戦士絶唱シンフォギアIF   作:凹凸コアラ

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 皆さん、どうもシンシンシンフォギアー!!(挨拶)

 ガチャ引いて虹演出きたけど、全く無関係の☆5メモリアだったぜ(絶唱顔)

 来年の今頃には、シンフォギア5期こと“戦姫絶唱シンフォギア XV”が放送されるんですよね。来年が待ち遠しいよぉぉぉぉぉぉ!!

 では、無駄話もここまでにしてさっさと本編に入りましょう!

 それでは、どうぞ!


EPISODE 9 落涙

 絶唱の負荷によって体に深刻なダメージを負った翼は、急遽二課の医療施設まで運び込まれた。二課の医療施設は、二課本部の横に建てられている。つまりは、私立リディアン音楽院高等科に隣接しているのである。

 

「辛うじて一命は取り留めました。ですが、容体が安定するまでは絶対安静。予断を許されない状況です」

 

 運び込まれた翼を担当した執刀医から、弦十郎に翼の現状の説明がされる。絶唱による負荷は相当なもので、今の翼は死ぬか生きるかの丁度一歩手前という容体であった。

 

「宜しくお願いします!」

 

 何時もと違いベージュ色のスーツを着熟した弦十郎は、担当医の男に頭を下げて翼のことを頼み、身を翻して後ろに控えていた黒いスーツの男達と向かい合う。

 

「俺達は鎧の行方を追跡する。どんな手掛かりも見落とすな!」

 

 黒いスーツの男達に指示を出し、弦十郎は黒いスーツの男達を引き連れてその場を後にする。その途中で、弦十郎は自販機やソファーが設置されている小さな休憩ルームにいる響とガラス越しで擦れ違うが、お互いに声を掛けること無く弦十郎はその場を後にした。

 

「……翼さん」

 

 死の瀬戸際にいる翼のことを想い、響は作った握り拳に更に力を込める。爪が相当な力で掌に喰い込み、響の手から少量の血が流れ出る。

 

「君が気に病む必要はありませんよ」

 

 自責の念に駆られる響に、後ろから歩み寄って来た男が声を掛けた。その声に反応して、響は声を掛けてきた人物の顔を見る為に、俯かせていた顔を上げた。

 

「緒川さん……」

 

 意気消沈した響に声を掛けたのは、表の顔では翼のマネージャー、裏の顔では二課のエージェントをしている緒川だった。

 

「翼さんが自ら望み、歌ったのですから」

 

 緒川は響の顔を見ないで背を向けながらそう言い、自身の端末を自販機に翳す。すると、自販機から電子マネーを支払った電信音が鳴り、用意された容器へ飲み物が注がれ始める。

 

「……そうだよ。翼さんが、自分で歌ったよ。歌っちまったんだよ。俺は……翼さんに歌わせちまったんだよ! あの歌をっ!! 俺は止めることが出来なかった! 俺の言葉は、翼さんに届かなかったっ!!!」

 

「落ち着いて下さい。君が声を荒げても、翼さんの現状が変わる訳ではありません」

 

「んなことは百も承知だ! だけどよ! 他にも何か出来たんじゃないか、もっと別の選択肢があったんじゃないかって嫌でも考えちまうんだよっ! 俺は、こんな情け無い自分が許せないんだよ! 女の子の翼さんがあんなにズタボロになってるのに、男の俺がこんな五体満足でピンピンしててよ!」

 

 声を荒げ、響は自身の内に溜まった鬱憤を鬱屈とした想いと共に全てを吐き出し続ける。

 

 響は、女の子の翼に守られたことを恥じている訳ではない。寧ろ響の想いはその逆であり、男の響が翼を守ってあげられなかったことを恥じていた。

 

──良いか、(きょうだい)。女ってのはな、花でも月でも無いんだよ。女は、太陽なんだよ。逆に、俺達男の方が花であり、月なんだよ──

 

──女って太陽が無えと、俺達男は咲くことも出来ないし、夜の空に輝くことも出来無え。文字通り、太陽みてえにキラキラと輝く女の笑顔を見てたら、それだけで俺達男は気分が良くなる。良い女が笑えば、それだけで周囲の男達は皆ハッピーになる。そしたら、俺達男は花のように顔を上げて笑い咲き誇れるし、暗い夜の闇だろうが女から貰った光で照らしながら進むことが出来るのさ──

 

──女は、自然と自分以外の誰かを守ってくれるぐらいに強くて優しいもんだ。時には、自分の幸せも何もかもを全部放っぽり出して、自分の全てを捧げちまうくらいにな。なら、誰が皆を守る女を守る? ……俺達男しかいねえだろうが。だから、強くなれ(きょうだい)。強くなって、女の笑顔を守ることの出来るデカい男になりな──

 

──それにな、女は子供を産むんだよ。母なる太陽って言葉が、これ以上に似合う存在がいるか? ……いねえよなぁ。だからこそ、俺達男はその太陽を守るんだよ──

 

──それこそが、俺達男が男として生まれた瞬間から死ぬまで通し続けなきゃいけねえ最初に背負う道理だ──

 

(翼さんが聞いたら怒るかもしれない。けど、兄貴が言ってた通りなら、男の俺が女の子である翼さんを守らないといけないのに……)

 

 男は女を守るもの。その考えの根源にある兄貴分の言葉を幾つも思い出しながら、響は内心で自分の想いを吐露していた。

 

「もう1度言いますが、落ち着いて下さい。先ずはしっかりと落ち着いてから、話をしましょう。それだけで、きっと気分が変わりますから」

 

 緒川はそう言って、両手に持っていた紙コップの内の片方を響に差し出した。響は、若干戸惑いながらも差し出された紙コップを受け取る。

 

「ご存知とは思いますが、以前の翼さんはアーティストユニットを組んでいまして」

 

「……“ツヴァイウィング”、だろ」

 

 響の脳裏に、遠目であったが離れていても分かるくらいに笑顔を浮かべながら楽しそうに歌っていた翼と奏の姿が思い出される。

 

「その時のパートナーが天羽奏さん。今は君の胸に残るガングニールのシンフォギア装者でした。2年前のあの日、ノイズに襲撃されたライブの被害を最小限に抑える為、奏さんは絶唱を解き放ったんです」

 

「……絶唱。ネフシュタンの女も言ってた、翼さんと奏さんが歌った歌のことか」

 

「装者への負荷を厭わず、シンフォギアの力を限界以上に解き放つ絶唱は、ノイズの大群を一気に殲滅せしめましたが、同時に奏さんの命も燃やし尽くしました」

 

「……それは、俺を救う為にか?」

 

 ぼそりと言われた響の質問に、緒川は答えを返さないで沈黙を貫いたまま紙コップに口を付けて中身を飲む。

 

 緒川は、響の質問に答えることは出来ない。何故なら、答えを知るのは今はもういない天羽奏ただ1人なのだから。

 

「奏さんの殉職。そして“ツヴァイウィング”は解散。1人になった翼さんは、奏さんの抜けた穴を埋めるべく我武者羅に戦ってきました。同じ世代の女の子が知って然るべき、恋愛や遊びも覚えず、自分を殺し、一振りの剣として生きてきました。そして今日、剣としての使命を果たす為、死ぬことすら覚悟して歌を歌いました」

 

 持っていた紙コップをテーブルの上に置き、両手を組みながら話を続ける緒川。すると、話をしている間に夜が明けて太陽の光が差し込んできた。

 

「不器用ですよね? でもそれが、風鳴翼の生き方なんです」

 

「そんなの、悲し過ぎるだろ……! 自分の幸せを全部投げ捨てて、誰かの為だけを思って行動するなんて、そんなのは人間の生き方じゃない。まるで道具じゃねえか……!」

 

 緒川から話された翼のことを聞いて、響は体を小刻みに震わせて嗚咽を漏らす。

 

「俺なんかとは、本当に覚悟の重さも何もかも違ったんだ……! 何が俺なりの形だよ……!? そんな自己満足レベルの頑張りで、人としての幸福を捨てるつもりで戦ってた翼さんに認めてもらえる訳無かったんだ……!!」

 

 無意識の内に手に力が込もり、響は中身が一滴も減っていない紙コップを握り潰した。響の左手にかなりの熱さを持っていたコーヒーが掛かるが、翼という人間を知って心を痛めていた彼はそんなこと意に介さずに涙を流し続けていた。

 

「ねぇ、響君。僕からのお願いを聞いてもらえますか?」

 

「……あぁ。俺に出来ることなら何でも言ってくれ」

 

 詳しい内容も聞かずに、緒川の頼み事を涙を拭って承諾する響。それは、話の流れからして緒川がどのような頼み事をするかを、響が無意識の内に理解しているからだった。

 

「翼さんのこと、嫌いにならないで下さい。翼さんを、世界に独りぼっちになんてさせないで下さい」

 

「……あぁ、絶対にさせない。俺は翼さんの手を強引にでも掴んでやる。罵られようと、殴られようと、それこそ叩っ斬られても独りになんてさせない。俺が傍にいてやる。……独りぼっちは寂しいからな」

 

 響は再度涙を拭い、赤く腫れ上がった目で緒川の目を見ながら固い決意を胸にその頼み事を受け入れた。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 緒川の頼み事を承諾したその翌日。響は、とある武家屋敷を訪ねていた。その武家屋敷は、二課の司令官である弦十郎の自宅である。

 

 弦十郎の自宅を訪れた響は、弦十郎本人に自宅の中に通され、今は和室で胡座をかきながら互いに向かい合うように座っていた。

 

「響君、君が今日俺の下を訪ねて来た理由は、俺に武術の稽古を付けて欲しいから、で良かったか?」

 

「ああ。今の俺じゃ何も守れないし、誰の手も掴むことが出来ない。翼さんに認められるには、翼さんの背中に追い付くんじゃなくて、翼さんの背中を追い抜く必要があるんだ!」

 

 緒川から翼の話を聞き、改めて決意を固めた響は新たな覚悟と目標を定めた。自己満足の努力ではなく、他者が驚いて目を見開く程の努力をすることに決めたのだ。

 

「だが、どうして俺なんだ?」

 

「あんたは生身で翼さんのあの超質量攻撃を見事に受け切って見せた。あれをするには、単純なパワーだけじゃなくて相当な技術が必要だ。だからこそ、俺はあんたの下で武術の技と力を身に付けたいんだ!」

 

 今の響は強くなることを望んでいる。だが誰かの笑顔を守るには、今の響では圧倒的に技量が足りていなかった。

 

 そこで響は、生身で人外的なパワーと圧倒的なテクニックを用いて、翼の攻撃を完封して見せた弦十郎に白羽の矢を立てたのだ。

 

「俺も護身術程度なら教えて貰った。けど、俺は自分の身だけじゃなくて、他の誰かも守りたいんだ! 頼む、この通りだ!」

 

 響は、胡座を解いて正座し、土下座をして弦十郎に頼み込む。それも畳に額を思いっきり擦り付けながらの土下座であった。

 

「……」

 

 弦十郎は、沈黙を貫いたまま土下座を続ける響を見ていた。実際には短いが、両者にとっては長く感じる程に緊迫した空気は、弦十郎が口を開いたことで終わりを告げる。

 

「……君を鍛えること。そのことに関しては、何の問題も無い。現状に満足せず、次なる高みを目指そうとするその志には、俺も好感を持てる。だが、その前に響君には1つだけ聞いておかなければならないことがある」

 

「……俺が答えられることなら、何でも聞いてくれ」

 

「先ずは頭を上げてくれ。そんな頭を下げられた状態じゃ、聞きたいことも聞き難いからな」

 

 弦十郎は、頭を下げたまま話を続けようとする響の頭を上げるよう促す。その言葉を聞き、響は頭を上げて普通の正座の状態になる。

 

「それで、俺に何を聞きたいんだ?」

 

「本題に入る前に先に謝罪しておく。我々は勝手ながら、響君の過去について調査させてもらった」

 

「ッ!?」

 

 弦十郎から告げられた真実を聞いて、響の目が見開かれて体が硬直する。

 

「本人に黙って、勝手に個人情報を調べてしまいすまなかった……」

 

「……いや、仕方無いさ。あぁ、仕方無い。得体の知れない奴を手元に置くんだ。それくらいのことはして当然だ。あんたは何も間違ったことはしちゃいないさ」

 

 今度は逆に弦十郎が響に頭を下げて謝罪するが、響は仕方が無いことだと自分でも納得し快く弦十郎達二課の人間を許した。響が許してくれたことに弦十郎は感謝する。

 

「ありがとう、響君。それで、俺が聞きたいのは君の不明になっている過去についてなんだ」

 

「……」

 

「……君は自身を取り巻く迫害に家族を巻き込まない為に家を出た。そこから後の経過の全てが謎になっている。俺が聞きたいのは、君が俺達の前に姿を現す前までの間に誰と何処で何をしていたかについてなんだ」

 

「……どうして俺が誰かと一緒にいたと断定出来るんですか? もしかすると、俺はそれまで1人で行動して、物を盗みながら生きていたかもしれないんだぜ?」

 

 響の(たち)の悪い冗談を聞き、弦十郎は顔を顰めるどころか逆に軽く笑みすら浮かべながら首を振って否定する。

 

「それは無いさ」

 

「どうして、そう言い切れるんだ?」

 

「ここ一月(ひとつき)の間、君という人間を見てきたからだ。響君、君は人の不利益になるような行動を進んでやる人間ではない。例え、自分自身がどんな状況にあってもだ」

 

 弦十郎は、一月の間に響という人間をずっと見続けてきた。だからこそ、分かったことがあった。

 

 立花響という人間は、一言で言うならお人好しで、自分の心に良くも悪くも正直な少年だ。とても陽気且つ快活な性格をしていて、好奇心旺盛でやりたい事や言いたい事を心の赴くままに実行する行動派である。

 

 また、響自身が認める程にトラブル体質で何かと面倒事に巻き込まれがちで、世話焼きで困っている人を放っておけない性格であり、巻き込まれなくても自分から面倒事に首を突っ込むことも屡々(しばしば)ある。それで自分が損をしようと相手のせいには決してしない。

 

 とてもフランクで砕けた言葉遣いであり、敬語の扱いはほぼ死んでいる。体を鍛えたり動かすことが好きだが、勉強はかなり苦手である。

 

 年相応に性への関心を持っている年頃の少年らしい少年で、口調が悪い時もあるが、その人柄から周りから好感を持たれていて、人を惹き付ける魅力を持っている。

 

 その名の通り、周りに影()を与えて、人の心境や環境をどんどん変えていく何処までも真っ直ぐな少年。それこそが、弦十郎が下した立花響という人間の評価だった。

 

「それにだ。家出をした人間という割には、身形(みなり)が随分と整っていたからな。情報端末を持たずに家を出た筈なのに、今の君は新たな情報端末を持っている。スマフォなんかは子供がそう簡単に手に入れることの出来る代物じゃないからな。それを支給した人物がいるというのが俺の見解だ」

 

「……凄い推理力だな」

 

「これでも、昔は公安警察官だったからな。推理力には多少の自信がある」

 

 得意げな笑みを浮かべる弦十郎。これは何を言っても誤魔化すことは出来ないと思った響は、観念して本当のことを話すことにした。

 

「あんたの言う通りだ。家を出てから2ヶ月が経った頃、警察からの逃亡生活の中で限界を迎えた俺は何処とも知れない路地裏で行き倒れになっていた。まともに睡眠も取れてなくて、身心共に限界の状態で梅雨の大雨に濡れ切ってそのまま果てるかもしれなかった俺を……兄貴が救ってくれた」

 

「……」

 

 響は、2年前に起こった自身の転機となった出来事を弦十郎に教える。響の話を、弦十郎は沈黙したまま聞き続ける。弦十郎が何も言わないのを見て、続きを話して欲しいのだと判断した響は話を続ける。

 

「兄貴に拾われた俺は、兄貴の仕事に付き添って兄貴と一緒に諸外国を渡り歩いた。運送、護送、要人警護、情報収集、物の修理。仕事の内容は多種多様だった。中には危険な仕事もあったけど、兄貴は足を引っ張る俺を守りながら色々なことを教えてくれた。車やバイクの運転もその内の1つだ」

 

「その体付きもか?」

 

「あぁ。兄貴の下で体を鍛えて、自分の身を守れる程度の必要最低限の護身術も教えてもらった」

 

「……そうか」

 

「続けるぞ? そんな毎日が忙しくてワチャワチャしてた生活だったけど、日本で迫害され続けるだけの毎日と比べたら充実してた日々が2年間続いて、俺は日本に戻ってきた。理由は、兄貴の次の仕事が俺を抱えたままじゃどっちとも死ぬかもしれないような危険なものだったから。俺が戻ってきた日本での新たな1歩を踏み出す為のきっかけ作りのつもりでこの街にやって来て、その日にシンフォギアを初めて纏った。これがことの真相だ」

 

 弦十郎は一言そうかと言って頷く。要点だけを掻い摘んだ響の話を聞き、弦十郎がどういった反応をするかを待つ響。瞑目していた目を開き、弦十郎は言葉を紡ぐ。

 

「辛いことがあったにも関わらず、これ程に真っ直ぐな少年に育ったことを俺は尊敬しよう」

 

「俺は言う程真っ直ぐって訳でもない。すぐに熱くなって周りが見えなくなることだって多いし」

 

「響君がそれだけ情熱的な人間ということさ。そこは大切にするべきだ。周りが見えなくなるというなら、これから変わっていけば良い。熱いハートでクールに振る舞えるようにな」

 

 弦十郎の話を聞き、響は自然と笑みを浮かべていた。そんな響を見て、弦十郎も満足そうに微笑んで頷く。

 

(やはり、響君は笑っている顔が1番似合う。変に畏まってるのは彼らしくない)

 

「ところで、君が言っていた兄貴とは誰だ? 出来ることなら、名前を教えて欲しい。勿論、無闇矢鱈に詮索したりはしない。ただ、我々の情報網にすら引っ掛からないような男が気になってな」

 

 弦十郎は、変に隠すようなことはせずに自分が気になったことを率直に響に訊ねる。訊ねるのと同時に自身の本心も語ったのは、何よりも響自身に少しでも安心して欲しいのと自分を信じて欲しいからだった。

 

 響は瞑目し、顎に手を添えて少し考えるような素振りを見せる。だが、時間にして数秒足らずで頷いてから目を開いて話し始める。

 

「分かった。あんたを信じる」

 

「ありがとう」

 

「……俺を救ってくれた兄貴の名前は、名瀬黎人だ」

 

 響の口から話された名を聞き、弦十郎は瞠目してすぐに響に聞き返す。

 

「待ってくれ。名瀬黎人、と言ったか?」

 

「あ、あぁ」

 

「それは、名前の名に浅瀬の瀬で名瀬、黎明の黎に人と書いて黎人で良いのか?」

 

「そうだけど……」

 

「序でに言うと、無駄に器用で頭も良く行動力もあり、行く先々で現地妻のような女が大勢いるか?」

 

「全部当て嵌まってる!? もしかして、兄貴のことを知ってるのか?」

 

 黎人の名前の漢字や上げられた特徴が全部合っていたことに驚き、響は弦十郎に黎人を知っているのかを訊ねた。対して弦十郎は、見開かれた目を閉じ顔を手で覆って上機嫌に笑い始めた。

 

「ハハハハハハハ! そうか、あいつか! 君を拾ったのは、あいつだったのか!」

 

 そんな何処までも上機嫌な弦十郎に対し、それを見てるだけの響はただただ困惑するばかりである。

 

「あのー、もしかしてご存知で?」

 

「応ともさ! 何せ、あいつとは俺がまだ小学生のガキだった頃からの親友だからな。俺がまだ公安だった頃は、よく一緒に飲みに行っていた。俺が二課の司令になってからは、会うことがめっきりと減っちまったがな。あいつもあいつで、世界を股にかける何でも屋みたいな仕事をしてるせいで、ここ2年は会っていない」

 

 昔を思い出しながら、感慨深そうに自身と響の兄貴分である黎人との関係を話す弦十郎。その表情はとても楽しそうで、楽しそうに話される弦十郎と黎人の話に、響も知らず知らずの間に引き込まれていた。

 

「あいつは昔から女が好きで、特に良い女というのを見分けることが得意だったな。女好きということが周知の事実であるのにも関わらず、昔からあいつは何かと女に囲まれてばかりいた。当時の俺は、そんなあいつのことを羨ましがったこともあった」

 

「兄貴って昔からそんな感じだったのか」

 

「そうだとも。頭が良くて、無駄に器用で、度胸もあって、大勢の女に囲まれている正に人生の勝ち組のような男だったさ。加えて、情に厚い人情家でもあったことから、男達からも好かれていた」

 

「へえ……!」

 

 話せば話す程に緩んでいく弦十郎の顔。それだけで弦十郎が黎人に全幅の信頼を寄せていて、距離が離れていても友人として大切に思っているのは明らかだった。

 

「済まなかったな、響君。君を疑うような真似をして。だが、君の過去が明らかになり、更に君を救ったのが黎人だと知れて俺は満足だ! 稽古の件だが、喜んで受けようではないか!」

 

「マジか!?」

 

「マジもマジ、大マジだとも! 親友の弟分で形的には俺の部下である君を鍛えない理由など探す方が難しいさ」

 

「よっしゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 弦十郎からの快諾を得て、感極まった響は勢い良く立ち上がって握り拳を両手で作りながら歓喜の雄叫びを上げた。

 

「これから宜しく頼むぜ、弦十郎のおやっさん!」

 

 響は今までまともに弦十郎のことを名前でも役職でもあまり呼んだことがなかったが、これからは親しみと尊敬の意を込めて弦十郎のことをおやっさんと呼ぶことにした。

 

「おやっさん、か。叔父様や旦那、果てにはおっさん呼ばわりならされたことがあるが、おやっさんと呼ばれたのは初めてだな。……悪くないな」

 

 おやっさんという言葉の響を弦十郎も気に入ってとても満足気のようだった。

 

「時に響君、1つ聞きたいことがあるのだが良いだろうか?」

 

「何だ、おやっさん?」

 

「君は、アクション映画とか嗜む方だろうか?」

 

「アクション映画? ……最高に大好きだぜっ!!」

 

「良い返事だ!」

 

 威勢の良い響の返答を聞いて、弦十郎の瞳が静かに燃え上がる。こうして、弦十郎考案の立花響強化計画が始動したのだった。

 

 その内容は極めてシンプルで、弦十郎が嗜むアクション映画を題材にし、映画の中で出てきた特訓や構えや動きを模倣するというものだった。

 

 構えの模倣では、役者が着ていた服を実際に響や弦十郎も着込んで同じ構えをする。全身タイツのような格好や、風変わりな道着といった様々なものを着て多くの構えを(こな)した。

 

 特訓の模倣では、響が元から持つ有り余る体力を活かしてアイドルや格闘家もビックリな程の長時間のロードワークや、特殊な姿勢や厳しい環境下での筋トレなどが実施された。その傍らには、必ず弦十郎も一緒にいた。

 

 歌を歌って戦うということから、歌の特訓ということで響は長時間の1人カラオケにも行った。

 

 アクション映画で出てきた技を身に付ける為、弦十郎の自宅の敷地内に設置されたサンドバックへの打ち込みに、響は相当な気合いを持って挑んだ。

 

 ネフシュタンの少女との戦闘のことも考えて、弦十郎とのスパーリングや模擬戦なども行われた。スパーリングでは、何処をどう的確に攻撃すれば良いかを学び、模擬戦は弦十郎の攻撃が激しくて攻撃をする暇が無い為、ただひたすらに防御と回避を身に付ける為の時間となっていた。

 

 よく食べてよく寝るというのも鍛錬の中の1つだった。様々な栄養価を持つ物を均等に食べ、しっかりとした睡眠を取ることで健康を保つことが響の理想への糧となる。

 

 他にも響は、昔にあった現実に近い武道系のバトルマンガをネットで購入し、それを参考にして技や特訓の参考にもしたりしていた。そのせいで、弦十郎から用意された響の新居の一室にはトレーニング器具と沢山のマンガが溢れ返ることになった。

 

 そして、この日も響は長時間のロードワークに勤しんでいた。時間帯は朝で、出勤する社会人や登校するリディアンの女生徒達の横を響は颯爽と駆け抜ける。

 

 全体的な色合いは黒色で、上はプルオーバーパーカーで下はジャージの響は、イヤフィットヘッドホンで翼の歌を聞きながら走り続けていた。

 

(翼さん! 俺はあなたの背中を追い抜いて、皆の笑顔を守ることの出来る強い男になってみせる! だから、絶対に戻ってきてくれ!)

 

 未だに眠り続ける翼のことを想いながら、響は被っていたフードを取り払って更に走るスピードを速める。一陣の風となった響は、前方にある曲がり角から人が来る前に渡り切ろうと走る。

 

 凄まじい速さで駆ける響は、余裕で曲がり角の前を走り抜けてそのまま直進していく。だが、イヤフォンをして音楽を聞きながら我武者羅に特訓に精を出していた響は気付かなかった。

 

「響! 待って、響っ!」

 

 曲がり角の前で擦れ違い、走り行く響に手を伸ばしながら必死にその名を呼ぶ白いリボンの少女の存在に。




・原作ビッキーと今作ビッキーとの相違点コーナー

(1)響、自責の念に駆られまくる
──前回のこともあってより一層に責任を感じる響。今作ビッキーは、周りは許してあげられるが自分を許そうとは滅多にしない。

(2)響、弦十郎と問答をする
──EPISODE 7の冒頭で言った通りに、1対1で話し合った響と弦十郎。あれは伏線だったのだ。

(3)響、アクション映画が大好き
──今作ビッキーはアクション映画が大好きである。男の子ならド派手なアクションに魅了されてしまうもの。序でに作者は、牙狼シリーズのアクションが大好物です。

(4)響、マンガも読む
──今作ビッキーは、マンガも見て強くなる。きっと読んでるのは“○上最○の弟子ケ○イチ”だと作者は妄想している。

 今回で僕が挙げるのは以上です。他に気になる点がありましたら感想に書いて下さい。今後の展開に差し支えない範囲でお答えしていきます。

 弦十郎と黎人はマブダチという設定です。2人のOTONAによって今作ビッキーの魔改造は加速する!

 そして、此度はあの方とまともに擦れ違いましたが、残念ながら響君は気付きませんでした。あぁ、もどかしい! 早くまともに再会させたい!

 今回はここで閉めさせていただきます。

 それでは、次回もお楽しみに!

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