ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第10話『旅は続く!また新たな出会い!!の巻』

 

 

 

「ガツガツガツ!ん、ぐ……っぷはぁ!食った食ったぁ!ごちそうさんっ!」

 

「はい、お粗末様。うふふ、すっかり元通りね」

 

「何言ってんだ、まだまだ全然だ。前はこの倍は食えた。痩せちまったし、胃袋も随分縮んじまった」

 

 そう言って、自分の腹を叩くロカさん――パデキアを見つけてから2ヶ月余り、病気はすっかり治り、今は元気にレイラさんのシチューを3杯も平らげている。

 

 

 パデキアの薬効は、目を見張るものがあった。

 

 煎じた薬湯を飲み続けたロカさんは、みるみる顔色が良くなっていき、1ヶ月程でほぼ病気は治った。しかし、如何せん病床に伏していて痩せ衰えた身体まではどうにもならなかった。何しろ、杖や支え無しでは歩く事もままならない程だったからな。

 

 後の1ヶ月はリハビリに費やし、今では杖も支えも無しで出歩ける。が、僅かに後遺症が残ってしまったようだ……左足に痺れがあり、少しだけ引き摺る様にしか歩けない。

 

 レイラさんが言うには、日常生活に支障はないが、前の様に戦士として戦うのは難しいだろう、との事だ。

 

 まあ、ロカさん本人は気にしていない様子だった。生きているだけ儲けものだと……。

 

 俺はロカさんが回復するまでのつもりで、レイラさんを手助けする為にネイル村に留まっている。ロカさんを看病するレイラさんの代わりに、畑を耕したり、薪を割ったり、マァムと山菜を取りに森に行ったり……。

 

 そうそう、マァムと言えば、この2ヶ月で随分と仲良くなった。色々と家の仕事をする俺の後ろをちょこちょこ追いかけて、手伝いを買って出てくる姿には、昔のヒュンケルを思い出したものだ……今頃、元気にやっているだろうか?ヒュンケルは。

 

 それはさておき……俺も妹ができた様な気になって、マァムと一緒にいるのは楽しかった。マァムは、僧侶のレイラさんの娘だけあって回復呪文の素質があるらしく、俺が少しだけ教えて最近『ホイミ』が使える様になった。初めて上手く出来た時の喜び様と言ったらなかったな。ぴょんぴょん跳ねて、俺に飛びついて来るんだもんなぁ。

 

 そんな俺達を見て、ベッドから起き上がれる様になったロカさんは――

 

「仲が良いな、お前ら。エイトなら、マァムを嫁にやっても良いぞ?いや寧ろ、貰ってくれ。それで、家に住め!」

 

 なんて事を言い出す始末……その時、マァムは真っ赤になって怒った。娘をからかうとは……全く、困ったオッサンだ。

 

 困ったついでに、ロカさんは戦士としての復帰を諦めておらず、身体を動かせる様になってから俺に、割と強引に剣の稽古の相手をさせる。しかも驚いた事に、どんどん昔の勘を取り戻していっているのだ。

 

 勿論、全盛期の力を取り戻す程には望めないだろうし、左足の不調もあるが……それでも、並の戦士とは比べ物にならない剣の腕前を誇っている。レベルやステータス的には俺が圧倒しているはずなのに、稽古の最中、何度か隙を突かれてヒヤリとしたくらいだ。

 

 だが、やはりというか……ロカさんとの稽古は俺にも中々の経験値をもたらした。

 

 

―――――――

エイト

性別:男

レベル:43

―――――――――――

E竜神王の剣(攻+137)

E布の服(守+4)

―――――――――――

力:141

素早さ:135

身の守り:75

賢さ:185

攻撃力:303

守備力:79

最大HP:435

最大MP:208

Ex:766784

――――――――――――――――――――――――――――――

剣スキル:66  『ブレイドスター』(剣 攻+25)

槍スキル:18  『槍の達人』(槍 攻+10)

ブーメラン:18  『パワフルシューター』(ブーメラン 攻+5)

格闘スキル:27  『黒帯格闘家』(素手 攻+5)

冒険心:90  『冒険者の心』(消費MP1/2)

――――――――――――――――――――――――――――――

エイト

HP:435

MP:208

Lv:43

――――――――――――――――

ホイミ ベホイミ

ベホマ ベホマズン

キアリー キアリク

リレミト ルーラ

トベルーラ トヘロス

ザオラル ギラ

ベギラマ ベギラゴン

マホトーン イオ

メガンテ

ドラゴン斬り 火炎斬り

メタル斬り 隼斬り

疾風突き 一閃突き

クロスカッター パワフルスロー

大防御 石つぶて

正拳突き 闘気弾

闘気砲

――――――――――――――――

 

 

 畑仕事やロカさんのリハビリに付き合っていたのもそうだが、俺はあのオーザムで見つけた研究所で見つけた、亡くなった薬師が研究に使っていたと思われる、種や木の実の残りを頂戴した事で、ややパワーアップした。驚いた事に、その中にはドラクエ8にあった『スキルの種』も2粒あった……どこで見つけてきたのだろうか?

 

 他にも幾つか種や木の実があったが、バッグや“ふくろ”に入れてコマンド画面で調べてみても『謎の種』『謎の木の実』としか表示されないので正体が分からず、それは置いてきた……『謎の』て……。

 

 それはさておき、パデキアによるロカさんの治療が始まった後、俺は研究所から種や木の実だけでなく、パデキアの残りと研究成果も引き取って来た。あの弱ったロカさんを、ここまでに回復させた新種のパデキアをこのまま埋もれさせてしまうのは惜しい。だから、このネイル村でその栽培を引き継げないかと思ったのだ。

 

 研究ノートを見せた時、レイラさんはとても驚いていたし、とても感心していた。そして、パデキアの栽培を引き継いで、病気や怪我に苦しむ人々の助けになりたい……亡くなった薬師の志を引き継ぎたいと言ってくれた。

 

 今、レイラさんの畑ではパデキアの苗が植えられ、研究ノートを参考に栽培がスタートしている。きっと、亡くなった薬師も喜んでいるだろう。

 

 俺に出来る事ももうなさそうだし、そろそろ旅を再開しても良い頃かも知れない――。

 

 そう思った俺は、その日の夕メシ時……ロカさん達にその事を伝えた。

 

 

「ええっ!?エイトさん、行っちゃうの!?」

 

「まあ、急な話ねえ……」

 

「おいおいエイト!お前はマァムを嫁にして家に住むんだろうが!」

 

 唐突な話に、マァムが立ち上がり、レイラさんは頬に手を当て、ロカさんはテーブルを叩いた。ちなみに、マァムを嫁にすると承諾した覚えはない。

 

「……俺は元々、ロカさんやレイラさん、それにマァムの様子を見にちょっと立ち寄るだけのつもりだったんです」

 

 本来の目的は、冒険の旅だったからな。

 

「ロカさんも元気になったし、パデキアの栽培も軌道に乗った。だから、俺はそろそろ旅に戻ろうと思うんです」

 

 あんまり長居すると、本当に離れられなくなりそうだしな。それくらいこのネイル村は、この家は居心地が良い……。

 

 だが、俺は冒険者の生き方が好きだ。自由気ままに世界中を旅して、面白い物や出来事や人々に出会うのが楽しい。何もなくても、世界を自分の足で歩き、空を飛び、海を越え、山を登る――そうしている時は、全てが充実感に満ち溢れている。

 

 旅には、俺にとって何ものにも代えがたい魅力がある。だから、こればかりは止められない。

 

「明日、ここを発ちます。今日まで、お世話になりました……」

 

 ロカさん達に頭を下げ、別れを告げる。知った人、世話になった人に一時とはいえ別れを告げるのは、やはり寂しいもんだ……。

 

 

 

 翌朝――

 

 荷物を纏めた俺を、ロカさん、レイラさん、マァムが見送りに来てくれた。

 

「何も、こんな朝早く出掛けなくても良いじゃねえか。朝メシくらい、食っていけば……」

 

「旅立ちは、早い方が良いんですよ。俺の経験上」

 

 ロカさんはまだ俺を何とか引き留めようとして、そんな事を言ってくる。俺の何をそんなに気に入ってくれたんだろうか?

 

「身体に気を付けてね。また、いつでも訪ねて来てちょうだい。これを持って行って、お弁当よ」

 

「ありがとうございます」

 

 レイラさんはそう言って、布包みを渡してくれる。この世界に米なんてないから、サンドイッチだろうか?何にしても、有難い。

 

「…………」

 

「マァム」

 

 俺は、レイラさんのスカートにしがみついて隠れているマァムに声を掛ける。

 

「マァム、エイト君にちゃんと『さよなら』を言いなさい。沢山、遊んでもらったでしょう?」

 

「……ッ……」

 

 ありゃ、余計に隠れちゃったよ……。

 

 声を掛けたレイラさんも困った風に苦笑する。

 

「仕方のない娘ね……ごめんなさいね、エイト君。あなたとお別れするのが、寂しくて堪らないのよ」

 

「いえ、いいんですよ」

 

 俺だって、マァムの気持ちは少しぐらい分かっている。寂しさは俺も感じているのだから……。

 

 マァムに目線を合わせる様にしゃがむ。

 

「マァム、元気でな。回復呪文の練習、頑張るんだぞ?」

 

「……うん」

 

「お父さんやお母さんの言う事をちゃんと聞いて、良い子にしているんだぞ?」

 

「……うん」

 

 返事はするものの、レイラさんの後ろから出てこないマァム。

 

「そうだ!今度来た時は、マァムの手料理を食べさせてくれ。楽しみにしてるからな」

 

「……うん……ぅぅ……っ!」

 

 その時、マァムがレイラさんの後ろから飛び出し、俺の首にしがみついて来た。

 

「マァム……」

 

「ほんとうに……?ほんとうに、また会いに来てくれる……っ?」

 

「ああ、勿論。必ずな」

 

「約束……?」

 

「ああ、約束だ」

 

 マァムを少し離し、小指を差し出す。

 

「あ……うんっ!」

 

 泣きそうだった顔が笑顔に変わり、マァムが俺の小指に自分の小指を絡める。この世界にも約束の“指切り”はあるのだ。

 

「ゆ~びき~りげ~んまんっ!」

 

「う~そついたらは~りせんぼんの~~ますっ!」

 

「「指きったっ!」」

 

 これで、俺はマァムと再会の約束をした事になる。この約束を破ったら、針千本よりもっと怖い、マァムの涙が俺に突き刺さる――伝説の名剣より遥かに怖い武器だ。

 

「それじゃあ、ロカさん、レイラさん、マァム……皆、元気で。『ルーラ』!」

 

 その場で『ルーラ』を唱え、俺はネイル村を飛び発った――。

 

 

 

 行き先はパプニカ王国……選んだ理由は、強いて言うなら地底魔城だ。あそこが今、どうなっているのかが少し気になった。

 

 ああいう場所は、盗賊など人間のならず者がアジトに使う場合がある。普通の人間は気味悪がって近寄らないから、怖いもの知らずのならず者には格好の隠れ家になる。そして、ならず者っていうのは平和な世の中の方が現れやすいもの……。

 

 正義の味方なんてものを気取るつもりは更々ない。いなければそれで良し、いたら……ちょっと相手にでもなってもらうか、ぐらいの気持ちだ。いやぁ、最近モンスターが全然襲いかかって来ないから、たまには実戦で腕を試したいなぁ~なんて。

 

 

 まあ、そんなちょっと悪い事を考えつつ、懐かしのパプニカ王国へ。

 

 最後に訪れたのは何ヶ月前だったか?直接、地底魔城に飛んでも良かったのだが、城下町の様子を見たかった。

 

 着いてみると、町はすっかり復興していて、多くの人々で賑わっている。魔王軍の脅威に曝されていた頃の爪痕は見られない。

 

 何より結構な事なんだが……。

 

「さあー!安いよ安いよー!!向かいのぼったくり店に行くくらいなら、ウチで買ってっとくれー!!」

 

「なんだとっ!?てめえの店なんざ、二束三文で仕入れた粗悪品を並べてるだけだろうが!!この詐欺師野郎ッ!!」

 

「何おうッ!?」

 

「やるかッ!?」

 

 平和になると、人間の浅ましさが浮き上がってくるもの……そんな風には思いたくないが、目の前で繰り広げられている商売人同士の浅ましい喧嘩を見せられると、嫌でもそう思えてしまう。町に来たのは失敗だったかもな……まあ、いつもいつも良い事や成功ばかりじゃないのも、旅というものだ。

 

 俺は、さっさと薬草を最低限補充して、さっさと城下町を出て地底魔城に向かった――。

 

 

 

 

 

「ふ~む……相変わらず陰気な場所だな」

 

 掌に留めた『ギラ』の明かりで、地底魔城の通路を歩く。

 

 城内には、ならず者はおろか鼠1匹いなかった……。魔王やその配下のモンスターがいなくなっても、染み着いた嫌な気配や匂いが、生き物を遠ざけているのかもしれない。

 

 まあ、その点、人間は鈍感だ。魔城内に住み着いている様子こそないが、俺以外に人間が入った形跡はあった。恐らく、宝でも探しに踏み入ったのだろう。かく言う俺も、内心そういう物が残ってやしないかとほんの少しだけ期待している。

 

 しかし、ほぼ隅々まで歩き回ったが、結局収穫は0……空の宝箱すら見つからなかった。チッ……!

 

 

 本当に、全く、何もなかったので、俺は『リレミト』でさっさと地底魔城を脱出――その日の宿を求めて、近くにある村を訪れた。

 

 

 だが……

 

 

「このクソガキがっ!」

 

「性懲りもなく村まで降りてきやがってッ!!」

 

「てめえみたいな薄汚え奴が、俺達の村に入って来るんじゃねえよッ!!」

 

 夕方に到着した村で、俺は奇妙な光景を目の当たりにする――村の片隅で、村の若い男達が寄り集まり、深々とフードを被った小さな子供を取り囲んで、罵倒し、殴る蹴るの暴行を加えていたのだ。

 

 妙なナリはしているが、どう見ても小さな子供じゃないか。弱々しく蹲って抵抗する様子もない子供を寄ってたかって……これは流石に見過ごせんな。

 

「やめろッ!!」

 

「「「ぐげっ!?」」」

 

 フードの子供を虐めていた男達を無造作に蹴り飛ばし、すぐに蹲る子供に駆け寄る。

 

「おい、大丈夫か!?」

 

「う、ぅぅ……」

 

 フードが深すぎて顔が見えないが、呻き声を聞く限り、大分痛めつけられている様だ。

 

「惨い事を……!待ってろ、今治してやる!『ベホイミ』!」

 

 掌をかざし、呪文を唱え、癒しの光で子供を包み込む。

 

「痛てて……な、なんだ、お前はっ!?何してやがるっ!?」

 

 後ろから、男の1人の叫び声が聞こえてくる……。俺は思わず睨むように振り向いた。

 

「……通りすがりだ。見ての通り、お前らが虐めていたこの子を治療しているんだ」

 

「よ、他所者が……余計な事するんじゃねえ!」

 

「そ、そうだそうだっ!!」

 

「黙れッ!!」

 

「「「ひっ!?」」」

 

 殺気を込めて怒鳴りつけると、男達は竦んで顔を青くする。

 

「失せろ!!この子は俺が預かるッ!!文句があるなら、俺が相手になってやってもいいんだぞ?」

 

「うっ……お、おい!行くぞ……!」

 

「あ、ああ……」

 

「チッ……!」

 

 背中の竜神王の剣の柄に手をかけて脅すと、男達は走ってそそくさと逃げていった。ふん、弱い者にしか強く出られない……典型的な小物だな。まあ、あんな連中はどうでもいい。

 

 それより、この子の手当てが先だ。

 

「…………」

 

 『ベホイミ』で傷は殆ど完治した様だが、どうやら気を失ったらしい。

 

 そのまま放置する気にはならず、俺はその子を抱きかかえる――と、その時。

 

パサ……

 

 反動で子供が被っていたフードが下がり、その顔が露わになった。

 

「っ!?この子は……!」

 

 鈍い銀色の髪、灰色の肌、尖った耳……。髪はともかく、肌の色と耳の形は人間では有り得ないものだ。

 

 そして俺は、その様な容姿の種族に心当りがある――。

 

「『魔族』だったのか……」

 

 この子が、あの男達に暴行を加えられていた理由に察しが付いた。

 

 人種差別……前世の地球でも、世界中で密かに行われていた蛮行。

 

 この世界は、魔王ハドラーによって脅かされていた。ハドラーも魔族の1人……只でさえ魔族は長命で人間より力や魔力に優れる為、潜在的に恐れられていたというのに、奴が野心を持って侵略に乗り出したせいで人間の魔族への悪感情を増大させてしまったのだ。

 

 アバンさんがハドラーを打ち倒し、世界が平和になった事で、地上で暮らす僅かな魔族達がこうして迫害を受けている……。思えば、バランの時も似た様なものだった……。

 

 世界が違っても人間のやる事が大して違わないというのは、何と言うか……嫌だな。

 

 

 胸の辺りにどんより重いものを感じつつ、俺は魔族の子供を抱えて村を出た――。

 

 

 


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