ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第13話『『死の大地』と『破邪の洞窟』!!の巻』

 

 

 

 ラーハルトを連れてきた翌日――ラーハルトの事はバラン達に任せて、俺は早々に旅に戻った。

 

 旅立ちの時は、皆で見送りに来てくれた。ブラスさん、バラン、ソアラ、ソアラに抱かれてダイもいたし、ラーハルトも一緒に見送ってくれた。

 

 ラーハルトの奴、憧れの『竜の騎士』だからってバランの事を『バラン様』と呼んで困らせていた。ソアラとダイの事も様付けで呼び、まるで家来にでもなったかのような振る舞いをして、止めろと言っても頑として譲らなかった為、やはり苦笑されていた。

 

 唯一、ブラスさんは『ブラス長老』と呼ばれて嬉しそうだった……まあ、ブラスさんは事実デルムリン島の長老だから、そう呼ぶのは何もおかしくないがな。

 

 俺の事も、どうやら尊敬してくれているらしいが、俺は様付けを免れた。どういう基準なのかは不明だが、多分バランが神々に遣わされた『竜の騎士』で、ソアラとダイはその家族だからじゃないかと推測する。

 

 まあ、幾らか不安要素はあるが、あの調子なら上手くやっていくだろう。数ヶ月に1回ぐらいの頻度で、様子を見に行く事にする。

 

 

 そんな訳で、俺は今や生き甲斐となった冒険の旅――そろそろ、どこかダンジョンなど探検したいところだ。

 

 

 しかし、そうは言ってもそんな都合よくダンジョンなんてありはしない。魔王亡き後の『地底魔城』は、1度入って隅々までマッピングも済んでいる上に、宝どころか何1つ面白い物がなかった……。

 

 少なくともラインリバー大陸・ホルキア大陸・マルノーラ大陸には、もう目ぼしいダンジョンはない。

 

 となれば、残るはギルドメイン大陸と『死の大地』……そこで俺は『死の大地』を選んだ。

 

 あそこは誰も足を踏み入れない、或いは踏み入れて戻ってきた者がいないという謎の土地……1度、対岸から眺めた事はあったが、あの時はあの島の不気味さに負けて、踏み込む気になれなかった。

 

 現在の俺のレベルは43――並大抵のモンスターには負けない自信がある。慎重に周囲を警戒していれば、踏み込んでいきなり死ぬ事はない……はずだ。

 

 うん、一応、竜神王シリーズフル装備で行こう。

 

 

 という訳で、俺は全身を竜神王の装備で固め、1度『ルーラ』でカール王国へ飛び、『トベルーラ』で『死の大地』へ上陸した――。

 

 

「……想像以上に、ヤバい場所だな……ここは」

 

 降り立ってみて、改めてこの島の異様さに冷や汗が止まらない……。

 

 空は黒に近い灰色の雲で覆われ……、草1本、虫1匹いやしない……、空気もまるで粘り気があるかのように息苦しい。島全体を、異様な殺気が満たしている……常に全方位から刺す様な視線を感じる気がして落ち着けない。

 

「地底魔城が遊園地のお化け屋敷に思えるな……」

 

 そのくらい、この場所は異様だ。冷や汗と悪寒が止まらない……!

 

「これ以上はダメだ……帰ろう!」

 

 

 遂に雰囲気に耐えきれなくなった俺は、『ルーラ』で早々に『死の大地』から脱出した。

 

 後になって冷静に考えて、分かった事が1つある……あの『死の大地』を取り巻いているのは、人や動物を遠ざける1種の魔力結界だ。しかも、使われている魔力は俗に『邪悪』とされる類いの力……。俺も多少魔法を使えるようになってから、そういう力の感じを掴める様になった。

 

 あそこには、何か恐るべき存在が潜んでいる……地獄の帝王か、はたまた恐怖の大魔王か……。

 

 何にしろ、不安をかき立てるには充分――いずれ地上に現れ、また魔王ハドラーの様に世界を脅かすかもしれない。もしかしたら、それと戦うのがダイで……だから『ダイの大冒険』なのかも知れない。

 

 ダイは、親友バランの息子……仮にダイが大きくなってから、その大冒険が始まるのだとしても、15歳も歳下のダイ1人に全てを背負わせるのは歳上の男のする事ではない。

 

 折角、戦える様になったんだ。未来の勇者パーティに加わって戦うっていうのも面白い。やや不純な動機だが、それが結果的にダイの手助けになるのなら問題ないだろう。よし、決めた!

 

 そうと決まれば今から修業して、来るかもしれない戦いの日に備えよう――。

 

 

 と、決意したのは良いが、どこでどう修業したものか……出来れば、実戦で鍛えたいところだ。

 

 だが、魔王ハドラーが倒れて以来、モンスターは大人しくなり、地上での実戦は望めない。

 

 山に籠って自主トレーニングは……正直、微妙だ。単純な筋トレや剣・槍・ブーメラン・拳の素振りなら、この3年の間もやったが、大した成果は上がらなかった。バランやロカさんとの実戦に近い稽古の方が、遥かに多くの経験値を得られた。

 

 だからと言って、平和に暮らすバランやロカさんの手を煩わせる気にはなれない。

 

「はぁ、困ったなぁ……モグモグ」

 

 カール王国の酒場にて、夕飯を食べながら考えを巡らせるが、出るのは溜め息ばかり……良い考えなど出やしない。地道に自主トレするしかないかなぁ……。

 

「モグモグ……はぁ」

 

「なんだい、景気が悪そうだなぁ、兄ちゃん?」

 

 溜め息を吐いた俺に、この酒場のマスター……というかオヤジさんが話し掛けてきた。

 

「いや、ちょっと行き詰まってる事がありまして……」

 

「行き詰まってる事?なんだい、そりゃ?良ければ話してみな」

 

「いや、でも……」

 

「若ぇのに遠慮すんなって。ここは酒場、呑んで悩みや愚痴を吐き出す場所だぜ」

 

 そこまで言われたら、黙っている方が失礼か……なら、ダメ元で相談してみるのも悪くない。

 

「え~と……ちょっと思うところありまして、身体を鍛えたいと思ってるんです」

 

「ふんふん、そりゃ感心だ!男は強くなけりゃな!」

 

「だけど……不謹慎な話ですが、勇者が魔王を倒して世界が平和になって、モンスターも大人しくなって……実戦での修業が出来なくなっちゃって、どうしたもんかなぁ~って悩んでた次第で……」

 

「なるほど、確かに不謹慎な話だ。それに贅沢な悩みだな」

 

「はあ、まあ……」

 

「だが、若ぇ内はそのぐらいで良いのさ!そんな兄ちゃんに、打って付けの場所がある!」

 

「マジすか!?」

 

「おう、マジだ!」

 

 なんて都合の良い……。

 

「ただし、その場所に行くからには命を懸ける覚悟が要る……。半端な覚悟で踏み入れば、あっという間にあの世行きだ……それでも行くかい?」

 

 唐突に真剣な表情をするオヤジさん……どうやら相当危ない場所の様だ。

 

「……どこなんですか?」

 

「『破邪の洞窟』」

 

「破邪の、洞窟……?」

 

 カール王国には何度か来ているが、そんな洞窟の話は聞いた事がなかったな。

 

「このカール王国の東の森に古くからある深い深いダンジョンさ。一体、地下何階まであるのか、その最深部に到達できた者は過去にいない。そもそも、最深部なんてもんがあるのかどうかも分からない、未だに全容が解明されない謎のダンジョンだ。中にはモンスター達がウヨウヨしてて、踏み入った者の行く手を阻む。しかも、下へ降りれば降りる程、モンスターは強力になっていく」

 

「モンスターが襲って来るんですか?魔王が死んだのに?」

 

「洞窟内にいるモンスター共は、何故か魔王と関係なく侵入者に襲いかかるのさ。一説には、それが神の試練の1つだとも言われている」

 

「神の試練?」

 

「あそこは大昔、人間の神様が作ったと言われてんのさ。各階に1つずつ呪文契約の魔法陣があって、これも下の階ほど強力な呪文になっていくんだ。モンスターはその呪文を習得するに足る実力があるか否かをテストする為にいるって言われてる。まあ、真相は分からんがね」

 

 なるほど、地上にいるモンスターとは全く別の存在と言っても良い訳だ。

 

 それにしても……。

 

「オヤジさん、妙に詳しいですね……?」

 

「ははは、今でこそこんな場末の酒場のオヤジだが、俺も若い頃はいっぱしの戦士として仲間とパーティを組んでたんだよ。で、腕試しにとその仲間と『破邪の洞窟』に挑んだのさ。……呆気なく、叩き出されたがね」

 

 そう言ってオヤジさんは、自嘲した。

 

「だから、兄ちゃん。これはあの洞窟に挑んだ先輩としての忠告だ。覚悟がないなら、あそこに潜るのは止めておきな。潜るつもりなら、しっかりと準備をしてから行け。そして……己の力量をしっかりと把握して、無理は絶対にするな。あそこは『リレミト』が封じられちまうからな、帰りも歩いて帰らんにゃならん。キツいと思ったら即座に引き返せ」

 

「ご忠告ありがとう、オヤジさん。色々と参考になりました」

 

「なぁに、良いって事よ。ああ、そうだ!俺が昔潜った時に仲間が作ったマップがあるんだが、写しで良ければ持って行くかい?」

 

「いえ、いいです。マップは自分で作りますから」

 

 こういう事は自分でやった方が楽しい。

 

「そうかい?じゃあ、まあ、程々に頑張りなよ」

 

「ありがとう、オヤジさん。それと、ごちそうさま」

 

 テーブルにお代を置き、俺は酒場を出た。

 

 準備が必要というのなら、しっかりしなければ……食糧、薬草、マップ用のノート……残りのゴールドは全て使ってしまおう。元々、大して残っていなかったし、『破邪の洞窟』にはモンスターが襲いかかって来るというのなら、倒していけばまた貯まる。

 

 かなり深いダンジョンらしいから、長期戦の構えで挑む。出てきた時、どんな敵でも倒せるほどの力を付けているのが理想だな。

 

 

 

 ホテルにて夜を明かし、俺は商店を巡って必要な道具や食糧をゴールドが許す限り集めて“ふくろ”に詰め込んだ。

 

 そして正午を待たず、俺はカール王国の街を出て、酒場のオヤジさんから教えてもらった道を進み、『破邪の洞窟』へ向かった――。

 

 

ゴオォォォォ……

 

「おお……雰囲気あるなぁ」

 

 歩くこと数十分……俺は森の中に口を開いた巨大な洞窟――『破邪の洞窟』の前に立っていた。

 

 地下へと続く真っ暗な穴……天井から下がる鍾乳石がまるで化け物の牙の様だ。半端な冒険者は食い殺されて洞窟の肥やしになる……って感じか。

 

 先に入って倒れた冒険者の持ち物やゴールド、それに太古の秘宝なんかもあるんじゃないかとオヤジさんは言っていた。

 

 それを探してみるのも面白い……ただのレベルアップの為だけにダンジョンに潜るのでは面白味に欠けるからな。宝探しも冒険の醍醐味だ。

 

「さて……それじゃあ、行くとするか」

 

 『死の大地』同様、全身を龍神王装備で固め、俺は洞窟へと足を踏み込んだ――。

 

 

 


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