ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第14話『嵐の前の平穏?友と交わす杯!の巻』

 

 

 

「『超パワフルスロー』!!」

 

 力を込めたメタルウイングの一投――

 

「ギィッ!?」「ガギァ!?」「ギャギャアッ!?」

 

 鋭く回転する最強のブーメランが、襲ってきたモンスター――短刀と鞭を持ち翼が生えた悪魔、バルログ達を纏めて両断する。

 

 『破邪の洞窟』に潜って何日か目……現在、俺は地下100階を攻略中だ――。

 

 

 真っ暗で広大な地下迷宮……俺は襲いかかってくるモンスターを撃破しつつ、1フロア毎に詳細なマップを付けながら進んだ。内部は石畳の通路が右へ左へと複雑に入り組んでおり、1フロアのマップを完成させるのにかなり時間が掛かった……。手元に時計がない上、洞窟内では空など見えるはずもなく正確ではないが、大体1フロア当たり平均1~3日ぐらいだと思う。その感覚で単純計算すると、大凡『破邪の洞窟』に潜ってから1年近くが経過した事になるか……。

 

 前情報にあった様に、各フロアに1つの呪文契約の魔法陣――これは地下50階までの話。それ以降は、ただひたすら迷宮が広がるのみだ。色々と知った呪文や、聞いた事もない呪文が幾つもあったが、ここまでの道のりで俺が覚えられた呪文は合流転移呪文『リリルーラ』のみ……他は適正がなくて覚えられなかった。

 

 洞窟内の迷宮は、下に降りれば降りる程、複雑さを増し、出現するモンスターのレベルも上がり強力になっていく。俺の場合、各フロアの攻略に時間をかけている事もあってモンスターとの戦闘回数も多く、ぐんぐんレベルが上がっていった。

 

 今、現在の俺のステータスは――

 

 

―――――――

エイト

性別:男

レベル:81

―――――――――――――

Eメタルウイング(攻+70)

E竜神の盾 (守+60)

E竜神の鎧(守+110)

E竜神の兜(守+50)

―――――――――――――

力:323

素早さ:205

身の守り:166

賢さ:322

攻撃力:418

守備力:386

最大HP:697

最大MP:385

Ex:4946176

――――――――――――――――――――――――――――――――

剣スキル:66  『ブレイドスター』(剣 攻+25)

槍スキル:45  『スターランサー』(槍 攻+10 会心率UP)

ブーメラン:52  『シューティングロード』(ブーメラン 攻+15)

格闘スキル:52  『格闘の師範』(素手 攻+20 会心率UP)

冒険心:100  『真の冒険者』(消費MP1/2)

――――――――――――――――――――――――――――――――

エイト

HP:625

MP:189

Lv:81

―――――――――――――――――

ホイミ ベホイミ

ベホマ ベホマズン

キアリー キアリク

リレミト ルーラ

トベルーラ リリルーラ

トヘロス ザオラル

ギラ ベギラマ

ベギラゴン マホトーン

イオ イオラ

メガンテ

ドラゴン斬り 火炎斬り

メタル斬り 隼斬り

アルテマソード 疾風突き

一閃突き 五月雨突き

薙ぎ払い クロスカッター

バーニングバード 超パワフルスロー

大防御 石つぶて

正拳突き 真空波

闘気弾 闘気砲

―――――――――――――――――

 

 

 剣スキル称号『ブレイドスター』の“剣装備時攻撃力+25”、槍スキル称号『槍の達人』の“槍装備時攻撃力+10”と『伝説の槍使い』の“槍装備時会心率上昇”、ブーメラン称号『シューティングナイト』の“ブーメラン装備時攻撃力+25”、格闘スキル称号『格闘界の超新星』の“素手時攻撃力+20”と『格闘の師範』の“素手時会心率上昇”、冒険心称号『冒険者の心』の“消費MP1/2”――以上の常時スキルが加わっている。

 

 冒険心のスキルで最後に覚えたのは『イオラ』とドラクエ7の特技『アルテマソード』だった。本来の勇気のスキルだと『ギガデイン』と『ギガスラッシュ』、剣スキルも100だったら『ギガブレイク』を覚えられるはずなんだが、差し替えられている上に剣スキルが足りない。『ギガブレイク』だとバランと被るから、多分その辺りも何かしら別の技に差し替えられているんだろう。

 

 たった1年で強くなり過ぎ?いやいや、考えてみてほしい。この1年の間、1日の7割強がモンスターとの戦闘だったのだ……それを生き抜いて、強くならない方がどうかしている。まあ、確かに強くなり過ぎてしまった感は否めない……今なら、暗黒神ラプソーンとも互角に戦えそうな気がする。とはいえ、強くなっておいて損はないだろう。

 

 さて、俺の事はこのぐらいにして……話を続けよう。

 

 この『破邪の洞窟』、地下50階を過ぎるともうほとんど踏み入った人間はいないらしく、宝箱も幾つか見つけた。通過したフロアの広さに対すると決して多くはない数だが、中に入っていた物は有益な物が多かった。

 

 変化の杖、賢者の石、銀の竪琴……有名ドコロの他にも、少量のゴールドや普通の薬草類が入っていた事もあったが、特筆すべきはそんなところだろう。あと、幾つか見た事もない変なアイテムもあったが……訳の分からない物は持ち出す気になれなかったんで宝箱に戻して放置してきた。

 

 正直、変化の杖が手に入っただけで俺としては充分――俺は呪文適正上、『モシャス』は覚えられないからな。変身って、密かに憧れていたんだ♪

 

 と、まあ、ここまでの道のりはそんな感じだ。

 

 それにしても……。

 

「一体、どこまで続いてるんだ?この洞窟は……」

 

 地下100階……ここまで潜ったというのに、当たり前の様に下に続く階段がある。洞窟内の様子も特に最初から変化がなくて終わりが見えてこない。食糧も残り少なくなってきた……そろそろ探索を打ち切った方が良いかも知れない。

 

 マップがあるから、帰りは一直線に帰れる。そう時間は掛からない。更に奥まで潜るにしても、1度食糧を補充しなければ流石に厳しい。

 

 それに……もう1年近くバラン達に会っていない。皆が俺の事を心配してくれているかも知れないし、俺自身も彼らが懐かしくなってきた……。

 

「……うん。地下100階でキリも良いし、やっぱり1度地上に戻ろう!」

 

 1度懐かしくなると無性に会いたくなってきた。

 

 俺は探索を打ち切り、地上へ向かって来た道を戻った――。

 

 

 

 そして、また何日か過ぎ……

 

 

 

「うわっ!?眩しいっ!」

 

 地上に戻ってきた俺は、何より先ず太陽の光に目が眩んだ。

 

 長いこと暗い洞窟にいた所為で、目が光に弱くなってしまったらしい。まあ、すぐに元に戻るだろう。

 

「っ……さて、とりあえず――」

 

プ~ン……

 

「……身体洗うか」

 

 考えてみれば、何百日も風呂に入らず、タオルで拭くだけで済ませてきたのだ。髪も伸ばしっ放しだ……このままじゃあ人前になど出られない。

 

 

 俺は近くの川へ向かい、身体から服から下着から全て纏めて念入りに洗った。

 

 流石に自分で散髪は出来ないので、紐で頭の後ろで纏めて縛り、残っていた食糧で簡単な食事を取り、久しぶりの地上の空気を全r……全身で堪能した――。

 

 

 

 乾いた服を着込み、臭いも取れてさっぱりしたところで先ずはカール王国の街へ――俺が何日ぐらい洞窟に潜っていたのかを知る為だ。

 

 あの酒場のオヤジさんに会うのが良いだろう。俺は『破邪の洞窟』に入る前に行った酒場へ向かった。

 

 

「いらっしゃ……っ!?なんだ!兄ちゃん生きてたのか!!」

 

「来て早々『生きてたのか!!』はないでしょうよ、オヤジさん……」

 

 それにしてもよく覚えていたな、俺の顔……。

 

「しょうがねえだろ、お前さんが『破邪の洞窟』に行くって言って1年以上経ったんだ。そりゃ死んだかと思うわ」

 

 失礼な……。

 

「まあ、その事は良いですよ。ところでオヤジさん、さっき『1年以上』って言ってましたが、前に俺がここに来てから正確に何日経ちました?」

 

「ん?えーと、あれは去年の秋頃だったから……ひい、ふう、みい……俺の記憶が確かなら、あれから1年と18日だな」

 

 378日間か……結構潜っていたな。

 

「で?兄ちゃん、どうだった?『破邪の洞窟』は?どこまで潜った?」

 

 オヤジさんが興味津々な様子で聞いてくる。

 

「誰にも言わないで下さいよ?」

 

「安心しな、俺は口が堅い方だ」

 

「じゃあ……地下100階です」

 

「……ハハハ!兄ちゃん、見栄を張りてえ気持ちは分かるが、そりゃあ無理があらぁ!」

 

「はい、これ」

 

 俺はカウンターにマップを描いた分厚いノートを置く。

 

「ん?なんだい、こりゃ?」

 

「俺が書いた『破邪の洞窟』のマップ」

 

「ほう……」

 

 オヤジさんはノートを受け取ると、徐に頁を捲っていく……。

 

「……っ?…………!?」

 

 ノートの頁を捲る毎に、オヤジさんの顔が面白くなっていく。目玉が飛び出して、鼻水垂らし始めた。

 

「お、お、お前さんッ……まさか、ホントに……!?」

 

「信じる信じないはお任せします」

 

 ちなみにマップには、通路だけでなく、地下50階までの各階にある呪文契約陣、見つけた宝箱の位置と中身、落とし穴や人食い箱・ミミックなどの罠の場所まで詳細に書き込んである。

 

「……兄ちゃん、何者だい?」

 

「フリーの冒険家です」

 

「はあ……とんでもねえ冒険家がいたもんだぜ、全く」

 

 そう言ってオヤジさんがノートを返してきた。

 

「しかし兄ちゃん、そのマップ、公表したりしねえのか?名が売れるし、王宮の目に止まれば、きっと騎士にでも取り立ててもらえるぜ?」

 

「興味がありません」

 

 騎士だの王宮だの、そんな堅苦しい所でなど働きたくない。俺は自由が良いんだ。

 

「はあ~、無欲なこった」

 

「欲しいものが違うだけですよ」

 

「なるほどな」

 

 そうしてオヤジさんと他愛ない会話を交わし、俺は久しぶりのまともな食事にあり付いた。洞窟内では、簡単な料理や保存食ばかりだったから、オヤジさんの料理は非常に美味かった。

 

 あと、オヤジさんから聞いた話なんだが、どうもアルキード王国の情勢が不安定になっているらしい。なんでも、王女――つまりソアラがいなくなって空いた王位継承権を巡って、国内の有力者が幾つかの派閥に別れて争っているそうだ……しょうもない連中だ。俺はあの国嫌いだし、どうなろうと知った事ではないがな。

 

 他には特に気になる情報はなかった。世界は変わらず平和という事だ。

 

 しかし……だから尚更、あの『死の大地』を包んでいた邪悪な気配が気に掛かる。あれを感じた後では、この平和な日々にすら嵐の前の静けさにも似た緊張感が漂っている気になる……。

 

 バラン達の様子を見たら、もう1度『破邪の洞窟』に入ろう。仕組みは分からないが、あそこはどうやら無限にモンスターが現れるらしいから、俺の修業の場には打って付けだ。

 

 新たな戦いがあるにしろないにしろ、強くなっておくに越した事はない。

 

 それにしても最近の俺は、我ながら強くなる事に貪欲だな。まるでどこぞの戦闘民族の様だ。修業して強くなるのが楽しくて仕方ない。

 

 だがしかし、驕ってはいけない。良い気になって調子に乗った奴は碌な目に遭わないというのが世の常だ。

 

 心のバランスを取りつつ、俺はお代を払って酒場を後にした――。

 

 

 

 

 

≪SIDE:ラーハルト≫

 

ザクッ!ザクッ!

 

「ラーハルト、キリの良いところで一休みしよう」

 

「はい、バラン様!」

 

 俺は今、バラン様と一緒に畑仕事をしている。バラン様、ソアラ様、ディーノ様、ブラス長老、そして俺の日々の糧を得る為の大事な仕事だ。

 

 畑仕事は、前の家でもやっていた。俺自身が1人で生きる為の糧を得る為に……だけど、あの時と今では鍬を持つ手に入る力が全然違う。今はこうして畑を耕しているのが心から楽しい、充実している。

 

 バラン様もソアラ様もブラス長老も、島のモンスター達でさえ優しい奴らばかりだ。誰も俺を魔族だからって虐めたりしない。

 

 村の近くに暮らしていた時、俺は本当に独りぼっちだった……。村の連中は、誰もが俺に汚いものを見る様な目を向けていた。家が壊されたり、折角育てた野菜が踏みつぶされたりは日常茶飯事……そういうものだ、仕方がないんだと割り切って、諦めるばかりの毎日だった。

 

 唯一の味方だった母さんが死んでからというもの……本当は、寂しかった。寂しくて、辛くて、いっそ死んでしまいたかった……。

 

 だからあの日、父さんと母さんの墓が壊されたあの日……俺は爆発したんだ。

 

『もう俺は独りぼっちだ!生きてる意味なんてないんだ!だったらせめて、父さんと母さんの墓を壊した奴らに仕返ししてやるッ!!』

 

 結局は返り討ちにあって、逆に痛めつけられた……。

 

 村の奴らに一矢報いる事も出来ず、ただ痛めつけられ、もう死ぬしかないかとまた諦めかけた時、俺を助けてくれたのが偶然村に立ち寄ったエイトさんだった。

 

 エイトさんは、俺を魔族と分かっても嫌な顔ひとつせず、俺の話を聞いてくれた。思い出すと恥ずかしいけど、両親以外で初めて俺を受け入れてくれたエイトさんに、俺は泣いて縋りついてしまったんだよな……。

 

 そして、俺はエイトさんにこのデルムリン島に連れて来てもらった。

 

 エイトさんは、俺に生きる場所を与えてくれた。俺を救ってくれた大恩人だ。

 

「……エイトさん、今頃どうしているかな?」

 

 思い出すと、会いたくなってくる。最後に会った時は『2、3ヶ月に1度くらいは顔を出す』って言っていたのに、島を飛び出して行ってからもう1年以上になる……。

 

 バラン様は「きっと冒険で忙しいのだろう。エイトなら心配ない」と仰っていたが、やっぱり気になっているみたいだ。時々、空を見上げて難しい顔をしている事がある。

 

 確かに、エイトさんが強いという事は俺も分かっている。俺自身会って薄々感じていたし、あの伝説の超戦士『竜の騎士』であるバラン様がお認めになる程の人だ。

 

 それでも心配になってしまう……エイトさんに会えなくなるなんて嫌だ。だから、会えない時間が長いとどうしても不安になってしまうんだ。俺も、バラン様もきっとそうなんだ。

 

ピィーーーー……!

 

「っ!?これは……!」

 

 『集合の指笛』……!島のモンスター達を集める為に吹かれる合図、音は遠くから……入江の方から聞こえてきた。

 

 これを知っているのはこの島の住人であるブラス長老、バラン様、ソアラ様、俺、そしてエイトさんだけ……。ソアラ様はディーノ様と家にいらっしゃるし、バラン様はすぐそこにいらっしゃる。ブラス長老も、長老の家にいらっしゃるはず……という事は!

 

「バラン様!」

 

「うむ!きっとそうだ!ラーハルト、ソアラに知らせて来てくれ!私は先に行って確かめる!」

 

「かしこまりました!」

 

 そして俺は家へと走り、バラン様は『トベルーラ』で飛んで行かれた。

 

「エイトさんが……!エイトさんが、帰って来たぁ!!」

 

 俺はつい嬉しくて、その場で跳び上がってしまった――。

 

 

 

≪SIDE:OUT≫

 

 

 『集合の指笛』を吹いて帰還を報せると、バランを初め、島中の皆が俺を出迎え、歓迎してくれた。

 

 が、やはり1年以上ご無沙汰していた事で、大分心配を掛けていた様で、バランやブラスさんからお小言を貰ってしまった。しかし、久しぶりの皆が元気で何よりだ。

 

 バランは少し髭が伸びていた。ソアラは相変わらず綺麗なままだ。ダイも大きくなって、もうハイハイで元気に動き回れる様になっていた。ラーハルトは、表情が活き活きして逞しくなっていた。ブラスさんは全く変わっておらず、島の様子も変わらず平和――何よりだ。

 

 その夜はバラン達と夕食を一緒に取り、この1年のお互いの話で盛り上がった。俺は『破邪の洞窟』に潜っていた事と、そこで見つけたアイテムを披露し、バラン達はダイの成長やラーハルトの働き者ぶり、といった具合だ。

 

 そして食事も終わり、ソアラがダイとラーハルトを連れて部屋に行った後、俺はバランと軽く酒(俺が買ってきた土産だ)を交えて話をした……。

 

 

「エイト、聞いてもいいだろうか?」

 

「なんだい?」

 

「お前は、何故、力を蓄えているのだ?」

 

「え……?」

 

 バランの問い掛けに、俺は思わず言葉が詰まった。何故、分かった……?

 

「私の思い違いならばすまない。だが、お前を見ていると、そう思えてならないのだ。何か、お前にしか分からない不安要素があり、それに備えているのではないか、とな」

 

「……」

 

 バランから見ると、今の俺はそんな風に見えるのか……。

 

 確かに、『死の大地』に足を踏み入れた時に感じた邪悪な気配の事がいつも頭の片隅にあるのはその通りだ。だが、“世の為、人の為”なんて重苦しく考えている訳ではない。

 

「……ここだけの話にしておいてくれ」

 

 

 俺は、今回の旅で『死の大地』に踏み入った事をバランに話した――。

 

 その時感じた邪悪な気配・魔力の話をした時は、バランも流石に驚いていた。

 

 

「『死の大地』の事は知っていたが、私も足を踏み入れた事はなかった……。まさか、その様な場所だったとは……」

 

 バランは顎に手を当てて唸る。

 

「あそこに何があるのかは分からない。だが、何かヤバいものがあるのは間違いない。それが果たして、近い将来に世界に脅威をもたらすのか……俺達が老いて死んでからなのか……、それとも何も起こらないのか……今は全く分からない。だから俺は、いつ何が起きてもいい様に修業しているのさ。冒険のついでにな」

 

 嘘は言っていないが、流石にバランに「ダイが将来、勇者として戦うかも知れない」なんて話せないからな。第一、バランにも言った通り、これはあくまで不確定な話、可能性の話だ。

 

 何事もなければそれに越した事はない。……ないが、あれば今までにない冒険になりそうで、ほんのちょびっとだけ期待してしまう。不謹慎だと頭で分かっていてもな。

 

「なるほどな、納得した。それにしても、1年前とは比べ物にならん程レベルを上げた様だな」

 

「分かるか?」

 

「ああ、纏う雰囲気が違う。生身の私ではまず勝てんな。もしかすると、紋章の力を全開にした私でも苦戦するかも知れんな」

 

「そりゃ幾らなんでも過大評価だろう」

 

 バランのステータスは前に見た時から変わっていないが、紋章を使えばそれが数倍になるのだ。全く、どこぞの戦闘民族の伝説の金髪戦士の様な反則的能力だ……転生の際に特典など貰った俺が言えた義理ではないが。

 

「ははは、まあ私にも月並みだが、『竜の騎士』の誇りがあるのでな。そう容易くは抜かせんよ」

 

「おいおい、天下の『竜の騎士』と張り合うつもりなんかないよ」

 

「ははははっ!」

 

「ったく……ふ、ははははっ!」

 

 酔いが回ってきたのか、俺とバランは揃って笑い合い、杯を交わし合った。

 

 その日の酒は、なんだかいつもより美味かった気がする……。

 

 

 久しぶりに親友と酌み交わす酒に気持ち良く酔いつつ、デルムリン島での夜は更けていった――。

 

 

 


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