ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 冒険家の歩き方   作:amon

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第17話『世界の異変!!魔王復活!?の巻』

 

 

 あの思いも寄らぬ『破邪の洞窟』制覇から、早いもので10年が経った……。

 

 あの日から俺は冒険を求めて、世界中を歩き回っている。残念ながら秘境と呼べる場所も、謎とされるダンジョンも見つからず、ただ旅をして回っているだけなんだが……。

 

 この10年で変わった事も幾つか……大した事じゃないが、アルキード王国が崩壊した。原因は内乱の激化による内部崩壊……本っ当にしょうもない国だ。国民は各地に散り散りになったそうだ。

 

 後は、ロモス王国ネイル村の友人ロカさんとレイラさんの夫婦の1人娘マァムが大分美人になった事――。

 

 年に1、2回尋ねていたのだが、会う度に女らしく成長している。料理の腕も中々だ。あれなら良い嫁さんになれるだろう。

 

「も、もうっ!エイトさんったら何言うのよ!!」

 

 マァムは照れ臭いらしく、俺が褒めると顔を真っ赤にする。ロカさんがからかうと、拳が飛ぶがな……。マァムは外見はレイラさんに似た様だが、その筋力はロカさんに似てしまったらしい。しかも、何年か前にアバンさんに稽古をつけてもらったとかで、それなりに強くなっている。話を聞いて、試しに俺も少し稽古を見てやったが、マァムの実力は並の戦士より上だ。

 

 マァムを嫁に貰う野郎は、間違いなく尻に敷かれるな……。

 

 

 最後は、デルムリン島の友人であるバランとソアラの息子であるディーノ――俺はダイと呼ぶあの子が、大分大きく腕白になった事ぐらいか。俺の事を『エイト兄ちゃん』と呼んで懐いてくる、少し生意気だが可愛い奴だ。

 

 毎日、島のモンスター達と木刀片手に勇者ごっこをして遊び回っている。鬼面道士のブラスさんは、そんなダイに呪文の練習をさせて魔法使いに育てたいらしいが、当人はあまり呪文の勉強は熱心じゃない。

 

「だってオレ、勇者になりたいんだ!魔法使いなんて脇役だもん」

 

 動機は実に子供らしい。しかも身体を動かすのが大好きらしく、それもあってバランやラーハルト、時々訪ねた時には俺によく剣の稽古をせがんでくる。流石はバランの息子と言うべきか、ダイは若干12歳ながらも、中々センスがある。

 

 そうそう、ラーハルトも随分と逞しくなった。未だにバランとソアラを様付けして呼び、ダイの事も『ディーノ様』と呼んで臣下の様に振る舞う。ダイは物心ついた頃からそう呼ばれ続けているので気にしていないし、バランもソアラもこの10年の内にいい加減諦めた様だ……。

 

 そんなダイ達が暮らすデルムリン島はこの10年間、何事もなく平和そのもの――とはいかなかった……。俺は間を外してしまったんだが、2度ほど事件が起こったとバラン達から聞いた。

 

 1度目は、勇者のパーティーを騙る偽勇者共の襲撃――ダイが騙されてゴメ……ああ、何年か前に急にデルムリン島に現れ、ダイの友達になったゴールデンメタルスライムという金色で羽の生えた変わったスライムなんだが、そいつが勇者に成りすました馬鹿共に1度連れ去られてしまった。

 

 バランやラーハルトがいながら何故……?と不思議に思い、尋ねてみたら、その時はタイミング悪くバランとラーハルトは小船で島の沖合に魚釣りに出ていたんだそうだ。しかも、島を挟んで反対側で……。ドラキーの知らせを受けて急ぎ戻ってきた時には、既にゴメが連れ去られた後だったという訳だ。

 

 で、自分を騙し、友であるモンスター達を傷付けた偽勇者への怒りに燃えたダイが、島のモンスター達をブラスさんが持っていた魔法の筒という、合言葉で生き物を封じ込め、自在に出し入れできる筒に入れて、一緒にロモス王国の城に乗り込み、見事に取り戻してきた。バランやラーハルトの力を借りずに……。

 

 まあ、その辺はダイなりの“男の意地”みたいなものなんだろう。自分の不注意で友達のゴメを連れ去られた訳だから、父親であるバランや兄同然のラーハルトに頼りたくなかったんだろうよ。

 

 詳しくは知らないが、その一連の流れの中でロモス王は偽勇者共の正体に気付き、ダイやデルムリン島のモンスター達が悪者ではないと認め、島まで自ら謝罪にやってきて、一件落着となった。

 

 

 2度目は、パプニカ王国から王女レオナと兵士達が洗礼の儀式とやらを受けに遥々やってきた時――テムジンとバロンという逆臣が、レオナ姫の暗殺を企み、パプニカ王国を乗っ取ろうと画策した。奴らは、島に魔のサソリという凶暴なモンスターをどこかで捕え、この島に持ちこんでレオナ姫を殺そうとした。

 

 しかも……バラン達がテムジンとその手下共をひと捻りにした時、どこで手に入れたのかキラーマシンの残骸を修理・改造した代物にバロンが乗り込んで操縦し、襲いかかって来たという。流石に、これを聞いた時は驚いた……パプニカのレベルの低い俄か賢者にキラーマシンを改造出来た事、そもそもキラーマシンの残骸を手に入れられた事……魔のサソリの事もそうだし、色々と不可解だ。

 

 まあ、それはともかく……そこに魔のサソリの毒に侵され弱ったレオナ姫を抱えて駆け付けたダイが、キラーマシンを操るバロンを撃退し、レオナ姫は辛くも命を取り留め、事なきを得た。

 

 で、その事件でダイとレオナ姫がすっかり仲良しになったとか。バランに似て、ダイも隅に置けないねえ~♪

 

「そ、そんなんじゃないったらッ!」

 

 からかってやった時、ダイの顔が真っ赤だったな。

 

 あと……バランの話では、ダイは『竜の騎士』の力を受け継いでいるらしい。キラーマシンを倒した時、ダイの額に『竜の紋章』が浮かんでいたとかで、バランも「信じられない事だが……」と戸惑っていたのを覚えている。

 

 『竜の騎士』は、そもそも人間ではない。本来、『竜の騎士』は、その力が天地をも覆せるほど強大ゆえに、この世に唯1人しか生まれ得ないものとして神々に形作られた存在。当然、その力も血によって次世代に受け継がれていくものではなく、神の使い『聖母竜』マザードラゴンがその時代の『竜の騎士』が寿命を終える時、マザードラゴンの宿した新たな命へと『竜の紋章』は継承されていく。

 

 新たな騎士を宿したマザードラゴンは、どこかの土地でその子を生み落とし、その地の人間がそれを神の子として崇め、育てる。そして、成人した時に己の宿命に目覚める――というのが、『竜の騎士』出生の仕組みだそうだ。

 

 つまり、『竜の騎士』に両親はなく、また子供も生まれないはず……。しかし、バランの代で例外が発生した――それがダイだ。

 

 本来、子を成す事のないはずの『竜の騎士』が人間との間に子を成し、その子は本来血によって受け継がれる筈のない『竜の紋章』を受け継いでいる。

 

 どういう事なのかは、バランにも分からないそうだ……。しかし、何か『竜の騎士』という存在に変化が生じているのかも知れない、とも言っていた。

 

 最終的に、しばらく様子を見ようという事に結論に落ち着いた。基本の『竜の騎士』は、成人するまではその力を自分の意志ではコントロールできず、普通の人間とそう変わらないというから、とりあえず今は『竜の騎士』云々は伏せておき、いずれ折を見てバランがダイに打ち明けるそうだ。

 

 ん?俺の事?

 

 俺は多少背が伸びて老けたぐらいで、大した変化はない。現在27歳で身長176センチ、平均的な一般成人男性並だ。この10年、大した戦闘はなく旅と自主訓練だけで生きてきたので、レベルも上がっていない。

 

 

 

―――――――

エイト

性別:男

レベル:102

―――――――――――

E竜神王の剣(攻+137)

E竜神の盾 (守+60)

E竜神の鎧(守+110)

E竜神の兜(守+50)

―――――――――――

力:413

素早さ:232

身の守り:230

賢さ:370

攻撃力:575

守備力:450

最大HP:818

最大MP:486

Ex:7337382

――――――――――――――――――――――――――――――――

剣スキル:100  『剣神』(剣 攻+25 会心率UP)

槍スキル:51  『スターランサー』(槍 攻+10 会心率UP)

ブーメラン:55  『シューティングロード』(ブーメラン 攻+15)

格闘スキル:55  『格闘の師範』(素手 攻+20 会心率UP)

冒険心:100  『真の冒険者』(消費MP1/2)

――――――――――――――――――――――――――――――――

エイト

HP:818

MP:486

Lv:102

―――――――――――――――――

ホイミ ベホイミ

ベホマ ベホマズン

キアリー キアリク

リレミト ルーラ

トベルーラ リリルーラ

トヘロス ザオラル

ギラ ベギラマ

ベギラゴン マホトーン

イオ イオラ

メガンテ タイムストップ

タイムリバース

ドラゴン斬り 火炎斬り

メタル斬り 隼斬り

ミラクルソード アルテマソード

ドラゴンソウル

疾風突き 一閃突き

五月雨突き 薙ぎ払い

クロスカッター バーニングバード

超パワフルスロー 大防御

石つぶて 正拳突き

真空波 闘気弾

闘気砲

―――――――――――――――――

 

 

 『破邪の洞窟』にでも籠っていれば、更なるレベルアップも可能だろうが……それだけの為に、大いに白けさせてくれたあのダンジョンを今更ウロつく気にはなれない。

 

 だからという訳でもないが、ただ街から街へ、国から国へ、10年間ひたすら旅を続けてきた。もう随分昔の事だが、前世の頃では考えられない生き方だ。そして、悪くない生き方だ。

 

 

 そうして自由に世界を歩いていた俺は、フラリとホルキア大陸に立ち寄っていた時――事件は起きた。

 

 

「っ、なんだ、この感じ……!?」

 

 適当に森を歩いていた時、俺は肌を刺す様な、殺気にも似た空気を感じた。周囲を見渡し、空を見上げる……森は昼間だというのに、何故か薄暗くなった印象を受け、空は間違いなく快晴だが何故か灰色に見えてしまう。

 

 俺が異変に警戒していた――その時!

 

『『『カカカカカーー!!』』』

 

「なっ!?」

 

 森の奥から現れたのは、6本の腕にそれぞれ剣を握る異形の骸骨――骸骨剣士の群れだった。本来、魔王の魔力無しでは出現しないはずのモンスター……何故、今になって現れた!?

 

『『『人間だぁ!!殺せ殺せーー!!』』』

 

 疑問は浮かべど考える間はなく、骸骨剣士どもは俺に襲いかかって来る。だが――

 

「……っ!」

 

 お生憎様、骸骨剣士如きに傷を貰うほど今の俺は弱くない。

 

『『『カ、カ……』』』

 

 背中の鞘から引き抜き様に剣を一閃――骸骨剣士どもは粉々に砕け、その場に崩れ落ちた。剣を鞘に戻し、粉々になった骸骨剣士の成れの果てを見下ろす……。

 

「……この類いのモンスターがまた暴れ出したって事は……」

 

 考えられるのは、倒されたはずの魔王ハドラーが復活したか……或いは新たに別の魔王が出現したか……どちらにせよ、世界は再び暴れ出したモンスター軍団の脅威に脅かされるという事だ。

 

 平和な日々は15年か……、長いんだか短いんだか……。

 

「……ん?待てよ……?」

 

 魔王が再び現れたという事は……骸骨以外のモンスター達も魔王の魔力だか意思だかの影響を受けて、凶暴化するという事だ。つまり……

 

「――ッ!ダイ達が危ないッ!!」

 

 デルムリン島のブラスさんを初めとしたモンスター達も、元は魔王の影響で暴れていたモンスター――今再び影響を受ければ、ダイ達にも襲いかかるかもしれない!『竜(ドラゴン)の騎士』のバランや屈強の槍使いに成長したラーハルトはともかく、戦闘能力を持たないソアラや島のモンスター達と大の仲良しであるダイは、襲い掛かられたらどうなるか!

 

「『ルーラ』ッ!!」

 

 俺はデルムリン島へ向けて跳んだ――!!

 

 

 

「んんッ!?」

 

 デルムリン島が見える空の上で、俺は思わず『ルーラ』の移動状態を解除して宙に停止する。デルムリン島の異変が見えたからだ――。

 

「なんだ……?あの光は……!?」

 

 デルムリン島全体をスッポリと覆い、空に向かって高く昇り上がる光の柱――島上空にたち込める暗雲に映るのは五芒星……この世界では五芒星は光を象徴する魔法陣、六芒星は闇を象徴する魔法陣とされる。つまり、あれの光の柱は何かしらの魔法、それも光や聖に属する魔法という事だ。

 

「一体……何が?」

 

 見ている間に、柱は半球型のドームに変わり、再び島全体を覆ってしまった。見た感じ、あれは結界の1種だと思うが……誰が発動させたんだろうか?

 

 ラーハルト……は違うな。あいつは呪文が苦手、魔族の血のおかげで初歩の攻撃呪文と『ルーラ』は何とか覚えたが、それ以外は覚えられなかったはずだ。少なくとも、何ヶ月か前に会った時はそうだった。

 

 だとすると、バランか……?呪文は一通り使えるとは言っていたが、ああいう明らかに光や聖に属する呪文が使えるとは聞いた事がない。俺も聞かなかったから、言わなかったのかもしれないが……。

 

 まさか、ダイやソアラって事はないはずだ……。

 

 ダイはそもそも子供で、島1つを覆う程の高度な呪文は誰も教えていないし、呪文自体イマイチ苦手でまだ『メラ』と『ホイミ』しか使えなかったはずだ。

 

 ソアラは少しだけ回復呪文の心得があるとは言っていたが、長い付き合いで彼女のMPの総量は知っている。ソアラの最大MPは22……対して島を覆った結界は、どれだけ少なく見積もってもMP40~50は間違いなく消費する大呪文、ソアラに使えるとはとても思えない。

 

 じゃあ、誰が……?デルムリン島の住人にもう心当たりは無い。

 

「……行って確かめるしかないか」

 

 結局は、直接確認する以外に事実を知る方法はないって事だ。少なくとも、あの結界に危険な印象は受けない……恐らく、大丈夫だろう。

 

「とにかく行って……むっ!」

 

 嫌な気配を感じて振り向く――その方向の少し離れた所を2体のモンスターが飛んで行くのが見えた。

 

 蝙蝠の様な羽、カラスの様な嘴、頭に生えた2本の角、一端に服など着たモンスター――あれはガーゴイルだな。

 

 恐らく奴等も、あの光の柱に気付いてやって来たんだろう。幸い、奴らは俺に気付いていない――ここで見つけたからには黙ってデルムリン島に行かせる訳にはいかないな。

 

「さっさと片付けて、ダイ達の安否を確認しないとな」

 

 俺は『トベルーラ』でガーゴイル共の後を追った――。

 

 

 

≪SIDE:バラン≫

 

 

「おお……!これは、奇跡か……!?」

 

 ブラス殿が震えた声で言う。気持ちは分かる。確かに奇跡と言いたくなる光景だ。

 

 突如として、大気に不穏な気配が漂ったかと思えば島のモンスター達が凶暴化し、狂った様に暴れ出した。

 

 恐らく、かつて地上世界を征服せんとした魔王が蘇ったのだろう。

 

 魔王の意思に影響され、穏やかだったモンスター達は見る影もなく、私達にすら襲いかかって来た。

 

 10年以上を隣人として暮らしてきた者達……そして、我が息子ディーノの友たちだ。殺す訳にもいかず、打撃で気絶させるに留めたが、限界を感じソアラ・ラーハルト・ディーノを連れて海岸まで後退してきた。

 

 唯一、ギリギリのところで魔王の支配に抗っていたブラス殿も、限界が近付き、涙ながらに我々に「逃げろ」と言ってくれた。

 

 忍びなく思いはしたが、私は島からの脱出を決断した。

 

 『竜の騎士』は高い戦闘力を誇る……だが、殺さずに彼らモンスターを鎮める術は持たない。故に、彼らを傷つけず、また妻や息子達を守るには退く以外に取れる道が、私にはなかった。

 

 しかし、そこに彼は現れた――赤い礼服に身を包み、分厚い眼鏡を掛けた男。

 

 彼は、デルムリン島全体を五芒星魔法陣で包み、伝説の破邪呪文『マホカトール』を発動し、島から魔王の意思を排した。モンスター達は再び穏やかさを取り戻し、我々は島を出る事なく救われたのだ。

 

「これは、邪悪な意志を持つ者は絶対に入る事の出来ない結界を張る呪文、『マホカトール』って言うんだ」

 

 そうディーノに説明したのは、赤服の男が連れていた緑色の服を着た少年だ。

 

「まほかとーる?ねえ、爺ちゃん、父さん、知ってる?」

 

「いや、わしもとんと聞いた事がない。じゃが、これほど高度な結界呪文……誰でも彼でも使える呪文ではあるまい」

 

「私は聞いた事がある。神に認められた者にしか扱う事の出来ない破邪の結界呪文だ。現代に扱える者がいたとは驚いたな……」

 

 伝説にのみ名を残す破邪の呪文――あらゆる呪文を使いこなす賢者の中でも、修行に修行を重ねた者にのみ習得を許されると聞く。それをこうも容易く使いこなすとは……あの男、只者ではない。

 

「どこの誰かは知らないが、島を救ってくれた事、心から感謝する。ありがとう、おかげで助かった」

 

「いえいえ、どうかお気になさらず。あっ、申し遅れました!私……こういう者でございますっ!」

 

 唐突にひょうきんな立ち居振る舞いになった男は、どこからか巻物を取り出して広げて見せる。

 

 そこには、こう書かれていた――。

 

『勇者の育成ならおまかせ!<この道15年のベテラン アバン・デ・ジニュアール3世>魔法使い僧侶も一流に育て上げます“私に連絡くださいドゾヨロシク”』

 

「「「「「はあ……!?」」」」」

 

「アバン・デ・ジニュアール3世。勇者育成業……ま、平たく言えば家庭教師ですな」

 

「「「「「家庭教師ィ!?」」」」」

 

 男の自己紹介を聞いていた全員が声を揃えてしまった。私は一瞬『ふざけているのか?』と思わず疑ってしまったが……その名前には聞き覚えがある。

 

 アバン……15年前、地上を脅かした魔王ハドラーを討ち取った勇者の名だ。恐らく、間違いないだろう。

 

 『マホカトール』という高度な呪文を扱える事だけではない。彼は、本来倒すべき敵であるはずのモンスター達を無闇に殺す事無く我々全員、デルムリン島全てを救って見せた。

 

 単純な力や魔力ならば、私の方が上だろう。だが、力で敵を滅ぼす事でしか守りたいものを守れない私には、今、彼がやってのけた事はとてもできない。

 

 なるほど……これが勇者というものか。

 

「そう!正義を守り、悪を砕く平和の使徒!勇者、賢者、魔法使い!!彼らを育て上げ、超一流の戦士へと導くのが、私の仕事なのですっ!!」

 

 う、う~む……これが……勇者、というもの……なのか?

 

「これは弟子のポップです。現在、魔法の修行中の身であります」

 

「……っ」ペコッ

 

 アバン殿に紹介され、ポップと呼ばれた少年は我々に会釈した。若いな……歳の頃は15、6といったところか。

 

「それで……その家庭教師が何故この島へ?」

 

 何やら他にも疑問を抱えたまま気を取り直した風なブラス殿が、取り急ぎ全員に共通する疑問をアバン殿に尋ねた。

 

 すると、アバン殿の表情が引き締まる……。

 

「もうお気付きでしょうが……魔王が現世に復活してしまいました」

 

「や、やはり……!」

 

 魔王の復活……島のモンスター達が凶暴化した時から予想は付いていたが、この現象はどうやら世界中で起きているようだな。

 

「魔王配下の邪悪な怪物達が世界中に溢れ出し、人々を苦しめ始めています。ロモス・パプニカなどの王国も危機に曝されているのです」

 

「ええっ!?ロモスの王様や……レオナ姫が……!!」

 

 ディーノが声を上げた。ディーノは、ロモスの王やパプニカの姫君とは親交が深いからな……その危機とあれば、当然の反応だろう。

 

「私はパプニカ王国の王家から頼まれて、ここに来たのですよ。デルムリン島に住むダイ少年こそ、まさしく未来の勇者!彼を1日も早く真の勇者に育て上げてほしい……とね!」

 

 なるほど、最初からディーノの事を知っている風だったのはそういう事だったか。

 

「ダイ君、どうしますか?私の修行を受けてみますか、魔王を倒す為に……!勿論、修行はムッチャクチャハードですが」

 

「……よぉし、やるっ!!レオナがピンチだっていうなら、救いに行かなくちゃ……!それに魔王を倒さない限り、父さんや母さん、ラーハルトにブラス爺ちゃん、島のみんなも平和に暮らせない!!」

 

「ダイ……!」「「ディーノ……!」」「ディーノ様……!」

 

 ブラス殿、私とソアラ、ラーハルト――皆、ディーノの言葉に胸を打たれた。私達の息子は、いつの間にかこんなにも逞しく成長していたのだな……。

 

「オレを、鍛えて下さい!そして本当の勇者になって、魔王を倒すっ!!」

 

 ディーノの成長は、父として嬉しい事に違いはない。だが、同時に複雑でもある。

 

 本当ならば……現代の『竜の騎士』である私が復活した魔王と戦うべきなのだが、今の私には……それができない訳がある。

 

 気がついたのはごく最近……私は戦う力を失ってしまった。己の意志で『竜の紋章』を発動できなくなってしまったのだ。元々の肉体が持っていた力や魔力は使えるので、12年のブランクがあるとは言え、並の人間よりは確実に強いのだろうが……相手が魔王ともなると、今の戦闘力では心許ない。

 

 正確な原因は分からない……が、心当たりはある。

 

 恐らくは、人間不信……12年前のアルキード王国での出来事を皮きりに、ここ数ヶ月の間に起きた偽勇者騒動・パプニカ王家の逆臣の騒動……。どちらも人間の欲によって起きた事件……『竜の騎士』の使命に目覚めた時、私は人間こそ守るべき存在だと信じて疑わなかった。だからこそ、かつて命を懸けて冥竜王ヴェルザー一族と戦ったのだ。

 

 しかし、実際に人間社会で生きてみて、人間の汚い面を目の当たりにし、私の中に『裏切られた』という気持ちが燻り出した。愛する妻ソアラと息子ディーノ、そして親友エイトがいなければ……もしかしたら、私は人間を滅ぼす側に回っていたかも知れないと思う。

 

 人間社会から離れ、デルムリン島で平和に暮らし、ようやくそういった暗い気持ちを忘れかけていた時……あの偽勇者一味の事件と、パプニカ王国の逆臣の事件が起き、人間への不信感を思い出してしまった。

 

 そして、分からなくなった……人間は、本当に守るべき存在なのか……命を懸けて守るに値する存在なのか……。

 

 その答えが出ない限り、恐らく私は戦えまい……。

 

キィィィィン……!!

 

「「「「「「「!?」」」」」」」

 

 突如聞こえてくる風を切る音――聞こえてくる空に目を向ければ、飛来してくる影が見える。蝙蝠の羽に嘴、人間に近い身体のモンスターが2体……。

 

「鳥人間――ガーゴイルじゃっ!!」

 

 姿を見て、ブラス殿が叫ぶ。

 

「ケケケーッ!!人間だ!!人間がいたぞ!!」

 

「殺せ殺せ!!カァァァッ!!」

 

 物騒な事を叫びながらどんどん近付いて来る。恐らくは、魔王配下の偵察モンスターといったところだろう。大した敵ではない、今の紋章の力を失った私やラーハルトでも余裕で撃退できる。

 

 だが――

 

「バラン様」

 

「うむ」

 

 ラーハルトも分かっている。我々が身構える必要などない。何故なら、飛来してくる影が“もう1つ”あるからだ。

 

 その影は、耳が痛む程の鋭い風切り音と共にガーゴイル共を追い抜く。すると――

 

「「ゲエッ!!?」」

 

 ガーゴイル2体が『マホカトール』の結界2メートルほど手前まで来た瞬間、奴らは揃って上半身と下半身が離れた。

 

 そして、我々の目の前には我々が良く知る男が立っている。

 

「やれやれ……手応えのない奴らだ」

 

「お前が強過ぎるだけだろう、エイト」

 

 竜の意匠が施された剣を手にした、我々の友人――冒険家エイトだ。世界の異変を察知し、我々の身を案じて来てくれたのだろう。

 

「しかし……まさか、あんたがいるとは思わなかったよ。アバンさん」

 

「それは私もですよ。お久しぶりですね、エイト君」

 

 懐かしげに再会の挨拶を交わす2人――どうやら、エイトとアバン殿は知り合いだった様だ。

 

 

 友人の意外な交友関係に内心で驚きつつ、私達は一先ずの危機が去った事実に安堵するのだった――。

 

 

 




※9/25 ご指摘により微修正

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