戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 前回は後書きで取り乱してしまってすみませんでした。ですが、もう大丈夫です。393の暁光によって、僕の中の穢れた心とカルマノイズの呪いを浄化されましたので。

 そんな綺麗な僕が導き出した答えは、皆違って皆良いということです。誰が上とか下とか無いのです。皆、平等に愛せば良いのです。だって、装者の皆は良い子なんですから(^U^)

 それでは、どうぞ!


EPISODE 6 雑音と不協和音と

 響が特異災害対策機動部二課に連れてこられた翌日の夕刻、翼がその日の学業を終えて二課の本部までやってきたことで小さな報告会が始まろうとしていた。

 

 その報告会のメンバーは、司令である風鳴弦十郎、研究者である櫻井了子、二課の職員である制服を着た男と女性、今し方やって来た翼、そして話の中心である響である。

 

 余談であるが、住居の確保をすっかり忘れ寝床が無かった響は、昨晩は弦十郎の好意で二課の仮眠室にて一夜を過ごしたりしていた。

 

 それはさておき、始まった報告会の最初の言葉を切り出したのは、研究者である了子からだった。

 

「それでは、先日のメディカルチェックの結果発表!」

 

 すると、壁に映し出された映像型のモニターに様々なデータが開示され始める。そこには、響の顔写真やレントゲン、他にも何らかの細かなデータの詳細が載っていた。

 

「初体験の負荷は若干残ってるものの、体に異常はほぼ見られませんでしたー!」

 

「ほぼ、ねぇ……」

 

 モニターに映された事細かなデータを見る響だが、自分のデータであるけれどもデータの詳細が細か過ぎて今一ピンと来ず、了子の言葉を頼りに微妙な反応を返していた。

 

「うん、そうねぇ。あなたが聞きたいのはこんなことじゃないわよねー?」

 

「ああ。面倒な前置きは要らない。教えてくれ。俺が昨日の夜に纏ったもの、あの力の正体は何なんだ?」

 

 遠回しな説明はしないよう前以て言ってから、単刀直入にことの核心についての説明を要求する響。

 

 響の言葉を聞いた弦十郎は翼へ目配せをし、そこから弦十郎が言わんとしていることを察した翼は、服の内側を(まさぐ)ってペンダントらしき物を取り出した。

 

天羽々斬(アメノハバキリ)、翼の持つ第1号聖遺物だ」

 

「聖遺物?」

 

 聖遺物という言葉が何を示しているのかが分からない響は、眉間に少しの皺を寄せて首を傾げる。そんな珍紛漢紛(ちんぷんかんぷん)な状態の響を見兼ね、了子が説明をする。

 

「聖遺物とは、世界各地の伝承に登場する現代では製造不可能な異端技術の結晶のこと。多くは遺跡から発掘されるんだけど、経年による破損が著しくって、嘗ての力をそのまま秘めたものは本当に希少なの」

 

「この天羽々斬も刃の欠片、極一部に過ぎない」

 

 了子から説明された内容に、弦十郎も口を出して補足を加える。

 

「欠片にほんの少し残った力を増幅して解き放つ唯一の鍵が、特定振幅の波動なの」

 

「特定振幅の、波動……?」

 

「つまりは、歌。歌の力によって、聖遺物は起動するのだ」

 

「歌? 歌、歌、歌……歌ねぇ?」

 

(歌といえば、あの時の俺って何か知らないけど、口が勝手に歌を口遊(くちずさ)んでたような……)

 

 “歌”という言葉を連呼し、内心で考えながらその言葉に心当たりがあることを響は思い出した。

 

「そういえば、昨日のあの時、心の底というか、胸の奥からというか、取り敢えず歌が浮かんできたんだ。それを俺は無意識に歌ってた……」

 

 響の確認するように呟かれた独り言に、弦十郎は頷いて答える。翼もその言葉を聞いていて、翼の表情がより一層固いものへと変わっていく。

 

「歌の力で活性化した聖遺物を、1度エネルギーに還元し、鎧の形で再構成したものが、翼ちゃんや響君が身に纏うアンチノイズプロテクター、シンフォギアなの」

 

「だからとて、どんな歌、誰の歌にも、聖遺物を起動させる力が備わっている訳ではない!」

 

 了子が説明をしている中、突如として発せられた翼の拒絶するような力強い言葉に説明が中断され、場の空気が凍り付き静かになる。

 

 その沈黙の空気の中、静寂を打ち破って弦十郎は立ち上がり再び説明を再開させる。

 

「聖遺物を起動させ、シンフォギアを纏う歌を歌える僅かな人間を、我々は適合者と呼んでいる。それが翼であり、君であるのだ」

 

「俺が……適合者?」

 

「どう、あなたが目覚めた力について、少しは理解してもらえたかしら? 質問はどしどし受け付けるわよ」

 

 弦十郎と了子による聖遺物とその力を利用したシンフォギアシステムについての説明が一先ず終わり、響が理解出来たかどうかを了子が訊ねる。

 

「あの!」

 

「どうぞ、響君!」

 

 質問しようと軽く手を上げた響に、了子は待ってましたと言わんばかりにハイテンションで応じる。

 

「言ってること、全然分かんねえ!」

 

「だろうね」

 

「だろうとも」

 

 元気良く分かんねえ発言をする響に、弦十郎と了子の後ろに控えていた制服を着た女性──友里(ともさと)あおいと、制服を着た男──藤尭(ふじたか)朔也(さくや)の2人は同意するのだった。

 

 専門用語やら難しい言葉やらが多過ぎて誰も付いていけないのである。やはり、凡人では天才の発言を完全に理解することは不可能のようだ。

 

「いきなりは難し過ぎちゃいましたね……。だとしたら、聖遺物からシンフォギアを作り出す唯一の技術、櫻井理論の提唱者が、この私であることだけは覚えて下さいね」

 

「は、はぁ……」

 

(まーた、新しい専門用語っぽいものが……)

 

 またよく分からない言葉が飛び出てきたことに一種の諦めの気持ちを覚えた響は、取り敢えず当たり障りの無いように無難な応答を返した。

 

「けど、俺はさっき言った聖遺物なんて物は持ってないぞ。その辺の石ころみたいに、ごろごろ転がってるものじゃないんだろ? なら、何で──」

 

 自分が聖遺物なんて貴重な物を持っていないことを誰よりも知っている響は、その自分がどうしてシンフォギアを纏えたのかを聞こうとしたところで、表示されていたモニターが別のものに切り替わった。

 

「これが何なのか、君には分かる筈だ」

 

 モニターに映し出されたのは、今回のメディカルチェックの際に撮られた響のレントゲン写真だった。一見何も異常が無いように見られるが、よく見ると左胸の辺り、内臓で言えば心臓がある付近に何らかの異物の影が写っていた。

 

「ああ、よく知ってる。2年前、あの“ツヴァイウィング”最後のライブの時に俺が負った怪我の奴だ」

 

「ッ!」

 

 響の発言に興味を惹かれたのか、翼の視線がレントゲン写真が表示されたモニターと響へ向けられる。

 

「心臓付近に複雑に食い込んでいる為、手術でも摘出不可能な無数の破片。調査の結果、この影は嘗て奏ちゃんが身に纏っていた第3号聖遺物、ガングニールの砕けた破片であることが判明しました……」

 

「ッ!?」

 

「奏ちゃんの、置き土産ね……」

 

 悲しげな声で了子から告げられた真相を聞き、翼が目を見開いて驚愕を露わにして握り拳を作る。しかし、すぐに握り拳は解かれ、真実のショックでバランス崩した翼は、近くにあった寝台型の機器に手を着き、もう片方の手で顔を覆う。

 

 すると、翼は響達に背を向けて力無く部屋から出て行ってしまった。

 

「翼さん……」

 

 響は翼の名をぼそりと呟き、去り行く翼の寂しそうな背中を姿が見えなくなるまでずっと見詰めていた。

 

「あの……!」

 

「ん、どうした?」

 

「この力のことは、誰にも話さない方が良いんだよな……?」

 

「ああ。君がシンフォギアの力を持っていることを何者かに知られた場合、君の家族や友人、周りの人間に危害が及び兼ねない。命に関わる危険すらある」

 

「命に……関わる……」

 

(母さん……祖母ちゃん……兄貴、それにもしかすると未来にまで……)

 

 弦十郎の言葉を聞き、響は即座に4人の人物を思い浮かべた。

 

 家を出ていくことで母親と祖母の身を安全にしたのに、再び危険に晒すなんてことは出来ない。

 

 今まで散々迷惑を掛けたが、命に関わる危険すらある迷惑を兄貴分に掛ける訳にはいかない。

 

 大切な幼馴染で親友である女の子の平穏で幸せな時間を奪うことなんて出来ない。

 

 大切な人達への想いを馳せる響は、自身に絡むシンフォギアの面倒事には絶対に彼らを巻き込まないと、決意を固める。

 

「俺達が守りたいのは、機密などではない。人の命だ。その為にも、この力のことは隠し通してもらえないだろうか?」

 

「あなたに秘められた力は、それだけ大きなものであるということを分かってほしいの」

 

「人類では、ノイズに打ち勝てない。人の身でノイズに触れることは、(すなわ)ち炭となって崩れることを意味する。そしてまた、ダメージを与えることも不可能だ。たった1つの例外があるとすれば、それはシンフォギアを身に纏った者だけだ」

 

 弦十郎と了子の言葉の意味を1つ1つ嚙み締める響。響は、バカなりに言葉に込められた2人の大人の想いを受け止めようとしていた。

 

「日本政府特異災害対策機動部二課として、改めて協力を要請したい。立花響君。君が宿したシンフォギアの力を、対ノイズ戦の為に役立ててはくれないだろうか?」

 

 弦十郎の心からの嘆願を聞き、響は1度顔を少し俯かせて目を閉じながら考える。

 

(……正直、シンフォギアがどうのこうのとか、全然これっぽっちも分からない。でも、この力があれば、誰かの笑顔を守れる。ノイズが奪っていく人の命を守ることが出来るんだ)

 

 響は、誰かの笑顔を見ることが好きだ。誰かが心から笑う笑顔を見ることで、響自身の顔もクシャッとなって心の底から笑顔になって笑うことが出来るから。

 

 ノイズは残酷にも人々から笑顔を奪う。だが、響の持つシンフォギアの力は、そのノイズの脅威から人々の笑顔を守ることが出来る。

 

あんな奴ら(ノイズ)のせいで、これ以上誰かの涙は見たくない。皆に……笑顔でいてほしい)

 

 2年前、誰もが涙を流した。失った側も、助かった側も、その周囲も。2年前の惨劇を経験した響だからこそ思う。その大元の原因たるノイズのせいで誰かが涙を流すことが嫌なのだと。

 

「この力は、誰かを守ることの出来る力、なんだよな?」

 

 響の純粋な問い掛けに、弦十郎と了子の2人の大人は響の目を見ながら頷く。

 

「……分かった」

 

 それを見て、響の覚悟は決まった。

 

 響達がいる一室の近くで、翼は気分転換の為に何か飲み物を飲もうと思って自販機の前に立っていた。すると、響達がいる一室の自動ドアが開き、そこから出て来た響が翼へ駆け寄った。

 

「……俺、戦うことにしました。至らないところもあると思いますが、そこはこれから一生懸命努力して埋めていくつもりです。だから、俺と一緒に戦って下さい!」

 

 響は宣誓のようなものを翼に告げ、笑顔を浮かべながら手を差し出す。しかし、それを見た翼は、響から視線を逸らして表情を強張らせる。

 

「あ、いや、その……急に馴れ馴れしかった、ですかね……」

 

 握手に応じない翼に、響の顔が苦笑いに変わって言葉が詰まっていく。

 

 直後、廊下の照明が消えて施設内にアラートが鳴り響いた。響は、アラートを聞いて急遽駆け出した翼の後を追い掛ける。

 

 翼を追い掛けた響が辿り着いたのは、多くの精密機器を操作する制服を着た職員達がいる一室──特異災害対策機動部二課の司令室だった。

 

「ノイズの出現を確認!」

 

「本件を、我々二課で預かることを一課に通達」

 

 突然のアラートはノイズの発生が原因のもので、そのことを申告した藤尭へ弦十郎が指示を返す。

 

「出現地特定! 座標出ます! リディアンより距離200!」

 

 友里が正面のモニターにノイズの反応を表示する。その反応がある場所は、リディアンの地下に位置するこの二課の基地から相当な近場だった

 

「近い……」

 

「迎え撃ちます」

 

 モニターでノイズの発生場所を確認した翼は、踵を返して司令室を出て行った。その後ろ姿を見で追っていた響も、追従するようにその場から駆け出す。

 

「待つんだ! 君はまだ──」

 

「俺は誰かに手を差し伸ばすことを躊躇しない! シンフォギアは、ノイズを倒すことの出来る力なんだろ。今の俺には、差し出すことの出来る手と人の笑顔を守ることの出来る力がある! 手が届くのに手を伸ばさなかったら死ぬ程後悔する! それが嫌だから、俺は手を伸ばす! それだけだ!」

 

「しかし──」

 

「それに俺には、約束があるんだ!」

 

 響はその言葉を言い残して、弦十郎の言葉に耳を貸さずに司令室から出ていった。

 

「危険を承知で誰かの為になんて、あの子良い子ですね」

 

「果たしてそうなのだろうか」

 

「?」

 

 出ていった響の後ろを見ながら呟かれた藤尭の言葉に、弦十郎は眉間に皺を作りながら低い音程で返す。

 

「翼のように、幼い頃から戦士としての鍛錬を積んできた訳ではない。誰かの助けになるからという理由だけで戦いに赴くというのは、酷く(いびつ)なことだ。現状の我々は、彼の詳細を全く知らない。その彼は、今まで一体どのような環境にいたというのか……」

 

「……つまり、あの子もまた私達と同じ、こっち側ということね?」

 

「ああ。それに、彼の言う約束とは一体……」

 

 弦十郎と了子の会話は、弦十郎の呟きによって静寂となった司令室の中に静かに消えていくのだった。

 

 避難警報の放送とアラートが町中に鳴り響く中、翼は郊外の道路の上に集まったノイズの群れの前に佇んでいた。

 

 ヒューマノイドノイズとクロールノイズの大群は、翼には襲い掛からず、その身をスライムのように変形させた後に1つに混じり合い、巨大な1体のノイズにその身を変えた。

 

「Imyuteus amenohabakiri tron」

 

 翼がシンフォギアを纏う歌──聖詠を歌う。直後、翼の着ている制服が弾け飛ぶように消え、一瞬の閃光と共にシンフォギアを纏って現れる。

 

 翼は、胸の内から湧き上がる歌を歌いながらその場から駆け出す。巨大ノイズは、体から生えた触角のような突起をブーメランのように回転させながら、翼目掛けて飛ばす。

 

 ノイズの遠距離攻撃に対して、翼は脚部の装甲のパーツを展開してブレードを露出させる。翼は、飛来するノイズの攻撃を展開したブレードで斬り刻んで無効化した。

 

 攻撃を無効化されたノイズが獣ように咆哮を上げ、翼は手に持った剣の形状を大剣に変形させる。

 

「うおぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉぉっっ!!」

 

 すると、翼とノイズが交戦している上空から、拳を構えた状態の響が飛来してノイズを真上から殴り付けた。ノイズは地に叩き付けられ、ノイズのいる道路にノイズサイズのクレーターが出来上がる。

 

「翼さんっ!」

 

「ッ!」

 

 響に呼び掛けられた翼は上に向かって大きく飛び上がる。その際、宙で響と翼が擦れ違うが、笑顔を浮かべる響とは対照的に翼の表情はより険しいものに変わっていた。

 

「はぁぁぁぁぁっ!!」

 

【蒼ノ一閃】

 

 翼から繰り出された蒼ノ一閃により、ノイズは下にあった道路ごと体を真っ二つに一刀両断され、煤が技の余波で生み出された爆炎と共に天に昇る。

 

「翼さん!」

 

 爆炎の前に1人佇む翼に向かって、響は駆け寄りながらその名を呼ぶ。

 

「俺、半人前で力が及ばないこともあると思いますが、それでも自分なりに頑張ります。だから、俺と一緒にノイズと戦って下さい!」

 

「……そうね」

 

 背を向けている翼に真摯に頼み込む響。その響に一見了承したかのように思われる返答をした翼。その返答を聞き、響は笑みを浮かべる。

 

「あなたと私……戦いましょうか」

 

「……うぇ?」

 

 しかし、好戦的な笑みを見せながら続けられた翼の言葉に、響は思考がフリーズして間抜けな声を漏らし、呆然と立ち尽くす。

 

 そんな響に、はっきりと拒絶の意思を示すように翼は剣の切っ先を向けた。

 

「なっ!? 何をやってるんだ、あいつらは!?」

 

 その状況を司令室のモニターから確認していた弦十郎は、驚きの余り座っていた座席から立ち上がって驚愕を露わにした。

 

「青春真っ盛りって感じね〜。特に男の子と女の子で向かい合うなんて、余計に燃える展開だわ〜」

 

 弦十郎と同じくその様子を観戦していた了子は、暢気(のんき)そうに満面の笑みで微笑みながらそう言った。

 

「司令、どちらへ?」

 

 司令官であるにも関わらず、本部の司令室と地上を直行で繋ぐエレベーターに乗り込む弦十郎を見て、オペレーターとして現在の状況を観測していた友里が訊ねる。

 

「誰かが、あの馬鹿者共を止めなきゃいかんだろうがよ」

 

 弦十郎は司令室にいる人間全員にそう言い残し、直行のエレベーターに乗って司令室を後にした。

 

「こっちも青春してるなぁ。でも、確かに気になる子よねぇ。放っておけないタイプかも」

 

 出ていった弦十郎を見送った了子は、司令室のモニターに大きく映し出された響の顔をじっと見つめながら独り言ちるのだった。

 

「いやいや、そういうライバル的な意味じゃなくて! 俺は翼さんと力を合わせる仲間的な意味で──」

 

「分かっているわ。そんなこと」

 

「じゃー何でだよ!?」

 

「私があなたと戦いたいからよ」

 

「はぁ!?」

 

 剣の切っ先を向けられた響は、どうにか言葉で翼を説得しようとするが、肝心の翼は響の言葉に全く聞く耳を持たない状態である。

 

「私はあなたを受け入れられない。力を合わせ、あなたと共に戦うことなど、風鳴翼が許せる筈が無い」

 

「……」

 

(……固い。ガチガチだ。この人、かなりの堅物だ。奏さんが言ってた、真面目が過ぎるって言葉の意味が漸く分かった気がする)

 

 響は無言で翼のことを見ながら、嘗ての惨劇の時に奏に聞かされた話の内容を思い出して、目の前にいる翼がその言葉通りだったことを思い知らされた。

 

「あなたもアームドギアを構えなさい!」

 

(アームドギアッ!? また知らない専門用語かよ!? 勘弁してくれ!)

 

 また出てきた全くもって意味の分からない専門的な言葉に、現在が切迫した場面であるにも関わらず、既に脳の処理力が白旗降参状態の響であった。

 

「それは常在戦場の意思の体現! あなたが、何者をも貫き通す無双の一振り、ガングニールのシンフォギアを纏うのであれば……胸の覚悟を構えて御覧なさい!」

 

「ちょっと待てよ、あんた!? 何勝手にぶっ飛んだ方向に話を進めてんだよ!? そもそもアームドギアって何だよ!? 初めて聞いたわ、そんな単語!? そんなよくも分からねえ代物をポッと出せる奴なんてな、ゲームや漫画やアニメ、それこそ小説の中の主人公ぐらいにしかいねーよ!? 全然分からねえものを出せって言われてもな、それこそ全然分からねえよ!」

 

 流石の響も相手が自分よりも年上で、尚且つ自分の憧れの相手であることも忘れて言葉を捲し立てる。

 

 すると、響の言葉を聞いた翼が剣を下ろして響に背を向けた。訝しむように翼の背中を見遣る響に対し、翼は背を向けたまま歩みを進めて距離を離していく。

 

「覚悟を持たずに、のこのこと遊び半分で戦場(いくさば)に立つあなたが……奏の、奏の何を受け継いでいるというの!」

 

「ッ! いい加減にしろよ、あんたっ! ぶっ飛んだ方向に話を進めるなって言ってんだよ!! それとな、奏さんと俺を好き勝手に重ねて見て、勝手にイライラしてんじゃねえよ! あんなとんでも博士の言うことまともに受けやがって! あんたは真面目が過ぎるんだよ! 何時かその内にポッキリ折れちまうぞ!」

 

「ッ!」

 

 話を全く聞かずに未だ自分の話を勝手に進める翼に、到頭(とうとう)我慢の限界を迎えた響が乱暴な口調でキレた。

 

 乱暴な口調で言われた言葉の中には、2年前のライブが始まる前に翼が奏から言われた言葉と合致するものが含まれていた。それがより一層に翼の神経を逆撫でし、知らず知らずに響は翼の中の地雷を踏み抜いて逆鱗に触れてしまった。

 

 直後、翼は歌うのを再開させ、更に鋭くなった目付きで睨み付けながら大きく跳躍する。

 

 跳躍した翼は響目掛けて剣を投擲し、投擲された剣が大剣よりも更にバカデカいサイズに変容する。更に翼は、脚部を展開してスラスターとして使用し、スラスターと重力の勢いを伴ってバカデカい剣に飛び蹴りを入れた。

 

【天ノ逆鱗】

 

 巨大化した剣そのものからもスラスターの火が吹かれ、巨大な剣は物凄いスピードで一気に響に迫る。

 

「良いぜ、来いよ! これがあんたの洗礼だって言うんなら、正面から受けて立って噛み砕いてやるよ!」

 

 響は逃げることはせず、逆に真正面から翼に受けて立とうと拳を引く。

 

 唐突に起きてしまったシンフォギアを纏う者同士の衝突。しかし、この対決は横から入ってきた第三者の手によって止められる。

 

「オリャアッッ!!!」

 

 突如2人の間に割って入った弦十郎が、その拳の一発で翼の天ノ逆鱗を受け止めたのだ。あまりにも唐突に起きた出来事に驚いた翼が空中でバランスを崩す。

 

「フンッ!」

 

 生身で攻撃を受けた弦十郎の拳には傷1つ無く、攻撃をした巨大な剣は役目を終えてその場から消え失せる。

 

「叔父様ッ!?」

 

「ハァァァァァ……タァッ!!」

 

 思わずプライベートの呼び方で弦十郎を呼ぶ翼。弦十郎は、受けた衝撃を歩法を活かして体を通して地面へと逃がす。その衝撃波により、響達がいた道路の辺り一帯が吹っ飛ぶ。

 

(生身で攻撃受けて無傷で、攻撃の衝撃を容易く地面に逃がすとか、絶対に人間業じゃねえだろぉぉぉぉぉおおおおぉぉぉぉぉっっ!?!!?)

 

 発生した衝撃波によって地面ごと一緒にぶっ飛ばされた響は、内心で如何に弦十郎が成した行為が可笑しいかを力の限り叫んでいた。

 

「うぁ!?」

 

 衝撃波でズタボロになった道路の上に翼が落ち、その時の衝撃で翼は呻き声を上げる。

 

 破壊された道路の下にあった排水管も破壊され、溢れ出た水が噴水のように上空に昇って雨のように辺り一帯に降り注ぐ。

 

「あーあ、こんなにしちまって。何やってんだ、お前達は」

 

 こんなにしちまった最もな原因とも言える弦十郎が、翼の攻撃を受け止めた手をプラプラと振りながら独り言ちる。

 

「この靴、高かったんだぞ?」

 

「……なんか、すみません」

 

「一体何本の映画を借りられると思ってんだよ?」

 

(……あれ? 靴の話してるの? それとも壊れた道路の話をしてるの? それと何故映画の貸し出しが値段の基準に?)

 

 色々と突っ込み所の多い発言をする弦十郎に、響は内心で冷静に突っ込んだ。

 

「らしくないな、翼。ロクに狙いも付けずにぶっ放したのか、それとも──」

 

 諭すように翼に話し掛ける弦十郎だったが、翼の異変に気付いて言葉を止めた。

 

(……翼さんが、泣いてる?)

 

 遠目から見ていた響にも、翼の異変は見て取れた。翼の頬を流れる雫は、溢れ出る水道の水ではなく、確かに翼の目から零れ落ちたものだった。

 

「お前、泣いてい──」

 

「泣いてなんかいません!」

 

 弦十郎の言葉に被せ気味に言い切る翼。翼の言葉が、それ以上弦十郎の口を動かさせなかった。

 

「涙なんて、流していません! 風鳴翼は、その身を剣と鍛えた戦士です! だから……」

 

「翼さん……」

 

 ずぶ濡れになった物悲しい翼の姿に、響の中に罪悪感が沸く。

 

(何してるんだよ、俺。誰の涙も見たくないから戦うって決めておきながら、早速目の前で女の子を泣かせちまってるじゃねえか……! こんなんじゃ、兄貴や奏さんに見せる顔が無え……!!)

 

 ついカッとなって、彼女に酷い言葉を吐いてしまった自分を響は恥じた。散々兄貴分に女の子には優しくするように言われ、奏に翼を支えてほしいと言われ約束までしたというのに。響にとって、これでは全てがぶち壊しだった。

 

 弦十郎は、座り込んだ翼の下まで歩み寄って翼を支えながら立ち上がらせる。立ち上がった翼に響が歩み寄る。

 

「……俺、本当にダメな奴だ。言葉で女の子を傷付けるなんて。……こんなダメな奴だけど、これが俺なんだ。俺は、俺にしかなれない。だから、奏さんの代わりには一生なれない。けど、俺なりの形で翼さんの背中まで行けるように頑張る。だから、待っていて下さい……!」

 

 響は、頭を下げながら自分の心の内の言葉を真摯に翼に告げる。

 

 告げられた響の言葉に、翼はぴくりと反応したがそれだけで終わる。結局、翼は響に何も言い返さずにその場から立ち去っていった。

 

 障害物無く続く半壊した道路から翼と翼を支える弦十郎の姿が見えなくなるまで、響は頭を下げ続けたまま微動だにせずにその場に立ち尽くしていたのだった。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、笑顔の為に戦う
──今作ビッキーのノイズと戦う理由。人助けも理由の1つだが、今作ビッキーは人の笑顔を守る為にノイズと戦う。

(2)響、ノイズを殴る
──原作ビッキーは跳び蹴りでしたが、今作ビッキーは勢いを付けたパンチになります。これぞ必殺、勇者パーンチ!……えっ、作品が違う? でも、ビッキーとあの勇者系少女って戦闘パターンと思考パターンがそっくりだし、意外と波長が合うと思うんだ。怒らすと色々やべえレズの奥さんもいらっしゃりますし……。

(3)響、キレる
──性別が違うことで起こった弊害、というよりも黎人の教育の結果である。言われっぱなしとやられっぱなしでは、筋が通らないのである。筋を()()通すことが、今作ビッキーの信念である。

(4)響、弦十郎に突っ込む
──人間業じゃない。たぶんこれ、シンフォギア視聴者全員が必ず1度は思ったこと。彼にはそれを代弁してもらった。

(5)響、翼に()たれずに済む
──黎人の魔改造により、自分というものを自覚している響だからこそ言えた台詞で打たれずに済んだ。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 早く未来と再会させたいなー(ウズウズ

 クリスちゃんも出したいなー(ウズウズ

 それでは、次回もお楽しみに!
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