ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第12話『ラーハルトの新天地!!の巻』

 

 

 

「さあ、準備はいいか?ラーハルト」

 

「はい!エイトさん!」

 

 良い返事を返してくるラーハルト――その背中には、革製のリュックを背負っている。

 

 

 ラーハルトと出会った翌日――つまり今日、俺はラーハルトを連れてデルムリン島へ向かう。

 

 

 あそこならバラン達もいるし、ラーハルトも安心して暮らせるに違いない。

 

 昨夜、あのまま泣き疲れて眠ってしまったラーハルトと夜を明かし、今朝、出発の準備にラーハルトの家に向かった。

 

 家の状態は酷いの一言に尽きる……ラーハルトが言った通り、荒らし放題だった。何もあそこまでする事はないだろうに……。

 

 やるせない思いを抱きつつ、俺はラーハルトと共に荒された家の中から使えそうな家財を探して纏めた。

 

 そして、ラーハルトの両親の墓を建て直し、祈りを捧げ、いざ出発の時となったのだ――。

 

「よし、じゃあ俺の手をしっかり掴んでるんだぞ。あっという間に着くからな」

 

「は、はい!」

 

 差し出した右手を、ラーハルトが両手で握ってくる。昨夜の一件以降、ラーハルトは随分と俺に懐いている。ちなみに敬語を使うのは、死んだ両親にそれぞれ「尊敬できる人、目上の人にはきちんと敬語を使い、礼を尽くす様に」と躾けられていたからだそうだ。

 

 敬語を使う以外は、歳相応の少年だ。俺に、兄貴を見る弟のような目を向けてくる――ラーハルトのそういう姿に、またもヒュンケルを思い出す。ちゃんと強くなってるかな、あいつ?まあ、アバンさんに教えてもらっているのだから大丈夫か。

 

 さて、そろそろ行こう――。

 

「『ルーラ』!」

 

 光に包まれ、球となり、空へ上がり、飛ぶ――デルムリン島に向かって。

 

 

 

 時間にして約10秒以内――俺とラーハルトはデルムリン島に到着した。

 

 

「ここが、デルムリン島……」

 

 砂浜に降り立ったラーハルトが、見える範囲で島を見渡して呟く。

 

 俺も少し懐かしい……旅に出てから2ヶ月とちょっとか。気温が少し下がって涼しくなってきたし、島の木も少し紅葉し始めている。そろそろこの島も秋だな。

 

 と、いつまでも懐かしんでいる訳にもいかない。皆を呼ぶとしよう。

 

「ラーハルト、これからこの島の仲間達を呼ぶから、ちゃんと挨拶するんだぞ?こういう事は、第一印象が大事だからな」

 

「は、はい。あの、エイトさん?」

 

「なんだ?」

 

「この島の仲間って……モンスター、なんですよね?」

 

 ここに来る前に、ラーハルトにはこの島の事は話してある――魔王の邪悪な意志から解き放たれたモンスター達の隠れ住む島、その中にただ1組だけ、事情があって人間社会から離れた人間の家族(バランは『竜の騎士』だが、気にするな)が暮らす島だと。

 

「ああ、そうだ。昨日も言ったが、皆、良い奴らだぞ?モンスター達のリーダーで長老のブラスっていう鬼面道士が、また良い人……ヒト?……良いモンスターでな!モンスターじゃないのも3人いるが、そっちも良い人達だ!お前もきっと、ここが気に入る」

 

「……そう、でしょうか?」

 

 まだ不安そうだな。早いトコ、皆と顔合わせさせるか。

 

「勿論だ。じゃあ呼ぶぞ、『ピィーーーー』!!」

 

 右手の親指と人差し指を口に当て、吹き鳴らす――これは『集合の指笛』、俺が帰って来た事を島のモンスター達に報せる為に吹いた。指笛の吹き方を少し変えると、モンスターをそれぞれ個別に呼び出す笛にもなるのだが……俺は全員集合の吹き方しか出来ない。吹き分けが難しいんだよ……。

 

ドドドドドドド……!!

 

 指笛を拭いてすぐに、地鳴りにも聞こえる足音が近づいて来るのが聞こえてきた。皆、相変わらず元気そうだ。

 

「わ、わ……!?」

 

 ラーハルトが周囲を警戒し始める。その内に、浜に島のモンスター達が集合した。

 

 森の中からはスライム、一角ウサギ、大アリクイ、フロッガー、大蠍(おおさそり)、キャタピラー、ゴールドマン等など……。空からは人面蝶、ドラキー、蠍蜂(さそりばち)、ホイミスライム、パピラス、キメラ等など……。海からもマーマン、軍隊ガニ、大王イカ等など……。

 

『ウオッ!ウオォ!』『ギャッギャッ!』『キーキー!』

 

 皆は俺とラーハルトを取り囲むと、各々軽快に飛び跳ねながら鳴き声を上げる。歓迎してくれているのだ。

 

「皆!元気そうだな!」

 

『ウオォー!』『ギギャァ!』『キキー!』

 

 うん、ばっちり元気だ。そうして島のモンスター達と再会を喜んでいると――

 

「やはりエイト君じゃったか!」

 

 聞き覚えのある、喉の奥から絞り出した様な声が聞こえ、モンスター達が左右に別れた。そこには、穏やかな表情の鬼面道士ブラスさん、それに長袖の布の服を着たバランに、ダイを抱いたソアラもいた。

 

「ブラスさん!バラン!ソアラ!久しぶり!元気だったかっ?」

 

「ああ、勿論じゃとも!エイト君も元気そうで何よりじゃ!」

 

「おお、エイト!よく帰って来てくれた!」

 

「エイトさん!おかえりなさい!」

 

 順番に握手を交わし、俺は旧友達との再会を喜んだ。

 

「む?エイト、その少年は……?」

 

 おっと、いかん!バランに言われて思い出した。今日はこの為に来たんだった……。

 

「ああ、紹介するよ。ラーハルト、こっちへ」

 

「は、はい……」

 

 返事をすると、ラーハルトは俯いたまま俺の隣にやって来た。

 

「……魔族か」

 

「……っ」ビク

 

 バランが言うと、ラーハルトの身体が震える。

 

「正確には、魔族と人間の混血児だ」

 

「!……なるほど、何か訳ありの様だな。エイト、聞かせてくれるか?」

 

「勿論、その為に連れて来たんだ」

 

「それなら、こんな場所で立ち話もなんじゃ。わしの家でお茶でも飲みながら話すとしよう」

 

 

 ブラスさんの提案で俺達は一路、ブラスさんの家に向かう事となった――。

 

 

 話し合いに立ち合うのは、ブラスさん、バラン、ソアラ、俺、ラーハルトの5人――モンスター達は解散し、ダイは揺り籠の中で眠っている。

 

「さて……それでは聞かせてくれ、エイト。ラーハルトをここへ連れてきた理由を……」

 

「ああ……」

 

 バランに促され、俺は順を追って事情を話した……。

 

 村で乱暴されていたのを保護した事……。ラーハルトが魔族の父親と人間の母親との間に生まれた子である事……。両親が早くに亡くなり、ラーハルトが今日まで1年近く、たった1人で生きてきた事……。魔王ハドラーの侵略によって惹起された魔族への迫害、それによってラーハルトが受けてきた苦痛の数々……。

 

 話が進む程に、バランやブラスさんの表情が険しくなり、ソアラは悲しそうな表情で俯いていった……。

 

「なんと……なんという自分勝手な生き物なのだ!人間は……!」

 

「あなた……」

 

 堪りかねた様に絞り出されたバランの言葉で、ソアラの表情に悲しみが増す。ソアラにしてみれば、バランに人間を嫌ってほしくない……憎んでほしくないに違いない。

 

「私は……私は……そんな連中の為に、冥竜王と命をかけて戦ったというのか……!?人間が、こんな……こんな種族だと知っておれば「バランッ!!」……っ!?」

 

 湧き起こる激情にワナワナと身を震わせながら呟いていたバランを、俺は止める為に叫んだ。その先は、この場で言って欲しくなかった。

 

「お前の気持ちは、ある程度俺にも分かる……俺だって、人間の醜い面を2度も目の当たりにしたんだからな。だが、忘れないでくれ……俺も、ソアラも、人間なんだ」

 

「っ!」

 

「人間全てが、自分勝手で汚い生き物じゃない……。そう決めつけてしまったら、お前やラーハルトを迫害した奴らと何も変わらないだろう?」

 

「っ……す、すまない、そんなつもりでは……」

 

「いや、分かってくれれば良いんだ。大体、お前の怒りは尤もだ……人間の俺だってそういう奴らには腹が立つんだから」

 

 きっと俺とソアラが考えていた事は同じはずだ。自分が人間だからという事ではなく、人間全てを悪いと決めつけて、裏切られたと思い絶望してほしくない……。バランはソアラにとって愛する夫、俺にとって大切な親友……傷ついてほしくないと思うのは、自然な事のはずだ。

 

「あ、あの……」

 

 そこでラーハルトが、おずおずと声を上げる。

 

「ん?どうした、ラーハルト?」

 

「あ、その……エイトさん、今、バランさんが迫害されたって、言いましたよね?」

 

「ああ、言ったが……」

 

「バランさんは、人間なのに……どうして迫害されたんですか?」

 

「んっ?あ!ああ~そういう事か!」

 

 いかんいかん、言い忘れていた。

 

「バラン、言っても大丈夫か?」

 

「問題ない」

 

 バランの了解を得て、俺はラーハルトに説明する。

 

「ラーハルト。バランは、実は人間族ではないんだ」

 

「え?でも……」

 

「姿はそう見えるかもしれないが、彼は『竜の騎士』と呼ばれる存在なんだ」

 

「ど、『竜の騎士』!?大昔、神々によって生み出されたという伝説の……!?」

 

「知ってるのか?」

 

「昔、魔族の父が生きていた時に聞いた事があるんです。野心を持って世界を乱す輩が現れると、それを退治する為に現れる無敵の超戦士がいるって……」

 

 ふむ、ラーハルトの親父さんは学者か何かだったんだろうか?それとも、こういう話は長命な魔族の方が詳しいんだろうか?

 

「確か、1つの時代に『竜の騎士』はただ1人しかいないとか……」

 

「その通りだ。そして、この時代の『竜の騎士』が、この私なのだ」

 

「す、凄い……!」

 

 ラーハルトは尊敬と憧れの眼差しでバランを見つめ始めた。まるっきり、ヒーローを見つめる少年の瞳だ。

 

「……まあ、『竜の騎士』は置いておくとしてだ。ブラスさん、バラン、ソアラ、皆に頼みがある」

 

「皆まで言うな、エイト」

 

 バランがそう言って、俺の言葉を遮る。そして、ラーハルトに穏やかな表情を向けた。

 

「ラーハルト、と言ったな。君さえ良ければ、私達と一緒にこのデルムリン島で暮らさないか?」

 

「え……良いんですか?俺が、ここにいても……」

 

「何を言うの?良いに決まっているじゃないの!ねえ、あなた?ブラス様?」

 

 ソアラが尋ねると、バランもブラスさんも笑顔で頷く。

 

「ああ、勿論だ」

 

「わしも異論はありませんわい。ラーハルト君、わしはこの島の住人を代表して、君を歓迎するぞ」

 

「っ……!」

 

 何の迷いもなく受け入れてくれるバラン達に、ラーハルトの目が潤む。その潤んだ目で、隣の俺を見てきた。

 

 だから、俺も頷いて見せる。

 

「な?俺の言った通り、お前を受け入れてくれただろう?」

 

「……っ、うん……ぅ、ぅぅ……!」

 

 膝の上で両手を握りしめ、肩を震わせるラーハルト。俯いたその顔から、滴が落ちる。

 

「……良く来てくれましたね。坊や、ここがあなたの新しいお家……そして、私達はあなたの新しい家族よ」

 

 ソアラはラーハルトを抱きしめ、優しく声をかけた。

 

「っ……ぅぅ、うわぁぁぁ~~~!!」

 

 失った愛情を再び与えられ、ラーハルトはソアラにしがみ付いて泣いた。そのラーハルトの背中を、ソアラは優しくさすり、包み込むように抱きしめ続ける。

 

 俺も、バランも、ブラスさんも……その光景に、自然と笑みが零れていた。

 

 

 ラーハルトを、ここに連れて来て良かった……。俺の冒険の旅も、中々捨てたもんじゃないな。

 

 

 


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