戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

37 / 37
 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 皆さんはきっと僕のことなんてもう記憶の奥底、忘却の彼方に葬り去ってしまっていると思うので改めて名乗ります。

 お久しぶりです、読者の皆様。ハーメルンで初めてビッキー(男)の小説を書いた男(自惚れ)こと凹凸コアラです。

 最後に投稿してから半年以上も経過してしまい誠に申し訳ありません。

 気付けばXVは終わり、不破さんはゴリラとなり、キャロルちゃんがプレイアブル化し、XDでゴジラとコラボし、社長がBOARDみたいに飛蝗塗れ(メタルクラスタホッパー)になり、天羽々斬とイチイバルのAnother装者(平行世界の翼とクリス)が登場し、4.5期が出たと思ったら三人娘がメックヴァラヌスとかいう第3兵装を纏って登場し、不破さんがあつまれどうぶつの森(ランペイジバルカン)となり、今は漫画の方のULTRAMANとコラボしてますね。

 言い訳を述べますと、入社前の研修が忙しくてスケジュールの調整が難しく、大学の卒業制作が佳境に入って更に忙しくなり、シンフォギアロスとスランプが重なって書く気力を大いに削がれてしまっていました。

 今は無事に大学も卒業して就職しまして、シンフォギアロスからも立ち直りました。

 スランプは若干継続中ですが、それでも前よりも断然マシになっております。

 ですので、今回から執筆活動を再開していこうと思います!

 今回は病み上がりということもあって、話の内容のクオリティが低いものとなってしまっているかもしれませんが、それでも楽しんで頂ければ嬉しいです。

 さて、長ったらしいお話もそろそろ終了して本編の方に入っていきましょう!

 それでは、どうぞ!


EPISODE 34 Fine(フィーネ)

 先のウェルの発言は、装者達のシンフォギアを通して海中より浮上してきた二課の仮設本部の司令室の方にも記録されていた。

 

「つまり、異端技術を使うことからフィーネの名を組織に(なぞら)えた訳ではなく」

 

「蘇ったフィーネそのものが組織を統率していると言うのか」

 

「又しても先史文明期の亡霊が今を生きる俺たちの前に立ちはだかるのか……。俺達はまた戦わなければいけないのか……? 了子君……」

 

 そこまで言って弦十郎は、顔を顰めながら視線を下げて俯いた。

 

 3ヶ月前のルナアタックの折に、弦十郎達二課の人間と先史文明期の巫女であるフィーネは己の出せる有りっ丈の想いと力を全てぶつけ合い、その果てに響のお陰で分かり合うことが出来たと思われていた。

 

 だがマリアが新たに再誕したフィーネと言われ、その彼女が再び世界を混乱に陥れたことで、自分達とフィーネは何も分かり合えてなどいなかったのではと、弦十郎は疑心と動揺に駆られてしまったのだ。

 

 暁の光が空と海と大地を照らす中、着水した海から顔を出した翼は険しい表情で浮遊する槍のアームドギアの柄の上に佇むマリアを睨み付けていた。

 

 響達との通信を通して同じく話を聞いていた翼は、事が事だけにその重大性を理解しており、真実は定かではないが、油断ならぬ敵を前にしたことで“QUEENS of MUSIC”の時以上、否、ルナアタックの最終局面時のレベルまで警戒を引き上げた。

 

「嘘、だろ……? あの時、了子さんは……」

 

──胸の歌を、信じなさい……。

 

 静かに佇むマリアを見据え、その姿にフィーネ──櫻井了子の存在を重ねながら響は了子が最後に残した言葉を思い出していた。

 

「リインカーネーション……」

 

「遺伝子にフィーネの刻印を持つ者を魂の器とし、永遠の刹那に存在し続ける輪廻転生システム……!」

 

 ぽつりとウェルの口から呟かれた言葉の詳細を確認するようにクリスは口に出しながら反芻した。

 

「なら、アーティストだった本当のマリアさんは……!?」

 

「さて? それは自分も知りたいところですね……」

 

 リインカーネーションの器として選ばれた者は覚醒したフィーネによって魂を塗り潰され、残った肉体はフィーネに奪われることになる。

 

 そのことを知っている響は、その先は口に出さないでいたがそれでも明らかに動揺し、ウェルはその真偽を見定めるかのように疑いの眼差しをマリアに向けていた。

 

(ネフィリムを死守出来たのは僥倖。だけどこの盤面、次の一手は決めあぐねるわね……)

 

 そして、この場にいる人間全員の視線を向けられているマリアは、自分達の計画の要を死守出来たことに安堵していたが、油断出来ないこの状況を切り抜ける術を見出せずにいた。

 

 マリアは計画に最も必要なネフィリムは死守出来たが、今やウェルやソロモンの杖は二課の装者の手の中にある。

 

 最重要では無いとはいえ、まだまだマリア達にはウェルの力もソロモンの杖の力も必要不可欠なのである。

 

 最悪ソロモンの杖は計画から切り離すとして、ウェルの存在自体は彼女達の事情や計画達成の為にも簡単に切り離す訳にはいかぬのだ。

 

 すると、先程まで体を海に浸からせていた翼が勢いよく飛び出し、両脚部のブレードのバーニアを吹かせて海上をホバー走行しながらマリアに奇襲を仕掛けた。

 

「はぁ!!」

 

「ッ!」

 

 翼の奇襲に対し、マリアは思考を中断させて咄嗟に体を反らすことで翼の疾風の如き一閃を躱して見せた。

 

 攻撃を避けられた翼は勢いに乗ったままマリアの後ろへと通り過ぎ、当然マリアは油断すること無く翼を視線で追いながら体ごと翼に振り返る。

 

「甘く見ないでもらえるかしらッ!」

 

 上空に飛び上がった翼は振り被ったアームドギアを大剣へと変化させ、視線の先にいるマリア目掛けて思いっきり振り抜くことで斬撃を放った。

 

【蒼ノ一閃】

 

 マリアは以前に見せたように背中付近で宙を漂うマントを硬質化し、自身の周りを回転させることによって放たれた蒼ノ一閃を完全に防御する。

 

「甘くなど見ていない!」

 

「ッ!」

 

 冷静に翼の攻撃を対処して見せたマリアは油断も隙も無く翼を見据え、対する翼は上段に構えた大剣を重力落下の勢いも伴ってマリア目掛けて振り下ろした。

 

 マリアは振り下ろされた大剣をマントで捌き、擦れ違いざまに硬質化したマントを翼の胴体に叩き付けることで、翼を二課の仮設本部である潜水艦の方へと弾き飛ばした。

 

 翼は船体に体を打ち付けられたが、直ぐに空中で体勢を立て直して仮設本部の上に着地し、アームドギアの形状を大剣から刀に戻しながら未だ己がアームドギアの上に佇むマリアに視線を向ける。

 

「フッ!」

 

 マリアは翼から視線を外さずに左手に持ったケージを上へ放り投げ、空中に上がったケージはまるで何かに飲まれたかのように姿を消した。

 

 それを見届けたマリアはアームドギアの上から跳躍し、翼も着地した二課の仮設本部の上に自分も着地する。

 

 着地したマリアが上に向かって手を翳すと、未だ会場で浮遊していたマリアのアームドギアである槍がマリアの右手に吸い込まれるかのようにして収まった。

 

「だからこうして、私は全力で戦っているッ!」

 

 そう言った直後にマリアは駆け出し、跳躍によって勢い付けながら上段に構えた槍を翼に向けて全力で振り下ろす。

 

 翼はマリアの上段からの攻撃を逸らすことで防ぎ、続けて振るわれるマリアの槍に己が剣をぶつけることで相手の攻撃を見事に相殺する。

 

 攻撃を相殺した反動で弾かれた翼は、その反動を利用してマリアと距離を取り、マリアはまるで威嚇するかのように自身の頭上でアームドギアを振り回す。

 

 今度は翼からマリアに仕掛け、マリアはそんな翼を硬質化させた変幻自在のマントで迎え撃つ。

 

 翼はマントによる一撃を体を捻りながら跳躍することで躱すが、そのマリアの攻撃によって仮設本部の船体の甲板が傷付けられる。

 

 翼は素早く体勢を整えながら着地すると同時に再び駆け出し、先の攻撃によって遠隔攻撃が使用不可になっているマリアの懐に飛び込む。

 

 だが、翼がマリアに斬り掛かるよりも先にマリアのマントが元に戻り、マリアは勢い付いた翼の上段からの一閃をマントで弾くことで防いだ。

 

 攻撃が防がれた翼は諦めずに再びマリアに斬り掛かるが、翼が剣を振るうよりも先にマリアが下段から槍を振るい、それによって得物を弾かれたことで翼の攻撃は又もや不発に終わらされてしまった。

 

 翼の攻撃を完封したマリアは、硬化させたマントを自身を中心に回転するように展開した状態で翼に攻撃を仕掛ける。

 

 翼は勿論迎撃したが、回転の力が加わったマリアの攻撃で得物である剣は呆気なく弾かれた。

 

 次いで翼は現在のマリアの弱所とも呼べる中心部を攻撃する為に跳躍し、剣の切っ先を真下に向けながら落下の勢いを伴ってマリアに迫る。

 

 しかし、そんな翼の行動はマリアの予想通りの動きであり、上から翼が仕掛けてくるのを待ち構えていたマリアは容易に翼の攻撃を防いだ。

 

 空中でバランスを崩した翼は得物を持っていない左手を甲板につけ、その手を軸に体を回転させる吹き飛ばされたことによる勢いを逃した後に無事甲板に着地した。

 

 着地直後で身動きが鈍い翼を狙い、マリアは硬化させたマントによる追撃を行う。

 

 翼はマントによる攻撃を甲板の上を転がることで躱すが、その回避行動によって甲板は傷付けられ、二課の仮設本部にダメージが蓄積されていく。

 

 一旦攻防を止めて両者は互いを睨み合うが、翼は肩を大きく上下させる程に消耗していて、対してマリアは不敵な笑みを浮かべながら未だ余裕そうに歌を歌っている。

 

 現在どちらが優勢かなど誰がどう見ても明らかである。

 

 一方、仮設本部の司令室ではアラートが鳴り続いており、友里と藤尭を中心とした二課のオペレーター達はマリアの攻撃によって仮設本部が受けた被害状況を割り出していた。

 

「被害状況出ました!」

 

「船体に損傷! このままでは潜行機能に支障があります!」

 

 翼とマリアの一騎打ちの足場となっている仮設本部の甲板には、やはりそれ相応の被害が及んでおり、このままこの状態で戦闘が続けば今後の二課の動きに支障が出るのは明らかであった。

 

「ッ! 翼!」

 

 そうなる未来を回避する為に司令官である弦十郎は、この場で最も優先すべきを行動を通信越しに翼に下す。

 

『マリアを振り払うんだ!』

 

「ッ……!」

 

 通信機越しの弦十郎の指令を聞き、翼は思わず歯噛みして目の前にいるマリアを鋭い視線で見遣った。

 

 唯でさえ手強い相手だというのに、適合係数が低下している今の状態の翼がマリアを仮設本部の上から立ち退かせるのは至難の業であった。まさに、言うは易く行うは難しといった感じである。

 

 だが、弦十郎の指示の意味とその重要性を十分に理解している翼は決してNOとは答えない。例えその指示が難しいものだとしても、持てる力全てで応えてみせるのが風鳴翼という女なのだ。

 

 翼はアームドギアを柄状の形態に戻すとそのまま脚部装甲の内へと収める。次いで翼は逆立ちの体勢を取り、甲板の上についた両手を軸に回転を始め、展開した両脚部のブレードでマリアに斬り掛かる。

 

 戦法を変えてきた翼に対し、マリアは翼の連続攻撃を冷静に対処してみせるが、今までの正道な攻撃と違った邪道且つ変則的な攻撃を前に若干ではあるが体勢を崩してしまう。

 

「勝機ッ!」

 

 体勢を崩したマリアを見た翼は、そこに活路を見出して果敢に攻め込んだ。

 

「巫山戯るなッ!」

 

 自分が体勢を崩したと見て一気に勝負を決めに来た翼に憤慨し、マリアは次の翼の攻撃の1発目をマントで防ぎ、次いでやって来る2撃目以降の攻撃をまるで舞うように躱すと同時に翼の背中へマントによる一撃を見舞った。

 

 迂闊に飛び込んで逆に一撃貰ってしまった翼は、逆立ちの体勢を解いて一度体勢を立て直そうとした。

 

 しかし、体勢を立て直す為に甲板の上に着地した瞬間、突如として翼の左膝に鋭い痛みが走った。

 

「ぁく……ッ!?」

 

 痛みで表情を歪めた翼は苦悶の声を漏らし、無視出来ない痛みが走った左膝を抱えてしまう。結果として翼の動きは止まり、翼は敵を前にして決定的な隙を晒してしまった。

 

「マイターンッ!!」

 

 そんな決定的な隙をマリアは見逃さない。今まで比較的受けの姿勢で防御に徹していたマリアは、ここぞとばかりに一転して自ら攻撃に出た。

 

「ッ!?」

 

 動きが止まってしまっていた翼は、自身に向かって突貫してくるマリアを迎撃しようと咄嗟に脚部装甲からアームドギアを再度取り出して刀の形状に展開した。

 

 しかし、翼がアームドギアを振り切る前にマリアのアームドギアによる一撃が翼に命中した。

 

 マリアから繰り出された一撃はとても重く、翼は身に纏っていたシンフォギアの装甲の一部を削られながら大きく弾き飛ばされた。

 

「がぁッ!?」

 

 弾き飛ばされた翼は小さく悲鳴を漏らし、滅茶苦茶な軌道を描きながら宙を舞った後にダメージによる痛みと衝撃によって受け身を取ることもままならずに甲板の上に叩き付けられた。

 

「あいつ、何をッ!?」

 

 橋の先端部から翼とマリアの攻防の一部始終を見ていたクリスは、いつもの翼らしからぬ失態に目を見開き、驚愕を露にしながら声を荒げた。

 

「最初に膝に貰ったのが今頃効いてきやがったんだ……ッ!」

 

 クリスの隣にいた響は、翼がマリアとの打ち合いに敗れた原因を簡潔に述べた。

 

 翼が思わず動きを止めてしまった左膝の痛みは、ネフィリムを回収しようとした寸前のところで受けた不意の一撃に起因する。

 

 原因不明の適合係数の低下に加えて左膝にダメージを受けた翼は、現在これでもかと言わんばかりにハンデを背負わされた状態であり、“QUEENS of MUSIC”の時と比べると、とてもベストコンディションとは呼べぬ状態であった。

 

 全体の出力的にバランスが良く、響と違ってありのままのガングニールのアームドギアを振るうマリアには得物のメリットである攻撃のリーチがあり、更に固有武装の変幻自在のマントがある。

 

 対してガングニールよりも機動力で勝る天羽々斬だが、その機動力の要である足をやられている状態ではギアの相性もあって勝つ為の立ち回りをするのは非常に難しい。

 

 要するに今の翼ではマリアの相手をするには荷が重過ぎるのだ。

 

「ッ! クリスッ!!」

 

「分かってる! 白騎士参上と行こうじゃねぇか!」

 

 響が唐突に自身に呼び掛けた理由をその場の流れで大方把握したクリスは、空いている右手にクロスボウ型のアームドギアを握り、仮設本部の甲板の上にいるマリアに狙いを付ける。

 

「……ッ」

 

「クリス……」

 

 だが、マリアに狙いを付けたクリスの手は震えていた。それを見た響は、苦しそうに歯噛みしながら表情を歪めているクリスを心配して再度呼び掛けた。

 

「心配すんな、筋肉バカ……」

 

「けど」

 

「大乗だから、任せとけって……!」

 

 心配する響に軽口を叩きながらクリスは再度マリアに狙いを絞る。だが、クリスの手の震えは全く止まる兆候を見せない。

 

(あいつはあたし達の敵だ。んなことは分かってる! けど……ッ!)

 

 クリスの脳裏を(よぎ)るのは、先程ウェルが言った言葉であった。

 

 ウェルが言ったことが真実なら、今クリス達の前に立ち塞がっているのはアーティストのマリアではなく、ルナアタックの際にクリス達が対峙した原子文明の巫女のフィーネである。

 

 彼女が再び世界を混乱に陥れるのであれば、クリス達は彼女の思惑を止める為に再び戦わなければならない。

 

 そんなことはクリスも分かっている。だが、頭では理解していてもクリスの心は全然納得出来ていない。

 

 再び第2の母であるフィーネと矛を交えるという現実にクリスは心を痛めている。故に普段銃身がブレることの無いクリスの手は、狙いが付けられない程に震えているのだ。

 

(では、こちらもそろそろ……)

 

 そんな響達の様子を見ていたウェルが心中で呟きを漏らした直後、響とクリス目掛けて見覚えのある彩りをした無数の丸ノコが降り注いだ。

 

「ッ! 避けろ、クリスッ!」

 

 逸早く危機を察知した響は、咄嗟に傍にいるクリスに呼び掛けてから自身が捕縛していたウェルを肩に担いでその場から跳び退いた。

 

 響と同じく自分達に向けられた攻撃に気付いたクリスも続くようにその場から退避して攻撃を躱す。

 

「何で! 俺! だけ! こんな! バカみたいに! 狙われ! てんだッ!?」

 

 初撃を見事に躱して見せた響だったが、無数の丸ノコはクリスをターゲットから外して響だけを狙って今も尚響の周りを飛び交い続けていた。

 

 迫る丸ノコを響は避けるが、そんな響の死角を狙うように避けた側から既に別の丸ノコが響の背後から迫ってきている。

 

「ウンギュエェェェェェェェーーーーッッ!?!!?」

 

 身体能力が高く無理な体勢でもある程度の過度な動きが取れる響は、如何にかこうにか飛来する丸ノコを避けているが、そんな響に担がれて響と同じ分だけ無茶苦茶な姿勢を強いられているウェルは情けない悲鳴をあげていた。

 

 あまり三半規管が強くないのだろうウェルは、既に顔が青ざめていて、これ以上響の無茶な動きに付き合わせればウェルがモザイク加工必須な事態に陥るのは目に見えていた。

 

「おい! もう少し丁寧に扱えッ! 僕はこの先英雄に──」

 

「煩えッ!! auだかhey youだか知らねえけどなぁ! こちとら避けんのに忙しいんだよッ! 分かったら黙ってろ、この白髪メガネッ!!」

 

 剰え肩に担がれて最早米俵と違いない扱われ方され、加えて安全運転なんてものとは程遠い無茶苦茶な軌道での回避方法に付き合わされたウェルは、そんな無茶苦茶の発端たる響を糾弾しようした。

 

 しかし、攻撃を避けるのに神経を割いていた響は、ウェルが何かを言い切る前に若干の怒りを滲ませながら怒鳴り散らし、ウェルを黙らせる為にウェルの額目掛けてデコピンをお見舞いした。

 

「ぶげはッ!!?」

 

 何の心構えも出来ないまま響のデコピンを食らったウェルは、又もや情けない苦悶の叫びを漏らした直後に白目を剥きながら気絶した。そんな彼の額には、響のデコピンによって赤く腫れたたん瘤が出来上がっていた。

 

「なんと、イガリマーーーッ!!」

 

「ッ!?」

 

 そのような感じで響が丸ノコとウェルの対処に追われている中、クリスは気配も無く突然現れた切歌の強襲を受けていた。

 

 突進で勢いを付けた切歌の上段からの大振りをクリスは左斜め後ろに跳ぶことで躱し、回避の際に大きく跳躍することによってクリスは一気に詰められてしまった切歌との距離を取った。

 

 しかし、切歌はクリスの着地の瞬間の隙を狙って再び距離を詰め、大鎌という己が得物のリーチを活かした中距離攻撃で再びクリスに斬り掛かる。

 

 クリスも如何にか応戦して撃ち返そうとするが、如何(いかん)せん戦場が橋の上ということもあって距離も取れず、相手の土俵である中距離で戦うことを強いられている。

 

 加えて言うと、クリスも翼同様に適合係数が低下していることや先程の無茶が滞ったことによって回避に集中せざる負えない状態に追い込まれていた。

 

「クリスッ!」

 

 そんなクリスを見兼ねてウェルを黙らせた響は、クリスと切歌の間に入ってクリスの負担を引き受けようとした。

 

 しかし、そんな響の動きを見抜いていたかのように先程まで姿を隠しながら響の動きを丸ノコで牽制していた調がその姿を現す。

 

「……!」

 

「月読ッ!?」

 

 又しても気配すら感じさせずに出てきた調を見て響は驚きで目を見張り、調は脚部装甲のブーツに内蔵された小型車輪によって道路を滑走しながら頭部のアームドギアから無数の丸ノコを響に向けて放つ。

 

「漫画は何でも教えてくれる! 見様見真似の何ちゃって制空圏ッ!」

 

 響は左肩に担いでいる気絶したウェルを隠すように体勢を変え、空いている右手で真円の弧を描くように動かしてから構えを取った。

 

 そんな響の行動を不思議に思いつつも調は攻撃の手は止めず、射出された無数の丸ノコの1発目が今まさに響に直撃しようとした。

 

 だが、その丸ノコは響の懐、正確には響の腕や足が届くまでの所謂リーチの範囲に入った直後に響の拳によって粉砕された。

 

 その後も調の丸ノコは立て続けに響に飛来し続けたが、その悉くが響の手足のリーチ内に侵入して直ぐに他ならぬの響の手によって防がれてしまった。

 

「……ッ!」

 

 攻撃に使用した丸ノコを全てを完封され、調はこのままでは埒が明かないと判断し、丸ノコでの攻撃を打ち止めにして別の攻撃に移行する。

 

 調はバク宙するや否や束ねた頭部のアームドギアと変形した脚部装甲から巨大な円状の刃を形成し、その内側に自身を乗り込ませてからまるでバイクの車輪のように滑走し始める。

 

【非常Σ式 禁月輪】

 

「まさかのホイ○ル・オブ・フォ○チュンッ!!?」

 

 まさか生成した巨大な円状の刃を使ってバイクのように滑走するとは思ってなかった響は、ある意味で浪漫溢れる調の一輪走行に驚愕しながらもキラキラした視線を送っていた。

 

 しかし、車輪が高速回転するギザギザの刃という極悪仕様のものが自身に向かって来ているということを思い出し、制空圏で防ぐには無理があるその攻撃が直撃する前に全力で横に跳ぶことで回避した。

 

 一方で切歌を相手にしていたクリスは、ギアの適合係数の低下のせいで全く体が動かせず、響がフォローに行けない短い時間の間に切歌に追い詰められていた。

 

 切歌は大鎌をブンブン振り回すことで長物である自身の得物に遠心力で勢いを付け、大鎌の刃で斬ると見せ掛けてクリスのがら空きになっていた左脇腹を大鎌の柄で思いっきり打ち付けた。

 

「ぐはッ!?」

 

 切歌のフェイントに引っ掛かって諸に一撃を貰ってしまったクリスは、苦悶の声を漏らしながら痛みで顔を歪め、今さっき柄で殴られた腹部を押さえたまま思わず体を屈めてしまう。

 

 次いで切歌は透かさず大鎌の石突で隙だらけのクリスの顎を打ち上げ、クリスは橋の上を転がりながら弾き飛ばされた。

 

「クリスッ!?」

 

 橋の上に倒れ伏すクリスを見た響は、直ぐにでもクリスの下に駆け付けようしたが、そんな響を妨害するように禁月輪で橋の上を滑走する調が横から響を強襲する。

 

「こなくそッ!?」

 

 響は如何にか調の攻撃を避けるが見事に進路を妨害され、その間に切歌が肩部プロテクターからアンカー付きロープを射出して倒れ伏すクリスを拘束してしまった。

 

「クリ──」

 

「動くなデスッ!」

 

 拘束されて切歌の足下に転がされたクリスを響は助ける為に動こうとしたが、直後に切歌から静止を呼び掛けられたことで響は呼び掛け通りに動きを止めた。

 

「少しでも動くと、この鎌で首を落とすデスよ!」

 

 切歌はクリスの体を足で押さえ、クリスの首ギリギリに大鎌の刃を添えながらそう言った。

 

「ッ……」

 

 クリスを実質的な人質に取られて身動きが取れなくなった響は、焦燥感を堪えるように歯噛みしながら切歌達の要求を待つ。

 

(こんな簡単な手で動きを止められるなんて……)

 

 あんなに厄介だった相手が人質を取られたことで動きを止めたのを見て、調は認識通り本当に単純な男だと思うと同時に若干の罪悪感を感じていた。

 

(ッ! 私は今何を……ッ!? ……違う。この胸に感じてるのは、決して罪悪感なんかじゃないッ!)

 

 そんな胸の内で感じたものに調は自分でも驚きつつも、そんなことを感じるのは間違いだと、あんな偽善者なんかに何も想うものなど無いと内心で自身に言い聞かせた。

 

 そんな調と同様に、実際にクリスを人質に取っている切歌も胸の内で感じているものがあった。

 

(本当はこんなことしたくないデスけど、これも調とマリアの為! 調に余計な重荷を背負わせない為にも、この場はあたしが悪役を引き受けるんデス!)

 

 切歌とてこんな卑怯者の常套手段のようなことはしたくない。けれど、自分達の計画に必要な最低限のものを確保する為、何よりも背負うものが多い自分の家族の為にも肩代わり出来るものは自分が引き受ける気概でいる切歌。

 

 故に切歌は胸に罪悪感を感じていながらも、その気持ちを自身の言動で抑え込み、一生懸命悪役を演じることに徹した。

 

「あたし達の要求は1つ、そこで無様に捕まって気絶してる情け無い男をこちらに引き渡すことデス! そっちがこちらの要求に応じるデスなら、こちらもそっちの仲間を返してやるデスッ!」

 

「……あたしに、構うな。絶対に言うこと聞くんじゃねぇぞ、筋肉バカ……ッ!」

 

 切歌が要求していた内容は、互いが捕らえた相手の仲間の交換であり、その詳細は響や二課の面々が予想していた通りのものであった。

 

「少し黙ってるデス!」

 

「あぐッ!?」

 

 クリスは縛られた状態のまま切歌達の要求を飲むなと言ったが、そんなクリスを黙らせる為に切歌は先程自分が大鎌で打ち付けたクリスの脇腹を強く踏み込み、元々鈍痛が響いていた脇腹に重なるようにズキズキとした痛みが加わったことでクリスは小さく悲鳴をあげた。

 

「クリスッ!」

 

「さぁ、どうするデスかッ!?」

 

 痛みに苦しむクリスの声が響の焦燥感をこれ以上無く煽る。クリスが助かるなら、響は今直ぐにでもウェルの身を引き渡し、クリスを切歌から解放したかった。

 

 だが、ウェルが危険な思想の持ち主であることは周知の事実である。そんな人物を果たして自由にしても良いのかという葛藤が響にはある。

 

 それにクリスが確保していたソロモンの杖は、クリスが切歌に弾き飛ばされた際にクリスの手を離れ、今は切歌の横にいる調の手に握られているのだ。

 

 岩国の米軍基地で起こったノイズの襲撃から鑑みるに、ウェルは人の命を殺めることに全く抵抗感を持っていない。使い方によっては人を無慈悲に殺戮出来る聖遺物がそんな人間の手に再び渡るかもしれない。

 

 そうなれば、今以上に多くの人の命が失われることになる。それを理解しているからこそ、クリスは痛みを堪えてでも響に自分ではなく、ウェルの身を優先しろと伝えたのだ。

 

 渡せば多くの人の命が、渡さなければクリスの命が危ない。未知の危険性を孕んでいるこの人質交換は、最早響一人の独断で決められるものではなかった。

 

「おやっさん……ッ!」

 

 独断では決められぬ故、響は自身の師であり、組織のトップである弦十郎に指示を仰いだ。

 

『……作戦行動中の責任は俺が取る。彼女達の取引に応じるんだ、響君』

 

「……すまねぇ、おやっさん」

 

 響の気持ちを察してくれたのであろう弦十郎から伝えられた指示に、響は内心で感謝しながらも何も出来ない自分の不甲斐無さと申し訳無さから謝罪の言葉を口にした。

 

「……俺はどうすれば良い?」

 

「ドクターをこっちとそっちの間の真ん中辺りに置くデス! 置いたら元の位置に戻って、あたしがドクターを回収し終えたら同じ場所にお仲間さんを置くデス。あたしがこの場所まで戻ってきたら、そっちも仲間を回収しに行ってOKデス」

 

「……分かった」

 

 響は切歌の指示通りに動き始める。まず、自分が肩に担いでいたウェルを真ん中辺りに置き、切歌が頷いたのを確認してから元の位置にまで戻った。

 

 次いで切歌は、響が勝手な行動を取らないよう監視しながら拘束したクリスを担いでウェルの下にまで歩み寄る。

 

 この時、響は腰部バーニアと脚部のパワージャッキを併用した加速を行ってクリスを助け出そうとも考えたが、切歌の後ろから調も響の行動を監視していたことで裏をかくことも不可能だった。

 

 その考えもほんの一瞬だけ考えたものであり、そもそも基本的に真っ直ぐな性格をしている響にはそのような手段を思い付いても実行に移すことは出来なかっただろう。

 

 すると、切歌はウェルを回収して代わりに拘束していたクリスをその場に置いた。

 

 ウェルを担いだ切歌は調のいる元の位置にまで戻り、響はそれを取引成立と見做して直様クリスの下にまで駆け寄った。

 

「大丈夫か、クリスッ!」

 

「このバカ、どうして……!?」

 

「お前を見捨てられる訳が無いだろ……ッ!」

 

 自身を助けた訳を問うクリスに、響はクリスの拘束を解きながらその問答に応えた。

 

(クソッタレ……ッ! 情けねぇ……。適合係数の低下のせいで体がまともに動けやしないどころか、足まで引っ張っちまって……ッ)

 

 クリスは正面から理由を伝えられて自分を恥じた。折角、事の殆どが上手くいっていたのに、自分のせいでその殆どを台無しにして全員の苦労を水の泡にしてしまったのだから。

 

(でも、あいつら何処から出て来やがった……。ここは橋の上だぞ……ッ!)

 

 響は切歌達を警戒しながら周囲に視線を巡らせる。

 

 マリアもそうだが、切歌と調は気配を感じさせないどころか二課のレーダーさえも出し抜いて突然姿を現した。彼女達は何処に潜み、如何にして奇襲を仕掛けたのかが唯一の謎として響の頭に引っ掛かっていた。

 

 響の考えている通り、現在いる場所は橋の上、しかも下は海である。隠れる場所は特に無く、隠れられるであろう場所は海に限られるが、切歌や調には濡れた痕跡すら無い。

 

 この際隠れていた場所は兎も角として、高性能な二課のレーダーを掻い潜った方法が分からず、響はただ困惑しながらも警戒を深めることしか出来なかった。

 

 そんな響と全く同じ心境であった弦十郎は、クリスが無事だったことに安堵しつつも切歌達が唐突に現れた理由を究明する為に二課のオペレーター陣に指示を飛ばす。

 

「何処に伏兵が潜んでいたのかを明らかにする為にも交戦地点周辺の索敵を徹底するんだ!」

 

「やってます! ですが……」

 

「装者出現の瞬間までアウフヴァッヘン波形、その他シグナルの全てがジャミングされてる模様!」

 

 弦十郎に指示されるよりも先んじて臨機応変に判断して対応していた藤尭や友里、二課のオペレーター達であったが、二課の設備を以てしても現状何も掴めずにいた。

 

「ぬぅ……! 俺達の持ち得ぬ異端技術……!」

 

 高性能な二課の設備を以てしても敵の尻尾どころか影すらも見えないこの状況に、弦十郎は現在科学では計ることすらままならない未知の異端技術を敵が行使していると結論付けた。

 

 場所は変わって仮設本部の甲板に戻るが、その上には槍を手に翼を見据え続けているとマリアと左膝を押さえながら右膝を甲板の上についている翼の姿あった。

 

「ッ……」

 

 2本の足で佇みながら翼を見据えているマリアの方が明らか有利に見える状況であったが、その肝心のマリアの頬には一筋の汗が伝い、その顔付きは若干険しいものとなっていた。

 

(こちらの一撃に合わせるなんて……)

 

 実は先の交差の際、翼は本命であるアームドギアの()での迎撃こそ間に合わなかったが、マリアの攻撃に合わせることは出来ていたのだ。

 

 その証拠に、マリアが右手で庇っている脇腹部分のインナースーツは翼のアームドギアの()によって削られ、そこから若干赤く変色した素肌が露出している。

 

(この剣、可愛くない……ッ!)

 

 転んでもただでは起きないとは正にこのことであり、マリアはあの状況で自分に一矢報いて見せた翼を忌々しそうに見据えながら、内心で悪態を吐いた。

 

(少しずつだけど、ギアの出力が戻ってきてる……。行けるか?)

 

 膝にダメージを抱えているが、適合係数が元の数値に戻り始めたことで徐々にギアの出力も上がり始め、翼はその実感を確かめるように拳を閉じたり開いたりしていた。

 

(……ギアが重い)

 

 一方でマリアはギアが徐々に重くなっていくのを感じていた。マリアは表情を苦しげに歪めながら荒い呼吸を繰り返しており、その姿はまるで廃病院内にいた時の翼やクリスのようであった。

 

「適合係数が低下しています」

 

 マリアと翼、調と切歌と響とクリス、個々に進行していく2つの戦場を1人で同時に観測していたナスターシャは、操縦桿のような機器を操作しながら戦況を見極めてマリア達に指示を出す。

 

『ネフィリムはもう回収済みです。戻りなさい』

 

「ッ! 時限式ではここまでなのッ!?」

 

「ッ!?」

 

 通信越しのナスターシャの撤退の指示を聞きいたマリアは眉間に皺を寄せながら悔し気に吐露し、そんなマリアの言葉を聞いた翼は驚愕で目を見開いた。

 

 “時限式”という言葉で翼が思い出したのは、嘗て共にステージと戦場の両方を駆け抜け、最後は自身の命と引き換えに響の命を繋いだ、自身の片翼であり、今までで3人は確認されている第3号聖遺物“ガングニール”の装者の最初の1人目である天羽奏だった。

 

 奏は、第一種適合者である翼とクリス、聖遺物との融合体である響と違い、先天的な適性を訓練と投薬によって引き上げた第二種適合者と呼ばれる部類に属する装者であった。

 

 そんな彼女は軽く揶揄するように自身のことを“時限式”と皮肉気に呼んでいた。そのことに若干の申し訳なさのようなものを感じていた翼は、奏が度々吐く“時限式”という言葉とその意味をしっかり覚えていたのである。

 

「まさか、奏と同じLiNKER(リンカー)を……?」

 

 確認するように翼が自身の考えを吐露した直後、吹き付けるような突風が翼の体を吹き抜け、思わず翼は右手を前に出して突然の強風から顔を庇った。

 

 風を背にしたマリアは甲板から跳躍し、唐突に虚空から伸びて出たワイヤーに繋がられた取っ手を掴むと、そのマリアの頭上に突如として大型ヘリ──エアキャリアが現れ出でたのだった。

 

 翼達が突然出てきたエアキャリアに驚愕を露にする中、響は先程まで人質にされていたクリスに肩を貸しながら調と切歌に向かい合っていた。

 

「お前らの目的は一体何なんだ……ッ!?」

 

 “ソロモンの杖”奪取の為の岩国の米軍基地襲撃、それと同じ日に開催された“QUEENS of MUSIC”中に行われた世界への宣戦布告。

 

 宣戦布告から今日までの間の何も行動を起こさなかった期間に、廃病院に突入した際に出会した謎の生体型完全聖遺物。

 

 多くの点と点を結んで1本の線にしても今一目的が定かにならないことに悶々としていた響は、そんな彼女達の核心に触れる疑問をストレートに投げ掛けた。

 

「……正義では守れないものを、守る為に」

 

「は……?」

 

 調から返ってきた問答の答えを聞き、響は思わず一瞬思考が停止して無意識で疑問の声を漏らした。

 

「うおッ!?」

 

「ッ!?」

 

 すると、突然の強風が響とクリスに襲い掛かり、続けてプロペラが高速で回転する音が響達の頭上から鳴り響き始める。

 

 強烈な音と凄まじい強風の発生源があるであろう頭上に響達が視線を向けると、そこには調と切歌、序でに気絶させられた状態で回収されたウェルを回収する為に二課の仮説本部上空から移動してきたエアキャリアの存在があった。

 

 律儀に響の質問に答えた調は、呆然とその場に佇んでいる響から視線を外し、隣の切歌と共にエアキャリアから伸びてきた回収用の取っ手に向かって跳んだ。

 

「ッ!? 待ってくれ!」

 

 咄嗟に響は静止の声を呼び掛けるが、そんな響の懇願を聞いてやる理由も義理も無い調達は響の言葉を無視して迷うこと無く取っ手に掴まった。

 

 調達を無事回収したことを確認したエアキャリアは、まるで逃げるようにこの場から一目散に飛んで離れていく。

 

 既に自身の最大移動距離の射程から逃れてしまったエアキャリアを響が呆然と見送る中、二課に属する装者の中で一番の射程を有するクリスが彼らの逃走を見す見す許す訳がなかった。

 

「ッ! 離せ、筋肉バカ!」

 

「クリスッ!?」

 

 肩を貸してくれている響から無理くり離れたクリスは、少し前進してから右手に握っていた己がアームドギアを変形させ、スナイパーライフル型のアームドギアを形成した。

 

 すると、クリスの纏っているシンフォギアのヘッドギアまでもが変形を始め、目には狙撃用のバイザーが降り、ヘッドギア上部のパーツが左右に伸びて新たなスコープとなって、より精密な狙撃をする為の形態となる。

 

【RED HOT BLAZE】

 

 クリスはアームドギアの狙撃用スタンドを地面につけ、自身も片膝をつきながら狙撃体勢を取り、この場から去り行くエアキャリアに狙いを定める。

 

「ソロモンの杖を返しやがれ……ッ!」

 

 どう見ても苛烈としか見れないクリスの行動には当然だが理由がある。

 

 クリスはウェルの言葉で激情に駆られて狭い室内で無理を押し通して大技を使った結果、そこからはギアのバックファイアによるダメージのせいで仲間のお荷物状態だった。

 

 先程までは常に誰かに肩を貸して貰わなければ満足に動くことも出来ず、敵の奇襲によって折角確保したソロモンの杖を奪い返された挙げ句、人質にされてウェルとの人質交換の材料にされてしまった。

 

 迂闊に動いたことで結果的に失態を重ね、想い人の前で無様を晒すことになってしまったクリスの面子は既にボロボロだった。

 

 そんな自分の鬱憤を晴らすと同時に汚名を返上する為にも、クリスは多少強引にでもこの場で調達の逃走を阻むことを決めたのだ。

 

 飛び去るエアキャリアをヘッドギアに備え付けられたスコープのカーソルがロックし、今まさにクリスがライフルの引き金を引こうとした瞬間、エアキャリアが船体から紫色の光を発しながら周囲の景色に溶け込むように消えた。

 

「ッ!? 何だと……!?」

 

「消えやがった……!」

 

 照準を定めロックオンまでした標的が唐突に姿を晦ましたことにクリスは目を見開いて驚愕し、傍にいた響は姿が消えたことに驚きながらも周囲を見渡したが、響の見える視界にエアキャリアの存在は確認出来なかった。

 

「反応……消失……」

 

 仮説本部の方でも当然姿を消したエアキャリアの追跡と捜索を試みたが、エアキャリアは仮説本部の精密な探知を掻い潜って完全にその行方を晦ました。

 

「超常のステルス性能……。これもまた、異端技術によるものか……!」

 

 弦十郎は二課の追跡を振り切ってみせた力を異端技術によるものと想定し、その性能と力に戦慄して額から冷や汗を流していた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 二課の索敵を振り切り、太陽が昇っていく東の空へ邁進していくエアキャリアの操縦席には、先程まで戦闘中だったマリア達に指示を出していたナスターシャの姿があった。

 

 コックピットの中央部分には淡い輝きを放ち続けるギアペンダントが設置されていて、モニターには“神獣鏡(シェンショウジン)”と表記された文字と一緒に砕かれた古めかしい鏡の画像が表示されている。

 

(神獣鏡の機能解析の過程で手に入れたステルステクノロジー。私達のアドバンテージは大きくても、同時に儚く脆い……)

 

「ッ!? ごほッ! ごほッ!」

 

 ナスターシャは現状を見極め自分達のこれからについて思案しようとしていたが、体調不良なのか彼女は急に咳き込み始めた。

 

 少しして発作の咳が止まり、ナスターシャが咳を抑える為に口に当てていた右手を口から離すと、その右手の掌には小さな血溜まり広がっていた。

 

「急がねば……。儚く脆いものは他にもあるのだから……」

 

 血反吐と共にナスターシャの口から齎された言葉は、唇に付着した血痕とナスターシャ自身の表情や声色も相俟って凄まじい執念を感じさせるものだった。

 

 ナスターシャが今後の方針を纏めていた丁度その頃、マリアを中心とした3人の装者達とウェルはエアキャリアのブリーフィングルームに集まっていた。

 

 響によって気絶させられていたウェルは、体調が回復すると同時にこの部屋に連れてこられ、間髪入れずに切歌の手によって壁に叩き付けられた。

 

「うッ……!?」

 

 ウェルは正面から殴られた痛みと壁に叩き付けられた際の痛みで呻き声を漏らし、室内に鈍い打撃音と甲高い衝撃音が続いて鳴り響いた。

 

「下手打っただけじゃなく、無様に確保までされやがって! 連中にアジトを押さえられたら、計画実行まで何処に身を潜めれば良いんデスか!」

 

 ウェルに手を下した切歌は、壁に背を預けながらずり落ちて尻餅をついたウェルの襟元を掴み、追い打ちするかのように普段の3倍は悪くなった言葉遣いで捲し立てた。

 

「お止めなさい。こんなことをしたって何も変わらないのだから」

 

 そんな怒りを抑えられない切歌を、直ぐ傍で一連の流れを見守っていたマリアが冷静な声色で諌める。

 

「胸糞悪いデス」

 

 どれだけ激情に駆られていてもマリアの言うことは素直に聞く切歌は、悪態を吐きながら乱暴気味にウェルの襟元から手を離した。

 

「驚きましたよ。謝罪の機会すらくれないのですか……?」

 

 下手を打って醜態を晒し、ぶん殴られるという物理的な折檻を受け、お情けで今回の件を不問にされというのに、当の本人はまるで反省が見られないふざけた口調でボヤいていた。

 

「ッ!!」

 

 態度を改めないウェルの様子を見て、マリアの言葉で1度は怒りを飲み込もうとしていた切歌は再び手を出したくなる激情に駆られそうになった。

 

 すると、ブリーフィングルームに備え付けられたモニターが唐突に起動し、そこにコックピットにいるナスターシャの姿が映し出された。

 

「虎の子を守り切れたのが勿怪(もっけ)の幸い。とはいえ、アジトを押さえられた今、ネフィリムに与える餌が無いのが我々にとって大きな痛手です」

 

 ナスターシャから話が切り出されたことでウェルに向けられていた視線は自然とナスターシャへと集まり、その場にいる全員がナスターシャの言葉に真剣に耳を傾けていた。

 

「今は大人しくしてるけど、何時またお腹を空かせて暴れ出すか分からない……」

 

 そう言った調の視線の先には、回収したケージの中で眠っているかのように大人しくしているネフィリムの姿があった。

 

 この状態は飽く迄も一時的なものであり、響達の前で垣間見せたあの強暴性溢れた獰猛な姿が本来のものであるのだとしたら、それを抑える為にもマリア達は早急に次の策を講じなければならない。

 

「持ち出した餌こそ失えど、全ての策を失った訳ではありません」

 

 切歌に掴まれたことで乱れてしまった襟や身形を整えながらウェルはそう言い、そんなウェルを調と切歌は険しい目付きで見遣る。

 

 何らかの策を既に考えているであろうウェルに全員の視線が集まる中、ウェルは切歌の胸元で鈍く光を反射しているシンフォギアのペンダントに視線を向けると、唇を吊り上げて妖しい笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 場所は変わって先程まで装者同士の戦闘が行われていた海域付近には、甲板に受けたダメージのせいで潜行出来なくなり、浮上したまま海上を進行していく仮設本部の姿があった。

 

 その甲板にはぐったりした様子で座り込んで響の右肩に凭れ掛かっている翼、体勢は少し違うが翼と同じように響の左肩に凭れ掛かっているクリス、そして座り込んで2人に肩を貸しながらマリア達が消えていった朝日の方向に目を向けている響がいる。

 

 響の顔には暗い表情は浮かんでいないが、翼とクリスの顔には明らかな疲労と落ち込みから来る暗い表情が表れていた。

 

 今回の任務は、はっきり言ってしまえば失敗も失敗、大失敗である。

 

 突入する為に集めた情報は全て敵が(わざ)と撒いた餌であり、待ち構えられていた上に突入時から相手のペースに乗せられっぱなしであった。

 

 1度は確保したウェルの身柄とソロモンの杖も敵の奇襲と人質交換によって取り返され、確保しようとしたネフィリムという名の聖遺物も敵の妨害によって取り逃がしてしまった。

 

 挙げ句の果てに敵の逃走までも許してしまい、失態に続く失態で最早目も当てられない。

 

 故に翼とクリスがすっかり落ち込んで意気消沈してしまうのも仕方が無いことであり、普通は落ち込むところを変わらない態度でいれる響が可笑しいのである。

 

「無事か、お前達!」

 

 すると、甲板から内部に繋がっているハッチを開けて弦十郎が姿を現し、弦十郎は座り込んでいる装者達を見つけると先ず最初に3人の安否を確認した。

 

「おやっさん……!」

 

 そんな弦十郎の呼び掛けに真っ先に応えたのは、他2人とは違って落ち込んだ様子を見せていないいつも通りの響であった。

 

 響に遅れて弦十郎の存在に気付いた翼とクリスは響の肩に背中を預けるのを止め、首だけではあるが弦十郎のいる方向に向けてその顔を見遣った。

 

「なぁ、おやっさん。マリアさんは本当にフィーネ……いや、了子さんなのかな?」

 

「……それはどういうことだ?」

 

 響の口から齎されたのは、今回の任務の中で誰もが思った疑問と謎であった。

 

 あのマリアは本当にフィーネ、嘗て響達と同じ時間を過ごし、時に敵としてぶつかり合い、最後は夕日の中へ消えていった櫻井了子なのかという二課に所属する誰もが抱いた質問に、自然と翼とクリスの視線も響へと向けられた。

 

「前に了子さんが言ってたんだ。装者が歌う歌は、装者が心象に抱く風景に由来するって」

 

 装者がシンフォギアを起動した際、シンフォギアは装者の心象風景を読み取って歌詞へと変換し、それを装者が歌うことでフォニックゲインは高まり、装者はそのフォニックゲインの分だけ戦闘力を発揮するのである。

 

「了子さんは自分の恋心を叶える為に戦ってた。その了子さんが、“正義の為に悪を貫け”なんて歌うか?」

 

 本気で思いをぶつけ合い、1対1でフィーネと問答を繰り広げた響は彼女の積年の思いや考えを受け止め、全部ではないが彼女のことを理解した気でいた。

 

 恋心を成就させる為に形振り構わず自己中心的に行動していたフィーネは、善や悪、正義といった倫理観を超越した考えの下に行動していた。

 

 そんなフィーネが、今更正義や悪が如何の斯うのといった歌を歌うだろうか?

 

「仮にマリアさんが本当に了子さんだとするとさ、俺達はあの戦いを通してお互いに何も通じ合えてなかったってことなのか……?」

 

「響君……」

 

 話を続ける響は、弦十郎から視線を外してマリア達が消えていった朝日の方角を見遣る。弦十郎から見て、表情こそ暗くないが細めた目で朝日の方角に視線を向けている響は少し悲しそうに映っていた。

 

「了子さんと完全に通じ合ったなんて俺も流石に思ってないさ。けどさ、それでも少しは分かり合えたと思ってたんだ……」

 

 響の脳裏に思い浮かぶのは、別れ際にフィーネが最後に櫻井了子として残した言葉と優しい微笑みだった。

 

「……ならば、その疑問を、胸の内側にある思い全てを次会った時に全部彼女にぶつけてやれば良いッ!」

 

「ッ! おやっさん……!」

 

 呆然と朝日を見詰める響に発破を掛けるように言葉を述べた弦十郎。その言葉に釣られ、呆然としていた響は再び勢いよく弦十郎のいる方角へと振り返った。

 

「言葉より強いもの。知らぬお前達ではあるまい」

 

 弦十郎の言葉を聞いて、クリスは呆れるように小さく溜め息を吐き、翼は考え込むように目線を下へと下げ、響は己の掌を少しの間見詰めてから力強く握り拳を作った。

 

「言ってることは全然分かんねぇ。けど、やってやるさ!」

 

 言葉の意味は理解していなくとも、その言葉に込められた思いを感じ取った響の表情は、新たな目標が定めれたこともあってとても晴々としたものへと様変わりした。

 

「うむ」

 

 やる気に満ち溢れた己が愛弟子の顔を見て、弦十郎は満足そうに小さく笑みを浮かべていた。




・原作と今作の相違点コーナー

(1)マリアへの攻撃を躊躇うクリス
──再びフィーネと戦うことになる現実に心を痛める今作のクリスちゃん。

(2)調に激しく狙われる響
──下手に心に踏み込んだから過剰に攻撃されることになった今作ビッキー。

(3)今作ビッキーに気絶させられるウェル
──滅茶苦茶な回避行動に付き合わされ、挙げ句の果てに少し文句を言ったら問答無用で気絶デコピン。

(4)ビッキー渾身の制空圏
──今作ビッキーの愛玩書は史上最強の弟子ケ○イチ。

(5)調に突っ込む響
──調の禁月輪を初めて見た時、僕は思わず今作ビッキーと同じ反応をしてしまいました。

(6)切ちゃんに人質にされるクリス
──恐らく家のビッキーの動きを止めるなら、この手が一番である。

(7)人質行為に罪悪感を覚える調
──本人は否定しているが、基本的にF.I.S組は良い子な上に響の為人(ひととなり)知ってる分だけ余計に罪悪感が募っていきます。

(8)調の為に悪役(ヒール)を演じる切ちゃん
──余計な重荷を率先して肩代わりしようとするお気楽系女子の鑑。尚、本人の黒歴史……手紙(ボソボソ)……。

(9)人質交換の材料にされてしまったクリス
──この作品の響以外の装者達は比較的ヒロイン要素が増えるよう書いていますが、人質になっちゃうのはヒロイン要素に入りますかね?

(10)響に凭れ掛かる翼とクリス
──スレンダーな美女とトランジスターグラマーな美少女に挟まれて完全に役得な今作ビッキー。尚、本人はそのことを全く意識していない模様。

(11)マリアの歌に疑問を抱く今作ビッキー。
──伊達に完全聖遺物(了子/フィーネ)と生身で殴り合ってない今作ビッキー。戦闘中で起こった出来事には無駄に鋭い今作ビッキークオリティ。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 誤字脱字等ございましたら、誤字報告機能を使ってご報告宜しくお願いします!

 次回は何時頃になってしまうか分かりませんが、出来次第その週の土曜日に投稿しようと思っております!

 それでは、次回もお楽しみに!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
一言
0文字 一言(任意:500文字まで)
※評価値0,10は一言の入力が必須です。参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。