戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 どうも、シンシンシンフォギアー!(挨拶)

 前回までの粗筋:ガングニールだとぉ!?

 それでは、どうぞ!


EPISODE 5 受け継がれた撃槍

 翼のいる一室では、ノイズの発生をある意味で上回るイレギュラーの事態が起こったことで、場は混沌を極めていた。反応を示す単語の次に、装いが完全に変化した響の姿がモニター映し出された。

 

「新たなる適合者……!? それに男の子……なの!?」

 

「性別は一先ず置いておくとして、一体どうして!?」

 

 映し出されたのが男ということにも驚くメガネの女性と赤いカッターシャツの男の2人は、この予想もしなかった突然の事態に混乱を隠せずにいる。

 

(そんな……だってそれは、奏の……)

 

 そんな中、顔から表情が消え失せた翼もこの事態に対して内心で混乱していた。何故なら、響が纏った“ガングニール”と呼ばれものは、2年前まで彼女の相棒が纏っていたものなのだから。

 

 翼達が突然の事態に混乱している中、その混乱の原因である響は事態の展開に付いていけずにただ呆然と突っ立っていた。

 

「え? は、はい? な、何だよ、これ!? 俺の体、一体どうなって……!?」

 

 混乱した状態で必死に何が起こったかを理解しようとする響。そんな響を見上げながら、隣にいた女の子は爛々と輝く目で響を見ていた。

 

「お兄ちゃん、かっこいい! 正義のヒーローみたい!」

 

「あ、いや、いやね、確かに正義のヒーローみたいだけど、お兄ちゃんにも何が何だか──」

 

 感嘆の想いを込めて響の見た目の感想を言う女の子に、響は落ち着かない状態で女の子に事情を説明しようしたが、自身の腕に付いている装甲を見て響は口を止めた。

 

(これって、確かあの時の奏さんの腕に最初に付いてた……)

 

 響の腕に装着された白い装甲は、(かつ)て見た奏が変身した際に付いてたもので、奏の振るった槍が槍の形を取る前の装甲の形状と同じものだった。

 

(もしかして奏さんと同じ……)

 

 突然変わった自分の身形や既視感のある装甲を見た響は、今自分の姿はあの時の奏と同じものか、()しくはそれに近しいものではないかと結論付けた。

 

 結論が付いたことで混乱状態を脱した響は、目付きを鋭くしてノイズを睨み、側にいた女の子の手を握り締めて歌を歌い始める。

 

(どうして俺が変身出来たのか、分からないことはごまんとある。けど、確かなこともある。この力があれば、この子を守ることが出来るようになるってことだ!)

 

 身を低くして女の子を抱き抱えながら、多くの疑問と確かな確信を胸に抱く響。

 

 響はその場でノイズに立ち向かう……ことはせず、女の子を連れて大きく跳躍し、かなりの高さがある屋上を一気に飛び降りる。

 

(軽く跳んだ筈なのにこの高さか!? 力加減が……!?)

 

 響自身は軽く跳んだつもりだったが、そんな響の考えとは裏腹に思ったよりも大きく跳んでしまったことに驚きながら、重力に従って下に落ちていく響達。

 

 響は空中で1回転して体勢を立て直し、勢いよくアスファルトの地面に無事に着地した。その際の衝撃で、響の周囲一帯を砂埃が舞う。

 

 無事に着地したことに安堵する響だったが、すぐに状況を思い出して自分達が先程までいた施設の屋上を見上げる。

 

 響が屋上を見上げた時、先程まで響達の周囲に蔓延っていたノイズが既に落下してきていた。重力に従って迫るノイズを前に、響は先程よりも少し強く力を入れて地を蹴った。

 

 ノイズが降り掛かる直前にバックステップで大きく後退して跳び上がった響は、バク宙をして再び体勢を整えて着地する。

 

 距離の開いた響に、ノイズはその形状を変化して長細い形状となって襲い掛かる。響は、今度はもっと距離を取る為に先の2回とは比べ物にならないくらいに足に力を込めて跳ぶ。

 

「うおぉぉぉぉっ!? 力入れすぎたぁ!?」

 

 ノイズの攻撃で響達がいたアスファルトの地面が抉られ、先の2回よりも更に大きく跳び上がった響は、慌てふためきながらもどうにか前方宙返りをして施設内のタンクの上に着地する。

 

 どうにか着地出来たことに安堵して響は溜め息を吐き、腕の中にいる女の子を一瞥して再び歌を歌い続ける。

 

 しかし、安堵も束の間で、今度は先程響達を襲っていたノイズとは比較にならない程の大きさを持った巨大なノイズ──巨人型のヒューマノイドノイズが現れる。

 

(くっ!?)

 

 巨人型のヒューマノイドノイズは、腕を高く振り上げて勢いよく響達に振り下ろし、響はその攻撃をまた跳んで回避する。

 

 響が着地した先では、既に小型のノイズが集まっており、響は前と後ろをノイズに挟まれて双方を交互に睨み付ける。

 

 その中で、響の後ろにいた小型のノイズの内の1体であるクロールノイズが響目掛けて飛び掛かる。それを目視した響は、左足を軸にした右足での回し蹴りをする。

 

 勢いの付いたカウンターの回し蹴りで蹴り抜かれたクロールノイズは、その身を炭素の塊に変容させて砕け散る。

 

(ノイズを倒せた……! やっぱり、これは奏さんや翼さんと同じ……!)

 

 自分が炭素に変わること無くノイズだけを倒したことに、響は新しい確かな確信を得た。自分には奏や翼と同じように、ノイズを倒し、人を助ける力があるという確信を。

 

 すると、唐突に小型のノイズの群れが後ろから宙に弾き飛ばされ始めた。まるで、何かに轢かれたかのように。

 

 ノイズの群れを一直線で弾き飛ばして姿を現したのは、バイクを猛スピードで走らせて悪漢も裸足で逃げ出すと思われる程に鋭い目付きをした翼だった。

 

「へ……」

 

 バイクで颯爽と現れた翼を見て、響は足と歌を止めて呆然と言葉を漏らす。

 

 そんな響の横を翼はバイクで通り過ぎ、バイクに乗っていた翼はバイクから大きく跳び上がる。そのまま走り続けたバイクは、その先にいた巨人型のヒューマノイドノイズに激突して爆発した。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 宙を舞う翼は、何度も宙を回転して勢いを殺しながら歌を歌う。空中で歌を歌い終えた翼は、翼の登場で惚けていた響の前に軽く着地した。

 

「惚けない。死ぬわよ」

 

「ッ! い、Yes, ma'am!」

 

 淡々と述べられた翼の数少ない言葉に、再起動した響は慌てながら何故か英語で返事を応答した。

 

「あなたはここでその子を守ってなさい!」

 

「Yes, ma'am! ……って、翼さん?」

 

 響に女の子を守るようにだけを伝えた翼は、それ以上は何も言わずにその場から駆け出し、それを聞いて見ていた響は先と同じ応答をし、迷い無く駆け出した翼を呆然と見続けていた。

 

 何時の間にか一塊になっていた大型と小型のノイズ達に向かって走る翼の姿が、一瞬の発光を経て響が2年前に見たあの時のものに早変わりする。

 

 歌いながら駆ける翼が剣を構え、その剣の形状が日本刀から大剣に変形する。翼は振り上げた大剣を走る勢いを伴って一気に振り下ろし、振り下ろされた大剣からエネルギー状の蒼い斬撃が放たれる。

 

【蒼ノ一閃】

 

 放たれた蒼い斬撃──蒼ノ一閃は、少しの雷を伴ってノイズに飛来し、それをまともに受けたノイズの塊の1つが一瞬で煤にされて吹き飛ぶ。

 

 続けて跳び上がった翼の後方の空間に、幾つもの剣が発光と共に出現して、一気に地上に降り注ぐ。

 

【千ノ落涙】

 

 落ちてきた無数の剣の雨──千ノ落涙に刺し貫かれたノイズが煤となって消え失せる。

 

 非常に固い表情の翼は、その鋭い目でノイズを睨みながら地上に着地し、間髪入れずにノイズの群れへと突っ込んでいく。

 

 ノイズの群れの中に突っ込んだ翼は一瞬の隙無く剣を振るい、ノイズの集団は抵抗する間も無くものの数秒で斬り裂かれて煤へと変わり果てる。

 

「……凄えな、やっぱ。まるで修羅だぞ、あれ。それに、やっぱり翼さんは……」

 

 一瞬でノイズを斬り捨てて戦う翼の姿を見て、独り言ちる響。響の言う通り、翼の姿は見る人によってただ淡々と目の前の敵を屠り続ける修羅にも見えるだろう。

 

 だが、それ以上に響の内心では気になっていた1つの疑問の答えが出てきた。それは、やはりあの時のノイズと戦う奏と翼は夢や幻では無く、現実の事実だということである。

 

「うぇ!?」

 

 隣にいた女の子の小さな悲鳴を聞いた響は、女の子が見ている方角へ自身も目を向けた。そこには、先程の巨人型のヒューマノイドノイズがいて、響達の直ぐそこまで迫ってきていた。

 

「くっ!?」

 

 響はすぐに前に出て、女の子の盾となるようにノイズの前に立ち塞がった。

 

 直後、上空から巨大な何か飛来し、それはノイズの体を簡単に貫いてアスファルトの地面に突き刺さった。

 

「なっ!?」

 

 突き刺さった何かの正体は、人の身では振るうことが到底叶わないであろう刀身の幅が優に人の幅を超えた巨大な剣であり、その剣の柄に当たるであろう場所の頂点には、目を瞑った状態の翼が凛々しく佇んでいた。

 

「……」

 

 巨大な剣によって倒されたノイズの煤が風に乗って宙を舞う中、響は翼の凛々しくも美しい姿に見惚れていた。

 

「……美しい」

 

 その美しい佇まいを見続ける響は、完全に無意識で翼への感嘆の言葉を漏らしていた。その翼が響の姿を瞳に入れて見下ろし、翼を見上げる響は思わず顔を赤くしたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ノイズによる騒動も一先ずは一段落して、今は特異災害対策機動部の人間が多数集まって事態の後始末に当たっていた。

 

 ノイズの被害が遭った場所として、響のいる工場一帯は政府によって閉鎖され、スーツの人達が資料を纏め、軍服を着た人達が人やノイズの成れの果てである煤の回収に当たっている。

 

 その中で、響は先程まで自分と一緒だった女の子の様子を遠目に見ていた。女の子は無事に政府の人に保護され、今は軍服の人の上着を羽織り温かい飲み物をゆっくり飲みながら話をしている。

 

「あの?」

 

「あ、はい」

 

 唐突に後ろから声を掛けられた響は、声を掛けられた後ろへ体ごと振り向く。響が振り向いた先には、何処かの制服と思われる服装をした大人の女性が立っていた。

 

「あったかいもの、どうぞ」

 

「あったかいもの、どうも」

 

 女性が差し出した温かい飲み物が入った紙コップを、響は笑顔でお礼を言いながら受け取ってゆっくりと飲み始める。

 

「ぷはぁ〜、五臓六腑に染み渡る〜」

 

 すっかり伸び切った阿保面になって気持ちが弛みに弛む込む響。やはり、温かい飲み物には、人の緊張状態を(ほぐ)し、人を心身共にリラックスさせる効果があるようだ。

 

 すると、響が纏っていた装束が何とも情けない音を鳴らせながら橙色に淡く光り出した。

 

「へっ?」

 

 弛み切っていた響も思わず間抜けな声を出し、その直後に響が纏っていた装束は砕けるように光となって消え、響は変身する前の黒のタンクトップにカーキ色のストレートパンツ、灰色のスニーカーという装いに戻っていた。

 

「おわっ、ちょちょちょちょっ!?」

 

 装いが戻った反動でバランスを崩した響は、持っていた紙コップを地面に落とし、体重が後ろに偏りながら後ろに後退してしまう。

 

 響はバランスを取り直そうと必死に腕まで使う。振り回して響の腕の肘に不意に柔らかい感触が伝わり、その直後に体が後ろから支えられた。

 

「あ、すみませ──」

 

 自分を後ろから支えてくれた人に首だけを向けてお礼を言おうとした響が固まった。何故なら、響を後ろから支えてくれていたのは翼だったからだ。

 

 響は翼の大ファンである。そんな憧れの人物に助けてもらえたのだから、ファンとしては当然の反応だろう。しかし、響が固まっているのは、そういった理由ではなかった。

 

 響の視線は、翼の顔を見た後にある一点で止まっていた。そこは、現在響の右肘がある部分であり、響の肘は現在翼の胸に触れているのだ。

 

(え、何これ? いや、これは胸だ。うん、それは分かる。翼さんって、スレンダーだけど、それなりに胸があるんだな。えーっと、この大きさは……大体80前半辺りかな? って、そうじゃなくてっ!! 不味いって、非常に不味いって!? 俺絶賛セクハラ状態じゃん!? あの翼さんに俺はなんてことを!? 絶対にこれって他の翼さんのファンに殺される!? どうしよう、謝ったら許してくれるか!? 下手すると、俺ってまた社会に吊るし上げられるんじゃねえのか!? “歌姫殺し”とはまた別のベクトルで最低の異名が付けられる!?)

 

 最早テンパり過ぎて、過去にあった思い出すのも辛い出来事で付いた異名でさえネタにしてしまっている響であった。

 

「……申し訳ないんだけど、早く自分で立ってくれないかしら? ……それに、出来ればこの肘も退けてほしい」

 

「すみませんっ! 今すぐ立ちます! 今すぐ退けます!」

 

 強張った表情でありつつも若干顔が赤くなっている翼にそう言われ、響は勢いよく謝罪して翼から距離を取って立つ。それを見届け、翼は少し俯きながら響に背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 

「すみませんっ! 本当にすみませんっ!! 2回も翼さんに助けられた分際で、本当にすみませんでしたっ!!!」

 

 放っておけば地に額を擦り付けそうな程の謝罪をする響。翼は、響の謝罪にではなく、響が言った「2回」という単語に反応して振り向いた。

 

「2回……?」

 

 怪訝な顔をする翼に、引き攣ったぎこちない笑みを浮かべながら左手の指を2本立てる響。

 

「ママ!」

 

 すると、先程まで響と一緒にいた女の子の声が響き、響はその声が聞こえてきた後ろへ体ごと振り向く。響の視線の先には、母親と思われる女性に抱き付き、その女性からも抱き締められている女の子の姿があった。

 

「良かった、無事だったのね!」

 

 娘の無事を喜び抱き締める母親は、愛しそうに娘の頭を何度も繰り返して撫で続ける。そこへ、その場にいた制服の女性が話し掛ける。

 

「それでは、この同意書に目を通した後、サインをして頂けますでしょうか?」

 

 制服の女性は、懐に持っていたタブレットを女の子の母親に差し出しならそう言った。

 

「本件は、国家特別機密事項に該当する為、情報漏洩の防止という観点から、あなたの言動、及び言動の発信には、今後一部の制限が加えられることになります。特に外国政府への通謀が確認されますと、政治観点で起訴され、場合によっては──」

 

「ハハハ……それじゃー俺もこの辺で退散させて──」

 

 面倒事の気配を女性と母親の会話から察した響は、これ以上面倒にならない間にここから移動しようとしたが、自分の前にいる翼の後ろで控えている黒服スーツのサングラスの男を複数見たことで固まった。

 

「あなたをこのまま帰す訳にはいきません」

 

「えぇっ!? 何で!?」

 

「特異災害対策機動部二課まで、同行して頂きます」

 

 淡々と告げられた言葉に、響はその理由を問い質そう翼に訊ねるが、翼は響の質問に答えることは無く、まるで機械のようにただこれから行く場所を伝える。

 

──政府関係者に捕まるようなことは絶対にするなよ? お前は色々と立場が複雑なんだからよ──

 

(この黒服の奴らって明らか政府関係者だし、特異災害対策機動部なんて諸に政府の組織じゃねえか!? 兄貴のあの言葉って、まさか予言だったのか!?)

 

 今朝に兄貴分に言われたことを思い出す響。まさか、本当に政府関係者に囲まれることになるとは、響も思っていなかっただろう。それも言われた当日の間にである。

 

(ここは何とか逃げ出して──)

 

 この事態を脱す為に響は即座に逃げようとする。しかし、そんな響の考えとは裏腹に、何時の間にか響の手首には電子ロック型の重厚な手錠が填められていた。

 

「すみませんね。あなたの身柄を拘束させて頂きます」

 

「……え? あっ! はいぃ!?」

 

(この人、俺が行動するよりも先どころか、俺が認識する間も無く手錠填めやがった!? 何だ、この人!? 暗部か何かか!? それとも暗殺者(アサシン)!? 若しくはNINJAか!?)

 

 気が付いたら既に手錠を填められていたことに驚く響。それをいとも容易く実行しせて見せた、周りのサングラス達と違って自身の顔を晒している黒スーツの優男の顔を見ながら、響はその男の正体を思考する。

 

 手錠をされて身動きが取り難くなった響は、流れるような動きで黒い車の後部座席の真ん中に押し詰められた後に両脇を先程の男と黒服のサングラスに固められ、まるで出荷される家畜のように何処かへ連れて行かれるのだった。

 

「助けて兄貴ぃぃぃいいいぃぃぃぃぃっっっ!?!!?」

 

 黒服達に連れて行かれる中、響は今はもう日本にいないであろう自身の兄貴分に助けを求め、その悲鳴は夜の空に虚しく消えていくのだった。

 

 暫くの時が経ち、政府の方々に捕まった響が連れてこられたのは、何と翼も在学しているあの私立リディアン音楽院高等科の学び舎だった。

 

「何で学校、っていうかリディアン?」

 

 政府の機関に捕まった筈なのに、向かった先が学校の学び舎であることに混乱と動揺を隠し切れずにいる響。だが、その疑問に答える者はいない。

 

 車から降りた響は、翼と先程の男に連れられて夜のリディアンの廊下を歩いていく。前を男、後ろを翼に固められた響は、もう諦め半分の気持ちで何も聞かずにただ男の後ろを付いていく。

 

 歩いた先で辿り着いた建物の隅の設備を男が操作する。操作されて開いた扉の先は、エレベーターとなっていた。エレベーターに乗る男の後を追って、響と翼もエレベーターに乗り込む。

 

 男はエレベーターのセンサーに自身の持っていた端末を翳す。すると、開かれていた扉が急に閉まって更に厳重なロックがされる。

 

「あ、あの、これは……?」

 

「……」

 

 響の質問に翼は何も答えず、エレベーターの壁から出てきた取っ手の方へ行ってそれを掴む。

 

「さぁ、危ないから掴まって下さい」

 

「えっ、危ないって何が……!?」

 

 唐突な危ない発言を聞いて驚く響を他所に、男は響の手を掴んで誘導し響に取っ手を掴ませる。その直後、響達が乗っているエレベーターがもうスピードで急降下した。

 

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああぁぁぁぁぁぁぁっっっ!?!!?!?!??」

 

 急なスピードで動き出したエレベーターの勢いに乗せられ、響はまるで遊園地の絶叫系のアトラクションに乗っているかのような間抜け奇声を上げるのだった。

 

 少ししてスピードに慣れた響は、あれだけのスピードで降りたのにも関わらず未だに降下し続けているエレベーターをキョロキョロと見回す。

 

(……無言が辛い)

 

「アハ、アハハ、アハハハハハ……」

 

 エレベーターの中の無言の重い空気が嫌だった響は、兎に角空気を変えようと取り敢えず愛想笑いを浮かべた。

 

「愛想は無用よ」

 

「……」

 

 しかし、翼の発言によって先程のノイズと同様に文字通りバッサリと斬り捨てられ、響は再び黙り込んでしまった。

 

 すると、降り続けていたエレベーターから見える景色が一変した。それは、まるで古代の遺跡のような風景で、壁には幾何学模様が刻まれていた。

 

(何これ、趣味悪!? まるでゲームのラスボス前に進む通路か重要施設の何かじゃん!? やっぱり、俺にとってのラスボスは政府だったのか……)

 

 響にはその風景がお気に召さなかったようで、内心で酷評していた。それどころか、思考がよく分からない方向へ進んで行く響だった。

 

「これから向かう所に、微笑みなど必要無いから」

 

(……一体、この先に何があるっていうんだ!?)

 

 唐突に翼に告げられた言葉に思わず喉を鳴らす響。このシリアスな空気と翼が発した言葉を真に受けた響は、この先に待ち受ける未知に対して出来る限りの覚悟を決めた。

 

 しかし、そんな響の覚悟とは裏腹に、響が最初に耳にしたのは何度も鳴るクラッカーの音と、陽気に鳴るパーティーグッズのオモチャの音だった。

 

「ようこそ! 人類守護の砦、特異災害対策機動部二課へ!」

 

 響を最初に迎え入れたのは、赤いシャツを着た勇ましい顔の男だった。男は頭に黒のシルクハットを被り、両手を広げて熱烈歓迎といった感じの態度を取っていた。

 

 その後ろにいる先程響が見かけた女性と同じ制服を纏った人達も、全員が響へ視線を向けて人によっては笑いながら拍手を響に送っている。

 

 その彼らがいる一室全体も豪華に飾られ、料理やお菓子に何故か達磨(だるま)まで置かれていて、上には『熱烈歓迎! 立花響様☆』と書かれた垂れ幕まである。

 

「……え?」

 

 その光景に、響は思わずきょとんとして間抜け面を晒しながら呆然と立ち尽くし、その後ろで翼は額に人差し指を当てて目を瞑りながら溜め息を吐き、スーツの男は苦笑いをしていた。

 

(何これ? ……滅茶苦茶歓迎されてる。さっきまでの翼さんの言葉とシリアスな空気って何だったの? 俺の無駄な覚悟返して……)

 

 すっかり毒気を抜かれてどっと疲れ果てたような表情を浮かべた響は、先程までの空気は何だったのかと内心で独り言ちるのだった。

 

「さぁさぁ、笑って笑って!」

 

 その中で、響に親しげに歩み寄ってきたメガネを掛けた白衣の女性は、響を側に抱き寄せて自身の手に持ったスマフォを掲げる。

 

「お近付きの印にツーショット写真──」

 

「ちょ!? タイム! タイムタイムタイム!」

 

 女性が掲げたスマフォに手錠を填められた自身の姿が映し出されたのを見た響は、慌てふためきながら急いで女性と距離を取った。

 

「何で手錠填めたまま写真撮らなきゃいけないんだよ!? 明らかに黒歴史直行じゃねえか!? それにだ、何でここの人達は俺の名前を知ってるんだよ!?」

 

 律儀に写真撮影を断ったことに弁明を入れてから、響は上の垂れ幕に書かれている自身の名前をどうして知っているのかを訊ねる。

 

 その質問に答えたのは、シルクハットに加えてステッキまで持ち出してきた赤いシャツの男だった。

 

「我々二課の前身は、大戦時に設立された特務機関なのでね。調査などお手の物なのさ」

 

「ふぅん♪」

 

 得意げにそう言ってステッキから花を咲かせる男。その隣に、先程響に歩み寄ってきた女性が、響にとって見覚えのある荷物を持って現れる。

 

 見覚えも何も、女性が持っているのは、響がノイズ襲撃の際に道路に置いてきた彼自身の所有物のスポーツバックである。

 

「おぉぉぉぉいっ!? それって、俺の荷物じゃねえか!? 何が調査はお手の物だよ!? 勝手に人の荷物漁るどころか、そこから個人情報まで調べたな!?」

 

「……はぁ。緒川さん、お願いします」

 

「はい」

 

 場の状況がどんどん混沌としたものに変わっていくのを見て、翼は溜め息を吐いた後に隣にいたスーツの男──緒川に場の収拾を頼み、緒川は苦笑いをしながら翼の頼みを承諾した。

 

 緒川の尽力もあって場の状況も沈静化したところで、緒川は響の腕に填められていた手錠を取り外し机の上に置いた。

 

「ありがとうございます。ずっと付けられてたせいで手首の感覚が参ってて……」

 

「いえ、こちらこそ失礼しました」

 

 手錠が填められていた手首を撫でながら、手錠を外してくれた緒川にお礼を言う響。響のお礼の言葉に、緒川は笑顔を絶やさずに返事を返して謝罪する。

 

「では、改めて自己紹介だ。俺は、風鳴弦十郎。ここの責任者をしている」

 

 赤いシャツの男──風鳴弦十郎は、親指を立てて自分を指しながら気さくに笑って自己紹介をする。

 

「そして私は、出来る女と評判の櫻井了子。宜しくね」

 

 メガネを掛けた白衣の女性──櫻井了子が、自信満々そうに胸を張って腰に手当てながら自己紹介をしてウィンクを飛ばす。

 

「は、はぁ、こちらこそ……」

 

「君をここに呼んだのは、他でもない、協力を要請したいことがあるのだ」

 

「え、協力?……あっ」

 

 弦十郎に言われたことに疑問を抱き掛けた響だったが、先程に突如我が身に起きた出来事を思い出したことで、抱き掛けた疑問への答えを悟った。

 

(そもそも、あれ自体が謎なんだよな……)

 

 疑問が解け、また新たな疑問が出てくる。いや、正確にはその疑問を思い出したといったところだろう。

 

「俺も教えて欲しいことがある。そもそも、俺が纏ったあれは一体何なんだ?」

 

 響の問い掛けを聞き、響の目の前にいた2人の大人が互いに目を見合わせて、了子は頷き前へ歩み出る。

 

「あなたの質問に答える為にも、2つばかりお願いがあるの。1つは、今日のことは誰にも内緒。そしてもう1つは、取り敢えず脱いでもらいましょうか」

 

「良いぜ。上だけで良いか?」

 

 指を2本立てながら了子に言われた言葉に、響は即答して着ていたタンクトップをその場で脱ぐ。タンクトップが無くなったことで、響は上半身が裸の半裸になり、その体が露わになる。

 

 露わになった響の上半身は、邪魔な脂肪が一切無い無駄無く鍛えられた筋肉で引き締められた肉体をしていて、その肉体は女性が理想とするような綺麗な細マッチョの体型であり、響の胸に刻まれたアルファベットの“f”の形に似た傷跡がその存在感を放っている。

 

 響の体を見た男性職員達の一部は、「おぉう……!」と感嘆の声を漏らし、女性職員達は顔を真っ赤にして一部は顔を逸らしている。

 

 序でに言うと、顔を逸らした女性の中には翼も含まれている。それはそれは、とても真っ赤になっていて、翼の顔は他の女性職員の3割り増しで赤くなっている。

 

「ほうほうほう……凄く良い体してるわねぇ! 何か武術でもやってたりするのかしら?」

 

「まぁ、齧る程度に少しだけ」

 

 その中、一切動揺も何もなく先程と全く変わらぬテンションで響に接する了子に、こちらも半裸であるのに変わりなく話す響。

 

 誰もが思うだろう。何故2人はそんな平然としていられるのか、や、齧る程度に少しだけではそのような色々な意味で危ない体は出来上がらないだろう、と。

 

 話をする響と了子を他所に、弦十郎と緒川は2人で集まって話す本人達にしか聞こえない程の音量で言葉を交わす。

 

「司令、正直に申し上げますと、響君のあの体型は異常です。まるで、訓練を受けた少年兵のようです」

 

「ああ。日本での平和の暮らしの中では、先ず有り得ないだろうな。それこそ、どのようなスポーツをする少年であっても、あそこまで無駄の無い肉体にはならん」

 

「どうします? こちらで響君のことを詳しく調べますか?」

 

「ああ、頼む。出来る限り、彼の過去を洗ってみてくれ」

 

「了解しました」

 

 緒川の承諾を聞いて、弦十郎は緒川との会話をそこで締め括り、話を続ける響と了子の会話に交ざるべく2人の下へ歩み寄って気さくに話し掛けるのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)磨かれた体幹とバランス
──今作ビッキーは、黎人の手によって体を鍛え抜かれている。体幹やバランス感覚もその例外では無い。よって、初変身ということもあって力の入れ具合は不安定だが、着地自体は上手く出来るのである。

(2)響、ラッキースケベが起こる
──肘で翼の胸をTOUCH! 今作ビッキーは、何とラッキースケベ持ちである。しかし、これはまだ序の口。これから先、もっと凄いラッキースケベが起こるだろう。

(3)響、迷わず上半身を脱ぐ
──そこは性別が男であることに起こった違い。やはり、性別が男と女とでは羞恥のポイントが違うのである。この響、上半身を脱ぐことに迷いが無い。

(4)細マッチョ響
──原作ビッキーは女性としての理想体型だと思ってる。大き過ぎず小さ過ぎず丁度良い。故に今作ビッキーもそれに応じて体型が理想型であり、更に黎人による手が加わって男性経験の乏しい女を殺す(意味深)肉体に仕上がったのである。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 想像してください。赤面した翼さん……滅茶苦茶可愛くないですか? 一切の無駄が無い肉体美を見て顔を赤くして逸らしちゃう翼さん。歌と剣ばかりで男性経験など一切無い翼さんは初心なのです。初心な翼さん……マジ可愛いくね?

 えっ? 翼さんには触れることが出来るだけの胸は無いって? ……宜しい、戦争だ。表に出ろ。言っておくが、翼さんのバストは81だ。何処ぞの型月のドル箱やあかいあくまよりも胸はあるんだよ。身長が167cmでデカいから小さく見えるだけなんだよ。

96(マリア) > 95() > 90(クリス) > 84() > 82(切歌) > 81() > 79(未来) > 72(調) > 70(セレナ)


 お分かり頂けただろうか? 翼さんは言うなれば、中の下なんですよ。見た目は未来の方が大きく見えますけどね、実際は翼さんの方が大きいのです! つまり、未来の胸は見せ掛けなので──

Rei shen shou jing rei zizzl……

 おや? 何やら歌が聞こえてきたような。それに何か向こうの方から紫色の光が──

【暁光】

( ゚д:. ;:・∵゚. ←作者

 それでは、次回もお楽しみに!
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