またまた1週間で投稿出来たよ、やったね!
でも最近暑過ぎて執筆は進まないし、所々に誤字とかもあるかもしれないから、その辺は大目に見てくれると嬉しいです。
XV4話は神回でしたね。まさか遂に故人ともデュエットし出すとは……。
マリアさんの変身はふつくしいし、あの暴力的なおっぱいの自己主張は凄かったですよね。変身の際のSEとかも洗練されてて最高でした。
おっぱいリロードの次はおっぱいミサイルって、今期は何やらおっぱいへの強い執念を感じますね。
アマルガム起動の際にサンジェルマンが出てきた時は、思わず僕泣いちゃいました。サンジェルマンの正義と意志は響の中で生き続けてるんだなって……。
でも、翼さんは何だか1期の最初の頃を彷彿とさせる病みっぷりでしたね。今度こそ本当に折れなきゃいいけど……。
それとあの種蒔き糞爺は遂に隠すこともしなくなりましたね。
さて、そろそろ世間話も終了して本編の方に入っていきましょうか!
それでは、どうぞ!
予想外の事態が立て続けに起こる中、事態の早期解決の為に動こうとする二課の弦十郎の司令官席のデスクに1本の通信が入る。
モニターに表示された通信元は国の防衛省からのものであり、その後直ぐに蕎麦を啜っている男の映像がモニターに表示された。
「斯波田事務次官!」
弦十郎に通信を入れてきたのは、日本の外務省事務次官である
仕事中だろうと平気で蕎麦を食っている斯波田事務次官は、その役職の名前通り日本の外交関係の重要人物であり、一課や二課に問わず特異災害対策機動部の活動を影でサポートしてくれているのだ。
『厄ネタが暴れてるのはこっちばかりじゃなさそうだぜ。まぁ少し前に遡るがな』
斯波田事務次官は、最初に前置きを入れてから今伝えるべきことを簡潔に説明し始める。
『米国の聖遺物研究機関でもトラブルがあったらしい。まぁ何でも今日まで研究してきたデータの殆どが御釈迦になったばかりか、保管していた聖遺物までも行方不明って話だ』
「こちらの状況と連動していると……?」
立て続けに起こり続けるノイズの襲撃やライブ会場で起こったフィーネと名乗る謎の武装組織の宣戦布告に加え、米国の聖遺物研究機関でもトラブルが起こった。
不可解な大規模事件がこの短期間で起こり続けているのは、あまりにも上手く出来過ぎたシナリオであり、弦十郎は一連の事件が繋がっているものであると当たりをつけた。
『蕎麦に例えるなら、終わりってことはあるめぇ』
斯波田事務次官も弦十郎と同じ考えであり、手に持った箸で掬い上げた蕎麦を見遣りながら言葉を返した。
蕎麦、いや麺類は米やパンと違って一気に一口で食べれば終わりではなく、最初の一口を口に入れてからも伸びている麺を啜って口に入れる必要がある食べ物である。
斯波田事務次官は、蕎麦に例えることで今回の一連の事件は単発で終わるようなものではなく、この後も長引く大きな事件であるということを示唆していた。
『まぁ、二八でそういうこったろ』
今度は二八蕎麦で例えて今回の事件が8割以上の確率で長引くものだろうと念押しし、箸で持っていた蕎麦を勢いよく啜った。
一方の現場であるライブ会場では、己が組織の名を告げたマリアから世界に向けて発言がなされていた。
「我ら武装組織フィーネは、各国政府に対して要求する。そうだな、差し当たっては国土の割譲を求めようか」
「バカなッ!?」
「もしも24時間以内にこちらの要求が果たされない場合は、各国の首都機能がノイズによって不全となるだろう」
今なされたマリアの世界への要求内容は聞いての通り無茶苦茶なものであり、それを間近で聞いていた翼が驚愕から目を見張るのも当然であった。
テレビ中継によってマリアの発言を聞いていた各国の首脳陣の対応は千差万別であり、驚きのあまり硬直する者、明らかな脅迫によって慌てふためく者、マリアの様子を静観し続ける者と様々であった。
「あの子ったら……」
同じようにテレビ中継を通してマリアの様子を見守っていた老齢の女性は、まるで娘を見守る母親のような優し気な笑みを浮かべていた。
「……何処までが本気なの?」
「私が王道を敷き、私達が住まう為の楽土だ。素晴らしいと思わないか!」
あまりにも大言壮語が過ぎる発言に翼は訝しみながらマリアに訊ね、マリアは腕を大きく広げながら撤回する様子も無く翼の問いに答えた。
「へっ、しゃらくせぇなぁ。アイドル大統領とでも呼びゃあいいのかい」
まるで一国の王のような振る舞いと発言をするマリアを見た斯波田事務次官は、
「一両日中の国土割譲なんて全く現実的ではありませんよ!」
藤尭の言うことは最もであり、そんな世界規模の事柄をたった1日で決められる程に世界は単純ではないのだ。
「急ぎ対応に当たります」
『おう。頼んだぜ』
弦十郎は直ぐにこの事態の収集に努めることを斯波田事務次官に進言した後に斯波田事務次官との通信を終了した。
ノイズに周囲を囲まれ、逃げることすら許されず会場に留まることを強いられて人質にされてしまっている観客達の面持ちは、不安と絶望感に支配されている。
そんな彼らやその元凶たるマリアを見ている翼は、胸の内から湧き上がる怒りを必死に堪えるように左手に持つマイクを強く握り締める。
「何を意図した騙りか知らないけど……」
「私が騙りだと?」
「そうよ! ガングニールのシンフォギアはあなたのような人に纏える物ではないと知りなさいッ!」
楽しみにしていたライブを邪魔されたことや多くの人々に絶望を齎したことは勿論翼も許せない。
だが翼が何よりも許せないのは、人々に絶望を与えるこの状況を作り出した張本人であるマリアが、ガングニールのシンフォギアを身に纏っていることであった。
翼は誰よりも傍で見てきた。ガングニールという人類を守護し、希望と命を繋げ、多くの災厄を打ち貫いてきた無双の槍を振るってきた
最初は家族を殺したノイズへの復讐の為に無双の槍を振るっていたが、戦いの中で復讐よりも大事なものを見出し、次代への希望と命を繋ぐ為に命を燃やして最後まで歌い続けた
次代へと繋がれた無双の槍を人々の笑顔を守る為に振るい、自身に人として大事なものと見失っていた夢を思い出させ、今も無限の可能性を宿すその手で人々の笑顔や命、未来を守る為に戦っている
だからこそ許せない。そんな彼女達と同じものを身に纏いながら、全く逆のことを為しているマリアの悪逆を翼が許せる訳がなかった。
「Imyuteus ameno──」
『待って下さい、翼さんッ!』
翼はシンフォギアを纏う為の聖詠を歌おうとしたが、翼が聖詠の半ばまで歌ったところで翼の耳に付いているインカム型の通信機から会場内の何処かにいる緒川の待ったの声が掛けられた。
その待ったの言葉を聞いた翼は途中で聖詠を打ち切り、インカム型の通信機に視線を向ける。
『今動けば、風鳴翼がシンフォギア装者だと全世界に知られてしまいます』
緒川の言う通り、このライブ会場は未だ全世界への生中継が続いている。そんな場所でシンフォギアを纏おうものなら、忽ち翼がシンフォギア装者であるという事実を世界中に知らしめることになる。
世界に対してシンフォギア装者の情報を秘匿している日本政府からしてそのことを知られるのは得策ではないし、そんなことをすれば翼は自身の夢を追い掛けることが出来なくなるのだ。
「でも、この状況で……」
『風鳴翼の歌は、戦いの歌ばかりではありません。傷付いた人を癒し、勇気付ける為の歌でもあるのです。そのことを、響君が教えてくれたじゃありませんか……!』
「ッ! ……響」
狡い言い方であると緒川も自覚している。自身が伝えたい言葉と一緒に響の名前を出せば、純情で乙女な翼は必ず思い止まることを緒川は知っている。
現に翼は自身にしか聞こえないくらいの声量で響の名を呟き、聖詠を歌うことを止めてマリアのことを睨んでいた。
「確かめたらどう? 私が言ったことが騙りなのかどうか」
翼とマリアの視線が互いに交差する。お互いの退く気が無い強い意志が秘められた瞳が相手の視線を釘付けにし、互いに言葉を話さない沈黙が場の空気を支配する。
「……」
「……なら」
誰もが音を発さない静寂の中、その静けさを最初に打ち破ったのはマリアであった。
「会場のオーディエンス諸君を解放する!ノイズに手出しはさせない。速やかにお引き取り願おうか!」
マリアから告げられたのは人質の解放宣言であり、観客達を人質にした最初の対応と打って変わるその言動を聞き、人質達にも動揺と混乱が広がっていく。
「何が狙いなの?」
「ふっ」
マリアの目的を問う翼に対し、マリアはそんな翼に向けて余裕の表情を見せながら薄く笑って返した。
翼が問うようにマリアの行動は不可解の一言に尽きる。人質を解放するということは、自身や自身の所属する組織の優位性を放棄することに他ならないからだ。
ノイズを操る力を有する組織が、態々自分達の優位性を放棄してまで何をしようとしてるのか誰も理解出来ないでいるのである。
『何が狙いですか? こちらの優位を放棄するなど筋書きには無かった筈です。説明してもらえますか?』
計画から離れたマリアの独断による人質の解放を見て、老齢の女性はマリアの行動の真意を訊ねた。
「このステージの主役は私。人質なんて私の趣味じゃないわ」
『血に汚れることを恐れないで!』
マリアの言い分を聞いた老齢の女性は、まるで娘を叱り付けるようにマリアを叱咤した。
しかし、言葉を撤回する様子を見せないマリアを見て老齢の女性は小さく溜め息を吐く。
『はぁ……。調と切歌を向かわせています。作戦目的を履き違えない範囲でおやりなさい』
「了解マム。ありがとう……」
頑固な意地を張る娘に根負けしたかのように老齢の女性はマリアに許しを与え、それを聞いたマリアは簡潔に礼を述べて通信を切った。
マリアとの通信を終えた老齢の女性は、目を閉じながら再び小さく溜め息を吐き、作戦継続に必要な指示出しを行う為に次なる通信相手に向けて通信を繋げた。
◇◇◇
マリアが告げた通り、ノイズが襲い掛かるような素振りを見せること無く人質となっていた観客達がライブ会場から次々と解放されていく。
(フィーネと名乗ったテロリストによる国土割譲の要求。ノイズを制御する力により世界を相手にそれなりの無理を通すことも出来るだろう……。だが……)
司令部のメインモニターから観客達が解放されていく姿を見ていた弦十郎は、少しの異変も見逃さないよう警戒を強めながら思考を巡らせていた。
すると、会場名でこの状況を打破する為に独自で行動している緒川からの音声通信が弦十郎のデスクに入った。
『人質とされた観客達の解放は順調です』
「分かった。後は──」
『翼さんですね』
緒川の言うように観客達の無事が確認された今、次に重要となるのは如何にして翼の身を自由にするかであった。
マリアが解放したのは飽く迄観客達だけであり、翼の身柄は未だにマリアの傍にある。
シンフォギアを用いて状況を打破しようにも、世界への生中継カメラが回っている限り翼は迂闊にギアを纏うことが出来ない。
「それは僕の方で何とかします」
通信で翼の身を自由にする為に自分が動くことを報告した後、緒川は通信を切って再び会場内を駆け回り始めた。
時を同じくしてロイヤルボックスにいた未来達一行も会場内から出ようとしていた。
「……」
「ヒナ」
「ぁ……」
翼とマリア以外誰もいなくなったライブ会場を静かに見渡していた未来に創世が呼び掛け、未来は創世の呼び掛けに反応してロイヤルボックスから出ようとしている創世達の方へ振り返った。
「私達がここに残ってても足を引っ張ちゃうよ」
ルナアタックの際に地下シェルターから響達の戦闘映像を見ていたことから、創世達は自分達が尊敬するリディアンの先輩である風鳴翼が友人の響同様にシンフォギア装者であることを知っている。
現場に残っていては何かあった際に翼の戦う邪魔になる可能性があることを危惧し、創世は早々にこの場を立ち去ることを未来に促した。
「立花さんだって遅刻してますけど、向かってるんですし」
「期待を裏切らないわよ、彼は!」
創世に続いて詩織と弓美も未来に励ましの言葉を送った。自信満々にそう言えるのは、偏に立花響という自分達の友人を信じているからに他ならない。
日常を生きるただの少年な立花響と非日常を駆け抜ける戦士である立花響の両方を知っているからこそ、創世達は全幅の信頼を響に寄せているし、この危機的な状況も打開してくれると信じているのだ。
「……そう、だよね。響なら何とかしてくれるよね。うん、分かった」
そして創世達以上に響を絶対的に信じている未来は、響の名前も出たことで気遣わし気な表情を払拭させて創世達に続くようにロイヤルボックスから退去し始める。
(響……早く来て……!)
しかし完全に不安を拭い去ることは出来ず、未来は今一度無人となった会場内を一瞥してから早く来て欲しいと響への思いを募らせていた。
そんな未来に思われている響が乗っているヘリは、先程よりも速度を上げながらライブ会場に向けて直進していた。
「つまり、観客に被害は出てないってことで良いんだな」
座席に設置された簡易モニターから司令部と通信を行っていた響は、観客から被害者が出なかったことに安堵した。
その情報を聞いて、響の胸の傷跡の疼きも若干ではあるが治まった。
『現場で検知されたアウフヴァッヘン波形については現在調査中。 だけど、全くのフェイクであるとは……』
検知されたアウフヴァッヘン波形は確かにガングニールのものであったが、そう都合よく全く同じ聖遺物を使ったシンフォギアが存在するとは思えないのが二課の組織としての見解である。
だが、ガングニールや
「……」
響は目を閉じ、未だに疼きが治まらない傷痕がある胸に手を当てることで神経を研ぎ澄まし、傷痕の更に奥にある自身の体内の遺物へ意識を向ける。
以前よりも異物感が薄れていて感じ取るのに時間が掛かったが、その異物感を感じ取ってからはその存在をハッキリと認識出来るようになり、その異物が僅かに反応を示しているのを響は感じ取った。
「……どうやら本当みたいだ」
『それはつまり……』
「あぁ。俺の胸のガングニールが言ってやがる。アレは
『……もう一振りの撃槍、という訳か』
「それが、黒いガングニール……」
弦十郎の言葉に返すように呟いた響の視線の先には、未だに生中継のテレビに映り続けている黒いガングニールを身に纏っているマリアの姿があった。
響達が密に連絡を取り合ってる中、緒川は会場のスタッフ用の通路を駆け抜けていた。
(今翼さんは世界中の視線に晒されている。その視線の檻から、翼さんを解き放つには……)
翼を自由にするには、大衆の目に翼の姿が映らないようにしなければならないと考えた緒川は、マリアが何もを起こさないる内に自身の思惑を実行しようとしている。
だが、そんな緒川の視界に手を繋ぎながらスタッフ用通路を駆ける2人の少女の姿が映った。
「ッ!」
逃げている内に迷子になってしまったのではと思った緒川は、急いでその2人の少女の後を追った。
逆に緒川が追い掛けている2人の少女の内の1人である金髪の少女は、自分達の後を追い掛けてくる緒川の姿を物陰に隠れながら目視していた。
「やっべー、あいつこっちに来るデスよ」
「大丈夫だよ、切ちゃん」
金髪の少女は片割れである黒髪のツインテールの少女に緒川が此方に向かって来ていることを報告し、黒髪の少女は切ちゃんと呼んだ少女を励ました後に胸元のペンダントを摘んで見せる。
「いざとなったら……」
黒髪の少女の手にあるのは、翼やクリスのような正規のシンフォギア装者達が常に身に付けているクリスタル状のペンダントであった。
そのペンダントを持っているということは、即ち黒髪の少女も翼達と同様にシンフォギア装者であるということに他ならなかった。
「わわっ!? 調ってば穏やかに考えられないタイプデスか?」
切ちゃんと呼ばれた金髪の少女は、黒髪の少女──調が手に持っているペンダントを慌てて調の服の内に忍ばせた。
「どうかしましたか?」
「わっ!?」
ペンダントを忍ばせた直後に2人に追い付いた緒川が2人の少女に声を掛け、その声掛けに驚いた切ちゃんなる少女はドキッとしながら緒川のいる方向へ振り返った。
「早く避難をッ!」
「ああっ!? えーっとですねー……!?」
この場からの避難を促す緒川に対し、切ちゃんなる少女はどうにかこの場を誤魔化そうと言い淀みながらも上手い言い訳を即興で考えようとする。
「じー……」
調はじーっと緒川を見詰めていたが、切ちゃんなる少女は露骨な視線を緒川に向ける調を背で隠そうとする。
「この子がね、急にトイレとか言い出しちゃって……!」
「じー……」
「あはははは~……」
「じー……」
「参ったデスよ~、あはは……」
しかし、その度に調は背の包囲網を突破して緒川を見ようとし、それを切ちゃんなる少女が遮るという鼬ごっこが繰り返されていた。
「えっ……あ、じゃあ、用事を済ましたら非常口までお連れしましょう」
そんな切ちゃんなる少女の言葉を間に受けた緒川は、頬に汗を掻きながらも親切に少女達を近くの出口まで案内しようと申し出た。
「心配無用デスよ! ここいらでちゃちゃっと済ませちゃいますから。大丈夫デスよ!」
「分かりました。でも、気をつけてくださいね」
流石にトイレでもない場所で用を足そうとする
「あ、はいデス~」
切ちゃんなる少女は走り去っていく緒川に顔を赤くしながら元気よく返事を返し、緒川の姿が見えなくなってから疲れたように大きく溜め息を吐いた。
「はぁ~……。何とかやり過ごしたデスかね……」
「じー……」
「どうしたデスか?」
大きく脱力していた切ちゃんなる少女であったが、調のじーっとした視線が今度は自分に向けられていることに気付いた。
「私、こんなところで済ませたりしない」
「……さいデスか」
その場を切り抜ける為に咄嗟に言った冗談に意見する片割れの姿を見て、切ちゃんなる少女は冷や汗を掻きながら呆れるように今一度脱力した。
「全く、調を守るのは私の役目とは言え、毎度こんなんじゃ体が保たないデスよ?」
「何時もありがとう、切ちゃん」
何処か大人ぶる相棒の姿を見ていた調は、無表情に近かった顔に薄らと笑みを浮かべてお礼の言葉を述べた。
「それじゃ、こっちも行くとしますデスかね」
そして談笑を済ませた2人の少女は、緒川が駆けていった方向とは反対方向へと駆け出したのであった。
◇◇◇
人質であった観客達が完全にいなくなり、ノイズしか残っていない静けさに包まれたライブ会場をマリアは見渡していた。
「帰るところがあるというのが、羨ましいものだな」
「マリア、あなたは一体……?」
不意に呟かれた寂しい雰囲気を持ったマリアの言葉を聞き、翼は思わずその言葉の是非を問うように言葉を投げ掛けた。
「観客は皆退去した。もう被害者が出ることはない。それでも私と戦えないと言うのであれば、それはあなたの保身のため」
ミステリアスな雰囲気から一転して好戦的な笑みを浮かべるマリアが翼に向けてマイクを突き出すと、今まで静観していたノイズの群れがステージの方に向かって歩き出し始めた。
「くっ……」
「あなたはその程度の覚悟しか出来てないのかしら?」
幾ら言葉を並べられようと、世界への生中継が行われている限り、翼はシンフォギアを身に纏うことが出来ない。仮にギアを身に纏おうものなら、それは“日本の歌姫”としての風鳴翼の死を意味する。
悔しげに歯を食い縛る翼に対し、マリアは刀を抜くような仕草でレイピア状のマイクを構える。
直後、マリアはその場から飛び出してマイクで翼に斬り掛かった。
翼も持っていたマイクを利き手である右手に持ち直し、マイクを振り下ろすマリアに対応する。
素の身体能力と磨き上げられた剣の技を以ってシンフォギアを纏ったことで常人の膂力を遥かに上回るマリアの度重なる攻撃を捌く翼。
すると、マリアは己が身を回転させながら背中から伸びるマントを翻して翼に攻撃を仕掛けた。
翼は先と同じようにマイクでマリアの攻撃を
「ッ!?」
翼は驚愕して目を見開いたが、その場で固まることはなく膝を曲げて体を反らすことでマントの直撃を回避した。
翼は攻撃を回避した直後、反れた体の体勢と勢いをそのまま活かしてバク転を2回することでマリアから距離を取った。
どうやらマリアの背から伸びるマントは、伸縮自在であると同時にその硬度も自由自在に変えることが出来る程に汎用性が高いもののようである。
折られたマイクを一瞥した翼は、直ぐにマイクを放り捨ててどのような事態にも対応出来るよう即座に構えを取った。
そんな一方的に追い詰められていく翼の姿を響達は歯痒さと焦燥感を募らせながらヘリの簡易モニターで確認していた。
「くそッ! カメラが回ってたら何時まで経っても翼がギアを纏えねぇ! 誰だカメラの電源消さなかった頓痴気野郎はッ!」
「おい! もっとスピード上がらないのかッ!」
苛つき加減が限界に達した響は苛つきをぶつけるようにヘリの扉を思いっきり叩き、響と同様に焦燥感に駆られたクリスも怒鳴りつけるように訊ねた。
「後10分もあれば到着よッ」
「それじゃ間に合わねえだろッ! 10分もあれば一体何個カップ麺作って食えると思ってんだ!」
幾ら翼が歴戦の装者であるとしても、抵抗する為の得物も無く、ギアを纏えないこの一方的な展開では響の言うように10分も持たせることなで出来よう筈がない。
「もういい! ここで降ろせ! こっからは直接ギア纏って会場に行くッ!」
響はそう言うと、体をシートに固定していたベルトを取り払ってヘリのドアを開け放った。
響はヘリから飛び降りて直接自分の足で会場に向かおうとするが、それを決行する前に隣に座っていたクリスが全力で響の腰にしがみ付いて阻止する。
「落ち着け、この筋肉バカッ! 少しは冷静になれ!」
「俺は頗る冷静だ! 直線距離ならヘリに乗って行くよりも、俺がギアを纏って跳んだ方が速いんだ!」
「そう言う意味じゃねぇ! あんなカメラが回ってる中で日本が秘匿してるシンフォギア装者が映ること自体が不味いんだよッ!」
確かに翼のことも心配ではあるが、焦ってカメラが回ってるど真ん中でその姿を晒せば、響がシンフォギア装者であるという事実を世界に露見してしまうのだ。
「んなこと知るかッ! 俺は約束したんだよ! 翼の笑顔と夢を守るって! それに俺は既にネットで顔晒されてんだッ! 今更世界に顔晒そうがどうってことあるかッ!」
翼の夢は世界に向けて歌を歌うこと。もし万が一にも翼がギアを纏うところを世界に見られたら、その夢を叶えることが永久にできなくなってしまう。
それだけは絶対に阻止しなければならないと響は思っている。あの日の翼との約束を守る為にも。
場面はライブ会場のステージに戻り、翼は次々と繰り出されるマリアの猛攻を後退しながら必死に避けていた。
すると、翼はステージ衣装である右腕の大きな袖を翻しながらマリアの顔に向けて放り投げることでマリアの視界を遮った。
(よし! カメラの目の外にさえ出れば……!)
その隙をついて翼は一目散にステージの舞台裏に向かって走り出した。
これこそが後退しながらマリアの攻撃を避けていた翼の狙いであった。マリアに気取られないよう回避の中に後退を混ぜることで、逃走経路の確保と逃走経路に一番近くて逃げ込みやすい最適な場所までの移動を行っていたのだ。
「はあッ!」
マリアは自身の視界を遮っていたステージ衣装をマイクで振り払うと、舞台裏に逃げ込もうとする翼目掛けて持っていたマイクを投擲した。
投擲されたマイクは真っ直ぐに飛んで翼の足に当たりそうになるが、その妨害を察知していた翼はハードルを越えるかのようにマイクをジャンプで跨ぎながら回避した。
マリアの妨害を躱して翼は無事に舞台裏に逃げ込めると思われたが、その直前でジャンプした際の着地の影響で翼の履いていた靴のヒールが折れるという不幸が翼を襲った。
「あっ!?」
ライブ用に仕立て上げられた靴に想定していた動き以上の負荷が掛かってしまったことで、特に重心が寄って体重が掛かってしまうヒール部分が限界を迎えたのだ。
そしてヒールが折れたことで動きが止まってしまった翼の背後には、翼の隙をついて既にその背に追い付いたマリアの姿があった。
「あなたはまだステージを降りることは許されない」
マリアはそう言うと、予想外の自体に動揺して隙だらけになってしまっていた翼の胴体目掛けて鋭い蹴りを放った。
「うあッ!?」
蹴りを諸に食らった翼はサッカーボールのように高く打ち上げられ、ノイズが蔓延るアリーナ席に向かって落下していく。
そんな翼の行く手に集まるように、周りにいたノイズはどんどん翼の落下予測地点に集まっていく。
「ッ!? 勝手なことをッ!」
ノイズの想定外の動きを見て、振り返ったマリアは叫ぶがノイズの動きが止まる気配は無い。
「翼ぁぁぁぁぁッッ!!!」
ヘリの簡易モニターで落下する翼を見ていた響は、喉が張り裂けんばかりの大声で翼の名を叫んだ。
翼は選択を迫られていた。ギアを纏ってノイズを殲滅し歌姫としての自分を殺すか、それともギアを纏わずにノイズの餌食となって歌姫のまま死ぬか。
ノイズの群れの中に落下していく翼は、自身の落ちていく先に集まる複数のノイズを一瞥してから瞳を閉じた。
(……さよならね、歌女の私)
即決であった。翼が選んだのは、歌姫としての風鳴翼の自分を殺して自身の夢を終わらせる道だった。
(ごめんね、奏)
先に逝った片翼の分も世界に向けて歌を届けようとしていたが、それが叶わぬ現実になることを翼は心の中で謝罪した。
(ごめんね、響)
自分の夢を守ると言ってくれてた想い人の思いを踏み躙ることになることを翼は心の中で謝罪した。
「翼が、夢を捨てる……ッ!」
ノイズの中に落ちていくというのに清らかな笑みを浮かべている翼を見て、響は翼が自身の夢を捨てるつもりでいることが手に取るように分かった。
「聞きなさい、防人の歌をッ!」
次に目を開けた時、翼の目には夢への未練を一切感じさせない戦士としての強い輝きが宿っていた。
・原作と今作の相違点コーナー
(1)響の名前が出ると迂闊な行動をしなくなる翼。
──乙女な今作UTAMEは、今作ビッキーへの優先度が割と高めです。
(2)胸のガングニールの反応を感じ取る響
──要するにガングニールとの親密度(意味深)が原作ビッキーよりも高いという話。
(3)ヘリから降りて自力でライブ会場に行こうとする響
──既に世に名前が広まった経験のある今作ビッキーは、顔バレなんか全く恐れない。
(4)奏と響に心の中で謝る翼
──自分の歌が好きだった2人への精一杯の謝罪。
今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。
誤字脱字等ございましたら、誤字報告機能を使ってご報告宜しくお願いします!
今話の切ちゃんなる少女という書き方は仕様です。まだ今話では正式的なお名前で呼ばれてませんからこの書き方です。
次回からはちゃんと名前で書くことになると思うのでご容赦下さい。
次回はオリジナルの要素をぶっ込んでいく分執筆料が多くなって投稿が遅れるかもしれません。
それとXV放送中は投稿曜日を月曜に変えるかもしれません。
理由は、月曜に投稿することで新鮮なXV最新話の話題で皆さんと盛り上がりたいと思っているからです。
本当に変更するかどうかはまだハッキリ決めていませんので、そんなふうに考えてるんだ程度に頭の中に入れておいて下さい。