には、兄貴みたいに良い女なんていないんだ!」

 

「何言ってやがる? いるだろ?」

 

「いるって、何がだよ!?」

 

「自分で言ってたじゃねえか。お前がまだ俺と出会う前に家族以外で唯一お前に寄り添ってくれた女の子がいたってよ」

 

 兄貴分にそう言われ、少年の脳裏に1人の少女の顔が過ぎる。何時も自分の側にいて、笑顔を向けてくれた、まるで陽だまりのような白いリボンの少女の顔が。

 

「……未来」

 

「そうそう。その未来ちゃんって子がさ」

 

「ッ!? 何言ってんだよ!? 未来とは幼馴染みなだけであって、別にそんな関係じゃない!」

 

「勿体無いなぁ。お前の話だと、その未来ちゃんって子はかなり可愛いんだろ?」

 

「……あぁ。未来は周りの女の子と比べると、凄く可愛かったよ」

 

 少年の記憶に残る陽だまりの少女は、常に少年に笑顔を向けてくれて、その笑顔はとても暖かく優しいものだった。

 

「そんな可愛い子がいるんなら、ガッツリ行って手に入れときゃ良かったものを。今頃は、別の男と引っ付いてイチャコラしてるんだろうなぁ〜。んん?」

 

「……別に良いさ。未来には、未来だけの幸せを掴んで欲しい。その中に俺がいなくても、俺は別に構わない」

 

 少年は今も幼馴染みを大切に想っている。だからこそ、少年は大切な幼馴染みの幸せを祈るのだ。離れ離れになって、もう会えないだろう幼馴染みの幸福に立ち会えないのだとしても。

 

「はぁ……俺はお前のその辺の考えは分からねえなぁ。そこだけは正反対だ。良い女がいたら、形振り構わずに手に入れに行くもんだろ」

 

「行く先々に現地妻みたいな人がいる兄貴と一緒にすんなよ!? この2年間を兄貴と一緒にいて、色々な場所を行く度に出会った女の数は両手両足の指の数じゃ足りないんだぞ!? それって、どう考えても可笑しいだろ!?」

 

「何も可笑しいことなんざ無えさ。女ってのはな、本能で男を仕分けしてるんだよ。こいつの存在は自分にとって色々な面でプラスかマイナスか、をな」

 

「色々って?」

 

「沢山あるだろ? 財力、知力、膂力、魅力、優しさ、顔とかのことだよ。そういうのを見積もって、この男との間なら優秀な子孫を残せるって無意識に思っちまう訳だ」

 

「……つまり、兄貴は優秀な人間ってことか?」

 

「いやいや、俺自身は別に俺のことをそこまで高く評価してる訳じゃないさ。まぁ、それでも女が寄って来るってことは、そこそこ優秀な人間なじゃねえのか、俺は? それか、余程女の周りにいる男共が無能なのかもな」

 

「ハハハ……」

 

 口ではそう言いつつも何処か上機嫌な言動にこれ以上無い程の自信の有無を感じた少年は、口元を引き攣らせて愛想笑いを浮かべていた。

 

「要するにだ。飛びっきりの極上の肉(有能な人間)ざらざらした唐黍のパン(無能な人間)のどっちが良いかって質問だよ。その結果、俺にしこたま女が寄って来て、俺もガッツリ肉食なもんだから、お互いにWIN-WIN(ウィンウィン)の関係に落ち着くんだよ」

 

「……無茶苦茶だ。言ってること、全然分からねえ」

 

 謎の持論を語る兄貴分にうんざりとした表情を浮かべる少年。隣で溜め息を吐く弟分を一瞥した男は、軽く笑ってから少し話を変える。

 

「まぁ、アレだ。これから暫くの間はお前とは会えなくなる訳だからな、ここでお前に俺がこの約40年で独自に学んだ、女についてのワンポイントアドバイスを教えよう」

 

「アドバイス?」

 

「そう、アドバイスだ。良いか? 良い女ってのはな、(こぞ)って色々と抱え込ん仕舞うもんなんだ。特に身内には心配掛けさせない為に隠し通す。そういう女ってのは怖いもんだ。迂闊にその女の心に踏み込もうものなら、一瞬で爆発してズタボロにされちまう。謂わば、ニトログリセリンみたいなもんだ。ニトログリセリンについては、扱い方を何度か教えたから分かるだろ?」

 

「……女っておっかない」

 

 女の例えとして挙げられたニトログリセリンという存在を知っていた少年は思わず身震いした。

 

「だけどまぁ、そこが狙いどころさ。そういう女ってのは、誰しも自分の心の内を素直に()つけられる存在を欲してる。当たり散らされるのは、心の内を打つけられてんだよ。その台風みてえな女の想いを全部受け切って突き進めば、あらビックリもう大丈夫ってなるんだよ。その時にはもう既に台風の目、要するに女の心の内側にいるのさ」

 

「何で大丈夫なんだ?」

 

「女の心の内にはもう何も残ってねえからだよ。女の想いを全部受け切るってことは、女の心の内の不平不満その他諸々の全部を吐き出させるってことと同じだ。勿論女の本音や有りの儘の自分を隠す仮面や壁もな。そうなれば、隠す仮面も隠れる壁も無え。で、女は後は受け入れるしかなくなるのさ。自分の本音や情けない姿を見られて尚、自分を受け入れてくれる相手を無下には出来ねえからな。良い女ってのは、総じてそういうもんだ」

 

「……言ってること、全然分からねえ」

 

「今は分からなくても良いんだよ。年を食えば勝手に分かってくもんだ。そうするには、まず相手の心の確信を突いて、敢えて地雷を踏み抜く必要があるもんだが……お前のその辺は俺が教えなくても大丈夫だろ」

 

「何でだよ?」

 

「お前は人の地雷を踏み抜く天才だからだよ、響!」

 

 悪戯っぽい笑みを浮かべながら告げる男に、少年──立花響は心外だと言わんばかりに文句を述べ続けるのだった。

 

 

 

▽▽▽

 

 

 

 時間が経ち、太陽も完全に顔を出した青空の下で無事に街に入った響は、バイクの後ろに紐で何重にもキツく結び付けていたスポーツバックを肩に担いでいた。

 

 今の響は目深く被ったフード付きの真っ黒のパーカー、カーキ色のストレートパンツ、灰色のスニーカーという装いで、目深く被ったパーカーが不審者臭を醸し出していた。

 

 響と対面するように体ごと響の方を見てバイクに乗っている男は、今はヘルメットを取っていた。そのお陰で隠されていた顔が露わになっている。

 

 黒の長髪を全てオールバックにして後頭部下部で括った端正な顔立ちの青年は、缶コービー片手に響と談笑していた。

 

「それじゃあな、(きょうだい)。政府関係者に捕まるようなことは絶対にするなよ? お前は色々と立場が複雑なんだからよ」

 

「その言葉はそっくりそのまま兄貴に返す」

 

「俺はそんなヘマはしねえよ。にしてもだが、住まいを手配しなくて本当に良かったのか? 俺の手に掛かれば、住居の1つや2つは簡単に用意出来たぞ?」

 

「この2年間散々兄貴の世話になってきたんだ。それなのに暫くの別れの間際でも兄貴に頼る訳にはいかないさ。幸い荷物も今持ってるこれだけだし、住まい探しは俺だけの力でやり遂げてみせる」

 

「そうかよ。なら、その辺はもう何も言わねえよ。けど、もし本当にどうしようもならなくなったら俺を頼れ。すぐに住まいを手配してやるよ」

 

 すると、唐突に男の顔がニヤけ出して辺り一面を見回し始め、その顔と行動を見て何をしているのか悟った響はチベットスナギツネのような目で兄貴分を睨んでいた。

 

「それにしてもやっぱり朝の時間帯は良いもんだ。なぁ、(きょうだい)

 

「……念の為に聞くけど、何を見てるんだ兄貴は?」

 

 訊ねる響に対して兄貴分は見ている方角を顎で指す。響がその方角に視線を向けると、その先には学校へ登校中の制服姿の女の子達がいた。

 

「いやぁ、良いねぇ。登校中の女子高生ってのはさ。全員が制服だからこそ、ひとりひとりの女の子達の個性的な違いがしっかり浮き出るものだ。それに青いバナナや青い林檎みたいに、未熟性だからこそ手を出したくなる好奇心ってのが駆り立てられる」

 

「……一応言っとくけど、手を出すなよ」

 

「出さねえよ。俺の対象は18歳以上だからな。まぁ、18歳以下でも良い女だったら狙いに行くかもだけど」

 

「おい!そんなことしたら、兄貴のことを警察に突き出すし、名前も言い触らすからな!ちゃんと名瀬(なぜ)黎人(れいと)って名前で!」

 

 本気でツッコミを入れる響に対して、手でジェスチャーしながら「怒るな、怒るな」と笑いながら響を宥める男──名瀬黎人。

 

 名瀬黎人。それが男の本名であり、彼こそ、2年前に偶然にも逃亡中だった響と出会い、彼を理不尽な地獄から助け出した張本人だった。

 

「そいつは困るな。なら、そうなる前に俺は退散させてもらうぜ」

 

「俺がいないからって女遊びに惚けるなよ」

 

「そいつは保証し兼ねるな。何せこの2年間はお前と一緒だったせいで、ロクに女といちゃつく暇も無かったからな。ここ暫くはそっち方面に力を入れるかもなぁ?」

 

「この人はぁ……っ!」

 

 悪戯小僧のような笑みを浮かべて飄々と答える黎人に、響は怒り半分呆れ半分といった感じで言葉を吐き出す。すると、間髪入れずに黎人の手が伸ばされ響の頭に置かれた。

 

「まぁ、お前との暮らしは悪くなかった。いや、寧ろ楽しかったぜ。お前の笑顔は見てて気持ち良いものだったからな。今度また会う時に同じものを見せてくれ」

 

「……兄貴も元気でな」

 

「ああ。達者でな、(きょうだい)

 

 黎人はハンドルに引っ掛けていたヘルメットを被り、軽く手を振るジェスチャーをした後にバイクのエンジンを吹かせてその場を後にした。

 

「俺も行くか」

 

 兄貴分の姿が見えなくなるまでの間、その後ろ姿を動かずに見送り続けた響はそう言うと、肩に担いでいたスポーツバックを担ぎ直してから歩き始めた。

 

 黎人と別れ、暫く街の中を当ても無く彷徨い歩いていた響だったが、現在の響は絶賛気不味さというものを深々と感じていた。

 

(……気不味い。何が気不味いって、周りの女の子からの視線が何よりも痛い。だから気不味い)

 

 響は朝の登校途中の同年代の女の子多数からの視線に晒されていた。

 

 この近くには、私立リディアン音楽院という音楽学校の高等科の校舎があり、響に視線を注いでいる女子高生の殆どがそこの生徒だった。

 

 私立リディアン音楽院──通称リディアンは、女子校の学び舎であるが故に男子生徒は存在せず、今響が歩いている歩道はリディアンが保有する寮に住まう女の子達が活用する通学路である。

 

 そんな大勢の女の子達がいる中で口元しか見えないような目深くフードを被った響の存在は大いに目立つのだ。それもパーカーの黒色であることが余計に女の子達の警戒心を煽っている。

 

 時間が経ち、方角的にもますますリディアンの近くへ歩いている為に周りの女の子達は減るどころか増えていく一方である。

 

「ねえねえ、あの人ってさ──」

 

「──何か見た目的にまるでアニメね、あの人」

 

「幾ら何でも失礼ですよ。あちらの方にも何か理由があって、あの格好をしていらっしゃるのかもしれないのですのに」

 

 加えて視線が集まるだけじゃ無く、周りの女の子達は響の格好を見て各々の考えを話し始めたのだ。視線だけならまだ響も気にはしなかったが、流石に話題の的にされるは遠慮したいものだった。

 

 響は周りの女の子達の話を聞かないように、そっとスポーツバックからヘッドホンを取り出し、黎人から貰ったスマートフォンに接続して音楽を聴き始めた。

 

 響のヘッドホンから流れる曲は、“ツヴァイウィング”の“ORBITAL BEAT”という歌で、本来なら2年前のライブの際に“逆光のフリューゲル”の次に歌われる筈だった歌である。

 

(……そういえば、リディアンって翼さんが在学してる学校だったよな)

 

 “ツヴァイウィング”の曲を聴いていたことで唐突にそのことを思い出した響。それと同時に響の脳裏にはまた別のことが思い出された。

 

(……奏さんとの約束)

 

 それは響が生きるか死ぬかの間際の時に奏との間に交わされた約束。もし、彼女の相棒である翼と関わりを持つようなことがあったら、その時は翼のことを頼むと言われた約束のことだ。

 

 あの2年前の惨劇後、“ツヴァイウィング”の片翼である天羽奏が亡くなったことで“ツヴァイウィング”は強制解散となり、風鳴翼はソロ活動にて1人でアーティストを続けることになった。

 

 結局、あの惨劇を生き延びはした響だったが、その後の悲劇や彼を拾った黎人と共に世界各国を回っていたこともあって、その約束は有耶無耶になり掛けていた。

 

(こうして、この街を歩いていたらバッタリ翼さんと出会したりは……しないか、普通)

 

 何処のギャルゲーだよ、と響は内心で吐きすてるのだった。

 

 歩道を歩いていた響の前の信号が赤信号に変わり、それを見ていた響は足を止める。響が足を止めた信号は歩道と道路が十字形の交差点になっていて、響から見て左側の歩道から更にリディアンの生徒達が集まってくる。

 

 大所帯となった女の子の集団の中で1人異色の格好をしている男の響は、非常に気不味い空気と更に追加された視線を犇々と感じていた。

 

(……どうしてこうなった。あまり目立ちたくないから地味な格好してるのに)

 

 どうしても何も、それは響がフードを目深く被っているのが原因であるのだが、悲しいことにバカな響はそれには気付かない。早い話がフードを取れば良いのだが、2年前のことがあったせいで響はフードを取るに取れないのだった。

 

(このままじゃいけない。そうだ! 適当にブラブラ歩いてたからこうなったんなら、目的地を定めて行動すれば良いんだ!)

 

 そう思い至った響は、手頃な場所を検索する為に携帯を取り出して弄り始めた。だが、ふと響が前を見ると、横断歩道に中身がある上履き袋が落ちていた。直後、響の横を人影が通り過ぎていった。

 

 人影の正体はまだ小学校低学年くらいの女の子で、駆け足であった女の子は上履き袋の前で止まってそれを拾う。自分の物なのであろう上履き袋を拾った女の子は、その場で安堵してニコニコと笑顔を浮かべていた。

 

 しかし、響の前にある信号は既に赤色になっているのだ。すると、今まさに女の子がいる車線上を通ろうとしている車が猛スピードでやって来た。

 

「ッ!」

 

 それを見ていた響は、肩に担いでいたスポーツバックをその場に落とし、手に持っていたスマホを投げ捨てて走り出した。投げ捨てられたスマホからヘッドホンのコードが抜け、それなりの音量でスマフォ本体から流れる“ツヴァイウィング”の“逆光のフリューゲル”をBGMに駆ける響。

 

 車の運転手は女の子に気付いてブレーキを掛けようとするも未だに止まる気配は無く、自分に向かって来る車を見た女の子も呆然と立ち尽くしてしまっている。

 

 もう間に合わないと誰もがそう思った直後、響は掬い上げるように女の子を抱き抱えて、その場から前に向かって勢い良く跳んだ。

 

 女の子を抱き抱えた響は、跳んだ際の勢いもあって上手く着地の姿勢を取れずに跳んだ先で転がり、アスファルトの地面を背にする形で止まった。

 

「大丈夫か?」

 

 自分の上に乗る女の子に安否を訊ねる響。

 

「うん、大丈夫だよ! ありがとう、お兄ちゃん!」

 

 蹲るように響の腕の中にいた女の子は、顔を上げて自分の身の無事を花のような笑顔を浮かべながら答えた。それを見た響は安堵し、良かった良かったと女の子の頭を撫でた。

 

 すると、周りから拍手の音が鳴り響いた。拍手に混じって聞こえてくるのは、女の子を身を呈して助けた響への賞賛の声であった。

 

「よし、大丈夫なら今度はちゃんと信号に気を付けないとダメだぞ」

 

 響はそう言いながら立ち上がりつつ女の子を降ろす。

 

「はーい! ありがとう、お兄ちゃん! またねえ!」

 

 女の子は元気一杯に響が言ったことに返事を返し、これまた元気一杯に手を振りながら再度お礼の言葉を言って走って行くのだった。

 

 賞賛の拍手がまだ続く中、響は照れながら周りを見て後頭部を掻きつつ自分がスポーツバックを落とした場所に戻る。

 

(えーっと、スマホは……)

 

 スポーツバックを肩に担ぎ直した響は、流石に気恥ずかしくなって早急にこの場から離れる為に先程投げ捨てたスマホを探し始める。

 

 すると、ある1人の人物が人混みの中から出て来て響の眼前までやって来た。下を見ながらスマホを探していた響は、自分の前に立った人の顔を見る為に顔を上げ、そして固まった。

 

「か、風鳴、翼……さん!?」

 

 そう、今響の目の前には、あの風鳴翼がリディアンの制服に身を包んで立っていたのだ。

 

 しかし、その風鳴翼は響が最後に見た彼女とは違い、冷たい目をして何処か冷めたような表情をしている気がしていた。

 

(えっ、ど、どうして翼さんが!? 俺何かやらかしたか!? それとも俺があの時に奏さんに助けられた奴だってバレたのか!? ずっとフードを被ってたからバレる要素なんて何処にも!?)

 

 しかし、そう思っていても、突如自分の前に現れた風鳴翼に未だに大ファンである響は、落ち着かない思考を繰り返しながらテンパっていた。

 

「え、あ、あの、その……!?」

 

「これ」

 

 未だにテンパって口籠もる響に翼は淡々と手を差し出した。その手には響のスマホが乗せられていた。どうやら、落ちていた響のスマホを親切に届けに来てくれただけのようだ。

 

「あ、俺のスマホ! ありがとう、ございます……」

 

 翼の手から粛々とスマホを受け取る響。見た所によると、投げ捨てたのにも関わらず響のスマホには運良く傷が1つも付いておらず、“逆光のフリューゲル”が無事に流れ続けていた。

 

 スマホを見付けてくれて、剰え響の下まで持って来てくれたのは響にとって嬉しかったが、まさか歌を歌っている本人に流れる曲を聴かれたことに響は気恥ずかしくなった。

 

「……先程の行為は確かに素晴らしいことだったわ。でも、軽はずみに自分の命を易々と賭けるのは止めておきなさい」

 

「えっ?」

 

「あなたに万が一があれば、あなたのことを想って涙を流す人もいる。それに、あなたの代わりは何処にもいないのだから……」

 

 翼はそれ以上は何も言わず、響の返答を聞かずにそれだけを言い残して響の横を通り過ぎていった。

 

 あの大人気アーティストの風鳴翼と話したことで再度響に周りからの視線が集まる。それに気付いた響は、その視線から逃れる為にそそくさとその場を立ち去るのだった。

 

「……響?」

 

 しかし、響は気付いていなかった。その場から立ち去る響の背中を見詰めながら、彼の名前をボソッと呟いた白いリボンの少女の存在に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)バイクに乗って登場(サイドカー)
──今作ビッキーは、前話の最後に出て来た彼と共に原作が始まるまでの2年間世界中を色々な仕事をしながら回っていました。よって、原作ビッキーのようにリディアンには入学していません。

(2)名瀬黎人
──今のところは謎多き男。彼こそが前話で響と出会った男であり、今まで響の面倒を見てきた。無類の女好きであり、響のことを弟のように思っていて彼のことを(きょうだい)と呼び、響もなんだかんだ言いつつも黎人に信頼を寄せていて、親しみを込めて黎人を兄貴と呼ぶ。

(3)高い身体能力
──今作ビッキーは、黎人と共に幾つか危ない仕事をしてたこともあり、そのお陰で原作ビッキーよりも原作開始時点の身体能力の初期値が高い。よって、子供を車の事故から救うなんて芸当も出来ちゃいます。まぁ、身体能力が高いせいで原作ビッキーよりも無茶仕勝ちな傾向にある模様。

(4)翼との出会い
──原作のような食堂ではなく、通学路で出会う響と翼。目の前で命を張った響へ忠告をする翼。それは命を燃やして人々を守った己が片翼の姿を幻視したせいか、それとも……。

(5)白いリボンの少女
──察しの良い方は既に見当が付いているであろうあのお方(ラスボス)。顔もよくは見えていないし、声もあまり聞き取れていないのに直感だけで気付いていくスタイル。流石はラスボスと言ったところか。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 次回は覚醒回! 恐らく適合者の皆さんならご存知であり大好きなあの人の台詞が出るかも! 分からない方には後にLiNKERを配布しますのでご使用下さい。

 それでは、次回もお楽しみに!
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